紡ぐもの

ぬぬ助

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手始めに

はじまりの森

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キーンコーンカーンコーン


今日も授業には出られなかった。
保健室のベッドに横たわって無駄に1限1限を潰す日々。

「2限終わったわよ」
カーテンの向こうから先生の声がする、体を起こしベッドの下に揃えた上履きのかかとをつぶし、スリッパのように履いた。
カーテンを開けると強い光が目を刺激する。
「やっと起きてきた、3限はでる?」
先生は優しい口調で聞いてきてくれる。
僕は目をこすりながら「でないから帰ります」と言って、ソファの上に置いておいたリュックに腕を通した。
ソファの横の本棚には、今通っている普通科の高校以外の高校のパンフレットが置かれている。
この出席日数じゃ転学もありえるよな...そんなことを考えて立ち止まっていると、先生が察したのか「明日は授業、出れるといいわね」とほほ笑みかけてくれた。


「ありがとうございます、明日は、きっと...」


保健室を後にする。


きっと、きっと、をもう何十回も繰り返している。
先生も多分、明日も明後日もそのずっと先も僕が教室に行かない事はわかってる。
”行けない”ことも。


ICカードにチャージして、改札を抜ける。
学生の定期は学校にまともに行っていないんだから、と親に支払いをしてもらえなくなった
それから保健室に行く回数も随分減った、往復の交通費は馬鹿にならない。

皆より何本も早い電車に揺られて、ふと学校に行けなくなった理由を考える。
優しいクラスメート、熱血な担任、信頼できる友達、帰る家、喧嘩はあれど仲のいい家族...
こうやって挙げていっても、僕の周りには何一つとして不自由している点はない。

あるのはただ漠然とした不安と、なぜか感じる居場所のなさ。
そして、社会の底辺のクズなんだという自覚。

転学、か....
電車に揺られながら考える。

定期に印刷された学校までの区間も高校生という証明も、意味を成さなくなってしまうのは時間の問題だ。

どうせならもうやり直したいなぁ、誰も僕のことを知らない場所で、いや世界で。
まっさらな自分に生まれ変わったら....何を.....しようか........





「お客さん、起きて!!終点、ここ終点だよ!!!!!!!」
「え....?」
「ここ終点!はい降りる降りる!!!」

なにがなんだか分かっていないまま駅員2人に肩を担がれドアの外へ出される。
ドアはすぐ閉まってしまった。
電車の行き先がすぐに変わり、電車は駅を出てしまう。

どうやら僕は終点まで寝過ごしてしまったようだ。

逆方面のホームまで歩くの面倒臭いなぁ...と思い顔を上げると、何か違和感がある。

向かいのホームがない、線路がない、そして見渡す限りの”森”
おかしい、いやだっておかしいでしょ...僕の乗ってた電車は学校の近くの駅を出たし、あの電車の終点はこんな場所じゃない、そもそもこんな森地図には....そうだ地図だ地図!!!!!


スマホを開こうとしてもうんともすんともいわない。
壊れたのかな、いや、学校から駅までの間はいじってたしそんな事あるわけない。
絶望した。スマホが使えないなんて、連絡も何もできない。

「どうしたんだい?」
突然後ろから声をかけられる。
あまりの驚きに声も出ずに尻餅をついてしまった。

「そんなに驚かなくたっていいんだよ、あたしゃお前さんを待っていたんだ。」
ニカッと笑ったその口は全て金歯でぎょっとする。
「助けて...くれるんですか....」
恐る恐る聞くと、もちろんだよというようにおばあさんは大きく頷いた。
「ついておいで、夜の森は危ないんだ日が暮れる前に行かないと...」
そういってスタスタ歩き始めてしまう。
よくわからないが僕も後を追うことにした、今現在頼れる人はこの人しかいないし、なんだかこのおばあさん、全てを知っているような気がするのだ。

森は薄暗かった。
背の高い木、覆い茂る葉、光が当たらない為じめっとぬかるむ地面。
木が動いて喋りだしそうな雰囲気だよ、このおばあさんだってよく見れば魔女っぽい。
着ている服だって色あせてはいるものの上品だし、腰は曲がっちゃいるけどそれほど老婆という印象は受けない。

それから20分ほど森の中を歩いただろうか、急におばあさんが立ち止まるとこう言った。

「着いたよ、ここがあたしの家だ。」

森が開けて夕日が差し込んでいる。
さっきまでのジメジメした雰囲気とは違い柔らかそうな草や色とりどりの花が生えていてなんとも気持ちのいい場所だ。この森に家を建てるならここがいいな、というような場所ではある。

だが、家は、ない。

「おばあさん....家...ないですよね...?」
「あらやだ、あたしってば忘れてたね」

そう言ってつま先で地面を軽くトントンとたたく。

今まで静かだった木々が一斉にざわざわと揺れ始めた。
「おばあさん、なんかこれ...」
「ちょっと激しいかもねぇ、耐えておくれ」
次の瞬間風が一気に吹き始める、竜巻に飲み込まれているかのような強さの風。
体が持って行かれそうになり、踏ん張りながら怖くて目をつむった次の瞬間、風がぴたっと止みなびいていた髪の毛が戻った。

恐る恐る目を開けると

そこにはこじんまりとしたレンガ造りの家が建っていた。                                                                                                                                                 
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