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三本のアマリリス
エピローグ -2-
しおりを挟む「……咲ちゃん、聞いてた?」
混乱のあまり現実逃避している咲を見透かして、花音が問うた。
「あ、は、はい、聞いてました……」
「聞いてましたって、それだけ?」
「あ、えっと、私も皆さんと一緒にいたいです」
「……皆さんと?」
花音の眉間に皺が寄り、ピクリと眉が動く。
どうやら何か気に障ったらしい。
「あの、華村ビルの皆さんと……です」
説明が足りなかったかと言葉を足す。けれど、花音の表情は次第に険しくなっていき、しまいには自分の頭を抱え込んだ。
「え? 花音さん? 大丈夫ですか、花音さん?」
だめだ、これは、と花音がポツリと呟くのが聞こえた。
何が、と尋ねようとした咲の肩を、再び花音の両手が掴む。
「咲ちゃんっ」
「は、はいっ?」
それから目線を合わせるように屈み込んだ。
「あのね……」
「……はい」
「僕はね」
「はい」
「咲ちゃんが──」
「……私が?」
子供に言い聞かせるかのようにゆっくりと言葉を紡ぐ。
「好き、なんだ」
「好き?」
好き、という言葉に一瞬ドキリとする。いつもより熱っぽい眼差しにも勘違いしそうになる。
けれど、それはあくまでも保護者としての好きであって。言わば家族に対する好きなのだ。
そのことに咲は少し寂しさを覚える。けれど、今はそう思ってもらえるだけで充分だ。
「私も、好きですよ」
咲は気持ちを切り替え、大きく頷いた。
「くっ……」
花音がガックリと肩を落とし、うなだれ、しばらくまた動かなくなる。
その間にも花火はどんどん打ち上がり、夜空を色とりどりに染めていく。
「花音さん、下を向いていたら、花火が見えないですよ。勿体ないですよ」
咲はさりげなく花音の手を肩から外し、顔を覗き込んだ。
ピクリッと花音の肩が震える。
花火の光に照らされて、花音の顔が闇夜に浮かぶ。
何かを憂うような大きな瞳には長いまつ毛が影を落とす。スーッと通った鼻筋。ふっくらとした形の良い唇。
そこでハタと、その唇に触れたことがあることを思い出す。
あれは観覧車で、咲が花音に変な誤解を与えたために起こった不慮の事故だったが。
──というか、この状況、そのときに似ていません?
「あ、ごめんなさい、花音さん……」
また変な誤解を与えてはいけないと体を離そうとした瞬間、花音の腕が咲の背中に回された。
「咲ちゃん……」
そのまま花音の顔が鼻先まで近づく。
「違います。誤解……」
慌てて言いかけた唇に、花音の柔らかなそれが優しく触れる。
フローラル系の香りがいつもにも増して強く感じられた。少し高めの体温に心地よさを覚える。
咲は自然と目を閉じた。
それから数秒ののち、ゆっくりと唇が離れていき。咲はそれを名残惜しく思った。
「咲ちゃん」
花音の声におずおずと目を開けると、すぐ眼前に優しい眼差しがあった。
「僕の言ってる好きって、こういうことだよ」
その眼差しで真っ直ぐに咲を捉え、言う。
「観覧車のときだって、誤解したわけじゃない」
掠れ気味の声が苦しそうに告げた。
「僕が、咲ちゃんにキスしたかっただけ」
そう言ってヘタリと咲の肩に顎を乗せた。
「……幻滅した?」
耳元でしょんぼりとした声で聞いてくる。それがなんだかいじらしくて、新鮮に感じた。
「幻滅なんて……」
咲はフルフルと首を振る。それから花音の背中にそっと触れた。
「咲ちゃん?」
戸惑い気味に顔を上げた花音と目が合う。その目をしっかりと見つめ、
「──私も、花音さんが、好きです」
そう言ったところで、一際大きな花火が夜空に輝く。花音の顔が一段と明るく見え、やっぱりその端正な顔立ちに見惚れてしまう。
「ありがとう、咲ちゃん」
その顔が満面の笑みを浮かべ、咲を抱き寄せる。フローラル系の甘い香りが鼻をくすぐり、咲はそっと花音の背中に腕を回した。
すぐ頭上では、大輪の菊が夜空を赤く彩っていた。
<了>
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ありがとうございます