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教育とは ~その3~
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とある個室のナースコールがなる。
その個室には認知症の進んだ80代の女性「青山さん」がいる。
個室に向かうとそこには、興奮気味に叫ぶ青山さんと中堅職員「榊」がいた。
「榊さん、どうされたんです?」
「いやね、オムツ交換しようとしたら青山さんが突然暴れ出してさぁ。普段こんなじゃないのに。」
「いやぁ!放して!怖い!怖いのよ!」
「一人じゃ無理そうだから、コールを押したんだけど・・・。他に人はいないの?」
「他も皆、交換に出払ってます。」
榊の「ほかに人が居ないか」という問いには正直むっとしている。
俺は暴れる利用者を抑えるのが好きではない。
故に落ち着くまで時間をかけて話を聞いたりするのだが・・・
榊さんの望む方法は抑え込んでの交換の様だった。
人手のない中での仕事だ、時間まで食う訳にはいかないのだ。
「仕方ない。飯島君。そっち側廻って。」
「・・・はい。」
「無理に抑えろとは言わないけど、気を逸らしておいて!」
「分かりました。」
と、返事をしたものの、言葉だけで気が逸らせるのなら訳ないさ。
当然、青山さんも話しかける俺よりも作業に取り掛かる榊の妨害で聞く耳を持たない。
「この、悪魔!人殺しぃ!人殺しぃぃ!」
「そんな大げさな。」
榊は苦笑いしつつも作業を進め、無事に終わったが
時間は普段の倍以上掛かってしまった。
「しかし、あの青山さんが・・・どうしたんでしょうかね?」
「さぁ・・・認知が悪化してるのかもなぁ。」
「そういうもんですか?・・・アレが。」
「俺にもよく分からないさ。だけどここが何処かとか分からない日もある。そんな中、不安じゃない方が
変だろ?」
「まぁ、確かに・・・。」
だが、俺は腑に落ちなかった。
それほど、青山さんという方は穏やかで落ち着きのある方なのだ。
認知の症状で、ここが何処かも分からずとも、職員の説明をよく聞いて納得されるような・・・。
むしろ、状態を理解すると、お礼まで言う律儀な方なのだ。
それが、今日に限ってあの怯え様。症状の悪化ですと言われ、分かりましたと納得できるものでもなかった。
昼食時には青山さんも落ち着きを取り戻し、食事も全量召し上がっていた。
今朝の変わり様には驚かされたが、その後の家族の面会でも落ち浮いて話されていたようだ。
しかし、家族の帰りがけに、俺は娘さんから呼び止められた。
「あの。」
「はい?何でしょうか?」
「青山の娘なんですけども・・・。」
「あぁ、青山さんの。それでご用件は?」
「母が『茶髪の男が怖い。』っていうんですけど、そういう職員は居ませんよね?」
「茶髪・・・職員には居ないと思うのですが・・・。」
「そ、そうですよね。やっぱり、認知が悪化してるのかしら・・・。」
「フロアーの責任者を呼びますので、ご相談されてはいかがでしょうか?」
「そ、そんな大事には・・・。」
「いえ、我々職員もご家族とは情報を共有しておきたいですし、少しでも助けになればと。」
「そうですか?では、お願いします。」
後日、結論から言うと
青山さんのこの一件は認知の悪化によるものだ。という事でまとまった。
せっかく、家族とリーダーとを結びつけても
その結論以外の解決には至らず、日にちは過ぎて行った。
大きな問題が、裏にあることを知らずに・・・。
その個室には認知症の進んだ80代の女性「青山さん」がいる。
個室に向かうとそこには、興奮気味に叫ぶ青山さんと中堅職員「榊」がいた。
「榊さん、どうされたんです?」
「いやね、オムツ交換しようとしたら青山さんが突然暴れ出してさぁ。普段こんなじゃないのに。」
「いやぁ!放して!怖い!怖いのよ!」
「一人じゃ無理そうだから、コールを押したんだけど・・・。他に人はいないの?」
「他も皆、交換に出払ってます。」
榊の「ほかに人が居ないか」という問いには正直むっとしている。
俺は暴れる利用者を抑えるのが好きではない。
故に落ち着くまで時間をかけて話を聞いたりするのだが・・・
榊さんの望む方法は抑え込んでの交換の様だった。
人手のない中での仕事だ、時間まで食う訳にはいかないのだ。
「仕方ない。飯島君。そっち側廻って。」
「・・・はい。」
「無理に抑えろとは言わないけど、気を逸らしておいて!」
「分かりました。」
と、返事をしたものの、言葉だけで気が逸らせるのなら訳ないさ。
当然、青山さんも話しかける俺よりも作業に取り掛かる榊の妨害で聞く耳を持たない。
「この、悪魔!人殺しぃ!人殺しぃぃ!」
「そんな大げさな。」
榊は苦笑いしつつも作業を進め、無事に終わったが
時間は普段の倍以上掛かってしまった。
「しかし、あの青山さんが・・・どうしたんでしょうかね?」
「さぁ・・・認知が悪化してるのかもなぁ。」
「そういうもんですか?・・・アレが。」
「俺にもよく分からないさ。だけどここが何処かとか分からない日もある。そんな中、不安じゃない方が
変だろ?」
「まぁ、確かに・・・。」
だが、俺は腑に落ちなかった。
それほど、青山さんという方は穏やかで落ち着きのある方なのだ。
認知の症状で、ここが何処かも分からずとも、職員の説明をよく聞いて納得されるような・・・。
むしろ、状態を理解すると、お礼まで言う律儀な方なのだ。
それが、今日に限ってあの怯え様。症状の悪化ですと言われ、分かりましたと納得できるものでもなかった。
昼食時には青山さんも落ち着きを取り戻し、食事も全量召し上がっていた。
今朝の変わり様には驚かされたが、その後の家族の面会でも落ち浮いて話されていたようだ。
しかし、家族の帰りがけに、俺は娘さんから呼び止められた。
「あの。」
「はい?何でしょうか?」
「青山の娘なんですけども・・・。」
「あぁ、青山さんの。それでご用件は?」
「母が『茶髪の男が怖い。』っていうんですけど、そういう職員は居ませんよね?」
「茶髪・・・職員には居ないと思うのですが・・・。」
「そ、そうですよね。やっぱり、認知が悪化してるのかしら・・・。」
「フロアーの責任者を呼びますので、ご相談されてはいかがでしょうか?」
「そ、そんな大事には・・・。」
「いえ、我々職員もご家族とは情報を共有しておきたいですし、少しでも助けになればと。」
「そうですか?では、お願いします。」
後日、結論から言うと
青山さんのこの一件は認知の悪化によるものだ。という事でまとまった。
せっかく、家族とリーダーとを結びつけても
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