【完結】婚約者が竜騎士候補に混ざってる

五色ひわ

文字の大きさ
14 / 72

14.異変

しおりを挟む
 ブルクハルトたちは、鳥型の魔獣との戦闘にかなりの時間を要した。と言っても、討伐に手こずっていたわけではない。ジュリアンの要望で青龍の飛行能力を披露していたのだ。それが終わると、ジュリアンが『魔獣を美味しく食べるための剣技』まで披露していた。魔法だけではなく、剣術でも食すための研究をしているようだ。

 エッカルトはホクホクしながら魔獣討伐を見学していたので、ガスパールは、この方法も学ぶ必要がありそうだ。

「戦闘に問題はなさそうだな」

「そう言っていただけると安心し……」

【ガスパール、前方を見て!】

 和やかな雰囲気に、エッカルトの緊迫した声が割り込む。エッカルトの視線が示す遠方の結界を注意深く見ると、忙しなく動き回る集団が確認できた。

【結界の向こう側に人がいる?】 

【うん、それも一人や二人じゃないよ】

【何をしてるんだ? 嫌な予感しかしないな】

「おい! 状況を説明しろ! 人間の眼では確認できん」

 ガスパールの言葉にハッとする。ブルクハルトの竜人の眼にはハッキリ見えているが、どうやら人間には見えない距離らしい。エッカルトは集団に向かって飛びながら、ガスパールに説明を始める。

【結界の外に人が出てるんだ。人数は……】

 ブルクハルトもエッカルトの後方を飛びながら、遠方の集団に神経を集中させた。同じ制服を着た人間が数十人、魔獣と戦闘をしている。掲げている旗はブルクハルトもよく知るものだ。

【王都騎士団?】

【本当だ。あの旗は間違いないよ】

 ブルクハルトの呟きにエッカルトが同意する。エッカルトは、それをガスパールに説明し、さらにジュリアンにも情報共有した。

「正規の任務の情報は入っていない。おそらく、無許可だな。王都騎士団の暴走か、それとも、あそこにいる人間の独断か……」

「王都騎士団の上の人間は、結界の外の危険性を十分に認識しています。組織ぐるみではないと思います」

「そうか」

 ジュリアンが必死で弁明する。まだ付き合いは短いが、嘘を言っているとは思えない。

【所属していたジュリアンが言うなら間違いないね。とにかく、辺境伯伯父上に状況を伝えるよ】

「頼む……」 

 エッカルトが連絡を取ると、辺境伯からは、すぐに増援を送るとの返答があった。演習場で訓練中だった竜人たちは、すでに出発したようだ。

「それにしても、王都の奴らの目的はなんだ? まさか、魔獣の肉ってわけではないだろう?」

【エッカルトならありえる】

【子供じゃないんだから、そんな事はしないよ】

【『もう』って、やったことがあるのかよ……】

 ブルクハルトが視線を向けると、エッカルトは鱗に覆われた顔でも分かるくらいにニッコリと笑った。後日、エッカルトに酒でも飲ませて、ゆっくり聞かせてもらうことにしよう。

「もしかして……」

「なんだ、ジュリアン? 気になったことがあるなら、何でも良いから話せ」

「今、王都騎士団の副隊長の席が一つ空いているんです。後任は保留になっているので、手柄を上げて昇進を狙っているのかもしれません。前任の副隊長が団長に気に入られたきっかけは、結界外での討伐だったので……」

 ある新人が上層部と共に結界の視察に訪れた。その時、偶然にも結界外で倒れている冒険者を助けたらしい。新人だけで連携をとって戦ったのが、団長の目にとまったようだ。

「その前任者はお前か?」

「……」

「まぁ、いい。長々と話している場合でもないからな」

 ガスパールの視線を追うと、魔獣が騎士たちをめがけて集まってきているのが確認できる。騎士が相手をしている間は良いが、逃げ出したなら、それを追ってきた魔獣が一気に結界にぶつかることになる。そうなれば、結界は長く保たないだろう。

【結界が破れたら大変なことになるよ。魔導師も気がついたみたい】

「遅すぎだがな」

 現場から竜人を呼ぶ警報が鳴り始めていたが、今更すぎてガスパールの苛立ちはもっともだ。

「ジュリアン、お前たちは逃げろ。ここはすぐに戦場になる」

「あの……現場の近くに降ろしていただけませんか? あの中には命令に従っているだけの者も多いはずです。説得してみます」

「……それは許可できない。あの状況では魔獣に追われないように撤退するのは不可能だ」 

【人道的な事を無視すれば、増援が来るまで結界外に留まって欲しいくらいだよね】

 エッカルトがジュリアンに聞こえないのをいいことに残酷なことを口にする。ジュリアンには申し訳ないが、王都騎士団のせいで辺境伯領内に住む人すべてが危険にさらされているのだ。ブルクハルトもせめて最初の増援までは戻ってきてほしくない。

「それに……そもそもジュリアンは今の実力から考えると結界の外には出られない」

「えっ……」

 ガスパールがバッサリとジュリアンの希望を断つ。ジュリアンがブルクハルトから飛び降りかねない勢いなので、言わざる負えなかったのだろう。

「お前が結界の外の冒険者を見つけたとき、新人たちだけで戦うことになった理由を考えろ」

 結界は人間か魔獣かを識別しているわけではない。純粋に狩人では手に負えない強い者を弾いているのだ。おそらく、ジュリアンとともに視察していた上層部の人間は、結界に侵入できず見ているしかできなかった。だからこそ、ジュリアンが仲間をまとめ上げて冒険者を助けたことを評価したのだろう。それも、その頃に結界が破れたという話は聞かないので、魔獣を刺激せずにやり遂げたわけだ。

「……」
 
 視界の先にいる王都騎士団は全員結界の外にいることで、その実力をブルクハルトたちに明確に伝えていた。魔導師が王都騎士団の存在に気が付かなかったのも、その辺りに原因がありそうだ。

「悪いがあそこにいる人間は諦めろ。他に守るべき者が我々には、たくさんいる」

「はい……」

 ジュリアンの悔しさが小さな呟きから伝わってくる。ブルクハルトは、その声をただ聞いていることしかできなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

番が見つけられなかったので諦めて婚約したら、番を見つけてしまった。←今ここ。

三谷朱花
恋愛
息が止まる。 フィオーレがその表現を理解したのは、今日が初めてだった。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

幸せな番が微笑みながら願うこと

矢野りと
恋愛
偉大な竜王に待望の番が見つかったのは10年前のこと。 まだ幼かった番は王宮で真綿に包まれるように大切にされ、成人になる16歳の時に竜王と婚姻を結ぶことが決まっていた。幸せな未来は確定されていたはずだった…。 だが獣人の要素が薄い番の扱いを周りは間違えてしまう。…それは大切に想うがあまりのすれ違いだった。 竜王の番の心は少しづつ追いつめられ蝕まれていく。 ※設定はゆるいです。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

ただの新米騎士なのに、竜王陛下から妃として所望されています

柳葉うら
恋愛
北の砦で新米騎士をしているウェンディの相棒は美しい雄の黒竜のオブシディアン。 領主のアデルバートから譲り受けたその竜はウェンディを主人として認めておらず、背中に乗せてくれない。 しかしある日、砦に現れた刺客からオブシディアンを守ったウェンディは、武器に使われていた毒で生死を彷徨う。 幸にも目覚めたウェンディの前に現れたのは――竜王を名乗る美丈夫だった。 「命をかけ、勇気を振り絞って助けてくれたあなたを妃として迎える」 「お、畏れ多いので結構です!」 「それではあなたの忠実なしもべとして仕えよう」 「もっと重い提案がきた?!」 果たしてウェンディは竜王の求婚を断れるだろうか(※断れません。溺愛されて押されます)。 さくっとお読みいただけますと嬉しいです。

混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない

三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

処理中です...