華村花音の事件簿

川端睦月

文字の大きさ
71 / 105
エディブルフラワーの言伝

エピローグ

しおりを挟む

「よう、どうだった?」

 部屋に戻ると、当然のように凛太郎が椅子に腰掛けていて、花音は大袈裟にため息を吐いてみせた。

「また、君か。いい加減、勝手に僕の部屋に入るのやめて欲しいんだけど?」

 そう言って、持っていた紙袋をテーブルの上に置く。

「おっ。松菓堂のお菓子じゃんっ。食べていい?」

 凛太郎は花音の返事も待たずに紙袋の中を漁る。

「懐かしいなぁ。よく祖母ばあさんが買ってたよな」と箱を取り出し、大福へと手を伸ばした。

 そんな凛太郎を呆れたように見下ろし、花音はユルユルと首を横に振った。

「ねぇ、僕に何か言うことない?」
「へっ? 言うこと?」

 凛太郎は大福をパクリと齧り、花音を見上げた。

「え、なに? なんか不機嫌? 咲となんかあった?」

 花音の険悪な様子に気づき、揶揄うように言う。

「お前……」

 ユラリと花音の周りの空気が揺れた。花音は素早く凛太郎の後ろに回り込むと、その頭にヘッドロックをかける。

 結構本気めのヤツで、凛太郎は「ギブ、ギブ」と慌てて花音の腕を叩いた。

 しかし、花音は一向に力を緩めない。

「おいっ」

 凛太郎は身体を捩り、なんとか花音の技から抜けだした。

「なんだよ、武雄っ。なに本気になってんだよ」

 声を荒げ、首を回す。

「いや、君が咲ちゃんとイチャついてたのを思い出したら、腹が立って」

 花音は悪びれもせずそう言って、肩を竦めた。

「はぁ? イチャつくってどこが?」

 凛太郎は心外だと言うように花音を睨む。

「咲ちゃんと手を繋いだでしょ。咲ちゃんと料理を分け合ってたでしょ。それから、咲ちゃんに『あーん』をしてもらっていた」

 対して、花音は冷静に指折り数えながら、事例を挙げていく。

「……なんだ、そのイチャモンは?」

 凛太郎は軽い頭痛を覚え、額に手を当てた。

「それに『あーん』に関しては不可抗力だ」

 勝手に苦手なトマトを口の中に入れられたのだ。あれを『あーん』にカウントするのなら、世の中の『あーん』はだいぶお手軽だ。

「でも腹が立つから、仕方ないでしょ」

 花音はニコリと笑った。

「……よっぽど咲のことが好きなのな」

 凛太郎は独りごち、頭を掻いた。

 ──こんなに感情を露わにする武雄は久しぶりに見た。

 まぁね、と花音は満更でもなさそうに頷いた。

「で、付き合うことにでもなったか?」

 その問いに花音は押し黙る。

「なんだ? 仲直りはしたんだろう? その勢いで告白の一つや二つ……」
「──無理……」
「へ?」
「無理だった」

 花音は絶望的な顔で凛太郎を見つめた。

「咲ちゃん、僕のこと、『男』として見てないんだよ」
「男として見てない?」

「そう。『華村花音』として見てる。なのに『男』出して迫ったりしたら、また逃げられるよ」

 両手を挙げ、ため息を吐く。

「それは……ご愁傷様なことで」

 凛太郎は憐れみの目を花音に向けた。

 まったくね、と花音は肩を竦め、

「……ま、ここは逃げられないように、ジワジワと包囲網を固めていくしかないよね。まずは悠太くんを味方につけて……」

 ──怖っ。

 あれこれと算段する花音に、凛太郎は恐怖と咲への同情を覚えたのであった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...