虚像のヘルパー

メカ

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理解なき理解者。

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「おはよう、飯島君。ちょっと話させてもらってもいいかな。」

「おはようございます。わかりました。」

全体会議後に俺を呼び止めた恰幅の良い中年男性。
彼はこの施設の施設長「牧田」だ。

この施設が出来る前、本社の施設で母と牧田は親しく仕事をしていたという。
その為、母の口添えで俺が「不安障害」を持っている事を牧田は知っている。

「例の件、君はどう思う?」

「例の・・・件とは?」

「ほら、さっき話したフロア間でもめ事があったって。」

「・・・。」

「遠慮はいらない。忌憚なき意見を聞きたいね。」

「では、お話させてもらうと・・・。」

フロアごとに独立したリーダーが居る事がそもそもの問題だと俺は伝えた。
その上、フロア長は事務所にこもりっきりで様子を見に来ない事
中年のベテラン層に出来やすい派閥。
言い出したらキリがない。

「ふん・・・。思っていたより深刻なんだね・・・。」

「牧田さん、なんで俺なんかに・・・。」

「常に現場を変えていくのは、若い新しい力だと思ってる。だから若い君に聞いてる。」

「だとしても、それは若い力が多い場合に限りますよ・・・。」

「確かに、言いたい事も分かる。でも、こう見えて本社の施設では若い子が多いんだぜ。」

「・・・。」

「まぁ、もう一つ。君の病気について改めて話を聞きたいっていうのが僕の本音かな。」

「そうでしたか・・・。」

「僕も、長い事この仕事してきたから、鬱になって辞めちゃう子とか見てきたわけ。
だから、もし何かあれば力になれるんじゃないかなぁ。と思ってるんだよね。」

「・・・。」

「それで、君の病気っていうのはどういった症状なのかな?」

「・・・不安障害というもので、その方向性は多岐にわたるものが多いです。
例えば、広場恐怖・嘔吐恐怖・退陣恐怖。俺の場合、外出恐怖に相当すると思います。」

「外出恐怖・・・。」

「玄関前に立つと、動悸や冷や汗、震えなどが出ます。その後で嘔吐を繰り返す感じですね。
一度嘔吐してしまえば、落ち着いて外に出られますが、手の震えなどは残ります。」

「・・・そうか。・・・今もそれは続いてるんだね?」

「そうです。」

「治療に関しては、僕は素人だから何とも言えない。でも、仕事で何かあればいつでも言ってくれよ?」

「えぇ・・・ありがとうございます。」

そんな会話をした後
施設庁の牧田は、定期的に俺を呼び出しては病状の事について話しを振って来た。
だが、正直な所、現状を一々誰かに報告する事。それ自体がもうストレスでしかなかった。
まるで、早く治らないのか?と急かされている様で・・・。

その度に、決まって返答は
「良いとは言い切れないが落ち着いている。」「相変わらずではある。」と
正直に言うしかなかった。

だが、そんなある日の夜・・・。

「和久、アンタ。牧田さんに体調悪いアピールしてるそうじゃん。どういう事!?」

「は?」

残業から帰って来た母が、鬼の形相でリビングに入って来たのだ。

「今日、牧田さんがこっちに来て、アンタの事話したのよ。そしたら
何を聞いても体調悪いしか言わなくて困ってるって!」

「ちょ、誤解だよ!」

「何が誤解なのよ!私は牧田さんと直接話したんだからね!?」

「それは、牧田さんが一々病気の事聞いて来るから!」

「だから体調悪いアピールしたの!?」

「違うって。病状を正直に話しただけだっつーの!」

「アンタ、嘘でも落ち着いてますって言えない訳!?お母さん、牧田さんと話してて申し訳なかったわ!」

理解者を装った牧田は、その実
病気の事など何一つ理解しようとはしていなかった。
結局の所、彼もこういった精神的な物がすぐ治るものだろうと
高をくくっていたのだろう。

「結局、牧田さんも善人面だけでまともに向き合おうとしてなかったって事だろ。」

「何て事いうの、アンタ!」

「だって、そうだろーが!そうでもなけりゃ、仕事ぶりを評価した話とかしただろうよ!
人の病状なんていちいち探ってねーで、職務態度見ろってもんだ!」

その後、しばらくした後
俺は、牧田と話をし本社施設への移動が決定した。
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