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手始めに
不思議な夢
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頭がぐわんぐわんする。
「ここは....?」
目が覚めるとそこは音のない静かな世界。
さっきまでおばあさんの話を聞いていたはずなのに...
紫がかった霧、乱雑に建てられた墓、枯れた木。
道にはあちこちにゴツゴツした岩が転がっていて、とても人が通った跡はない。
色がない世界、紫の霧だけがふわふわと世界を覆って地平線まで続いている。
ザッザッザッ...遠くから足音が近づいてくる。
「あの、誰かいるんですかっ...!!ここはどこなんですか!!!」
叫ぶ声は全く響くことがなかった。
水の中でしゃべっている時のような、自分の耳だけに声が伝わってくる。
その感覚から、声は届かないのだと容易に想像がつく。
ザッザッザッ...人影が近づいてくる。
人は全部で3人居た。
遠くから見ても皆深刻そうな顔をしているのが分かる、足取りが重い。
近づいて来ると、重い鉄が擦れあうような音がし始める。
多分、鎧かなにかだ。
近づいてくれば、はっきり見えると思ったのに、それは間違いだった。
近づいてくれば来るほど、輪郭がぼやけてなんだかわからなくなる。
この時点でなんとなく僕は気づいた、これは夢だ、と。
小さい頃からよく夢を見た、こういう不思議な夢を。
僕の目の前に3人は立ち止まる。
耳に水が詰まったように、音がこもって聞こえる。
「...んで...なんで.....死んじまったんだよ....」
「こん....ばしょで.......ぬことないじゃない.....」
「おまえはつよい.....ゆうしゃ........ったもんな....」
3人は僕の目の前で泣きじゃくっていた。
しっかりとは見えないけど、手には大きな花束が抱えられている。
色のない世界に、そこだけが写真のように怖いくらいしっかりと色を持っている。
僕の中の何かが叫んだ。
皆、僕はここにいるよ、泣かないで、僕はここにいるよ....僕はここに....
「奏....」
言葉が口をついて出る。その瞬間に僕ははっと正気に戻る。
何かに取りつかれたように、僕は一瞬僕ではなかった。
顔を上げると、真ん中の少女らしき人物が驚いたのが分かった。
僕はその少女に何か暖かいものを感じた。
ずっと一緒にいてくれたような気がした、親友のような気がした。
そしてきっと、一番愛した人....
「奏、僕はずっと傍にいるよ、住む世界は違えど、ずっと....」
ずっと...ずっと.....
声が遠くなっていく。
眩しい、眩しい...なんだろう...これもまだ夢...?
「起きたかい?」
「うわっ!!!!!!!」
おばあさんが目の前にいる。
声を出してもしっかり通る、ここは夢の中ではないようだ。
「すまないねぇ、私もここにあんまり長居させるわけにはいかないもんで、説明がてらちょっくら一晩夢の中をお借りさせてもらったよ。」
「見ただろう?お前さんの目の前で泣く3人の姿を...」
おばあさんはニヤリと笑う。
流石に気付いてはいたけど、このおばあさん、ただものではない。
「驚かせてしまったね、朝食は下に用意してあるよ、話は朝ごはんを食べたあとだ。」
そう言っておばあさんは部屋を出て行ってしまった。
すこし空いたドアから廊下を伝って美味しそうな匂いが流れ込む。
まだまだ聞きたいことは沢山あるけど、空腹には勝てそうにない。
ドアを開けて長い廊下に出ると、僕の寝ていた部屋以外にも4つほど部屋があることが分かった。
外で見たときはもっと小さいような気がしたのに、中は随分広いんだなぁ...急勾配な階段を慎重に降りる。
ふと思う、おばあさんは毎日ひとりでここで暮らしているのだろうか。
僕が来る前から、何年も、ずっと一人で...
僕が初めて通された部屋のテーブルの上に朝食は用意されていた。
草花の絵で縁どられた皿の隅はすこし欠けている。
プリプリのソーセージが2本と目玉焼き、それにみずみずしいレタス、プチトマト。
「世界は違うのに、育つものは一緒なんですね...」
そういう僕におばあさんは良いところに気がついたねとでも言うように言葉を返す。
「もちろんお前さんの世界にないものだって生えてるのさ、その逆も然り。でもこっちの世界にしか生えない植物の味なんてたかが知れてる。あたしら含め一般庶民の食事は大体そっちの世界と同じような感じだよ。」
「ただね、抜群にそっちの世界のものより美味しいものだって、数は少ないが存在するんだ。ただ最初の朝にその味教えちゃ面白くないだろう?」
抜群に美味しいもの....そんなものにも出会えるのだろうか。
考えながらお皿の上の食事を頬張る。
ソーセージにはハーブが入っていた、パリッと音を立てて前歯で皮を裂くと、まってましたとばかりに口の中に肉汁が注ぎ込む。それと同時にハーブのいい香りが鼻から抜ける。
卵は半熟、レタスはシャッキリとして苦味が少なくなんとも良い後味。プチトマトも真っ赤に熟してて甘くて美味しい。
今まで食べた中で最高の朝食かも知れないのに、これより美味しいものが...?
「いい食べっぷりだね、作った甲斐があるってもんだよ」
あっという間に僕は食べきってしまった。
むこうの世界にいた時の食欲のなさが嘘のように。
そして僕はもう、元の世界を”向こうの世界”などと呼んでいる自分に気付く。
やれば出来るじゃん、僕。
「さぁ、食後のお茶だよ」
そう言って僕の前に白い小さな花の浮いたお茶が出される。
花をカップに近づけるといい匂いがする。嗅いだことのある匂い。
「カモミール...ですか?」
「おぉ!よくわかったねぇ...」
おばあさんはとても嬉しそうな柔らかい笑みを浮かべる。
そして僕はその笑顔に結び付けられた記憶を思い出す。
「元の世界でよく行ってた保健室....いやよく通わせてもらってた人のおうちがあったんですけど、先生...あ、えっと、そこに住んでいる女の人が”落ち着くわよ”っていつもカモミールティーを淹れてくれたんです。どんな季節でも、必ずその人の家にはカモミールティーがあって、それ以外の飲み物を出されたことがなくって。今考えたら不思議だなって、こんな話どうでもいいですよね...すみません....」
すこしお喋りしすぎたかな、と思ったが、おばあさんは柔らかい笑顔のまま
「そんなことないよ、素敵な人じゃないか、その女の人は」
と言ってくれた。
柔らかい笑顔のまま。
柔らかい笑顔....姉妹の世界...カモミールティー..繋がり
もしかして
「もしかして、あなた...」
「さ、遅くなってしまったねぇ、今度はこの世界のことじゃなくてお前さん自身の話をしてあげる番だ」
おばあさんはカモミールティーを一口含んだ。
「ここは....?」
目が覚めるとそこは音のない静かな世界。
さっきまでおばあさんの話を聞いていたはずなのに...
紫がかった霧、乱雑に建てられた墓、枯れた木。
道にはあちこちにゴツゴツした岩が転がっていて、とても人が通った跡はない。
色がない世界、紫の霧だけがふわふわと世界を覆って地平線まで続いている。
ザッザッザッ...遠くから足音が近づいてくる。
「あの、誰かいるんですかっ...!!ここはどこなんですか!!!」
叫ぶ声は全く響くことがなかった。
水の中でしゃべっている時のような、自分の耳だけに声が伝わってくる。
その感覚から、声は届かないのだと容易に想像がつく。
ザッザッザッ...人影が近づいてくる。
人は全部で3人居た。
遠くから見ても皆深刻そうな顔をしているのが分かる、足取りが重い。
近づいて来ると、重い鉄が擦れあうような音がし始める。
多分、鎧かなにかだ。
近づいてくれば、はっきり見えると思ったのに、それは間違いだった。
近づいてくれば来るほど、輪郭がぼやけてなんだかわからなくなる。
この時点でなんとなく僕は気づいた、これは夢だ、と。
小さい頃からよく夢を見た、こういう不思議な夢を。
僕の目の前に3人は立ち止まる。
耳に水が詰まったように、音がこもって聞こえる。
「...んで...なんで.....死んじまったんだよ....」
「こん....ばしょで.......ぬことないじゃない.....」
「おまえはつよい.....ゆうしゃ........ったもんな....」
3人は僕の目の前で泣きじゃくっていた。
しっかりとは見えないけど、手には大きな花束が抱えられている。
色のない世界に、そこだけが写真のように怖いくらいしっかりと色を持っている。
僕の中の何かが叫んだ。
皆、僕はここにいるよ、泣かないで、僕はここにいるよ....僕はここに....
「奏....」
言葉が口をついて出る。その瞬間に僕ははっと正気に戻る。
何かに取りつかれたように、僕は一瞬僕ではなかった。
顔を上げると、真ん中の少女らしき人物が驚いたのが分かった。
僕はその少女に何か暖かいものを感じた。
ずっと一緒にいてくれたような気がした、親友のような気がした。
そしてきっと、一番愛した人....
「奏、僕はずっと傍にいるよ、住む世界は違えど、ずっと....」
ずっと...ずっと.....
声が遠くなっていく。
眩しい、眩しい...なんだろう...これもまだ夢...?
「起きたかい?」
「うわっ!!!!!!!」
おばあさんが目の前にいる。
声を出してもしっかり通る、ここは夢の中ではないようだ。
「すまないねぇ、私もここにあんまり長居させるわけにはいかないもんで、説明がてらちょっくら一晩夢の中をお借りさせてもらったよ。」
「見ただろう?お前さんの目の前で泣く3人の姿を...」
おばあさんはニヤリと笑う。
流石に気付いてはいたけど、このおばあさん、ただものではない。
「驚かせてしまったね、朝食は下に用意してあるよ、話は朝ごはんを食べたあとだ。」
そう言っておばあさんは部屋を出て行ってしまった。
すこし空いたドアから廊下を伝って美味しそうな匂いが流れ込む。
まだまだ聞きたいことは沢山あるけど、空腹には勝てそうにない。
ドアを開けて長い廊下に出ると、僕の寝ていた部屋以外にも4つほど部屋があることが分かった。
外で見たときはもっと小さいような気がしたのに、中は随分広いんだなぁ...急勾配な階段を慎重に降りる。
ふと思う、おばあさんは毎日ひとりでここで暮らしているのだろうか。
僕が来る前から、何年も、ずっと一人で...
僕が初めて通された部屋のテーブルの上に朝食は用意されていた。
草花の絵で縁どられた皿の隅はすこし欠けている。
プリプリのソーセージが2本と目玉焼き、それにみずみずしいレタス、プチトマト。
「世界は違うのに、育つものは一緒なんですね...」
そういう僕におばあさんは良いところに気がついたねとでも言うように言葉を返す。
「もちろんお前さんの世界にないものだって生えてるのさ、その逆も然り。でもこっちの世界にしか生えない植物の味なんてたかが知れてる。あたしら含め一般庶民の食事は大体そっちの世界と同じような感じだよ。」
「ただね、抜群にそっちの世界のものより美味しいものだって、数は少ないが存在するんだ。ただ最初の朝にその味教えちゃ面白くないだろう?」
抜群に美味しいもの....そんなものにも出会えるのだろうか。
考えながらお皿の上の食事を頬張る。
ソーセージにはハーブが入っていた、パリッと音を立てて前歯で皮を裂くと、まってましたとばかりに口の中に肉汁が注ぎ込む。それと同時にハーブのいい香りが鼻から抜ける。
卵は半熟、レタスはシャッキリとして苦味が少なくなんとも良い後味。プチトマトも真っ赤に熟してて甘くて美味しい。
今まで食べた中で最高の朝食かも知れないのに、これより美味しいものが...?
「いい食べっぷりだね、作った甲斐があるってもんだよ」
あっという間に僕は食べきってしまった。
むこうの世界にいた時の食欲のなさが嘘のように。
そして僕はもう、元の世界を”向こうの世界”などと呼んでいる自分に気付く。
やれば出来るじゃん、僕。
「さぁ、食後のお茶だよ」
そう言って僕の前に白い小さな花の浮いたお茶が出される。
花をカップに近づけるといい匂いがする。嗅いだことのある匂い。
「カモミール...ですか?」
「おぉ!よくわかったねぇ...」
おばあさんはとても嬉しそうな柔らかい笑みを浮かべる。
そして僕はその笑顔に結び付けられた記憶を思い出す。
「元の世界でよく行ってた保健室....いやよく通わせてもらってた人のおうちがあったんですけど、先生...あ、えっと、そこに住んでいる女の人が”落ち着くわよ”っていつもカモミールティーを淹れてくれたんです。どんな季節でも、必ずその人の家にはカモミールティーがあって、それ以外の飲み物を出されたことがなくって。今考えたら不思議だなって、こんな話どうでもいいですよね...すみません....」
すこしお喋りしすぎたかな、と思ったが、おばあさんは柔らかい笑顔のまま
「そんなことないよ、素敵な人じゃないか、その女の人は」
と言ってくれた。
柔らかい笑顔のまま。
柔らかい笑顔....姉妹の世界...カモミールティー..繋がり
もしかして
「もしかして、あなた...」
「さ、遅くなってしまったねぇ、今度はこの世界のことじゃなくてお前さん自身の話をしてあげる番だ」
おばあさんはカモミールティーを一口含んだ。
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