紡ぐもの

ぬぬ助

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手始めに

望み

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ことり、とおばあさんはカップをお皿に置く。
一息つくとおばあさんはゆっくりと話し始めた。

「今日見た夢、あっただろう?あれはねぇ、お前さんと”繋がり”のあった者の記憶の一部だよ。最近は力が弱ってきてねぇ、全部を見せてやることが出来なかったのが申し訳ないねぇ...」
「僕の夢の中をいじったり出来るなんて、あなた一体何者なんですか...?」
「魔女みたいなものかねぇ...」
ふふっと笑うその下に揃った金歯が覗く。
なんとなくそんな気はしていたけど、本当に魔女だったとは
不思議とあまり驚かない自分に驚いた。来てから散々不思議な目に合ってるから無理はないのかも

「まぁそんな話はどうでもいいんだよ。で、どんなシーンを見たんだい?」
全然どうでもよくないけど...
「あ、あぁそれが知らない人達がが目の前で泣いていて、なんだか...」
「なんだか、自分が死んでいる様だっただろう?」
「はい...じゃあ、僕の分身、じゃなくて繋がりのある人間はもうこの世界には...」
「いない、ねぇ...」
「...」
「だからお前さんは急遽ここに連れてこられたってわけだ。世界のバランスが崩れたからねぇ」
「でももし仮に今日見た夢の人と僕に”繋がり”があるとしたら、バランスを取るために僕は死ぬんじゃないですか...?」
「物分りが良くて助かるよ、普通はそうだ。でも昨日言っただろう?お前さんは特殊なんだ」


「お前さんは世界の掟に抗って今ここにいるんだ。まったく、強い子だよ...」


特殊なケースだ、特殊な子だ、なんて何回も言われた。
でも、強い子...そんな事言われたことも考えたこともなかった。
自分はクズだ、最低だ、ゴミ野郎だ、そうやって自分を責め続けて生きてきたのに。
さりげなく言われた事だって理解しているけど胸の奥から暖かくなってくるのが分かる。


こうやって認めてくれる誰かが欲しかった。


「この世界はお前さんが来たことで安定したが、今度は元の世界のバランスが崩れてしまった。元の世界がバランスを取ろうとし始めたらお前さんはこの世界にいられなくなる。」
「バランスが崩れた場合、人間を新しく”生産”してバランスを取るのはこっちの世界側だと決まっているんだ、人間はやれ道徳だのなんだので頭が固いからね、比較的柔軟なこっちの世界がバランスを取ることが昔からの決まりなのさ。」 
「と、言うと...?」
「ほら、見てごらん」

おばあさんは暖炉の上のスノードームを指さした。
何年も移動されてないのか、取ると置いてあった場所だけが、丸く本来の木の色をしている。
スノードームの中には木のオブジェクトが入っている。

「枯れ木...いや、ひとつだけ実がついていますね...綺麗...」
「それはねぇ、ここから3kmくらい歩いて行ったところにある町の中心に生えている大木さ。その姿を閉じ込めてある。」
「それってはじまりの町!?」
「さぁね、名前なんてないと思うけどねぇ」

絶対はじまりの町ポジションの町だ。

「まぁ、それでそこには”均衡の実”ってもんがなるんだよ、熟れて弾けるとそっから新しい命が誕生するのさ」
「命が誕生!?」
「そうさ、バランスを取るためにね。そこに今なってるその一つの実が、お前さんのバランスを取るために生まれようとしている新しい命さ」
「これが...僕.... これが弾けたら、元の世界に帰れるんですか...?」
「あぁ」
「それはいつごろっ...!!!」
「それはなんとも分からないねぇ、木も気まぐれだからねぇ」


「その頃にはお前さんも嫌でも帰らなきゃいけないんだ、嫌でも、ね」

「だから楽しむといいよ、お前さんも...」


嫌でも帰らなきゃいけない、そんな日が来るのかな...
そんなに大切にしたいと思えるものがこの世界にもできるんだろうか。
元の世界でできなかった僕にも...



「お前さんと繋がりのあるこの世界の”彼”は実に立派な勇者だった。」

おばあさんの声色が突然変わる。
その声に、僕の背筋が伸びる。今まで話してた柔軟な面影は、無い。

「悪さをする魔獣がいるなら片っ端からなぎ倒し、困っている村人がいるならどんな時でも手を差し伸べる。仲間には優しく、自分には厳しく、凄い人だったよ。」
「あたしは長く生きてきたけど、あんな人初めてだ。」

遠い目をして語る、懐かしんでいるようにも見えるが依然声には緊張を帯びている。
そしてグッと視線を僕に向け、揺らがない瞳孔で静かに聞く。

「お前さんは何をしたい?」

蛇に睨まれた蛙のように、僕は動けなくなる。
僕は今、何をしたい...?
僕のことを知っている人は誰もいない、知らない世界で。
今まで焦がれてきたこの世界で、僕は何をしたいんだ....?

「お前の繋がりをもつ”彼”はそんな目をしていなかったよ、もっと決意に満ちた目だった。」
「僕は....」
「でもお前さんには彼と同じ力を感じる、力も可哀想だねぇ、こんな器で」
「僕は....」
「なんだい、言いたいことがあるならハッキリお言い」
「僕には....無理です」


「僕に勇者は、無理です....」
おばあさんは少し拍子抜けた顔をした。部屋を満たしていた緊迫した空気が、すっと抜けていく。


「はっはっは!!こりゃおもしろいねぇ、誰も勇者になれだなんて言ってないよ」
「....へ?」
「ごめんね、少し焦らせすぎたみたいだ。違うんだよ、あたしが聞きたかったのはもっとこう職業みたいなものだったのさ」
「いくら世界が違えど、働いて、お金を稼いで、それで生活するのは当たり前なんだ。何の職業を希望してるか聞いてみたかっただけなのさ。」
「お....おばあさんに言ったところでどうなるんですか....」
「斡旋してあげるよ、私だってそれなりにいい立場なんだ、私のサインした紹介状を町に持っていけば間髪なしに身分証を発行してもらえるだろうよ。」
「そんな事言ってもまだ何も決まってないです...」

おばあさんは軽くため息をつく、そして思い出したように言う
「何も見てないうちに決めろ、だなんて酷な話かも知れないねぇ...そうだ、丁度カモミールと合わせる茶葉を切らしていてねぇ、町に買いにいってもらえるかい?町に行ったら色々見れるだろうよ」

そう言っておばあさんは近くにあった紙に羽ペンでサラサラと文字を書き始めた。

「どうせならこれとこれと、あとこれもお願いしようかねぇ。老人の介護だと思って付き合っておくれ」
「泊まらせてもらってるんだし、それくらいします。」
「ありがとう、じゃあ帰ってくるまでには夕飯の支度をしておくよ」
どうやらこの世界は1日2回の食事が普通らしい。

「その変な服で行ったら浮いちまうから、子供のでよければ隣の部屋のクローゼットから好きなのを着てっておくれ」
「ありがとうございます、お子さん、いらしたんですね...」
「まぁ、昔はね...」
おばあさんの顔が少し曇る、何か聞いてはいけない領域に踏み込んだ気がして気まずくなってとなりの部屋に逃げ込む。

8畳ほどの部屋にはクローゼットがびっしりと置かれていた。
子供用の洋服なんてこんなに必要かな、と思いながら一番最初に目に付いたクローゼットを開く。
素朴な服と少しゆるい膝丈のズボンというなんとも異世界らしい服装で買い物に行くことにする。


時間は正午、外は天気がいい。


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