華村花音の事件簿

川端睦月

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藤の花の咲く頃に

エピローグ

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「……で、咲とはどうなった」

 部屋のドアを開けるなり、鷹揚に椅子にもたれ掛かった凛太郎が尋ねる。

「凛太郎っ」

 花音は驚いて目を見開いた。

「なんでここに……部屋の鍵はかけたのに」

 花音の問いに、「ああ、ピッキング?」と凛太郎は愉快そうに笑った。

 花音は呆れて、ため息を一つ零す。

「で、咲とはどうなった?」

 凛太郎は再度同じ質問を口にする。

「……別にどうもなっていない」

 花音は少し言い淀んで答えた。

 へぇ、と凛太郎がニヤついた笑いを浮かべる。

「──それにしても、わざわざあとをつけるくらいなら、この前みたいにGPSつけとけばよかっただろ?」と曰う。

 つい先日、中山森林公園で咲に渡したコサージュに、GPS発信機を仕組んだことを言っているのだ。

「あれは、さすがにやり過ぎだった……反省している」

 花音は渋面を作った。

「俺に謝られてもな」と凛太郎が肩を竦め、笑う。

 その笑いを収め、「──ところで、あいつ、本当に信用できるのか?」と目を細めた。

 花音は少し考え込んでから、大丈夫、と大きく頷いた。

「何の自信だ」と凛太郎が呆れる。

「万が一手違いがあれば、咲の身が危険に晒されるんだぞ」

 わかってる、と花音は凛太郎を見据えた。

「こちらも勝算があっての判断だ」

 そうか、と凛太郎は息を吐く。

「……勝手にすればいい」

 静かに椅子から立ち上がる。

「ただ、一応忠告はしておく──これ以上、後悔するお前を見たくないからな」

 部屋からの去り際にそう告げる。

 その背を見送り、花音は椅子へと腰を下ろした。

 ──凛太郎の言うとおり、今回の件は諸刃の剣なのかもしれない。

 藤はその繁殖力から、高木に蔓を絡ませ、肥大化し過ぎることがある。支えとなる木を締め付るあまり支えの幹を弱らせ、這わせた蔓は葉を覆い隠し、光合成を阻害してしまう。

 結果、支えの木を枯らしてしまうのだ。

「──そうならないようにするまでだ」

 花音はギュッと拳を握り、独りごちた。
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