59 / 72
番外編Ⅱ:婚約者が青龍であることを隠してる
12.看病
しおりを挟む
クリスティーナは自室で身支度を整えて、ブルクハルトのもとに戻った。ブルクハルトの寝室には使用人が何人も出入りしている。クリスティーナがいない間にブルクハルトの着替えなどを手伝ってくれていたようだ。クリスティーナが入室を許されると、すぐに朝食が運び込まれてくる。
「これだけかよ……」
「急に食べたらお腹がびっくりするから当たり前でしょ」
ブルクハルトはお肉が食べたいと言っていたので、運び込まれたのがミルク粥とスープだけだったのを見て不満顔だ。使用人たちが困った顔をしながら身体を起こすのを手伝って、ブルクハルトの背中にクッションを入れてくれている。自分で動けないのだから、重症者の自覚を持ってほしい。
ベッドの上に置かれたテーブルに食事が並ぶと、クリスティーナはブルクハルトに取られる前にスプーンを握る。ブルクハルトはクリスティーナの行動を不思議そうに眺めていた。
「はい、あーん」
クリスティーナはミルク粥を程よく冷まして、ブルクハルトの口元に持っていく。
「ばかっ! 自分で食べるに決まってるだろう」
ブルクハルトがクリスティーナの行動の意味を遅れて理解して慌て出す。仰け反って拒否するので仕方なくお皿にスプーンを戻した。
「どうやって食べるの?」
クリスティーナが聞くと、ブルクハルトは自分の腕を見下ろしてため息をつく。ひどい状態だった左腕は言うまでもないが、ジュリアンを抱えていた右腕も疲労で動かしにくいのだろう。今朝のやり取りでクリスティーナもよく分かっている。
使用人も誰かが介助する前提で準備してくれている。クリスティーナがやらなければ、侍従に手間を取らせるだけだ。
「ここにクッションを持ってきて……」
「諦めなさいよ」
「でもな……」
ブルクハルトはブツブツ言っていたが、もう一度ミルク粥を差し出すと諦めたように口を開けた。
「ハルト、美味しい?」
「普通のミルク粥だよ。ティーナは楽しそうだな」
「そんなことないわよ」
大変な思いをしているブルクハルトには言えないが、ちょっとだけ楽しい。クリスティーナはいつも助けてもらってばかりなので、ブルクハルトの世話を焼ける機会なんて滅多にない。
「治ったら、今度はティーナに食べさせてやるよ。そうすれば俺の気持ちも分かる」
「え? 良いの? 風邪を引いたときにやってほしいな」
「喜ぶなよ」
クリスティーナの反応を見て、ブルクハルトがため息をつく。それでも、クリスティーナが懇願するように見ると、食べさせてくれると約束してくれた。
「痛むの?」
よく見ていると、ブルクハルトはあまり噛まずに飲み込むように食べている。
「そのうち治るから、そんな顔するな」
ブルクハルトはスプーンも握れないのに、左手でクリスティーナの頬を摘む。いつもと違って指に力が入っていない。クリスティーナは動揺を隠して、いつもどおりブルクハルトを睨んだ。
ブルクハルトは氷魔法の使いすぎで、口の中があちこち痛いらしい。
「魔法で痛みも全部取れれば良いのにね」
「十分だよ」
治癒魔法は万能ではない。怪我を治すことは出来ても、痛みがなくなって動けるようになるまでには時間がかかる。
ブルクハルトはスープの肉団子も食べられないと気まずそうに申告してくる。要望通りの肉を用意されていたら絶対に食べられなかっただろう。クリスティーナが肉団子を潰して口元に持っていくと嬉しそうに食べていた。食欲があるだけましかもしれない。
「普通に戦っていたら、こんなことにはならない。今度からは気をつけるよ」
クリスティーナは何も言っていないのに、ブルクハルトは叱られた子供のように反省した顔をした。よほど無茶をした自覚があるようだ。
「お義母様もヒューゴくんも、とっても心配してたのよ。『今度から』じゃなくて、療養中も無理したら許さないからね」
「分かったよ」
ブルクハルトはそう言っていたのに、食事を終えると侍従を呼んで仕事がないかと確認し始める。侍従も叱ってくれたが、皆忙しいのだから出来ることはしたいとブルクハルトは譲りそうにない。
クリスティーナは仕方がないので痛がるブルクハルトを強引にベッドに寝かせてしまった。舌の根も乾かぬうち無茶をするのはやめてほしい。
「怪我をしたのは昨日なのよ。分かってる?」
「十分寝たから、もう眠くないんだよ」
ブルクハルトはそんなふうに言っていたが、クリスティーナが治癒魔法を少しかけるとすぐに眠ってしまった。やはり、身体は休息を欲しているようだ。すぐに無理をしそうなので、しばらくは目を光らせておいたほうが良いだろう。
「これだけかよ……」
「急に食べたらお腹がびっくりするから当たり前でしょ」
ブルクハルトはお肉が食べたいと言っていたので、運び込まれたのがミルク粥とスープだけだったのを見て不満顔だ。使用人たちが困った顔をしながら身体を起こすのを手伝って、ブルクハルトの背中にクッションを入れてくれている。自分で動けないのだから、重症者の自覚を持ってほしい。
ベッドの上に置かれたテーブルに食事が並ぶと、クリスティーナはブルクハルトに取られる前にスプーンを握る。ブルクハルトはクリスティーナの行動を不思議そうに眺めていた。
「はい、あーん」
クリスティーナはミルク粥を程よく冷まして、ブルクハルトの口元に持っていく。
「ばかっ! 自分で食べるに決まってるだろう」
ブルクハルトがクリスティーナの行動の意味を遅れて理解して慌て出す。仰け反って拒否するので仕方なくお皿にスプーンを戻した。
「どうやって食べるの?」
クリスティーナが聞くと、ブルクハルトは自分の腕を見下ろしてため息をつく。ひどい状態だった左腕は言うまでもないが、ジュリアンを抱えていた右腕も疲労で動かしにくいのだろう。今朝のやり取りでクリスティーナもよく分かっている。
使用人も誰かが介助する前提で準備してくれている。クリスティーナがやらなければ、侍従に手間を取らせるだけだ。
「ここにクッションを持ってきて……」
「諦めなさいよ」
「でもな……」
ブルクハルトはブツブツ言っていたが、もう一度ミルク粥を差し出すと諦めたように口を開けた。
「ハルト、美味しい?」
「普通のミルク粥だよ。ティーナは楽しそうだな」
「そんなことないわよ」
大変な思いをしているブルクハルトには言えないが、ちょっとだけ楽しい。クリスティーナはいつも助けてもらってばかりなので、ブルクハルトの世話を焼ける機会なんて滅多にない。
「治ったら、今度はティーナに食べさせてやるよ。そうすれば俺の気持ちも分かる」
「え? 良いの? 風邪を引いたときにやってほしいな」
「喜ぶなよ」
クリスティーナの反応を見て、ブルクハルトがため息をつく。それでも、クリスティーナが懇願するように見ると、食べさせてくれると約束してくれた。
「痛むの?」
よく見ていると、ブルクハルトはあまり噛まずに飲み込むように食べている。
「そのうち治るから、そんな顔するな」
ブルクハルトはスプーンも握れないのに、左手でクリスティーナの頬を摘む。いつもと違って指に力が入っていない。クリスティーナは動揺を隠して、いつもどおりブルクハルトを睨んだ。
ブルクハルトは氷魔法の使いすぎで、口の中があちこち痛いらしい。
「魔法で痛みも全部取れれば良いのにね」
「十分だよ」
治癒魔法は万能ではない。怪我を治すことは出来ても、痛みがなくなって動けるようになるまでには時間がかかる。
ブルクハルトはスープの肉団子も食べられないと気まずそうに申告してくる。要望通りの肉を用意されていたら絶対に食べられなかっただろう。クリスティーナが肉団子を潰して口元に持っていくと嬉しそうに食べていた。食欲があるだけましかもしれない。
「普通に戦っていたら、こんなことにはならない。今度からは気をつけるよ」
クリスティーナは何も言っていないのに、ブルクハルトは叱られた子供のように反省した顔をした。よほど無茶をした自覚があるようだ。
「お義母様もヒューゴくんも、とっても心配してたのよ。『今度から』じゃなくて、療養中も無理したら許さないからね」
「分かったよ」
ブルクハルトはそう言っていたのに、食事を終えると侍従を呼んで仕事がないかと確認し始める。侍従も叱ってくれたが、皆忙しいのだから出来ることはしたいとブルクハルトは譲りそうにない。
クリスティーナは仕方がないので痛がるブルクハルトを強引にベッドに寝かせてしまった。舌の根も乾かぬうち無茶をするのはやめてほしい。
「怪我をしたのは昨日なのよ。分かってる?」
「十分寝たから、もう眠くないんだよ」
ブルクハルトはそんなふうに言っていたが、クリスティーナが治癒魔法を少しかけるとすぐに眠ってしまった。やはり、身体は休息を欲しているようだ。すぐに無理をしそうなので、しばらくは目を光らせておいたほうが良いだろう。
11
あなたにおすすめの小説
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
幸せな番が微笑みながら願うこと
矢野りと
恋愛
偉大な竜王に待望の番が見つかったのは10年前のこと。
まだ幼かった番は王宮で真綿に包まれるように大切にされ、成人になる16歳の時に竜王と婚姻を結ぶことが決まっていた。幸せな未来は確定されていたはずだった…。
だが獣人の要素が薄い番の扱いを周りは間違えてしまう。…それは大切に想うがあまりのすれ違いだった。
竜王の番の心は少しづつ追いつめられ蝕まれていく。
※設定はゆるいです。
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
ただの新米騎士なのに、竜王陛下から妃として所望されています
柳葉うら
恋愛
北の砦で新米騎士をしているウェンディの相棒は美しい雄の黒竜のオブシディアン。
領主のアデルバートから譲り受けたその竜はウェンディを主人として認めておらず、背中に乗せてくれない。
しかしある日、砦に現れた刺客からオブシディアンを守ったウェンディは、武器に使われていた毒で生死を彷徨う。
幸にも目覚めたウェンディの前に現れたのは――竜王を名乗る美丈夫だった。
「命をかけ、勇気を振り絞って助けてくれたあなたを妃として迎える」
「お、畏れ多いので結構です!」
「それではあなたの忠実なしもべとして仕えよう」
「もっと重い提案がきた?!」
果たしてウェンディは竜王の求婚を断れるだろうか(※断れません。溺愛されて押されます)。
さくっとお読みいただけますと嬉しいです。
混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない
三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。
【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる