FPS世界ランク1位の凸スナ、ニートを辞めて異世界でエンジニアになる~工業高校の資格と現代兵器で、健気なドワーフ娘を救い天下を取る~

月神世一

文字の大きさ
49 / 53

EP 49

しおりを挟む
純金のティーカップと、確実さを買う代償
通された応接室は、悪趣味なほどに豪華だった。
壁紙は金糸の刺繍、シャンデリアはダイヤモンド、そしてマイユたちの前に置かれたのは、目が眩むような輝きを放つ「純金製」のティーカップだった。
「どうぞ、最高級の茶葉です」
白蛇族のオロチが、細い指で勧める。
マイユは恐る恐るカップに手を伸ばした。
(純金って……貴方、重いし成金趣味が過ぎますわよ……!)
ラウスもカップの縁を睨みつける。
(やべぇよコイツ……。こんなもんで茶を飲む神経が分からねぇ。俺なら質屋に入れるぜ)
英一は、理系的な観点からカップを見つめていた。
(金は熱伝導率が良いから……これ、唇を付けたら火傷するんじゃないか? 熱くて持てないし)
そしてメルセスは、あくまで技術者視点だ。
(う~ん、金じゃあ強度が足りないわね。柔らかすぎて私のベイビーちゃん(銃)の改造には使えないかな。……導電素材としては優秀だけど)
四人四様の感想を抱きつつ、一口だけ茶を啜る(英一の予想通り、めちゃくちゃ熱かった)。
「さて……ご用件を伺いましょうか」
オロチが音もなくカップを置き、爬虫類特有の縦に割れた瞳でマイユを見据えた。
マイユは居住まいを正し、緊張を飲み込んで切り出した。
「私達は『ラビット・グランドマスター』という、画期的な魔導馬車を作りました。これは私達だけの独自の技術です」
「ほぉ……。あの駐車場に停めてある、ピンク色の車両ですか。噂には聞いています」
オロチは表情を変えずに頷く。
「それで?」
すかさずメルセスが身を乗り出した。
「この技術を、『登録』したいんです」
「登録……ですか?」
「はい。私達の技術を商品化します。そして、この技術を使用する為には、開発者に対価(ライセンス料)を払わなければならない……そういう『仕組み』を作りたいんです」
マイユが英一から教わった「特許」の概念を熱弁する。
技術を独占するのではなく、公開する代わりに権利を守り、使用料を得るシステム。
オロチの瞳孔が、スッと細くなった。
彼は長い舌で唇を湿らせ、ニヤリと笑った。
「何と……。技術を国に登録して守らせ、他者が使用する度にチャリンチャリンと金が入る……。面白い考え方だ」
スタラントのゲッコーなら「そんな面倒なこと」と一蹴しただろう。だが、オロチは違う。
それが生み出す莫大な利益と、市場支配の可能性を一瞬で理解した。
「どうか、お考え頂けないでしょうか。商業ギルドの総本部として、この制度の確立に力を貸して頂きたいのです」
マイユが頭を下げる。
オロチは長い指でテーブルを叩き、沈思黙考した。
「分かりました。……ですが」
オロチは冷徹に告げた。
「この場ですぐに答えを出せるような軽い議題ではありませんね。新しい権利を作るとなれば、国や法務省、他の大商会を動かす事になる。……そうですね」
オロチはカレンダーに目をやった。
「約『2週間』程、お待ち頂けないでしょうか」
「2週間!?」
英一が声を上げた。
長い。その間、ナーコからのプレッシャーに耐えられるか?
マイユは必死に頭を回転させた。
(2週間……。次のコンバット装備の納品予定日がちょうど2週間後。その時、ナーコさんに会う。……つまり、その場ですかさず『技術登録』の話をして、グランドマスターの権利を主張できれば……!)
ギリギリだ。一日でも遅れれば、ナーコに技術を吸い上げられる。
だが、間に合えば形勢逆転できる。
「わ、分かりました。2週間……待ちます。よろしくお願いします」
「賢明なご判断です」
オロチは優雅に微笑んだ。そして、右手の親指と人差指を擦り合わせた。
「では、交渉料として……『金貨2,000枚』程、貰いましょうかね」
「金を取るのかよ!?」
ラウスが思わず叫んだ。相談に乗るだけで2,000枚。ボッタクリもいいところだ。
「当たり前でしょう」
オロチは平然と言い放った。
「これは『国との交渉』です。頑固な役人を動かし、法律を変え、貴族達に根回しをしなければなりません。タダで動く者など、このユミルスには一人もいませんよ」
オロチは三本の指を立てた。
「通常の根回しで、結果は五分五分……なら『金貨2,000枚』。
 有力な議員を動かし、良き交渉結果を得たいのなら『金貨4,000枚』。
 ……そして、何が何でも、確実に貴女方の望む『特許』という権利を認めさせたいのなら……」
オロチは目を怪しく光らせた。
「『金貨8,000枚』必要ですが……如何しますか?」
「はっ……せ、8,000枚……!?」
マイユの心臓が早鐘を打つ。
それは、さっきナーコから受け取った、コンバット装備100着分の売上の全てだ。
命がけで働き、手に入れた全財産。
「2,000枚で失敗しました、では意味がありません。……かと言って、8,000枚……」
マイユの手が震える。
だが、ここでケチって失敗すれば、グランドマスターの利益は全てナーコに奪われる。未来の損失は計り知れない。
これは「消費」ではない。「投資」だ。
マイユは、魔法ポーチから、あの重たい革袋を取り出した。
「わ、分かりました……。『金貨8,000枚』払います……!」
ドンッ!
テーブルの上に、全財産が置かれた。
「……素晴らしい決断です。このオロチ、その金に誓って、必ずや吉報をお届けしましょう」
オロチは初めて心からの(ように見える)笑みを浮かべ、革袋を受け取った。
「あぁ……今月のコンバット装備代分が、一瞬で飛んだな……」
英一は天井を仰ぎ、虚ろな目で呟いた。
右から左へ、8,000万円が消えていく。
だが、これで賽は投げられた。
2週間後。エイイチ&マイユ工房は、ナーコという巨人を相手に、特許という名の盾を持って対峙することになる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

病弱少女、転生して健康な肉体(最強)を手に入れる~友達が欲しくて魔境を旅立ちましたが、どうやら私の魔法は少しおかしいようです~

アトハ
ファンタジー
【短いあらすじ】 普通を勘違いした魔界育ちの少女が、王都に旅立ちうっかり無双してしまう話(前世は病院少女なので、本人は「超健康な身体すごい!!」と無邪気に喜んでます) 【まじめなあらすじ】  主人公のフィアナは、前世では一生を病院で過ごした病弱少女であったが……、 「健康な身体って凄い! 神さま、ありがとう!(ドラゴンをワンパンしながら)」  転生して、超健康な身体(最強!)を手に入れてしまう。  魔界で育ったフィアナには、この世界の普通が分からない。  友達を作るため、王都の学園へと旅立つことになるのだが……、 「なるほど! 王都では、ドラゴンを狩るには許可が必要なんですね!」 「「「違う、そうじゃない!!」」」  これは魔界で育った超健康な少女が、うっかり無双してしまうお話である。 ※他サイトにも投稿中 ※旧タイトル 病弱少女、転生して健康な肉体(最強)を手に入れる~友達が欲しくて魔境を旅立ちましたが、どうやら私の魔法は少しおかしいようです~

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

処理中です...