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手始めに
夜
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何も分からずに立ちすくむ僕。
「おやおやどうした、中にお入り?」
先に玄関に入ったおばあさんは柔らかい笑顔で僕を招き入れる。
その笑顔は、心なしか、保健室の先生に似ていた。
「大丈夫、このことも中でゆっくり話すよ...」
「じゃ...じゃあ...お邪魔します.....」
蔦が絡まって少し古くなった外観とは違い、中は木造で家具はアンティーク調の可愛いものばかりだ。
僕が歩くたびに床はキシキシと音を立てる。
古いけどしっかり磨き上げられた床は、足を境におばあさんを反転させて写している。
「綺麗...」
思わず言葉が漏れる。
「そうかいそうかい、ありがとよ」
まんざらでもなさそうにそう言って振り返ったおばあさんは、雰囲気も相まってか本当に魔女に見えた。
「さ、ここがリビングだ。待ってなさいいまお茶でも持ってくるからね...」
「あ、いえ...そんな」
「いいんだよ、色々あって疲れただろう。わたしゃここでこうやってお前さんみたいな人をもてなすのを楽しみとしてるんだ。」
「じゃあ、お言葉に甘えて....」
おばあさんがキッチンでお茶を淹れてくれている間、部屋の隅々を見る。
廊下とはまた違った雰囲気の壁紙。
一枚一枚柄の違うタイルが敷き詰められた床。
大きいテーブルに光を注いでいる丸窓の枠は、禿げてしまってはいるが、きっと素敵な色だったんだろうと想像がつく。
目を瞑る、この空間にはどんな窓枠なら似合うだろうかと考える。
「もう失われてしまった物は取り戻すことができないだろう?」
目を開けるとおばあさんがいつの間にか向かいの椅子に座っている。
音がしなかったように思える、全く気がつかなかった。
「お茶を淹れたよ、落ち着いてもらえるように庭のハーブをいくつかブレンドしたんだ、気に入ってもらえるといいけどねぇ」
そんなことを言われたって、頭に入らない、違う、さっきこのおばあさんは僕の心を読んだ...?
それとも、たまたま...?
「さ、日が暮れてきてしまったねぇ。話をしようか...」
おばあさんはこちらの焦りなど気にも止めない様子で話し始める。
「まずはこの世界のことについて話そうかねぇ、この世界は、まぁお前さんの住んでいた元の世界とは全くと言っていいほど違うんだ。魔法、魔獣、人間以外の人種、これからお前さんはそういった者たちと折り合いを付けていかなきゃあいけなくなる。」
「魔法...魔獣!?そんなもの、科学で証明できない....ある程度の魔法は証明できるとして、魔獣なんて....」
「お前さんを悪く言うつもりはないがね、人間は自分たちの知識の範疇を超えた物を突きつけられるとみんな反論したりしてくるから良くないねぇ。お前さんは宇宙の全てをその目で見てきたとでも言うのかい?」
「でも....」
「いいかい、この世界に来てしまった以上、お前さんは適応しなければならないんだよ、この世界に。」
おばあさんの目が急に険しくなる。
話しぶりからも、その目からもわかる。この人は何人も僕と同じ様な人を見ている...
「分かりました、この世界にいる間は、その、適応できるように努力はします...」
「よかったよ、この世界に何も知らないで来た人間が魔獣達を見て、幻覚が見えるだの狂ってしまっただの言って自殺してった例が沢山あるからねぇ...」
自殺....
「さ、話が逸れてしまったねぇ。この世界のことを話そうか。」
おばあさんはこの世界のことを話してくれた。
メモを取るのが嫌いな僕がメモの必要性を感じたくらいには、量の多い話だった。
どうやらこの世界は、俗に言う”異世界”というものらしい。
ただこの異世界、どうも元の世界と完全に違なる世界ではないようで...
「繋がっている...?」
「そう、この世界はお前さんの元いた世界と繋がっているんだ。姉妹の世界みたいなものだよ」
「それは...具体的に...?」
「元の世界のお前さんとこっちの世界のお前さんが繋がってるということだよ。繋がりがあるもの同士は何かしらの共通点があるのさ。」
「じゃあ、僕の双子みたいな人がこの世界にいる...とか...いやでもそうすると元の世界の僕が...」
「こらこら、あんまり焦るんじゃないよ、お前さんは特殊な部類だ」
特殊.....
「来るときに乗ってきた電車があるだろう?あれは魂のゆりかごなんて呼ばれてるんだけどねぇ、あそこからいろんな魂が降りてくるのさ。お前さんのいた元の世界で新しい産声が上がると同時にね。」
「じゃあ毎日ひっきりなしに電車が...」
「そうだよ、毎日電車は来ている。」
「じゃあ、それに乗れば、僕も...」
「来るときに見ただろう?線路は一本しか通っていない。この世界へは一方通行の道しかないのさ」
「そしてあの線路の先にあるのは”死”さ」
「でも駅員さんは終点って...」
「あそこの駅員は駅で降りるべき魂と死の世界へ送る魂とを選別しているのさ、だからお前さんの終点はあの駅で間違いないんだよ」
「お前さんは実体を持ったままこの世界に連れてこられた、言わば空白者なんだ。」
空白...空白....意識が遠くなる。
きっとこれは沢山、沢山元の世界で考えた事だ。
僕に何があるんだろう、全てが整っているはずなのに居場所がない、寂しい、友達だっていた、家族だっていたんだ。
そうだ、あの時僕が感じていたのはただの寂しさや、わかりやすい孤独なんかじゃない。
心の”空白”。
「おやおやどうした、中にお入り?」
先に玄関に入ったおばあさんは柔らかい笑顔で僕を招き入れる。
その笑顔は、心なしか、保健室の先生に似ていた。
「大丈夫、このことも中でゆっくり話すよ...」
「じゃ...じゃあ...お邪魔します.....」
蔦が絡まって少し古くなった外観とは違い、中は木造で家具はアンティーク調の可愛いものばかりだ。
僕が歩くたびに床はキシキシと音を立てる。
古いけどしっかり磨き上げられた床は、足を境におばあさんを反転させて写している。
「綺麗...」
思わず言葉が漏れる。
「そうかいそうかい、ありがとよ」
まんざらでもなさそうにそう言って振り返ったおばあさんは、雰囲気も相まってか本当に魔女に見えた。
「さ、ここがリビングだ。待ってなさいいまお茶でも持ってくるからね...」
「あ、いえ...そんな」
「いいんだよ、色々あって疲れただろう。わたしゃここでこうやってお前さんみたいな人をもてなすのを楽しみとしてるんだ。」
「じゃあ、お言葉に甘えて....」
おばあさんがキッチンでお茶を淹れてくれている間、部屋の隅々を見る。
廊下とはまた違った雰囲気の壁紙。
一枚一枚柄の違うタイルが敷き詰められた床。
大きいテーブルに光を注いでいる丸窓の枠は、禿げてしまってはいるが、きっと素敵な色だったんだろうと想像がつく。
目を瞑る、この空間にはどんな窓枠なら似合うだろうかと考える。
「もう失われてしまった物は取り戻すことができないだろう?」
目を開けるとおばあさんがいつの間にか向かいの椅子に座っている。
音がしなかったように思える、全く気がつかなかった。
「お茶を淹れたよ、落ち着いてもらえるように庭のハーブをいくつかブレンドしたんだ、気に入ってもらえるといいけどねぇ」
そんなことを言われたって、頭に入らない、違う、さっきこのおばあさんは僕の心を読んだ...?
それとも、たまたま...?
「さ、日が暮れてきてしまったねぇ。話をしようか...」
おばあさんはこちらの焦りなど気にも止めない様子で話し始める。
「まずはこの世界のことについて話そうかねぇ、この世界は、まぁお前さんの住んでいた元の世界とは全くと言っていいほど違うんだ。魔法、魔獣、人間以外の人種、これからお前さんはそういった者たちと折り合いを付けていかなきゃあいけなくなる。」
「魔法...魔獣!?そんなもの、科学で証明できない....ある程度の魔法は証明できるとして、魔獣なんて....」
「お前さんを悪く言うつもりはないがね、人間は自分たちの知識の範疇を超えた物を突きつけられるとみんな反論したりしてくるから良くないねぇ。お前さんは宇宙の全てをその目で見てきたとでも言うのかい?」
「でも....」
「いいかい、この世界に来てしまった以上、お前さんは適応しなければならないんだよ、この世界に。」
おばあさんの目が急に険しくなる。
話しぶりからも、その目からもわかる。この人は何人も僕と同じ様な人を見ている...
「分かりました、この世界にいる間は、その、適応できるように努力はします...」
「よかったよ、この世界に何も知らないで来た人間が魔獣達を見て、幻覚が見えるだの狂ってしまっただの言って自殺してった例が沢山あるからねぇ...」
自殺....
「さ、話が逸れてしまったねぇ。この世界のことを話そうか。」
おばあさんはこの世界のことを話してくれた。
メモを取るのが嫌いな僕がメモの必要性を感じたくらいには、量の多い話だった。
どうやらこの世界は、俗に言う”異世界”というものらしい。
ただこの異世界、どうも元の世界と完全に違なる世界ではないようで...
「繋がっている...?」
「そう、この世界はお前さんの元いた世界と繋がっているんだ。姉妹の世界みたいなものだよ」
「それは...具体的に...?」
「元の世界のお前さんとこっちの世界のお前さんが繋がってるということだよ。繋がりがあるもの同士は何かしらの共通点があるのさ。」
「じゃあ、僕の双子みたいな人がこの世界にいる...とか...いやでもそうすると元の世界の僕が...」
「こらこら、あんまり焦るんじゃないよ、お前さんは特殊な部類だ」
特殊.....
「来るときに乗ってきた電車があるだろう?あれは魂のゆりかごなんて呼ばれてるんだけどねぇ、あそこからいろんな魂が降りてくるのさ。お前さんのいた元の世界で新しい産声が上がると同時にね。」
「じゃあ毎日ひっきりなしに電車が...」
「そうだよ、毎日電車は来ている。」
「じゃあ、それに乗れば、僕も...」
「来るときに見ただろう?線路は一本しか通っていない。この世界へは一方通行の道しかないのさ」
「そしてあの線路の先にあるのは”死”さ」
「でも駅員さんは終点って...」
「あそこの駅員は駅で降りるべき魂と死の世界へ送る魂とを選別しているのさ、だからお前さんの終点はあの駅で間違いないんだよ」
「お前さんは実体を持ったままこの世界に連れてこられた、言わば空白者なんだ。」
空白...空白....意識が遠くなる。
きっとこれは沢山、沢山元の世界で考えた事だ。
僕に何があるんだろう、全てが整っているはずなのに居場所がない、寂しい、友達だっていた、家族だっていたんだ。
そうだ、あの時僕が感じていたのはただの寂しさや、わかりやすい孤独なんかじゃない。
心の”空白”。
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