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おまけ
ボードゥアンのお引越し
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【エピローグの裏側で】ボードゥアンの弟子(ノア)目線
ノアが魔道士団最強の天才、ボードゥアンの弟子になれたのは、とても幸運だったと思う。
募集された弟子候補に名乗りをあげたものの、面接の時には優秀な先輩たちの中で萎縮してしまい何もできなかった。それなのに……
「ボク、その子にする。えっと……ノアくんだよね」
「え、えっ!? 僕ですか!?」
応募者控室に入ってきたボードゥアンが、唐突にノアを指名したのだ。魔道士団の上層部は、ボードゥアンのそばで驚きの顔をしていた。対照的に次期魔道士団長だと噂のディランは淡々と手続きしていたのを覚えている。
そして、翌日からは謎に包まれていた森の中がノアの職場になった。
……
そこからの七年間は充実した夢のような日々だった。
ベテランの団員にはボードゥアンを怒らせたら殺されると脅されていた。しかし、ボードゥアンはいつもニコニコしていて、ノアが失敗しても声を荒げることさえない。
兄弟子となったディランが魔道士団を辞めてからも、ボードゥアンは変わらなかった。いや、ノアは変わっていないと思っていたのだ。
変化は突然にやってきた。
それは、ノアがいつものようにボードゥアンと朝食を食べていたときのことだった。
「ボク、魔道士団を辞めることにしたんだけど、ノアはどうする?」
「え、え!? どういう事ですか!?」
ボードゥアンは、『お昼ごはんはどうする?』みたいな雰囲気でとんでもないことを言ったのだ。ノアは信じられなかったが、ボードゥアンが屋敷の中を片付けはじめたのを見て本気だと悟った。それならば、ノアの答えは決まっている。
「師匠。どこに行くのか知りませんが、僕も連れて行って下さい」
「うん、いいよ」
ノアの人生最大の決断はあっさり了承された。
「やっぱり、師匠はカモマイル公爵領に行くんですか?」
「そうだよ。ディランがカカオを育てるって聞いてさ。ここにいるより面白そうでしょ?」
「そ、そうですね」
ボードゥアンは『面白そう』の一言で済ませたが、魔道士団が荒れることは間違いない。兄弟子ディランに相談すれば上手くやってくれそうだが、ボードゥアンは内緒で向かうつもりのようだ。
とにかくそんなわけで、その後が大変だった。特にノアに届いた貴人からの手紙は腰が抜けるかと思った。
『直ちに王宮に出頭することを命じる。チャーリー・シクノチェス』
「な、なんで僕宛なんでしょう」
「あの方も懲りないな」
チャーリーの手紙の内容も驚いたが、その手紙を見せたときのボードゥアンの笑顔が恐ろしくて、ノアはずっと忘れられないでいる。
『ボードゥアンを怒らせたら殺される』
弟子になった直後に聞いたベテラン団員の言葉は、あながち冗談ではなかったのかもしれないとまで思った。
「この服で大丈夫でしょうか?」
「気にすることないよ。ほら、行くよ」
「は、はい!」
ノアは一人で行く方が安全かもしれないと思いながら、ボードゥアンとともにチャーリーの執務室へ向かった。
見たこともない立派な扉の中には、美しい貴人が笑顔で待っていた。
「ボードゥアン殿も来たのか」
「お邪魔でしたか?」
ノアは、笑顔で挨拶を交わすチャーリーとボードゥアンの異様な空気に息を呑む。そばに控えるチャーリーの側近たちが平然としているのも驚愕だ。
(師匠! 魔力が漏れてます!!)
ボードゥアンの殺気が凄すぎて、ノアはボードゥアンから距離を取る。魔道士の修行をしていないであろうチャーリーたちは感じ取っていないのかもしれない。
「あなたの弟子に説得を頼もうと思ったのだが……ボードゥアン殿、魔道士団に残る気はないか。ディランの自由を奪いたくはないたろう?」
チャーリーの言葉を聞いて、ボードゥアンがクスクスと笑い出す。ボードゥアンの笑顔は数え切れないほど見てきたが、初めて見る種類のものだ。ボードゥアンが味方であると分かっていなければ、ノアは震え出していただろう。
「チャーリー王子、選んで下さい。ボクやディランのすることを黙って見ているか、シクノチェス王国を消し炭にするか。ああ、安心してください。王国より先にあなたを消すので、後者を選んでもあなたが後悔したり罪悪感を持つ時間はないですよ。ボクって、優しいでしょ?」
「面白い冗談だな」
……
その話し合いがどうなったのかは分からない。ノアは気がつくと森の中の屋敷に戻っていて、ベッドに寝かされていた。どうやら、耐えきれずに気絶してしまったらしい。とにかく、王国が消し炭にはなっていないことだけは確かで、ホッと息を吐き出す。
「師匠、すみませんでした」
「ノア、起きたんだね。具合はどう?」
ノアが台所に向かうと、いつもの優しいボードゥアンがいた。ノアが起きてこないので、夕食を買ってきてお皿に並べているところだったようだ。ノアは日常の風景にホッとして微笑み返す。
「大丈夫です。運んで頂いてすみません」
「気にしなくて良いよ」
結論から言うとボードゥアンの退職は認められた。魔道士団内の噂では、チョコレート好きの王妃が後押ししたらしい。
とりあえず、円満(?)に退職できてホッとする。ノアは魔道士団が新体制になった1年後、ボードゥアンとともにカモマイル公爵領へと旅立った。
おまけ3 終
ノアが魔道士団最強の天才、ボードゥアンの弟子になれたのは、とても幸運だったと思う。
募集された弟子候補に名乗りをあげたものの、面接の時には優秀な先輩たちの中で萎縮してしまい何もできなかった。それなのに……
「ボク、その子にする。えっと……ノアくんだよね」
「え、えっ!? 僕ですか!?」
応募者控室に入ってきたボードゥアンが、唐突にノアを指名したのだ。魔道士団の上層部は、ボードゥアンのそばで驚きの顔をしていた。対照的に次期魔道士団長だと噂のディランは淡々と手続きしていたのを覚えている。
そして、翌日からは謎に包まれていた森の中がノアの職場になった。
……
そこからの七年間は充実した夢のような日々だった。
ベテランの団員にはボードゥアンを怒らせたら殺されると脅されていた。しかし、ボードゥアンはいつもニコニコしていて、ノアが失敗しても声を荒げることさえない。
兄弟子となったディランが魔道士団を辞めてからも、ボードゥアンは変わらなかった。いや、ノアは変わっていないと思っていたのだ。
変化は突然にやってきた。
それは、ノアがいつものようにボードゥアンと朝食を食べていたときのことだった。
「ボク、魔道士団を辞めることにしたんだけど、ノアはどうする?」
「え、え!? どういう事ですか!?」
ボードゥアンは、『お昼ごはんはどうする?』みたいな雰囲気でとんでもないことを言ったのだ。ノアは信じられなかったが、ボードゥアンが屋敷の中を片付けはじめたのを見て本気だと悟った。それならば、ノアの答えは決まっている。
「師匠。どこに行くのか知りませんが、僕も連れて行って下さい」
「うん、いいよ」
ノアの人生最大の決断はあっさり了承された。
「やっぱり、師匠はカモマイル公爵領に行くんですか?」
「そうだよ。ディランがカカオを育てるって聞いてさ。ここにいるより面白そうでしょ?」
「そ、そうですね」
ボードゥアンは『面白そう』の一言で済ませたが、魔道士団が荒れることは間違いない。兄弟子ディランに相談すれば上手くやってくれそうだが、ボードゥアンは内緒で向かうつもりのようだ。
とにかくそんなわけで、その後が大変だった。特にノアに届いた貴人からの手紙は腰が抜けるかと思った。
『直ちに王宮に出頭することを命じる。チャーリー・シクノチェス』
「な、なんで僕宛なんでしょう」
「あの方も懲りないな」
チャーリーの手紙の内容も驚いたが、その手紙を見せたときのボードゥアンの笑顔が恐ろしくて、ノアはずっと忘れられないでいる。
『ボードゥアンを怒らせたら殺される』
弟子になった直後に聞いたベテラン団員の言葉は、あながち冗談ではなかったのかもしれないとまで思った。
「この服で大丈夫でしょうか?」
「気にすることないよ。ほら、行くよ」
「は、はい!」
ノアは一人で行く方が安全かもしれないと思いながら、ボードゥアンとともにチャーリーの執務室へ向かった。
見たこともない立派な扉の中には、美しい貴人が笑顔で待っていた。
「ボードゥアン殿も来たのか」
「お邪魔でしたか?」
ノアは、笑顔で挨拶を交わすチャーリーとボードゥアンの異様な空気に息を呑む。そばに控えるチャーリーの側近たちが平然としているのも驚愕だ。
(師匠! 魔力が漏れてます!!)
ボードゥアンの殺気が凄すぎて、ノアはボードゥアンから距離を取る。魔道士の修行をしていないであろうチャーリーたちは感じ取っていないのかもしれない。
「あなたの弟子に説得を頼もうと思ったのだが……ボードゥアン殿、魔道士団に残る気はないか。ディランの自由を奪いたくはないたろう?」
チャーリーの言葉を聞いて、ボードゥアンがクスクスと笑い出す。ボードゥアンの笑顔は数え切れないほど見てきたが、初めて見る種類のものだ。ボードゥアンが味方であると分かっていなければ、ノアは震え出していただろう。
「チャーリー王子、選んで下さい。ボクやディランのすることを黙って見ているか、シクノチェス王国を消し炭にするか。ああ、安心してください。王国より先にあなたを消すので、後者を選んでもあなたが後悔したり罪悪感を持つ時間はないですよ。ボクって、優しいでしょ?」
「面白い冗談だな」
……
その話し合いがどうなったのかは分からない。ノアは気がつくと森の中の屋敷に戻っていて、ベッドに寝かされていた。どうやら、耐えきれずに気絶してしまったらしい。とにかく、王国が消し炭にはなっていないことだけは確かで、ホッと息を吐き出す。
「師匠、すみませんでした」
「ノア、起きたんだね。具合はどう?」
ノアが台所に向かうと、いつもの優しいボードゥアンがいた。ノアが起きてこないので、夕食を買ってきてお皿に並べているところだったようだ。ノアは日常の風景にホッとして微笑み返す。
「大丈夫です。運んで頂いてすみません」
「気にしなくて良いよ」
結論から言うとボードゥアンの退職は認められた。魔道士団内の噂では、チョコレート好きの王妃が後押ししたらしい。
とりあえず、円満(?)に退職できてホッとする。ノアは魔道士団が新体制になった1年後、ボードゥアンとともにカモマイル公爵領へと旅立った。
おまけ3 終
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