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ユニット型施設
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全てを失ったかのような色褪せた毎日。
朝起きては、リビングに下り、母と揉める。
腹立ちまぎれに自室に篭り、母は出社していく。
そんなサイクルが続く中
母からメールが届く。
「うちの職場、(正確には兄弟社)で欠員が出たらしい。介護士の募集してるよ。」
当時、母が務めていたのは古くから介護を担っていた会社の事務職だった。
その年、新たに「ユニット型」とよばれる最新の施設を建てたばかりで、人員の少ない中
欠員が出てしまった事に慌てていたらしい。
ユニット型とは
施設のスペースを分割し、幾つかのグループに分け、少数の人員で少数の利用者を
介護していこう。というものである。
俺が働く事になったそのユニット型施設では、フロアを4分割し
職員3名で利用者が10名という比較的、落ち着いた場所であった。
他のグループとは扉1枚を挟んだだけで、行き来も自由であり、何かの場合
互いに手助けし合う事が出来る。
精神科に通い始め、薬を常用していた事から、体調も安定していた俺は
今こそ立ち直って見せる番だと、フルタイムでの勤務を申し込み働く事となった。
その施設の施設長と母は親しかったようで
母は前もって施設長に「精神病を抱えている」と話を通してくれていたらしい。
面接でも、多くは語らず、即採用となった。
これで、名実ともに母には頭の上がらない愚息の完成だ。
利用者が10名という事も有り、名前や状態などもすんなりと覚える事が出来る。
しかも、3人しかいないとはいえ、今までより遥かに一人にかける時間は多かった。
その点については俺は満足していた。
これまで経験してきた場は、まるで時間に追い回されているかのように
全速力で仕事をしなければ追いつかない。そんな場だった。
故に、ここまでゆったり仕事を出来る事が嘘の様だった。
働き始めた当初は、此処が良い。此処で働くんだ。と鼻息荒く仕事をしていたのを覚えている。
所が、そんな職場でも必ず、闇は存在するのだ。
この施設が始まってすぐの頃、各グループのメンバーが集まり
仕事の方法について精査していた。
その話し合いの結果、フロアー全体を管理するフロアー長と各グループに一人
リーダーを立てそのリーダーを中心に仕事をしていく。というものだった。
思えば、それが間違いだったと俺は思う。
一番のブレインであるフロアー長は現場に居る事が少なく
事務所で諸手続きなどを中心に活動していた。
その上、普段は接する事のない他のグループは此処の判断で
色々な、創意工夫を凝らしていく。
その結果、個々のグループで介護の行い方に差が生まれてくるのだ。
どんな仕事でもそうだが、統一されていない仕事内容は無用な混乱を生む火種になりやすい。
案の定
定期的にやり取りなどを行っていなかった各グループでは
互いに補完が難しく急な休みが出た時など、対応が遅れたり現場で問題が発生するケースがうまれた。
末路として待っているのは
「あの人は休みが多い。」だの「急なシフト変更は困る」だのという
よくある陰口だ。
だが、この施設の尤も最悪な部分。
それは、その日現場に入る職員が少なく職員との関係も密になりやすいという事。
それは裏を返せば、派閥を生みたい膣が起きやすい。という事にもつながる。
なぜなら、顔ぶれがほぼ変わらない故に
発言力のある人とその人にくっ付いて行動する人などが生まれやすいからだ。
そして、穏やかだった職場は一転し扉一つ向こうはまるで敵国と言わんばかりに
個々のグループが独り歩きしはじめた。
しかし、そんな中でも俺は比較的自由に行き来し各フロアでのやり方を
学んでいた。
そして、他フロアで「これは良い」と思う技術を
自分のフロアに取り入れるべく打診したり、実戦してみせた。
しかし、その意見が通る事は無かった。
俺の居たフロアーのリーダーは、年配のベテランであり
古くから培ってきたやり方を尊重する、いわば固い人間だった。
堅実で間違いが少ないのは確かなのだが、他を見た俺からすれば
もっといい方法が幾らもある。という状態だ。
しかも、当時
そのリーダーは隣の職員「大政さん」と揉めており、人の意見を聞いて居る余裕がない。という感じであり
その眼は血走り、ギラついていた事を覚えている。
そんなある日、事件が起きる。
利用者の昼食時
とうとうリーダーと大政さんとで怒鳴り合いの喧嘩となったらしい。
大政さんも大ベテランであり年齢的にも退職が近い方であったが
思考は柔軟で、情報の取り方は流石の一流であった。
そんな彼女との、方針の相違がきっかけだったという。
その日、俺は運悪く休みであり
止める事も出来ず、事後報告として全体会議の席でその事実を知る事となった。
朝起きては、リビングに下り、母と揉める。
腹立ちまぎれに自室に篭り、母は出社していく。
そんなサイクルが続く中
母からメールが届く。
「うちの職場、(正確には兄弟社)で欠員が出たらしい。介護士の募集してるよ。」
当時、母が務めていたのは古くから介護を担っていた会社の事務職だった。
その年、新たに「ユニット型」とよばれる最新の施設を建てたばかりで、人員の少ない中
欠員が出てしまった事に慌てていたらしい。
ユニット型とは
施設のスペースを分割し、幾つかのグループに分け、少数の人員で少数の利用者を
介護していこう。というものである。
俺が働く事になったそのユニット型施設では、フロアを4分割し
職員3名で利用者が10名という比較的、落ち着いた場所であった。
他のグループとは扉1枚を挟んだだけで、行き来も自由であり、何かの場合
互いに手助けし合う事が出来る。
精神科に通い始め、薬を常用していた事から、体調も安定していた俺は
今こそ立ち直って見せる番だと、フルタイムでの勤務を申し込み働く事となった。
その施設の施設長と母は親しかったようで
母は前もって施設長に「精神病を抱えている」と話を通してくれていたらしい。
面接でも、多くは語らず、即採用となった。
これで、名実ともに母には頭の上がらない愚息の完成だ。
利用者が10名という事も有り、名前や状態などもすんなりと覚える事が出来る。
しかも、3人しかいないとはいえ、今までより遥かに一人にかける時間は多かった。
その点については俺は満足していた。
これまで経験してきた場は、まるで時間に追い回されているかのように
全速力で仕事をしなければ追いつかない。そんな場だった。
故に、ここまでゆったり仕事を出来る事が嘘の様だった。
働き始めた当初は、此処が良い。此処で働くんだ。と鼻息荒く仕事をしていたのを覚えている。
所が、そんな職場でも必ず、闇は存在するのだ。
この施設が始まってすぐの頃、各グループのメンバーが集まり
仕事の方法について精査していた。
その話し合いの結果、フロアー全体を管理するフロアー長と各グループに一人
リーダーを立てそのリーダーを中心に仕事をしていく。というものだった。
思えば、それが間違いだったと俺は思う。
一番のブレインであるフロアー長は現場に居る事が少なく
事務所で諸手続きなどを中心に活動していた。
その上、普段は接する事のない他のグループは此処の判断で
色々な、創意工夫を凝らしていく。
その結果、個々のグループで介護の行い方に差が生まれてくるのだ。
どんな仕事でもそうだが、統一されていない仕事内容は無用な混乱を生む火種になりやすい。
案の定
定期的にやり取りなどを行っていなかった各グループでは
互いに補完が難しく急な休みが出た時など、対応が遅れたり現場で問題が発生するケースがうまれた。
末路として待っているのは
「あの人は休みが多い。」だの「急なシフト変更は困る」だのという
よくある陰口だ。
だが、この施設の尤も最悪な部分。
それは、その日現場に入る職員が少なく職員との関係も密になりやすいという事。
それは裏を返せば、派閥を生みたい膣が起きやすい。という事にもつながる。
なぜなら、顔ぶれがほぼ変わらない故に
発言力のある人とその人にくっ付いて行動する人などが生まれやすいからだ。
そして、穏やかだった職場は一転し扉一つ向こうはまるで敵国と言わんばかりに
個々のグループが独り歩きしはじめた。
しかし、そんな中でも俺は比較的自由に行き来し各フロアでのやり方を
学んでいた。
そして、他フロアで「これは良い」と思う技術を
自分のフロアに取り入れるべく打診したり、実戦してみせた。
しかし、その意見が通る事は無かった。
俺の居たフロアーのリーダーは、年配のベテランであり
古くから培ってきたやり方を尊重する、いわば固い人間だった。
堅実で間違いが少ないのは確かなのだが、他を見た俺からすれば
もっといい方法が幾らもある。という状態だ。
しかも、当時
そのリーダーは隣の職員「大政さん」と揉めており、人の意見を聞いて居る余裕がない。という感じであり
その眼は血走り、ギラついていた事を覚えている。
そんなある日、事件が起きる。
利用者の昼食時
とうとうリーダーと大政さんとで怒鳴り合いの喧嘩となったらしい。
大政さんも大ベテランであり年齢的にも退職が近い方であったが
思考は柔軟で、情報の取り方は流石の一流であった。
そんな彼女との、方針の相違がきっかけだったという。
その日、俺は運悪く休みであり
止める事も出来ず、事後報告として全体会議の席でその事実を知る事となった。
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