黒の魔術師は恋心に気付かない

raychel

文字の大きさ
5 / 19

黒の魔術師は怒りを忘れる

しおりを挟む

「で?この箱はどこに仕舞うんだ!?」

「あ、はい。あちらの棚の上に。」

薬瓶が収納されている棚の上にスペースがあり、
そこに風の魔術の出力を少しだけ高め
箱を乗せる。

「スミマセン。何から何まで。
本当にありがとうございます!」

ハンナは勢いよく頭をさげ、礼を言う。
一つに結んだアッシュブロンドの長い巻き髪が、
バサッと彼女の横顔に落ちた。


「もういいよ。
だが、魔術に頼れないなら、
踏み台を使うとか、
もっと収納を工夫するとか、
やり用があるだろ。」

「仰る通りですね。
ちょっと工夫してみます。」

彼女は眉を下げながら、そう答える。

「じゃあ、俺はもう帰るから。お疲れ!」

今度こそ立ち去ろうと扉に向かう。


しかし

「あ、ちょっと待って下さい!」

何故か彼女に引き止められる。

これ以上何があるというのか、
お願いだから、もう帰らせてくれ。

振り返りるのをためらう俺の背後に
いつのまにか彼女が近づいて来ていた。

「疲れてらっしゃるようなので、
ヒーリングの魔術をかけさせて貰いますね?」

そう言うが早いか、
彼女は光の呪文を唱えながら
俺の肩に手をかざした。

直ぐに、体中がポカポカと温かくなり、
張り詰めていた体が解れる。

10秒ほどで、彼女の手が俺の体から離れる。

「はい。終わりました。いかがですか?」

正直、何を勝手なことを、
と思っていたのだが、
体が軽く、頭もスッキリしている。

「あぁ、体が軽い、、。ありがとな。」

俺は首に左手を当て、
左右に一度ずつ頭を振ってその軽さを確認し、
礼を言う。

相変わらず治癒魔術の腕前はピカイチだな。
180を超える男の体を
たった10秒ほどで癒すなど、
なかなか出来る芸当ではない。

「今日は本当にありがとうございました。」

俺の肩ほどの高さから、
彼女がニッコリと笑いながら礼を言う。

「あぁ。こっちこそ、ヒーリングありがとう。
次から気をつけろよ。
じゃあな。」

そう言って、今度こそ本当に
扉を開けて家路に着いた。

あれほど怒りを覚えていたのに、
そんなことはすっかりと忘れてしまっていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

あなたのためなら

天海月
恋愛
エルランド国の王であるセルヴィスは、禁忌魔術を使って偽の番を騙った女レクシアと婚約したが、嘘は露見し婚約破棄後に彼女は処刑となった。 その後、セルヴィスの真の番だという侯爵令嬢アメリアが現れ、二人は婚姻を結んだ。 アメリアは心からセルヴィスを愛し、彼からの愛を求めた。 しかし、今のセルヴィスは彼女に愛を返すことが出来なくなっていた。 理由も分からないアメリアは、セルヴィスが愛してくれないのは自分の行いが悪いからに違いないと自らを責めはじめ、次第に歯車が狂っていく。 全ては偽の番に過度のショックを受けたセルヴィスが、衝動的に行ってしまった或ることが原因だった・・・。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。

尾道小町
恋愛
登場人物紹介 ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢  17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。 ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。 シェーン・ロングベルク公爵 25歳 結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。 ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳 優秀でシェーンに、こき使われている。 コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳 ヴィヴィアンの幼馴染み。 アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳 シェーンの元婚約者。 ルーク・ダルシュール侯爵25歳 嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。 ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。 ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。 この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。 ジュリエット・スチール公爵令嬢18歳 ロミオ王太子殿下の婚約者。 ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳 私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。 一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。 正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?

王様の恥かきっ娘

青の雀
恋愛
恥かきっ子とは、親が年老いてから子供ができること。 本当は、元気でおめでたいことだけど、照れ隠しで、その年齢まで夫婦の営みがあったことを物語り世間様に向けての恥をいう。 孫と同い年の王女殿下が生まれたことで巻き起こる騒動を書きます 物語は、卒業記念パーティで婚約者から婚約破棄されたところから始まります これもショートショートで書く予定です。

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

王子様への置き手紙

あおき華
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯ 小説家になろうにも掲載しています。

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

処理中です...