真!異世界転生×ユニークスキル 【マイホーム】で無双する!?

月神世一

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EP 6

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逆転の発想! ダンジョンレストハウス計画
「……いいか、現状を整理するぞ」
リビングのテーブルを囲み、真守はホワイトボード(通販で購入)にペンを走らせていた。
全員、真剣な眼差しだ。服装はジャージだが。
「まず、あの妖精が作ったダンジョンは消せない。これは確定か?」
「ええ。キュルリンの【ダンジョンクリエイト】は世界改変レベルの権能です。神であるルチアナ様が直接介入しない限り、物理的に破壊するのは不可能です」
ヴァルキュリアが沈痛な面持ちで答える。
「そして、S級ダンジョンが出現したという情報は、マナの波紋を通じて数日中に世界中へ知れ渡るだろう。……つまり、ここが『冒険者の聖地』になるのは時間の問題だ」
ルーベンスが電卓(真守の私物)を弾きながら、冷静に最悪の未来予測を突きつけた。
「静寂は失われる。粗暴な冒険者どもが家の周りをうろつき、ゴミを捨て、野営をし、夜通し騒ぐだろうな」
「最悪だ……」
真守は頭を抱えた。
35年ローンの夢のマイホームが、公衆便所同然の扱いを受ける未来が見える。
だが、そこで真守の眼鏡がキラリと光った。
彼は数学教師だ。解けない問題(ダンジョン消滅)に時間を割くより、条件式を変えて解(利益)を導き出す方が得意だ。
「……なら、逆に利用しよう」
「利用?」
「あいつらが『ゴミを捨て、野営をし、排泄をする』のが問題なんだろ? なら、それを管理して金を取ればいい」
真守はホワイトボードに大きく【需要と供給】と書いた。
「冒険者がダンジョン探索で一番困ることはなんだ?」
「それは……怪我と魔力枯渇では?」
「違うな、ヴァルキュリア。それはポーションで治る。俺が言っているのはもっと根源的な……『生理現象』だ」
真守は力説した。
「泥だらけの体。血と汗の臭い。そして何より……切羽詰まった便意だ。ダンジョンの中で安心してトイレができる場所なんてない。野外ですれば魔物に襲われるリスクもある」
「……あ」
ヴァルキュリアが自身の遠征経験を思い出し、顔を赤らめる。
「た、確かに……。茂みに隠れて用を足す時の、あの背後を気にする緊張感は……地獄です」
「そこでだ。家の敷地内、ダンジョンの目の前に『安全・清潔・快適』な有料トイレとシャワーを設置する」
真守の提案に、ルーベンスがニヤリと口角を上げた。片眼鏡の奥の瞳が、商人の色に染まる。
「……なるほど。砂漠の水はダイヤモンドより高い。極限状態の人間は、清潔な水とトイレになら、銀貨の一枚や二枚、喜んで払うだろうな」
「そうだ。さらに俺のスキルなら、冷えたジュースや温かい軽食も提供できる。これを独占販売する」
『ダンジョン・レストハウス計画』。
平穏を守るための防壁を、集金システムに変える悪魔的発想。
「やるぞ。初期投資は俺が出す。回収はルーベンス、お前が計算しろ」
「フン、任せろ。原価率と利益率の計算は俺の趣味だ」
「ヴァルキュリア、お前は『警備主任』だ。マナーの悪い客や、食い逃げする奴らを……」
「……叩き出せばいいのですね? 任せてください。私の安息を乱す輩は、聖剣のサビにしてくれます!」
利害は一致した。
三人は直ちにガレージ横の更地へと向かった。
「スキル発動……『購入(バイ)』!」
真守が郵便受けに、手持ちの金貨をジャラジャラと投入する。
タブレット端末で選択したのは、工事現場や災害用に使われる『高機能プレハブ・ユニットハウス(シャワー・トイレ付き)』だ。
ズズズズズ……!
ダンジョンの禍々しい入り口のすぐ横に、場違いなほど真っ白で清潔感のあるプレハブ小屋が出現した。
「……ほう。簡素だが、断熱材もしっかりしているな」
ルーベンスが建材をチェックする。
真守はさらに、追加オプションで購入した『自動販売機(赤と青の二台)』を小屋の前に設置した。
「よし、電気と水道の接続完了。魔石式発電機じゃなくて、俺の家からケーブル引っ張ってるから安定してるぞ」
小屋の中には、最新式の温水洗浄便座付きトイレが二つと、脱衣所付きのコインシャワーが一基。
壁は白く、床は掃除しやすいクッションフロア。芳香剤(ラベンダーの香り)も置いた。
「完璧だ……」
ヴァルキュリアがトイレの個室を覗き込み、感動に震えた。
「ダンジョンの真横に、王宮より綺麗なトイレが……。これはもはや、一種の聖域(サンクチュアリ)です」
「価格設定はどうする?」
ルーベンスが電卓を叩く。
「相場より高くても売れるが、リピーターを作りたい。……トイレ一回、銅貨5枚(500円)。シャワー10分、銀貨1枚(1000円)。自販機のジュースは一律銅貨2枚(200円)。こんなところか」
「悪くない。ボッタクリすぎず、かといって安すぎない絶妙なラインだ」
準備は整った。
小屋の看板には、真守がマジックで手書きした文字が掲げられた。
【レストハウス・マモル】
~トイレ・シャワー・冷たい飲み物あります~
※土足厳禁・武器持ち込み禁止
「……来たぞ」
警備主任のヴァルキュリアが、鋭い視線で荒野の彼方を見据えた。
地平線の向こうから、土煙を上げてやってくる集団。
S級ダンジョンの噂を聞きつけた、最初の冒険者パーティーだ。
「よし、営業開始だ!」
真守はジャージの襟を正し、ルーベンスは集金箱を抱え、ヴァルキュリアは腕組みをして仁王立ちした。
彼らはまだ知らない。
この小さなプレハブ小屋が、後に「砂漠のオアシス」「迷宮の楽園」と呼ばれ、伝説のダンジョンよりも有名な観光名所になることを。
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