1 / 72
1.竜騎士選定
ティラノ王国の郊外には、大規模な竜騎士団の演習場がある。普段から竜が飛び回り活気にあふれているが、今日は一段と異様な熱気に包まれていた。数年に一度しか開かれない竜騎士の選定試験が行われているためだ。
ティラノ王国の騎士は、ごく一部の例外を除いて皆が一度は竜騎士を目指す。
憧れの存在である竜騎士の選考にも関わらず、選定試験の応募に条件はない。強さより竜との魔力の相性が重要になるためで、現役の騎士以外にも竜騎士に憧れる多くの者が集まっていた。今は候補者を絞るための能力試験が行われている。
ブルクハルト・ヴェロキラは全体が見渡せる演習場の隅に座り込んで、ラピスラズリのような青い瞳でその様子を睨みつけていた。
「ブルクハルト、誰か気に入った男は見つかった?」
名前を呼ばれて振り返ると、従兄のエッカルト・ヴェロキラが立っていた。
「誤解を生むから、そういう言い方は止めてくれ」
「間違ってないだろう? 相棒は大事だよ」
エッカルトは笑いながら、ブルクハルトの隣にドカリと座る。
ブルクハルトは、竜騎士団と共に最前線で魔獣と戦う辺境伯騎士団の若き有望株だ。今回の試験の有力候補だと言われている。しかし、実際にはブルクハルトが竜騎士に選ばれることはない。
ブルクハルトはこの国の『ごく一部の例外』なのだ。その理由は単純で、ブルクハルト自身が竜になれる竜人だからだ。今日の試験は竜化したブルクハルトとともに戦う竜騎士を選ぶために行われている。
竜騎士選定試験が数年に一度しか開かれないのも、竜人の成人に合わせて行われているためだ。そのことを知るのはヴェロキラ家の者と竜騎士を除けば王族の一部だけである。
ヴェロキラ家に竜人が生まれることは、ティラノ王国の建国にも関わることなので秘匿されているのだ。
「応募者の人数が多すぎるよな。この中から一人を選ぶなんて気が遠くなる」
「まぁ、仕方ないよ。青龍の竜騎士を選ぶのは二十五年ぶりだ。皆、待ち望んでいたんだよ」
竜の中でも青龍は特別だ。一般人にとっては他の竜より強い竜というだけの認識だが、ヴェロキラの一族にとってはそれ以上の意味がある。ヴェロキラ辺境伯家の人間であり、竜人の一族の長の子のみに現れる特別な色なのだ。
エッカルトのルビーのような赤い瞳が、ブルクハルトの青い髪を見つめている。人間の姿のときには、その特徴的な色が髪や瞳に現れる。つまり、エッカルトは赤龍、ブルクハルトは青龍になるのだ。
青龍になる者は、ブルクハルト以外に四人しか存在していない。青龍の竜騎士が選ばれるのは、エッカルトの父であるブルクハルトの叔父のとき以来となる。分家の者は翠龍になる者がほとんどで、エッカルトのように赤龍になる者も青龍の次に珍しく特有の強さを持つ。
「エッカルトはいいよな。俺だってガスパール・ドリコリンが候補にいれば、こんなに悩んだりしない」
「まぁ、うん。それはそうかもね」
エッカルトの相棒であるガスパール・ドリコリンは、竜騎士を一番多く輩出しているドリコリン伯爵家の跡取りだ。ブルクハルトの五つ年上だが、本来なら時期当主同士、ブルクハルトの相棒になってもおかしくなかった。
「ガスパールさん、俺のこと嫌いだからな」
完全に私情だが、ブルクハルトもガスパール相手では気を使うので、これで良かったと思っている。
「クリスティーナちゃんが男だったら良かったのにね」
「良いわけないだろう」
「冗談だって」
ブルクハルトが睨みつけると、エッカルトがクスクスと笑う。怒ると分かっていて言っているのだから質が悪い。
クリスティーナ・ドリコリンは、ブルクハルトの最愛の婚約者だ。ガスパールの溺愛する妹でもあり、ブルクハルトが嫌われているのは、この辺りが影響している。ブルクハルトとしては妹離れしてほしいところだが難しいだろう。仲裁すべき立場のクリスティーナはブルクハルトとガスパールの争いを『喧嘩するほど仲が良いのね』の一言で受け流してしまっている。
「そろそろ本線が始まるみたいだよ。ブルクハルトも一応参加者なんだから、行ったほうが良いんじゃない?」
「そうだな」
ブルクハルトが演習場に視線を戻すと中央に騎士がズラリと並んでいた。やたらと大きく重そうな者から女のように華奢な者までいる。あの中に本当にブルクハルトの相棒はいるのだろうか。
「心配することはないよ。自分の竜騎士になれる人間は、剣を合わせれば分かる。その中から性格の合う者を選べば良い。番を見つけたときと同じ感覚だから、ブルクハルトにもピンとくると思うよ」
「ティーナがもう一人いるわけないだろう?」
ブルクハルトはクリスティーナと初めて会った幼い日のことを今でも鮮明に覚えている。この子は自分の唯一無二だ。たとえ自分の命と引き換えになっても守ってあげたい。そう思ったのだ。それは竜人だけが持つ特別な感覚で、竜人は人間とは違い例外なくたった一人の番を生涯愛し続ける。呪いだなんて呼ぶ者がいるほどの執着だ。
「ほら、ブルクハルトを待っているみたいだよ」
エッカルトに言われて視線を上げると、竜騎士の候補者の数人がブルクハルトを睨みつけていた。ヴェロキラ家の人間は、所属する辺境伯騎士団からの推薦という形で能力試験を免除されている。竜騎士を自ら選ぶために本戦に出るのだから当たり前だが、そんなことを知らない候補者たちは、ブルクハルトの特別扱いが気にいらないのだろう。
「最初から相棒と険悪になるのはまずいよな」
睨んでいる者の中に未来の相棒がいる可能性もある。ブルクハルトは慌てて立ち上がって候補者の輪に加わった。
ティラノ王国の騎士は、ごく一部の例外を除いて皆が一度は竜騎士を目指す。
憧れの存在である竜騎士の選考にも関わらず、選定試験の応募に条件はない。強さより竜との魔力の相性が重要になるためで、現役の騎士以外にも竜騎士に憧れる多くの者が集まっていた。今は候補者を絞るための能力試験が行われている。
ブルクハルト・ヴェロキラは全体が見渡せる演習場の隅に座り込んで、ラピスラズリのような青い瞳でその様子を睨みつけていた。
「ブルクハルト、誰か気に入った男は見つかった?」
名前を呼ばれて振り返ると、従兄のエッカルト・ヴェロキラが立っていた。
「誤解を生むから、そういう言い方は止めてくれ」
「間違ってないだろう? 相棒は大事だよ」
エッカルトは笑いながら、ブルクハルトの隣にドカリと座る。
ブルクハルトは、竜騎士団と共に最前線で魔獣と戦う辺境伯騎士団の若き有望株だ。今回の試験の有力候補だと言われている。しかし、実際にはブルクハルトが竜騎士に選ばれることはない。
ブルクハルトはこの国の『ごく一部の例外』なのだ。その理由は単純で、ブルクハルト自身が竜になれる竜人だからだ。今日の試験は竜化したブルクハルトとともに戦う竜騎士を選ぶために行われている。
竜騎士選定試験が数年に一度しか開かれないのも、竜人の成人に合わせて行われているためだ。そのことを知るのはヴェロキラ家の者と竜騎士を除けば王族の一部だけである。
ヴェロキラ家に竜人が生まれることは、ティラノ王国の建国にも関わることなので秘匿されているのだ。
「応募者の人数が多すぎるよな。この中から一人を選ぶなんて気が遠くなる」
「まぁ、仕方ないよ。青龍の竜騎士を選ぶのは二十五年ぶりだ。皆、待ち望んでいたんだよ」
竜の中でも青龍は特別だ。一般人にとっては他の竜より強い竜というだけの認識だが、ヴェロキラの一族にとってはそれ以上の意味がある。ヴェロキラ辺境伯家の人間であり、竜人の一族の長の子のみに現れる特別な色なのだ。
エッカルトのルビーのような赤い瞳が、ブルクハルトの青い髪を見つめている。人間の姿のときには、その特徴的な色が髪や瞳に現れる。つまり、エッカルトは赤龍、ブルクハルトは青龍になるのだ。
青龍になる者は、ブルクハルト以外に四人しか存在していない。青龍の竜騎士が選ばれるのは、エッカルトの父であるブルクハルトの叔父のとき以来となる。分家の者は翠龍になる者がほとんどで、エッカルトのように赤龍になる者も青龍の次に珍しく特有の強さを持つ。
「エッカルトはいいよな。俺だってガスパール・ドリコリンが候補にいれば、こんなに悩んだりしない」
「まぁ、うん。それはそうかもね」
エッカルトの相棒であるガスパール・ドリコリンは、竜騎士を一番多く輩出しているドリコリン伯爵家の跡取りだ。ブルクハルトの五つ年上だが、本来なら時期当主同士、ブルクハルトの相棒になってもおかしくなかった。
「ガスパールさん、俺のこと嫌いだからな」
完全に私情だが、ブルクハルトもガスパール相手では気を使うので、これで良かったと思っている。
「クリスティーナちゃんが男だったら良かったのにね」
「良いわけないだろう」
「冗談だって」
ブルクハルトが睨みつけると、エッカルトがクスクスと笑う。怒ると分かっていて言っているのだから質が悪い。
クリスティーナ・ドリコリンは、ブルクハルトの最愛の婚約者だ。ガスパールの溺愛する妹でもあり、ブルクハルトが嫌われているのは、この辺りが影響している。ブルクハルトとしては妹離れしてほしいところだが難しいだろう。仲裁すべき立場のクリスティーナはブルクハルトとガスパールの争いを『喧嘩するほど仲が良いのね』の一言で受け流してしまっている。
「そろそろ本線が始まるみたいだよ。ブルクハルトも一応参加者なんだから、行ったほうが良いんじゃない?」
「そうだな」
ブルクハルトが演習場に視線を戻すと中央に騎士がズラリと並んでいた。やたらと大きく重そうな者から女のように華奢な者までいる。あの中に本当にブルクハルトの相棒はいるのだろうか。
「心配することはないよ。自分の竜騎士になれる人間は、剣を合わせれば分かる。その中から性格の合う者を選べば良い。番を見つけたときと同じ感覚だから、ブルクハルトにもピンとくると思うよ」
「ティーナがもう一人いるわけないだろう?」
ブルクハルトはクリスティーナと初めて会った幼い日のことを今でも鮮明に覚えている。この子は自分の唯一無二だ。たとえ自分の命と引き換えになっても守ってあげたい。そう思ったのだ。それは竜人だけが持つ特別な感覚で、竜人は人間とは違い例外なくたった一人の番を生涯愛し続ける。呪いだなんて呼ぶ者がいるほどの執着だ。
「ほら、ブルクハルトを待っているみたいだよ」
エッカルトに言われて視線を上げると、竜騎士の候補者の数人がブルクハルトを睨みつけていた。ヴェロキラ家の人間は、所属する辺境伯騎士団からの推薦という形で能力試験を免除されている。竜騎士を自ら選ぶために本戦に出るのだから当たり前だが、そんなことを知らない候補者たちは、ブルクハルトの特別扱いが気にいらないのだろう。
「最初から相棒と険悪になるのはまずいよな」
睨んでいる者の中に未来の相棒がいる可能性もある。ブルクハルトは慌てて立ち上がって候補者の輪に加わった。
あなたにおすすめの小説
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
王弟殿下の番様は溺れるほどの愛をそそがれ幸せに…
ましろ
恋愛
見つけた!愛しい私の番。ようやく手に入れることができた私の宝玉。これからは私のすべてで愛し、護り、共に生きよう。
王弟であるコンラート公爵が番を見つけた。
それは片田舎の貴族とは名ばかりの貧乏男爵の娘だった。物語のような幸運を得た少女に人々は賞賛に沸き立っていた。
貧しかった少女は番に愛されそして……え?
王宮侍女は穴に落ちる
斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された
アニエスは王宮で運良く職を得る。
呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き
の侍女として。
忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。
ところが、ある日ちょっとした諍いから
突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。
ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな
俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され
るお話です。
ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく
犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。
「絶対駄目ーー」
と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。
何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。
募集 婿入り希望者
対象外は、嫡男、後継者、王族
目指せハッピーエンド(?)!!
全23話で完結です。
この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。
【完結】番が見ているのでさようなら
堀 和三盆
恋愛
その視線に気が付いたのはいつ頃のことだっただろう。
焦がれるような。縋るような。睨みつけるような。
どこかから注がれる――番からのその視線。
俺は猫の獣人だ。
そして、その見た目の良さから獣人だけでなく人間からだってしょっちゅう告白をされる。いわゆるモテモテってやつだ。
だから女に困ったことはないし、生涯をたった一人に縛られるなんてバカみてえ。そんな風に思っていた。
なのに。
ある日、彼女の一人とのデート中にどこからかその視線を向けられた。正直、信じられなかった。急に体中が熱くなり、自分が興奮しているのが分かった。
しかし、感じるのは常に視線のみ。
コチラを見るだけで一向に姿を見せない番を無視し、俺は彼女達との逢瀬を楽しんだ――というよりは見せつけた。
……そうすることで番からの視線に変化が起きるから。
数多の想いを乗せて、運命の輪は廻る
紅子
恋愛
愛する者を失った咲李亜は、50歳にして異世界へ転移させられた。寝耳に水だ。しかも、転移した先の家で、訪ねてくる者を待て、との伝言付き。いったい、いつになったら来るんですか?
旅に出ようにも、家の外には見たこともないような生き物がうじゃうじゃいる。無理無理。ここから出たら死んじゃうよ。
一緒に召喚されたらしい女の子とは、別ルートってどうしたらいいの?
これは、齢50の女が、異世界へ転移したら若返り、番とラブラブになるまでのお話。
16話完結済み 毎日00:00に更新します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付きで書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
【完結】竜人が番と出会ったのに、誰も幸せにならなかった
凛蓮月@騎士の夫〜発売中です
恋愛
【感想をお寄せ頂きありがとうございました(*^^*)】
竜人のスオウと、酒場の看板娘のリーゼは仲睦まじい恋人同士だった。
竜人には一生かけて出会えるか分からないとされる番がいるが、二人は番では無かった。
だがそんな事関係無いくらいに誰から見ても愛し合う二人だったのだ。
──ある日、スオウに番が現れるまでは。
全8話。
※他サイトで同時公開しています。
※カクヨム版より若干加筆修正し、ラストを変更しています。