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教育とは ~その1~
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人事異動で入った施設。そこは俺にとってはある種
理想を体現したような職場だった。
職員の大部分が俺より若く、数名の発言力ある中堅がリーダーを務める。
分かりやすいトップダウン制ではあるが、個々の判断で自由度の高い仕事は
俺にとって理想手だ。
施設は2階建てで、1階は中堅数名による現場監督込みで多くの職員が居た。
2階は、比較的技術面に優れた所謂、ベテランが少数で回していた。
だが、此処にも闇はある。
1階の面々が言うには、2階は職員の墓場だという。
一方、2階の面々は、1階に集う職員を半人前と呼ぶ。
事実、2階へは責任者の出向くことが少なく、2階で起きている問題など発覚が遅れる事がある。
故に、責任者から見放されたメンバーが2階に移動となる。というジンクスが1階にはあった。
そのジンクスが立ったことにも理由がある。
本社施設の経営は身内管理であり
施設長の長田。そして、事務長は長田の義理の息子である戸北。
事務員には長田の娘 真由美。総務長に関しては長田の兄が担当していた。
故に出世したければ、この家族に気に入られなければ明日はない。
が、介護士の「松浦」はこの家族に対し、仕事面で甘い部分があると常常、指摘していた所
2階のリーダーとして移動になった。
更に、1階の現場職員の総意で「貝谷」が2階に移動させられた。
「貝谷」は俺と同期の25歳であったが、以前からぼーっとしているという指摘が多かった。
其処に、俺が入って来た事により、お払い箱になったのが実情である。
俺から見れば「貝谷」は物腰の柔らかい青年で、尤も俺の理想的な介護を行える青年だった。
唯一つ、足りない物があるとすれば、利用者に対して貪欲さが足りない。
いい意味でも悪い意味でも「言われたことしか出来ない」タイプなのだ。
時間もかからず、二人が立て続けに移動になった事で、1階では2階を墓場と
2階では1階を未熟者と話す様になってしまったのだ。
実際、俺が2階の手伝いに行った際、松浦の指示でてきぱきと動く貝谷を見た時は
目を見張る変化だったが、同時に休んでいる暇がない彼の顔は疲労の色が見えていた。
事務所で考える2階の人員は、ベテランの塊であり一々見に行かずとも
余程の事は起きないと踏んでいる。
それよりも、1階の学生上がりの新卒などが居る現場の方が事務所としては怖いのだ。
俺が覚えているだけでも、二十歳以下の職員が7~8名はいた。
まだ資格も取れていないような危うい子たちだ。
見様見真似で先輩たちの仕事を真似て、そこに何の意味があるのかすら理解できない子たちが
介護の現場に居るのだ。
若い子たちのリーダー格「山崎」
二十歳で「介護実務者研修者」の資格を取得。
他の子たちとは一線を引いて技術は高い。
この時、俺も同じく実務者の資格は取っていたが・・・ここに来て
「初任者研修者」の資格の有無で、その仕事の繊細さには大きな差が生まれている。
休憩中
ナースコールが鳴り響く。中堅たちが事務所に出払い
現場に残っていたのは山崎と他数名。
皆、仕事に追われている。
「俺、ちょっと見てきます。」
「ごめんね、飯島君。」
ナースコールの部屋番を見て、俺は微笑する。
その部屋の利用者はこの後に行われるリハビリ教室に熱心な方で温厚な人だ。
故に迎えを呼びたくてコールを鳴らしたのだ。
「林さん、どうされました?」
「あ、飯ちゃん!聞いてくれよ。この子、態度悪くてよぉ!」
其処にはベットに座る利用者の「林さん」とその横に棒立ちの「山崎」の姿があった。
「ど、どうしたの。」
「もうすぐリハビリの先生来るんだろ?だから広間で待ってようかと起こしてもらおうとしたんだ。
それで、ベットに腰かけたはいいんだけどよ、ちょっと目眩がしてよぉ。
それなのに、この兄ちゃんは淡々と靴履かせて体を持ち上げようとする訳さ。
待ってくれって言ってるのによぉ!」
「どういう事?山崎君。」
「いや、起こして欲しいって言われたんで。」
「ベットから起きたらまずは体調確認。これは基本だよ?」
「へ~、でも教わった事ないし、知らなかったんで。」
なまじ、歳が近いせいもあって俺の注意では、びくとも反省しない。
「いやさ・・・まずは林さんに謝ろう?迷惑かけたんだしさ。」
「・・・すいませんでした。」
「林さんは俺が案内するから・・・ホール誰も居ないし、見守りに行って。」
「うっす。」
「飯ちゃん、若い子相手に大変だねぇ~。」
「きっと自分にもあんな時期があったんだと思います・・・。これも勉強ですよ。」
「そう言える君は、やっぱり出来が違うよ。習ってきた事と年季が違うね!安心するよ!」
「そ、そうですか?ありがとうね、林さん。」
まだまだ多難ではあるが、ここでも俺の存在感は定着しつつあった。
理想を体現したような職場だった。
職員の大部分が俺より若く、数名の発言力ある中堅がリーダーを務める。
分かりやすいトップダウン制ではあるが、個々の判断で自由度の高い仕事は
俺にとって理想手だ。
施設は2階建てで、1階は中堅数名による現場監督込みで多くの職員が居た。
2階は、比較的技術面に優れた所謂、ベテランが少数で回していた。
だが、此処にも闇はある。
1階の面々が言うには、2階は職員の墓場だという。
一方、2階の面々は、1階に集う職員を半人前と呼ぶ。
事実、2階へは責任者の出向くことが少なく、2階で起きている問題など発覚が遅れる事がある。
故に、責任者から見放されたメンバーが2階に移動となる。というジンクスが1階にはあった。
そのジンクスが立ったことにも理由がある。
本社施設の経営は身内管理であり
施設長の長田。そして、事務長は長田の義理の息子である戸北。
事務員には長田の娘 真由美。総務長に関しては長田の兄が担当していた。
故に出世したければ、この家族に気に入られなければ明日はない。
が、介護士の「松浦」はこの家族に対し、仕事面で甘い部分があると常常、指摘していた所
2階のリーダーとして移動になった。
更に、1階の現場職員の総意で「貝谷」が2階に移動させられた。
「貝谷」は俺と同期の25歳であったが、以前からぼーっとしているという指摘が多かった。
其処に、俺が入って来た事により、お払い箱になったのが実情である。
俺から見れば「貝谷」は物腰の柔らかい青年で、尤も俺の理想的な介護を行える青年だった。
唯一つ、足りない物があるとすれば、利用者に対して貪欲さが足りない。
いい意味でも悪い意味でも「言われたことしか出来ない」タイプなのだ。
時間もかからず、二人が立て続けに移動になった事で、1階では2階を墓場と
2階では1階を未熟者と話す様になってしまったのだ。
実際、俺が2階の手伝いに行った際、松浦の指示でてきぱきと動く貝谷を見た時は
目を見張る変化だったが、同時に休んでいる暇がない彼の顔は疲労の色が見えていた。
事務所で考える2階の人員は、ベテランの塊であり一々見に行かずとも
余程の事は起きないと踏んでいる。
それよりも、1階の学生上がりの新卒などが居る現場の方が事務所としては怖いのだ。
俺が覚えているだけでも、二十歳以下の職員が7~8名はいた。
まだ資格も取れていないような危うい子たちだ。
見様見真似で先輩たちの仕事を真似て、そこに何の意味があるのかすら理解できない子たちが
介護の現場に居るのだ。
若い子たちのリーダー格「山崎」
二十歳で「介護実務者研修者」の資格を取得。
他の子たちとは一線を引いて技術は高い。
この時、俺も同じく実務者の資格は取っていたが・・・ここに来て
「初任者研修者」の資格の有無で、その仕事の繊細さには大きな差が生まれている。
休憩中
ナースコールが鳴り響く。中堅たちが事務所に出払い
現場に残っていたのは山崎と他数名。
皆、仕事に追われている。
「俺、ちょっと見てきます。」
「ごめんね、飯島君。」
ナースコールの部屋番を見て、俺は微笑する。
その部屋の利用者はこの後に行われるリハビリ教室に熱心な方で温厚な人だ。
故に迎えを呼びたくてコールを鳴らしたのだ。
「林さん、どうされました?」
「あ、飯ちゃん!聞いてくれよ。この子、態度悪くてよぉ!」
其処にはベットに座る利用者の「林さん」とその横に棒立ちの「山崎」の姿があった。
「ど、どうしたの。」
「もうすぐリハビリの先生来るんだろ?だから広間で待ってようかと起こしてもらおうとしたんだ。
それで、ベットに腰かけたはいいんだけどよ、ちょっと目眩がしてよぉ。
それなのに、この兄ちゃんは淡々と靴履かせて体を持ち上げようとする訳さ。
待ってくれって言ってるのによぉ!」
「どういう事?山崎君。」
「いや、起こして欲しいって言われたんで。」
「ベットから起きたらまずは体調確認。これは基本だよ?」
「へ~、でも教わった事ないし、知らなかったんで。」
なまじ、歳が近いせいもあって俺の注意では、びくとも反省しない。
「いやさ・・・まずは林さんに謝ろう?迷惑かけたんだしさ。」
「・・・すいませんでした。」
「林さんは俺が案内するから・・・ホール誰も居ないし、見守りに行って。」
「うっす。」
「飯ちゃん、若い子相手に大変だねぇ~。」
「きっと自分にもあんな時期があったんだと思います・・・。これも勉強ですよ。」
「そう言える君は、やっぱり出来が違うよ。習ってきた事と年季が違うね!安心するよ!」
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