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番外編2 愚兄と魔女
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母の一連の事件が起きた1か月後。
母・兄・俺の3名は兄の新しい家で顔を突き合わせていた。
最初に話される議題、それは車の代金についてだ。
「貴樹、もう一度考え直しなさい。お父さんが亡くなってからまだ1年も経ってないよ。
そんなの仏さんに失礼でしょう。」
「そんな事、言われなくても分かってる。でも仕方ねぇだろ。そういう時期に重なっちまったんだから。」
「あんた・・・なんて親不孝なんだろ。そんな風に育てた覚えはないよ。」
「母さんこそ、亡くなっちまったモンをいつまでも引きずって。みっともないと思わねぇのか!?」
「アンタ達にはまだ分からないでしょ。アンタ達からすれば父さんが亡くなったって、まだ私が居るものね。
片親失ったくらいじゃ痛みなんてその程度でしょ。でもね、伴侶を失うって事はその比じゃないの。」
「だとしても、異常だよ。まだ和久だって居るのに、萎んでる暇が何処にあるんだよ。
それを毎回見させられる和久の気持ちも考えろよ。」
「・・・それと今回の件がどう繋がるんだよ。兄貴。」
「和久・・・。」
「黙って聞いてりゃ何だよ。その言い分。アンタ、仮にも人命にかかわる立場の人間だろうが。
そのアンタが失った者の前で異常者って・・・。職場でも遺族にそう言えるんか?え!?」
「俺は、お前の事を思って・・・!」
「人を逃げの口実に使うな!」
「か・・・・和・・・。」
勢い余って机を叩き、その勢いに押し負け沈黙が生まれた。
昔から、歳が離れている分、喧嘩なんてしたことが無かった。
喧嘩をした所で負けるのは明白だったからだ。
それを理解していたからこそ、食って掛かる事もなかったし、親を困らせる事も無かった。
その弟が、初めて本気で牙を剝き向かってきた事に貴樹は驚いていた。
だが、言われっぱなしも癪に障る。
「お前にどう思われようが、関係ない!それが嫌なら縁でもなんでも切ればいい!」
「な、何だと!言わせておけば・・・親父に申し訳ないとか思わんのか!兄貴!」
初めて兄の胸倉を掴んだ。
後には引けない。俺は今日まで多くのモヤモヤを抱えて来たのだから。
父の様子を見に行くのも、本当であれば俺が行きたかった。一緒に行きたかった。
家族の一員として。まるで部外者みたいに放っておかれる事が何よりも悔しかった。
その悔しさが再燃し、気付けば涙まで流れていた。
「い、一々死んだ人の事を思ってたら、やってけねぇよ。パンクしちまう。」
「そうかい!この薄情者が!血の繋がってない親父は親じゃないってか!え!」
「・・・。」
「家でも文句ひとつ言わず働いて育てた息子が、こんな薄情だとはなぁ!親父も浮かばれねぇよ!」
「和久、もう止めなさい!和久!」
「うるせぇよ!こいつにはもっと色々言いたい事がある!止めるな!」
「分かった、分かった。お前がどう思おうが勝手だよ。話が進まねぇ。黙ってろ。」
「な、なにぃ!」
「俺の事は好きなだけ恨んでくれて構わねぇよ。」
「このぉ・・・。」
「和久!」
「・・・。」
「座りなさい、和久。」
「っち。」
母の一喝で頭を冷やした俺が、改めて気になった事。それは
兄嫁の動向だ。
リビングで、自分の夫とその弟がつかみ合いにまで発展しているのに
兄嫁は、淡々と夕食の具材を切っていたのだ。
正直な所、俺は兄嫁があまり得意ではない。
彼女と俺は性格が似すぎている。好物も。
似ている度合いでいうと、家族全員が彼女の事を「女版、和久」と眉をしかめる程だ。
彼女を見ていると、同族嫌悪というか自己嫌悪に陥る。
職場の病院でも何度か一緒になった事があるが、なるべく距離を作る様に心がけていた。
だが、この時初めて俺は彼女の事を「魔女」だと思った。
仮にも姑が来ているにも拘らず、彼女は素知らぬ顔で家事を進めているのだ。
普通、此処までこじれれば母の様に兄の方をを諫めていても可笑しくはないのだが・・・。
全ての元凶がこの魔女にある事を、そこで悟った。
昔の兄は、忙しい両親に変わって俺の面倒を見てくれていた良き兄だった。
家族の中でも最も長い時間を一緒に居た。
そんな兄が、こうまで壊れた人間になったのは・・・この魔女に出会ってからだった。
思えば、兄の結婚も・・・両親は猛反対していた。
彼女の人柄に若干の難ありと両親は見ていたからだ。
そう、俺は知っている。兄の看護学校時代。
自宅の庭でバーべキューをしようと兄は友人たちを招いていた。
そのグループの中に、あの魔女が居た。
そして、あの魔女は常に、母から最も遠い場所に位置し
友人たちが母に挨拶している中、あの魔女は一度も挨拶を交わさなかった事を。
思えば、あの時から
彼女は異質な存在だった。
明るいメンバーが集う中、一人だけ浮いていた。
それが、まさに学生時代の自分に重なって見え、その時から苦手意識が芽生えたのだ。
彼女は普通じゃない・・・。
そう推論に至った時、兄と母の話も破談に終わり、宅を後にしたのだ。
母・兄・俺の3名は兄の新しい家で顔を突き合わせていた。
最初に話される議題、それは車の代金についてだ。
「貴樹、もう一度考え直しなさい。お父さんが亡くなってからまだ1年も経ってないよ。
そんなの仏さんに失礼でしょう。」
「そんな事、言われなくても分かってる。でも仕方ねぇだろ。そういう時期に重なっちまったんだから。」
「あんた・・・なんて親不孝なんだろ。そんな風に育てた覚えはないよ。」
「母さんこそ、亡くなっちまったモンをいつまでも引きずって。みっともないと思わねぇのか!?」
「アンタ達にはまだ分からないでしょ。アンタ達からすれば父さんが亡くなったって、まだ私が居るものね。
片親失ったくらいじゃ痛みなんてその程度でしょ。でもね、伴侶を失うって事はその比じゃないの。」
「だとしても、異常だよ。まだ和久だって居るのに、萎んでる暇が何処にあるんだよ。
それを毎回見させられる和久の気持ちも考えろよ。」
「・・・それと今回の件がどう繋がるんだよ。兄貴。」
「和久・・・。」
「黙って聞いてりゃ何だよ。その言い分。アンタ、仮にも人命にかかわる立場の人間だろうが。
そのアンタが失った者の前で異常者って・・・。職場でも遺族にそう言えるんか?え!?」
「俺は、お前の事を思って・・・!」
「人を逃げの口実に使うな!」
「か・・・・和・・・。」
勢い余って机を叩き、その勢いに押し負け沈黙が生まれた。
昔から、歳が離れている分、喧嘩なんてしたことが無かった。
喧嘩をした所で負けるのは明白だったからだ。
それを理解していたからこそ、食って掛かる事もなかったし、親を困らせる事も無かった。
その弟が、初めて本気で牙を剝き向かってきた事に貴樹は驚いていた。
だが、言われっぱなしも癪に障る。
「お前にどう思われようが、関係ない!それが嫌なら縁でもなんでも切ればいい!」
「な、何だと!言わせておけば・・・親父に申し訳ないとか思わんのか!兄貴!」
初めて兄の胸倉を掴んだ。
後には引けない。俺は今日まで多くのモヤモヤを抱えて来たのだから。
父の様子を見に行くのも、本当であれば俺が行きたかった。一緒に行きたかった。
家族の一員として。まるで部外者みたいに放っておかれる事が何よりも悔しかった。
その悔しさが再燃し、気付けば涙まで流れていた。
「い、一々死んだ人の事を思ってたら、やってけねぇよ。パンクしちまう。」
「そうかい!この薄情者が!血の繋がってない親父は親じゃないってか!え!」
「・・・。」
「家でも文句ひとつ言わず働いて育てた息子が、こんな薄情だとはなぁ!親父も浮かばれねぇよ!」
「和久、もう止めなさい!和久!」
「うるせぇよ!こいつにはもっと色々言いたい事がある!止めるな!」
「分かった、分かった。お前がどう思おうが勝手だよ。話が進まねぇ。黙ってろ。」
「な、なにぃ!」
「俺の事は好きなだけ恨んでくれて構わねぇよ。」
「このぉ・・・。」
「和久!」
「・・・。」
「座りなさい、和久。」
「っち。」
母の一喝で頭を冷やした俺が、改めて気になった事。それは
兄嫁の動向だ。
リビングで、自分の夫とその弟がつかみ合いにまで発展しているのに
兄嫁は、淡々と夕食の具材を切っていたのだ。
正直な所、俺は兄嫁があまり得意ではない。
彼女と俺は性格が似すぎている。好物も。
似ている度合いでいうと、家族全員が彼女の事を「女版、和久」と眉をしかめる程だ。
彼女を見ていると、同族嫌悪というか自己嫌悪に陥る。
職場の病院でも何度か一緒になった事があるが、なるべく距離を作る様に心がけていた。
だが、この時初めて俺は彼女の事を「魔女」だと思った。
仮にも姑が来ているにも拘らず、彼女は素知らぬ顔で家事を進めているのだ。
普通、此処までこじれれば母の様に兄の方をを諫めていても可笑しくはないのだが・・・。
全ての元凶がこの魔女にある事を、そこで悟った。
昔の兄は、忙しい両親に変わって俺の面倒を見てくれていた良き兄だった。
家族の中でも最も長い時間を一緒に居た。
そんな兄が、こうまで壊れた人間になったのは・・・この魔女に出会ってからだった。
思えば、兄の結婚も・・・両親は猛反対していた。
彼女の人柄に若干の難ありと両親は見ていたからだ。
そう、俺は知っている。兄の看護学校時代。
自宅の庭でバーべキューをしようと兄は友人たちを招いていた。
そのグループの中に、あの魔女が居た。
そして、あの魔女は常に、母から最も遠い場所に位置し
友人たちが母に挨拶している中、あの魔女は一度も挨拶を交わさなかった事を。
思えば、あの時から
彼女は異質な存在だった。
明るいメンバーが集う中、一人だけ浮いていた。
それが、まさに学生時代の自分に重なって見え、その時から苦手意識が芽生えたのだ。
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そう推論に至った時、兄と母の話も破談に終わり、宅を後にしたのだ。
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