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9 訪問
しおりを挟むリュークが屋敷に到着し、まず応接室へ案内してもらう。
少し時間を置いてから応接室へ向かうのが上級貴族とされている。
相手が自分より上位の存在であると示す方法なのだとか。
リューク»「本日は強引な手段での訪問、誠に申し訳ございませんミリアネール様。」
ミリア»「パーティー以来ですね、どうぞお座り下さいませ。」
リューク»「ハ、失礼致します。」
ミリア»「この会談で貴族の定石等は省きましょう。それで、本日は如何されたのでしょう?」
リューク»「はい、あのパーティーの最中からミリアネール様のご気分が優れないご様子が気になっておりまして、ご都合もお伺いせずに来てしまった。と言う訳です…。」
ミリア»「そんなに具合が悪そうに見えていたのですね、パーティーで醜態を晒し場を乱した事、申し訳ございません。」
リューク»「私はミリアネール様にお会いしたくて参っておりますので、そういった事は止して下さい。」
ミリア»「はい、承知しました。」
リューク»「それと用件はもう1つ、パーティーで仰っておられたお友達の件ですが、もし、下級の出の私でも良ければ、お友達になって頂けないかと。」
ミリア»「えと…私がリューク様と親しくしていると…ご迷惑にならないのですか?」
リューク»「迷惑など。どうして迷惑になるのでしょう?」
ミリア»「…リューク様の…想い人が…誤解するのではないかと…思うのですが…。」
苦しい。胸が痛い。
リューク»「それはお気になさらず。私には手を伸ばしても決して届く事の無い遠い方ですので。」
ミリア»「他国の姫君ですか?」
リューク»「え~…。人目が御座いますのでお答えは出来ません。」
未婚の男女が婚約者でもない異性と会う時には、必ず複数の者を伴わせる暗黙のルールが存在する。
監視者を立てて人払いは出来ず、妙な噂になっても証言者が居るので令嬢は傷物扱いされないようにする為、令息は身の潔白を証明する為であるらしい。
ミリア»「失礼しました。変な事を聞いてしまいましたゴメンなさい。」
リューク»「いえ、私に人前で話す勇気が無いだけですので。」
ミリア»「こんな事をお聞きしては良くないと思うのですが、リューク様はその方と添い遂げられないと解っていても別の女性との結婚は考えておられないのですか?」
リューク»「気持ちが…今の自分と婚約や婚姻をしても、お相手の方に失礼だと思いますし、なにより誠実にお相手の方とは向き合えないと思うのです。」
ダメだ…ここまでリュークの心を掴んで奥まで入り込んでいる女性を自分に塗り替える事なんて出来ない。
兄のように賢くもなく、姉のような華やかさも無い。
自分には何も無い…。
ミリア»「では、それでも構わない、リューク様の傍にさえ居られるのであれば、たとえ自分を見てくれていなくても、せめて側室として傍に置いて欲しいと言う女性が居たとしたら?」
リューク»「そんな方は現実的に存在しないでしょうし、仮に居たとしても1人の女性として見られないのは凄く辛い事なんじゃないですか?」
ミリア»「辛いかは分かりません、お慕いする方の傍で居られるだけで幸せを感じる方も居るかも知れません。」
リューク»「そこまで私を思って下さる方が居るのなら、願いを叶えてあげたいとは思いますね。」
侯爵令嬢が男爵令息の側室になる事は有り得ない。
問題児で厄介払いされた上級貴族令嬢が国に害と判断された貴族家を潰す気で王命により輿入れさせられたとしても側室は無い。
問題児すぎても修道院へ送られるのだが。
ミリア»「マルテリース様とのお話はどうなったのでしょうか?」
リューク»「マルテリース嬢とのお話はお断り致しました。」
子爵家を跳ね除けるチカラは有ると言う事か。
ミリア»「では…私がリューク様に婚約話を持っていったとしたら?」
リューク»「男爵家には断れませんし、形式的に受ける形になるでしょう。」
ミリア»「そうですよね。私も貴方と同じ理由で婚約者はおりません、私のお慕いする方は側室にすらなれない方ですが…。」
リューク»「侯爵令嬢が側室になれない相手?爵位や家柄とは関係の無い方なのですか?」
平民とは表現しない貴族の子、貴族家の者には珍しい人。
やはりリュークを諦められない。
ミリア»「そこは黙秘しておきます。」
リューク»「そうですね、私も申せませんし。だからと言ってウチに逃げ込まないで下さいね?」
ミリア»「フフフ。では似た悩みを持つ者として、お友達と言う事で如何でしょうか?」
リューク»「喜んで。」
モヤモヤする気持ちが残りつつ面会は終了し、リュークは領地へ帰って行った。
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