虚像のヘルパー

メカ

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番外編 母の悲しみと兄への怒り

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父が亡くなって少し経った頃
依然、母は悲しみの中に居た。
俺は、そんな母を残し休日にまで仕事に行く事が気がかりであった。

休日のある日、家に帰ると母が居ない。なんて事が起きるのではないかと
気が気ではなかった。

そんな中、独立していた兄から母に連絡が入ったという。
兄はバツの悪そうな顔で母に
新築の家を建てる事を相談しに来たのだ。

当然、母は猛反対であった。
父の一回忌すら終わっていない状態でそんな事はバチあたりである。と・・・。
だが、兄も引き下がらなかった。
父が亡くなった今、長男である自分が近くにいた方が良いだろうと、食ってかかった。

結論から言おう。
あれから数年経つが、兄とは何の音沙汰もない。母が兄を頼った事すらない。

しかし、兄のその一言に折れた母は新築住宅の代金の半額
凡そ400万を兄に手渡した。
勿論、これは父の遺産から出た物である。

その後、兄は見事自宅を建て、その舌の根が乾かない内に
新たなる打診を母に迫った。

それは、兄嫁の車を新しい物にしたい。というものであった。

その一件では流石の母も怒り心頭であった。
一度は兄を家から追い出したという。

しかし、これらの一連の騒動は、俺こと和久が仕事に出ている間に起きた件で
俺は、この事を事後報告として聞く事となるのだ。

何時もそうだ。
何か問題が起きても、俺は蚊帳の外。
父が亡くなった時も。
俺は、家で待機。父はそのまま亡くなった。
親の死に目にも会えない親不孝者になった愚息だ。
方や、兄は看護師でもある。
故に、父の死を糧により一層頼れる兄貴になってくれるであろうと期待していたが
蓋を開ければ、父の遺産にたかるハゲタカと化していた。

何時も後から聞かされる俺は、行き場のない怒りを煮えたぎらせていた。
俺がこうまで怒っているのには理由がある。
それは、父が実の父親ではない事にある。
俺達兄弟の父は別にいる。だが、育ての父は俺達を自分の子供として
しっかりとここまで育て上げてくれた。
子供の頃は、そんな大人の事情は知らず呑気に反抗もしていたが
ある時期、俺は目の前の父親が実の父親でない事を知ってしまう。
無論、この事は兄はとっくに知っている。
そう、家族の中でその事を知らなかったのは俺だけだ。
だが、そんな事はどうでもいい。

社会人になって分かった父の偉大さ。
そして、それを踏みにじった兄。
歳の離れた俺ですら理解できている事を、兄は理解しようともしない。
社会人になりたてのヒヨッコでも、故人を悼む時間が必要だと理解できる。
だが兄は、その禁忌すら意に介さなかった。

そして、再びの休日出勤。
その日は、また兄から母に、食事の誘いが来ていたという。
色々あったが、禁忌を犯しただけあって兄らしい事を始めたと安堵した。

だが、その結果は散々なモノであった。
夜8時、俺は何時もこのくらいの時間に帰って来ていた。
何時もであれば、食卓に夕飯が並び、母が待っている。
だが、その晩、夕食は用意されていなかった。
どうした事かと、リビングを見渡すと
父の仏壇の前で座り込む母の姿があった。

「母さん?・・・どうしたの?」

「今日、お兄ちゃんと昼食に行くって話、したでしょ?」

「そうね、あのバカ野郎。元気にしてた?」

「・・・。」

「で、何があったの?母さん。」

「昼食が終わって、デザートを食べようって時に、母さんね・・・お父さんの事思い出して悲しくなって。」

「・・・。」

「そしたら、お兄ちゃん、何て言ったと思う?」

「・・・さぁ?」

「いい加減認めろよ、精神異常者じゃあるまいし。って・・・。」

「!」

この時、俺の中で渦巻いていた黒々とした物が一気に膨張し全身を巡った。
握りこぶしには力を加え、噛み締めた歯は軋むような音を立てた。

あの野郎、やっちゃいけない事をした。
同じ血が通っているとも思いたくもない。
確かに、立ち直り前を向かなきゃならない時はある。
だがそれを決めるのは他人じゃない。
ましてや、それを異常者扱いするなど・・・
兄は看護師で俺は介護士だ。
確かに、担う重みや重責はあちらが大きいだろう。だが
人として・・・「人道」というものは両者共に最も手厚くケアするものであろう。

「母さん・・・今度、話し合いしに行こう・・・。今度は俺も行く・・・。」

だが、実に恐ろしきは、もっと別の所にあったのだ。
・・・その事実は、次の機会に語るとしましょう・・・。
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