華村花音の事件簿

川端睦月

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百合の葯

サプライズプレゼント -3-

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「はぁ、間に合った」

 花音と二人、開始時間ギリギリにチャペルへと滑り込む。思わず口をついて出た言葉が予想外にチャペル内に響いて、すでに着席していた参列者の視線を集める。

 咲は慌てて口を抑え、バツの悪さに花音を見上げた。花音はクスリと笑い、しーっと唇に指を当てる。それから咲の手を取り、入り口から向かって左側へと歩き出した。

「おーい、武雄っ」

 こちらを振り返った参列者の一人が親しげな声を上げ、手を振った。

「宮田さん……」

 その声の方を見、花音が呟く。

「お知り合いですか?」

 咲は今度は声が響かないよう、ヒソヒソと尋ねる。

「うん。元同僚」

 花音はそう言って宮田に軽く会釈を返した。そのまま咲の手を引き、宮田がいる側とは反対の一番後ろの席へと着席する。

 チラリとバージンロードを挟んだ向かいの宮田を見れば、彼は周りの人たちと何事かを話をしている。きっと宮田の周りにいる人たちも花音の元同僚なのだろう。チラチラと興味深げに向けられる視線が痛かった。

 それにしても先ほど声をかけてきた宮田も、その周囲の人々も一様に体格が良い。しかもみんな凛太郎を凌ぐ強面ばかりだ。

 ──お花屋さんって、体格が良くないとできないのかな? しかも強面って。

 咲の思い描いていた花屋のイメージとはだいぶ開きがあった。

「どうかした?」

 咲の疑問が顔に出ていたらしく、花音が小声で尋ねる。

「……いえ、皆さん、お花屋さんのわりに体格がいいな、と思いまして」
「え?」

 咲の答えに、花音が目を瞬かせた。

「あの、さっきの宮田さんって、お花屋さんなんですよね?」
「は?」

 花音は首を捻り、混乱した顔をする。

「え? だって、花音さんの元同僚なら、お花屋さんなのでは……」
「ああ」

 それでようやく花音は合点がいったとばかりに頷いた。それからプッと小さく吹き出す。

「どうして笑うんですか?」

 咲はムッと頬を膨らました。

「い、いや……だって……」

 花音は耐えきれず、声を上げて笑う。お陰で再び注目を浴びてしまった。

 花音は、しまった、というように笑いを収め、周囲に頭を下げる。それから咲に向き直り、「あの人たちは刑事だよ」と耳打ちした。

「え?」

 驚いて花音を見上げたとき、ゆっくりと入り口の扉が閉じられた。途端に式場内はシーンと静まり返る。

 だから咲は花音にそれ以上のことを聞けなくなってしまい、押し黙ったまま、前方の聖壇を眺めた。

 チャペルの内装は白で統一され、それこそお伽噺にでも出てきそうなロマンチックな造りだ。白レンガの壁に白木のベンチ。ワンステップ高い聖壇の上の聖卓も白木造りで、細やかな彫刻が施されている。
 聖壇の背後には大きなアーチ窓が設けられ、そこから差し込む光が柔らかく式場内を照らす。高い天井に吊るされたクリスタルのシャンデリアがその光を反射してキラキラと輝いていた。
 聖卓の両脇の台を飾るフラワーアレンジメントも、ベンチ横の装花も白い薔薇と百合を使用していて、バージンロードの赤をより一層際立たせる。

 やがて聖壇の横に立つ司会者が開式の宣言と今回の式についての説明を始めた。

 それによると、今回の挙式は『人前式』というスタイルで行われるらしい。『教会式』や『神前式』とは違い、神様ではなく参列者に結婚を認めてもらう方式なのだそうだ。

 司会者の話に代わり、オルガンの生演奏が聴こえてきた。同時にゆっくりと美しい彫刻の施された白い扉が開く。

 その向こう側に亮介と彼の腕に手を添えた文乃が佇んでいた。

 参列者は一斉立ち上がり、歓声と拍手で二人を迎える。咲も拍手で出迎える。

 亮介のエスコートでバージンロードを歩く文乃は本当に幸せそうで、咲は嬉しくなる。

 ──だけど……

 反面、花音のことが気になった。

 咲はチラリと背後の花音を窺った。花音は穏やかな笑みと拍手で二人を祝福している。

 そんな花音が切なく思えた。

 だって、花音さんはまだ文乃さんのことが好きなのだ。幸せそうな文乃さんと亮介さんを見るのはきっと辛いだろう。

 もしかしたら結婚式には出席したくなかったかもしれない。
 
 けれど花音さんの立場や性格では、凛太郎さんのように無下に断ることもできなくて──だから、せめてもの緩衝材として自分に同伴を依頼したのだろう。

 花音の心情を思うと、咲の胸はキュウっと締めつけられた。
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