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EP 53
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悪魔の再計算と、黄金に突き刺さる名刺
純金の応接室は、凍てつくような沈黙に包まれていた。
支配人オロチの額からは、滝のような冷や汗が流れ落ち、高級なスーツの襟を黒く濡らしていく。
「……賢明な判断を期待しますよ」
セブリックは、オロチの自白が入った『魔導録音機』を、ゆっくりと燕尾服の胸ポケットに仕舞った。
その動作一つで、オロチの命運が決まる。
「わ、分かりました……! 返します! 金貨8,000枚は全額お返しします! だから、だから通報だけは見逃して下さい!」
オロチが震える手で金庫を開け、先ほど受け取ったばかりの革袋と、不足分を補う金貨の山をテーブルにぶちまけた。
「……確認させて頂きます」
セブリックは懐から、美しい装飾が施された『携帯用魔導天秤』と『鑑定ルーペ』を取り出した。
チャリン、チャリン、チャリン……。
超高速、かつ機械のように正確な手つきで、金貨の真贋と重量をチェックしていく。
「……ふむ。重量、純度ともに問題なし。金貨8,000枚、確かに」
セブリックが天秤を仕舞う。
オロチはへなへなとソファに崩れ落ちた。
「こ、これで……勘弁を。お引取り下さい……」
オロチが安堵の息を吐こうとした、その時だった。
「これで? ……違うでしょう?」
セブリックの冷ややかな声が、オロチの耳を打った。
「ひっ……!?」
「私がここに来た目的は、『不当に奪われた金の回収』と……『本来なすべき業務の遂行』です。金を返せば罪が消えるとでも?」
セブリックのモノクルの奥の瞳が、爬虫類を捕食する狼の色に変わる。
「わ、分かりました! 商業登録はきちんと済ませますから! 正規の手数料で、最優先で……!」
「……違うでしょう?」
セブリックは首を横に振った。まだ足りない。
マイユたちに精神的苦痛を与え、あわよくば搾取しようとした罪の償いが。
「あ、あぅ……!?」
オロチはパニックに陥った。何を求められている? 金か? 命か?
彼はプライドも何もかもかなぐり捨て、土下座の姿勢で叫んだ。
「ど、どうか! 私が『無料』で! 貴方様の商業登録をやらせて頂きます! もちろん賄賂も根回し費用も全て私のポケットマネーで! 貴方様にお仕えさせて頂いて光栄です!!」
オロチは床に頭を擦り付けた。
ゼニゲコギルドの総支配人が、一介の工房に完全服従を誓った瞬間だった。
「……よろしい」
セブリックは満足げに頷き、ようやく柔和な執事の顔に戻った。
「その言葉、忘れないでくださいね。……さて、帰りましょうか。マミユ様」
セブリックが扉を開け、恭しくエスコートする。
「は、はい……」
マミユの顔は真っ青だった。
英一もラウスも、震えが止まらない。
(こいつ……ヤバすぎる。敵に回したら終わりだ。絶対に給料だけは遅らせちゃいけない……)
味方になったはずの執事に、底知れない恐怖を感じながら、一行はそそくさと部屋を出ようとした。
「ふぅ……」
オロチは嵐が去ったことに安堵し、額の汗をハンカチで拭った。
命拾いした。後は適当に書類を処理して、二度と関わらないように……。
シュッ――!!
空気を切り裂く鋭い音が響いた。
「ヒィッ!?」
オロチの悲鳴。
彼が顔を上げると、目の前に飾られていた『純金の蛇の像』――オロチ自慢のコレクションの額に、白い紙片が深々と突き刺さっていた。
鋼鉄よりも柔らかい純金とはいえ、紙が金属にめり込むなど物理法則を無視している。
「失礼」
振り返ったセブリックは、悪戯っぽくウィンクをした。
「名刺も渡して居ませんでしたね。……何か不手際があれば、次は『貴方の額』に届けに参りますので」
突き刺さった名刺には、『セブリック』の名が青白い闘気と共に輝いていた。
「ひぃぃぃぃぃッ!! 滅相もございませんんんッ!!」
オロチの絶叫を背に、セブリックは優雅に扉を閉めた。
「さて皆様。無事に経費も浮きましたし、美味しいディナーにでも致しましょうか。……もちろん、私の奢りで」
廊下を歩くセブリックの背中は、どんな魔物よりも頼もしく、そして恐ろしかった。
純金の応接室は、凍てつくような沈黙に包まれていた。
支配人オロチの額からは、滝のような冷や汗が流れ落ち、高級なスーツの襟を黒く濡らしていく。
「……賢明な判断を期待しますよ」
セブリックは、オロチの自白が入った『魔導録音機』を、ゆっくりと燕尾服の胸ポケットに仕舞った。
その動作一つで、オロチの命運が決まる。
「わ、分かりました……! 返します! 金貨8,000枚は全額お返しします! だから、だから通報だけは見逃して下さい!」
オロチが震える手で金庫を開け、先ほど受け取ったばかりの革袋と、不足分を補う金貨の山をテーブルにぶちまけた。
「……確認させて頂きます」
セブリックは懐から、美しい装飾が施された『携帯用魔導天秤』と『鑑定ルーペ』を取り出した。
チャリン、チャリン、チャリン……。
超高速、かつ機械のように正確な手つきで、金貨の真贋と重量をチェックしていく。
「……ふむ。重量、純度ともに問題なし。金貨8,000枚、確かに」
セブリックが天秤を仕舞う。
オロチはへなへなとソファに崩れ落ちた。
「こ、これで……勘弁を。お引取り下さい……」
オロチが安堵の息を吐こうとした、その時だった。
「これで? ……違うでしょう?」
セブリックの冷ややかな声が、オロチの耳を打った。
「ひっ……!?」
「私がここに来た目的は、『不当に奪われた金の回収』と……『本来なすべき業務の遂行』です。金を返せば罪が消えるとでも?」
セブリックのモノクルの奥の瞳が、爬虫類を捕食する狼の色に変わる。
「わ、分かりました! 商業登録はきちんと済ませますから! 正規の手数料で、最優先で……!」
「……違うでしょう?」
セブリックは首を横に振った。まだ足りない。
マイユたちに精神的苦痛を与え、あわよくば搾取しようとした罪の償いが。
「あ、あぅ……!?」
オロチはパニックに陥った。何を求められている? 金か? 命か?
彼はプライドも何もかもかなぐり捨て、土下座の姿勢で叫んだ。
「ど、どうか! 私が『無料』で! 貴方様の商業登録をやらせて頂きます! もちろん賄賂も根回し費用も全て私のポケットマネーで! 貴方様にお仕えさせて頂いて光栄です!!」
オロチは床に頭を擦り付けた。
ゼニゲコギルドの総支配人が、一介の工房に完全服従を誓った瞬間だった。
「……よろしい」
セブリックは満足げに頷き、ようやく柔和な執事の顔に戻った。
「その言葉、忘れないでくださいね。……さて、帰りましょうか。マミユ様」
セブリックが扉を開け、恭しくエスコートする。
「は、はい……」
マミユの顔は真っ青だった。
英一もラウスも、震えが止まらない。
(こいつ……ヤバすぎる。敵に回したら終わりだ。絶対に給料だけは遅らせちゃいけない……)
味方になったはずの執事に、底知れない恐怖を感じながら、一行はそそくさと部屋を出ようとした。
「ふぅ……」
オロチは嵐が去ったことに安堵し、額の汗をハンカチで拭った。
命拾いした。後は適当に書類を処理して、二度と関わらないように……。
シュッ――!!
空気を切り裂く鋭い音が響いた。
「ヒィッ!?」
オロチの悲鳴。
彼が顔を上げると、目の前に飾られていた『純金の蛇の像』――オロチ自慢のコレクションの額に、白い紙片が深々と突き刺さっていた。
鋼鉄よりも柔らかい純金とはいえ、紙が金属にめり込むなど物理法則を無視している。
「失礼」
振り返ったセブリックは、悪戯っぽくウィンクをした。
「名刺も渡して居ませんでしたね。……何か不手際があれば、次は『貴方の額』に届けに参りますので」
突き刺さった名刺には、『セブリック』の名が青白い闘気と共に輝いていた。
「ひぃぃぃぃぃッ!! 滅相もございませんんんッ!!」
オロチの絶叫を背に、セブリックは優雅に扉を閉めた。
「さて皆様。無事に経費も浮きましたし、美味しいディナーにでも致しましょうか。……もちろん、私の奢りで」
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