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7.青龍
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竜騎士選定試験から十日ほどが経ち、ブルクハルトは魔獣討伐の本拠地でもある故郷のヴェロキラ辺境伯領に戻ってきていた。ブルクハルトの竜騎士はヴェロキラ辺境伯領にて、魔獣との実戦を行ってから決めることにしたのだ。
長である辺境伯などの承認は必要だが、基本的に最終選考の方法は本人に任されている。竜人によっては相性が大事だからと飲み比べで決める者や旅に出る者もいたと聞くし、エッカルトのように試験会場で決めてしまう者もいる。
「しばらく、お世話になります」
荷物を抱えてやってきたジュリアンが、爽やかな笑顔でブルクハルトの両親に挨拶する。竜騎士が決まるまではヴェロキラ辺境伯家の本邸に暮らしてもらうことになる。平民出身だと聞いていたが、王都の騎士団にいたので所作が美しい。王都にいた頃は女性に人気があったことだろう。
ブルクハルトはクリスティーナの反応が気になったが、隣に視線を向けると「どうしたの?」と聞くように見上げられただけだった。ブルクハルトはクリスティーナに「何でもない」と目線で伝え、誰にも気づかれないようにホッと息を吐く。
「他は身内ばかりで申し訳ないが、君も自分の家だと思って寛いでくれ」
「ありがとうございます」
ジュリアンは、ブルクハルトの父、ヴェロキラ辺境伯にお礼を言うと、使用人の案内で客室の方に歩いていく。
辺境伯が言うように、この場にはジュリアンを除けば身内しかいない。ブルクハルトは結局、最終候補者には自分自身以外にジュリアンとクリスティーナを選んだのだ。竜騎士になれそうな者は他にもいたし、エッカルトは別の人物の名を挙げていたが、ブルクハルトが一緒に戦いたいと思うのはこの二人だけだった。
「ティナちゃん、お茶にしない? 領内で流行っているお菓子を用意しているのよ」
「はい、お義母さま。楽しみです」
クリスティーナはブルクハルトの母、辺境伯夫人に連れられて庭の方に去っていく。娘が欲しかった夫人は、昔からクリスティーナを息子たち以上に可愛がっている。クリスティーナも実母を早くに亡くしたからか、夫人に懐いてくれているのはありがたい。
クリスティーナは普段と変わらぬ笑顔だ。ブルクハルトはそれを見ると安心する。どうやら、今日のうちから緊張しているのはブルクハルトだけのようだ。
翌日、ブルクハルトはジュリアンとクリスティーナを連れて竜騎士団の演習場に向かった。到着するとすぐに、待ち構えていた青龍が威厳たっぷりに飛んでくる。ブルクハルトの弟のヒューゴだ。
ヒューゴはわざとらしく翼をバサバサと動かし、演習場に砂埃を立てながら着地した。行儀よく翼を畳んで立っていても、人の2倍近くの高さがある。
「やっぱり、竜は格好いいな」
ジュリアンは感嘆の声を上げているが、ブルクハルトはヒューゴのはしゃぎっぷりに笑いを堪えていた。格好いいと言われて、さらにご満悦だ。
まだ候補者の段階では、ブルクハルトの正体は明かせない。ブルクハルトも候補者の一人として参加するので、ヒューゴに手伝ってもらうことにしたのだ。エッカルトも後から参加してもらうよう頼んであるが、ガスパールも竜騎士の先輩としてこの場に立ち会ってくれている。クリスティーナのためだと言い訳をしていたが、何だかんだ言って面倒見が良い。
「なんで……」
クリスティーナがブルクハルトの隣で戸惑ったように呟く。なぜか、ブルクハルトと竜の姿のヒューゴをマジマジと見比べていた。
「どうした?」
「えっと、私の知ってる青龍じゃなかったから驚いて……。選ばれた人は、この竜の竜騎士になるの?」
「いや、違うが……」
ブルクハルトが意外な指摘に困惑しながら言うと、クリスティーナは安心した顔をする。
「それなら良いの」
「……私の知ってる青龍って、子供の頃に会ったって言ってた竜のことか?」
「そうよ。私はその竜の竜騎士になりたいの」
クリスティーナが子供の頃に会ったのは竜化したブルクハルトだ。二人が初めて出会った日でもあるが、その事はブルクハルトしか知らない。
ヒューゴもブルクハルトとよく似た青龍であるため、並んでいないと竜人でも時々間違える。一度しか会ったことのない人間のクリスティーナが言い当てたことには正直驚く。
番に惹きつけられるのは竜人側だけだが、クリスティーナもブルクハルトにだけ特別な何かを感じてくれているのだろうか。それならば、こんなに嬉しいことはない。
「砂埃もおさまったし、そろそろ始めるぞ。まずは私が見本を見せる」
「「「はい」」」
ガスパールが大袈裟に現れたヒューゴへチクリと言ってから説明をはじめる。ガスパールは青龍に飛び乗ると背中を移動しながら、事細かに注意点を話していった。竜人同士は無意識でやっているようなことも、竜騎士は竜への気遣いとして学ぶようだ。
「ブルクハルト、お前がこの竜と共に飛んでみせろ」
「はい」
ガスパールが予定どおり、ブルクハルトに声をかけてくる。練習とはいえ、クリスティーナを別の竜に乗せるなんて考えられない。ブルクハルトがこの場を離れ、竜化して戻るため最初に指名して貰うことにしていた。
ブルクハルトかヒューゴの背中に飛び乗ると、ヒューゴは確認もせずに飛び立つ。クリスティーナが慌てたように見守っているのが見えた。
【兄さん、楽しそうだね。いい事でもあった? どうせ、ティナ義姉さんに褒められたとかでしょ?】
ヒューゴは大きな唸り声を上げて、ブルクハルトをからかってくる。魔力の混ざった唸り声はヒューゴの声に変わってブルクハルトの耳に届く。竜化したヒューゴの声をこの場で聞き取れるのは、竜人であるブルクハルトだけだ。
「うるさい。黙って飛べよ」
【はーい】
ブルクハルトの小声に、ヒューゴが陽気に返事をする。ブルクハルトは、話を蒸し返してからかってくるヒューゴを適当にあしらいながら、エッカルトの待つ別の演習場へと向かった。
―――――――――
お読み頂きありがとうございます。
本作では竜化した際の言葉を【 】で書かせて頂いております。聞き取れている人物と聞き取れていない人物がいるため、複雑になってしまってすみません m(_ _)m
ちなみに、ガスパールはエッカルトの竜騎士なので、竜化してヒューゴの声は聞こえていません。
長である辺境伯などの承認は必要だが、基本的に最終選考の方法は本人に任されている。竜人によっては相性が大事だからと飲み比べで決める者や旅に出る者もいたと聞くし、エッカルトのように試験会場で決めてしまう者もいる。
「しばらく、お世話になります」
荷物を抱えてやってきたジュリアンが、爽やかな笑顔でブルクハルトの両親に挨拶する。竜騎士が決まるまではヴェロキラ辺境伯家の本邸に暮らしてもらうことになる。平民出身だと聞いていたが、王都の騎士団にいたので所作が美しい。王都にいた頃は女性に人気があったことだろう。
ブルクハルトはクリスティーナの反応が気になったが、隣に視線を向けると「どうしたの?」と聞くように見上げられただけだった。ブルクハルトはクリスティーナに「何でもない」と目線で伝え、誰にも気づかれないようにホッと息を吐く。
「他は身内ばかりで申し訳ないが、君も自分の家だと思って寛いでくれ」
「ありがとうございます」
ジュリアンは、ブルクハルトの父、ヴェロキラ辺境伯にお礼を言うと、使用人の案内で客室の方に歩いていく。
辺境伯が言うように、この場にはジュリアンを除けば身内しかいない。ブルクハルトは結局、最終候補者には自分自身以外にジュリアンとクリスティーナを選んだのだ。竜騎士になれそうな者は他にもいたし、エッカルトは別の人物の名を挙げていたが、ブルクハルトが一緒に戦いたいと思うのはこの二人だけだった。
「ティナちゃん、お茶にしない? 領内で流行っているお菓子を用意しているのよ」
「はい、お義母さま。楽しみです」
クリスティーナはブルクハルトの母、辺境伯夫人に連れられて庭の方に去っていく。娘が欲しかった夫人は、昔からクリスティーナを息子たち以上に可愛がっている。クリスティーナも実母を早くに亡くしたからか、夫人に懐いてくれているのはありがたい。
クリスティーナは普段と変わらぬ笑顔だ。ブルクハルトはそれを見ると安心する。どうやら、今日のうちから緊張しているのはブルクハルトだけのようだ。
翌日、ブルクハルトはジュリアンとクリスティーナを連れて竜騎士団の演習場に向かった。到着するとすぐに、待ち構えていた青龍が威厳たっぷりに飛んでくる。ブルクハルトの弟のヒューゴだ。
ヒューゴはわざとらしく翼をバサバサと動かし、演習場に砂埃を立てながら着地した。行儀よく翼を畳んで立っていても、人の2倍近くの高さがある。
「やっぱり、竜は格好いいな」
ジュリアンは感嘆の声を上げているが、ブルクハルトはヒューゴのはしゃぎっぷりに笑いを堪えていた。格好いいと言われて、さらにご満悦だ。
まだ候補者の段階では、ブルクハルトの正体は明かせない。ブルクハルトも候補者の一人として参加するので、ヒューゴに手伝ってもらうことにしたのだ。エッカルトも後から参加してもらうよう頼んであるが、ガスパールも竜騎士の先輩としてこの場に立ち会ってくれている。クリスティーナのためだと言い訳をしていたが、何だかんだ言って面倒見が良い。
「なんで……」
クリスティーナがブルクハルトの隣で戸惑ったように呟く。なぜか、ブルクハルトと竜の姿のヒューゴをマジマジと見比べていた。
「どうした?」
「えっと、私の知ってる青龍じゃなかったから驚いて……。選ばれた人は、この竜の竜騎士になるの?」
「いや、違うが……」
ブルクハルトが意外な指摘に困惑しながら言うと、クリスティーナは安心した顔をする。
「それなら良いの」
「……私の知ってる青龍って、子供の頃に会ったって言ってた竜のことか?」
「そうよ。私はその竜の竜騎士になりたいの」
クリスティーナが子供の頃に会ったのは竜化したブルクハルトだ。二人が初めて出会った日でもあるが、その事はブルクハルトしか知らない。
ヒューゴもブルクハルトとよく似た青龍であるため、並んでいないと竜人でも時々間違える。一度しか会ったことのない人間のクリスティーナが言い当てたことには正直驚く。
番に惹きつけられるのは竜人側だけだが、クリスティーナもブルクハルトにだけ特別な何かを感じてくれているのだろうか。それならば、こんなに嬉しいことはない。
「砂埃もおさまったし、そろそろ始めるぞ。まずは私が見本を見せる」
「「「はい」」」
ガスパールが大袈裟に現れたヒューゴへチクリと言ってから説明をはじめる。ガスパールは青龍に飛び乗ると背中を移動しながら、事細かに注意点を話していった。竜人同士は無意識でやっているようなことも、竜騎士は竜への気遣いとして学ぶようだ。
「ブルクハルト、お前がこの竜と共に飛んでみせろ」
「はい」
ガスパールが予定どおり、ブルクハルトに声をかけてくる。練習とはいえ、クリスティーナを別の竜に乗せるなんて考えられない。ブルクハルトがこの場を離れ、竜化して戻るため最初に指名して貰うことにしていた。
ブルクハルトかヒューゴの背中に飛び乗ると、ヒューゴは確認もせずに飛び立つ。クリスティーナが慌てたように見守っているのが見えた。
【兄さん、楽しそうだね。いい事でもあった? どうせ、ティナ義姉さんに褒められたとかでしょ?】
ヒューゴは大きな唸り声を上げて、ブルクハルトをからかってくる。魔力の混ざった唸り声はヒューゴの声に変わってブルクハルトの耳に届く。竜化したヒューゴの声をこの場で聞き取れるのは、竜人であるブルクハルトだけだ。
「うるさい。黙って飛べよ」
【はーい】
ブルクハルトの小声に、ヒューゴが陽気に返事をする。ブルクハルトは、話を蒸し返してからかってくるヒューゴを適当にあしらいながら、エッカルトの待つ別の演習場へと向かった。
―――――――――
お読み頂きありがとうございます。
本作では竜化した際の言葉を【 】で書かせて頂いております。聞き取れている人物と聞き取れていない人物がいるため、複雑になってしまってすみません m(_ _)m
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