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チャプター2:「凄惨と衝撃」

2-19:「合同作戦――異種の彼等と超常的ヤツ」

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 制刻、敢日等と。遭遇合流したジューダ等のユーティースティーツ部族は。
 利害の一致や状況の流れから応急の合同班を成しての、生き残っている可能性のある住民の捜索を再開する事となった。
 その計10名と1機からなる合同班は。
 現在は先の広場空間からさらに路地を抜けて、その先で町を東西へ延びる町路へと出て。雑把な隊伍を組んでそれを西へと進行していた。

「ねぇねぇ、その子はゴーレムなの?」

 各々が周囲に警戒の視線意識を向けつつ歩み進む中。そんな問いかけの声が紡がれ上がる。
 その主は、先の美麗かつ猛々しい印象の容姿をしながらも、どこかフワっとした口調と雰囲気を感じさせる女オーク。ネォジェルシィと言う名であるらしい彼女が、警戒の意識は保ちつつも視線を向けるは、斜め先を歩む敢日及びそれに追従するGONG。彼女のそれは、GONGの正体について尋ねる物であった。

「ゴーレムときたか。マジックで動いてる訳じゃないが、違うとも言い難い所だな」

 そんな彼女の質問に、敢日は振り向き笑みを浮かべながら返す。

「俺等の世界ではロボットって呼ぶんだ、正しくは自立型ユニットだが。難しいな……機械――カラクリの体に、人の手で作った心を乗せた存在……ってトコか?」

 続け敢日は少し悩み考えながら、そんな自分なりの回答説明を紡ぎで返して見せる。

「ふぅーん、なんか不思議な子だね?」

 その説明を受けたネォジェルシィは、感覚でなんとなくは理解したのか、はたまた別にそうでもないのか分からない、またフワっとした返答を寄こした。

「――ストップ」

 そんなやり取りが一区切りした丁度のタイミングで。
 隊伍の先頭を歩んでいた制刻が、片手を掲げ制止の一言を上げた。

「止まるんだ」

 後ろを続いていたジューダがそれを反復、同じく制止を促すべく片手を掲げる。
 両者の指示を受け、後続隊伍の各々は歩みを停止。身構え警戒の視線を周囲へと向ける。

「どうした?」
「あれを見ろ」

 ネイルガンを控えつつ、敢日が上げた尋ねる声に。制刻はわずかに振り向きつつ、進行方向を顎でしゃくり示す。
 示された町路の少し先。そこに見えたのは、町路に沿って並ぶ家屋より飛び出して来た、複数のオークであった。
 見るに町を襲撃した敵性のオーク達、しかし様子が何かおかしかった。現れたオーク達はこちらに気付く様子もまるで無く、慌てふためく様子で背を向けて向こうへと走り去って行く。その様子は明らかな逃走のそれだ。

「何かから逃げている?」

 オーク達の様子を見止め、ジューダは訝しみつつ推察の言葉を紡ぐ。

「俺等の方の分隊の一つが、東から押し上げてる。それに追い立てられて来た連中かもしれん」

 展開した各分隊の位置、現在状況は共有されている。制刻はその情報から、見えたオーク達が東のブロックを押し上げる14分隊に退けられ、後退して来た物と推察する。

「ただ崩れ敗走して来たのならいいが――」

 ジューダはそう言葉を口にしながら、しかしく難しい顔と口調で懸念事項がある事を示している。

「あぁ、別の連中と合流して、再編成されると面倒だ」

 そのジューダの考えを察し、その続きを変わり紡ぐ制刻。

「追っかける」
「皆、備えろ」

 そして制刻は決定の言葉を紡ぎ。ジューダも異論を示す事は無く、後続の各々へ促す言葉を送る。そして合同班は逃げ去っていったオーク達を追いかけ、進行を再開した。
 それぞれの火器、得物を構え、警戒の姿勢で町路を進み上げる。

「――ち、畜生!」
「ま、まってクれぇ!」

 その先で。また町路沿いの家屋より、二体程のオークが転がるように出て現れ、合同班と鉢合わせた。

「っ!」

 その内の一体が、合同班に気付き目を剥く。

「――ギュぇッ!?」

 しかしそのオークからは、直後には濁った悲鳴が上がった。その脳天には制刻の手にする鉈が降ろされ、オークの脳天を勝ち割っている。

「ジャマだ」

 制刻は鉢合わせた瞬間にオークの間近まで踏み込み、一撃をかましたのだ。

「ヒィっ!?」

 仲間の死を前に、もう一体のオークが悲鳴を上げながら、しかしその手のクロスボウを上げ構える。

「ッ!」

 それには制刻の後続の敢日が、ネイルガンを構え対応しようとした。

「――ギェッ!?」

 しかし。敢日がトリガーを引く前に、ネイルガンの照準の先でオークは悲鳴と共にもんどり打った。
 見れば、オークの頭を杭のような太い矢が貫いている。

「っとッ?」

 少し驚き、そして背後を振り向く敢日。
 その後ろ先には、構えの姿勢を取ったサウライナスの姿が在った。
 彼女の強靭な腕に持たれ見えるは、従来の物よりもより長く強固な本体と、より太い弦で構成された特大の弓。これはジューダ等ユーティースティーツ族が造り用いる独特の武器。これよりサウライナスのオーク独特の剛力で、引き放たれた杭の如き矢が、現れた敵性オークを射抜き仕留めたのだ。

「わぁォ、すげぇな姉ちゃん」

 それを掌握し、そしてそれを成したサウライナスのなかなかに凛々しい姿に。敢日は囃し立てるような言葉を送る。

「まぁ、こんくらいならね」

 対するサウライナスは。誇るでもなく何でもない事といったように、そんな言葉を返して寄こした。

「どっから湧き出て来るかも知れん、警戒しろ――続ける」

 そんな所へ制刻から促す言葉が飛び来る。またどこから現れるかもしれない敵に警戒するよう促し、制刻は長く留まる事無く進行を再開。隊伍もそれを続け追う。
 そこより少し先から、町路は長い降り階段を造っていた。
 制刻等合同班は階段へ踏み入れ、雑把な二列縦隊を組んで、警戒しながら駆け下り始める。

「前、麓をッ」

 その最中で。隊伍の中ほどを行くトロルのハープンジャーから、促す声が上がった。
 彼が示すは階段を降り切った先。町路はそこで別方角からの道と合流する地形となっており、その先には一回り広くなった町路が伸び続いている。
 そしてその先に見えるは、町路を塞ぐように作られた物々しいバリケード。その奥には蠢く緑の巨体が覗き、またそこへ慌て駆けこんでゆく姿も見える。
 間違いなく、モンスター達の陣地であった。

「――住民の盾は、無しか」

 呟く敢日。幸いと言うべきかその築かれた陣地周りに、住民が肉の盾とされている様子は見えなかった。

「――ッ!」

 それに少しだけ安堵したのも束の間。次の瞬間には、彼の近くを何かが掠め飛び抜ける。正体は先に立ち塞がるモンスターの陣地から放たれた矢撃。そしてそれを皮切りに、いくつもの矢が飛び襲い来た。

「バラけろッ」
「散るんだッ!」

 制刻とジューダが同時に促し。各々は階段上で可能な限り散開。階段路の両脇に立ち並ぶ家屋建物や、その隙間の路地に飛び込みカバーに入る。
 しかし、散開を促した当の制刻やジューダにあっては。そのまま速度を上げて階段を一気に駆け下りる。
 そして間もなく階段を降り切り麓へ到達。そしてそこに建つ、別方角から合流する道とを丁度分け隔てる、突出し建つ分岐点の家屋に。
 勢いのまま流れるような動作で、その扉ないし窓を飛び蹴りに近いそれで破り。内部へと踏み込んだ。

「ッ!?――ギェぁッ――コキォッ」
「ギョッッ!?」

 家屋内部には三体程のオークが潜んでいたが、内一体は制刻に蹴り倒された上に、頭を踏み抜かれて首の骨を折り即死。もう一体はジューダの降ろした巨大鉈に頭をかち割られ屠られ。

「ビョッ!?」

 その奥に居た最後の一体は、流れる動作で構え撃たれた制刻の小銃からの銃弾により、また脳天を射抜かれ沈められた。

「――クリアだ」
「抑えたな」

 そこから屋内に視線を走らせ、残敵の無い事を。制圧完了を確認し言葉にする制刻とジューダ。

「――鮮やかだことだなッ」
「さっき無茶しないでって言った矢先なのに……ッ」

 それに一拍遅れ、敢日とサウライナス、そしてGONGが続き屋内へ踏み込んできた。
 敢日は鮮やかなまでの制圧に、評し同時に少し皮肉気な言葉を零し。サウライナスはジューダがまた身を危険に晒しての策を敢行した事に、苦い言葉を口にする。

「カバーに着け」

 そんなそれ等の言葉をよそに、制刻は身を隠し配置に着く旨を各々へ促す。それを受けるが早いか、それぞれは家屋内の窓際や壁際にそれぞれ取り付き、身を隠し配置した。

「数は?」
「ぎっちり、ウジャウジャだ」

 敢日の尋ねる声に、制刻は答える。
 先に見える町路を隔てる敵の陣地、バリケード。その向こうや隣接の建物には、多数のモンスター達が潜み、配置する様子がこちらからでも嫌でも観察できた。そして敵側からはすでに本格的な攻撃が開始されており、数多の矢撃が飛来し、建物の外を叩き。時折窓や扉から飛び込んで来ていた。
 対するこちら側も。制刻がわずかな隙を逃さず、小銃を突き出し発砲し身を晒したオークを屠り。敢日はネイルガンで釘弾をばら撒き敵方を牽制。ジューダやサウライナスはそれぞれの持つクロスボウや巨大弓で、各個攻撃行動を始めている。
 しかし面白くないことに、攻撃の投射の数的に、こちらが有利とは言えない様子であった。

「数を揃えてやがるな――ッ!」

 敢日が窓より視線を出して先の観察しようとした所で、火炎弾が丁度飛来してこちらの家屋の壁面に直撃。襲う炎熱に顔を顰めつつ、慌て遮蔽物に引き込む敢日。
 さらに立て続けに二発目、三発目が近くに着弾する。

「――うわっ、ひえっ!」
「――ッ!――ジューダ!蜂の巣を突いちまったようだぞッ!」

 そんな所へ家屋内へ扉より、また二名のオーク等。先のネォジェルシィとデュラウェロが飛び込み滑り込んで来る。ネォジェルシィは彼女なりに慌て焦った様子を見せ。そしてデュラウェロは荒く忌々し気な色で言葉を寄こした。

「結構デカい敵のポイントにぶち当たっちまったらしいなッ」
「あぁ、ちとフェアじゃねぇな」

 あまり芳しくはない状況に、敢日は苦くもしかしどこか皮肉の込められた言葉を向け。制刻はそれにいつものように淡々と返す。

「そろそろ、各分隊が近くまで上がって来てるはずだ」
「レスキューコールといくか」

 続け、制刻がそんな旨を発し。その意図を汲み取り、敢日が続く言葉を紡いだ。

「――近隣の分隊、もしくは車輛ユニット。こちらはエピック、応答願う――ッ!」

 善は急げと敢日は通信を開き、ヘッドセットに向けて声を張り上げ始めた。

「こっちは規模のデカい、強力な敵の陣地と遭遇し交戦中。応援が必要だ、急行願うッ!」
《――エピック、こちらはジャンカー3ヘッド。要請を受信した、こちらから向かう。少しの間踏ん張れ》

 敢日の紡ぎ上げた応援要請の声に対して、少しの間を置いて返答の言葉が通信上に上がり聞こえた。3分隊の峨奈の声で了解の声が、続き付け加える言葉が寄こされる。

「頼む!エピック、終ワリ!――だってよ」

 敢日は寄こされたそれに端的に返し、そしてそれから制刻に向かって一言告げる。

「あぁ、それまでの辛抱だが――」

 それに返しつつ、制刻はまた外へ視線を送る。
 敵陣地からの攻撃は本格的な物となり、先程から絶え間なく矢撃がこちらの家屋の外部を叩いていた。連弩による連続的な矢撃に、長弩による杭の攻撃。さらには魔法を扱う魔物達からの火炎弾の飛来。なかなかのラインナップだ。

「兄ちゃん、ウチの味方を寄こしたが、それまで気張る必要がある。飛び道具持ちを何人か上に上げてくれるか?ヤバさの高い敵連中を、優先して叩いてほしい」

 制刻は片手間にまた射撃を行い、先のモンスターを一体屠りつつも。近くで応戦行動を行っているジューダに、そんな要請の言葉を送る。
 この家屋は半分が上階下階で分割され、もう半分が吹き抜けている中二階構造になっている。おそらく何かの喫食店の類だったのだろう。
その上階にジューダ等の方の弓射手を上げ、狙撃行動を要請するものだ。

「やろうッ。サウライナス、デュラウェロ!上の階に上がるんだ、脅威度の高い敵を優先して倒してくれ!ネォジェルシィ、ヴェルジュニアもこちらに呼ぶんだ!」

 ジューダは制刻からの要請を即座に承諾。その場の同胞のそれぞれに指示を告げてゆく。

「ん、上がるッ」
「へいよ、へいよッ」

 狙撃行動を指定されたサウライナスやデュラウェロは、それぞれの様子を見せつつカバーから離れ、家屋の端に設けられる階段へ向かい、中二階へ駆け上がってゆく。

「んッ?――自由、見ろッ!」
「あん?」

 それを視線で見送った制刻に、隣の敢日から声が飛び掛けられたのはその時。
 制刻が先を見れば、先の町路に構築されていたバリケードのその一点が、なぜか開口している。いや、その理由はすぐに明らかになった。
 その開口部より、重々しい動作で歩み出て来たのは巨大な影――モンスターのトロル。巨大なモーニングスターとまた巨大な盾を手に、三体のトロルが次々と姿を現したのだ。
 そしてそのトロル達は間隔を開けての横並びとなって、大盾を構えこちらに向かって突撃を開始した。

「ヤバいぜッ、連中押し上げてきやがったッ!」」

 その光景に、荒げ発する敢日。

「ジューダッ!敵方の突撃だ、抑え迎え撃つ必要があるッ!」

 ほぼ同時に屋外から張り上げられた低い声が届く。それはこちら側のトロルであるハープンジャーからの知らせの物。階段路を挟んだ向こう側の路地に、身を隠しつつ応戦行動を行うハープンジャーやロードランドの姿が見える。

「こりゃぁ、出張る必要があるか」

 先や周囲にそんな光景が在る中で、制刻はカバーからのっそりと立ち上がる。自身が出張り、近接白兵戦による対応が必要かと見ての動きだ。

「ッ――ジャンカー3ッ!エンブリー今どこに居るんだッ!?こっちはチョイとヤバいのが出て来た、至急――ッ!――」

 その傍らで敢日は、応援を要請したユニットの所在を求める声を、ヘッドセットに向けて荒げ発し上げる。
 しかしその最中瞬間。敢日は、そして制刻は。周囲で荒々しく数多上がる戦いの音の中に、微かだが気質の異なる音を聞き留めた。
 そしてその音は。唸るようなそれと、金属の鳴り合うようなそれの重奏は、加速度的に大きく明確になり――


 ――先に見える町路沿いの家屋の壁が、内より爆破の如きで破り崩壊。
 突き破り踏み倒し――鋼鉄の巨体が姿を現した。


 唸り声を上げて現れたのは、最早他でもない89式装甲戦闘車。
 正確な位置関係は、制刻等の抑え陣取る分岐建物から見て、その先左手に並ぶ家屋の一角。
 家屋群を踏み突き破り進撃して来たのであろう89式装甲戦闘車は、斜めの進路角度で町路上へ出現。
 それは、こちらに突撃を仕掛けて来ていたトロル達に対して。ほぼその真正面に、真っ向から飛び出し飛び込むもの。
 おまけに89式装甲戦闘車は、かなりの速度で突っ切って来た上で、その末に家屋の基礎にでも乗り上げたのだろう。その26.5tもの重量の車体を、跳ね上げてわずかに宙へと浮かび飛んでいる。そして――

「――ォ?――ヂェ゛ッ」

 その片側のキャタピラの先端を、勢いのままトロルの内の一体にぶち当て――巻き込み、その図体をだが悠々と押し倒し、下敷きにして踏み潰した。

 トロルを巻き込み潰し、微かにバウンドして揺れつつ着地した89式装甲戦闘車。その方キャタピラの下ではトロルが挟み潰され、血をぶちまけ、潰されたカエルのようにジタジタピクピクと歪に動いている。
 そしてしかし。流石なのかその肉厚の図体を完全に潰し切るには至らず。89装甲戦闘車の車体はトロルその残った厚み分、若干傾いている。
 が。そんな事は些細な事と、89式装甲戦闘車はそのトロルを下敷きにした体勢のまま、砲塔を旋回し機関砲の俯角を取り。
 突然の事態に呆けて動きを止めていた残る二体のトロルに――直射で機関砲弾を吐き叩きつけた。

「――ピョッ」
「ポッ゜――」

 貫通と炸裂の暴力は。
 鈍重で堅牢なイメージのトロル達に、反した可愛らしくすら錯覚する、声にもならない音を上げ鳴かせ。粉微塵の血飛沫と肉片に変じさせた。

「っとォッ!?」
「レスキュー現着だな」

 盛大な演出で現れた89式装甲戦闘車と、その間髪入れずの火力投射に。敢日は若干驚く声を零し、制刻は淡々とふざけた様子で呟く。

「はッ!?」
「あんだありゃッ!」

 同時に、中二階に上がったサウライナスやデュラウェロからは。衝撃の演出で姿を現した89式装甲戦闘車に、驚愕する声が発せられ降りて来る。

「慌てるな大丈夫だッ。あれが呼び寄せた俺等の応援だッ」

 そんなサウライナス等に向けて、敢日は落ち着かせる声を発して上げる。

《――エンブリーよりエピック、彼我を送れ。弾くのは、西側に詰まってる連中でいいのか?》

 そんな所へ、それぞれのヘッドセットより通信音声が響く。無駄な軽口を嫌う、端的でかつ不愉快そうな色のそれは、89式装甲戦闘車車長の髄菩のもの。
 実の所は無人観測機から受け取った映像情報で、大まかな状況と位置関係はすでに掌握しているのだが、念を押して確認を取るために寄こされたそれ。

「あぁ、合ってるエンブリー。敵さんは西側、東の分岐側は俺等とフレンドだ、間違っても弾いてくれるな」

 寄こされた通信に対して、制刻がそれを肯定する言葉を返す。

《了――》

 それにまた返され来るは、髄菩のまた気分の悪そうな、愛想のない了解の一言。
 そしてその一応の確認のやり取りの最中に、89式装甲戦闘車の砲塔は、言うが早いかすでに再びの旋回動作を終えていた。その向く先は、町路を阻み構えられたモンスタ達のバリケード陣地。
 そして。向けられた90口径35機関砲KDEの咆哮が、再び唸り声を上げた――


 投射された35mm機関砲弾の火線が、ほぼ正面のバリケード陣地に飛び込み――炸裂。バリケードの一角を、ないしその奥側に潜み固まっていたモンスター達を。貫き、そして弾き散らかした。

「――薩来、そのまま端まで浚えろ」

 その様子を、砲塔上キューポラから目線までを最低限出して、視認するは車長の髄菩。
 そして髄菩は続く行動を、砲手の薩来に紡ぎ指示。

「了。フフ――」

 砲主席の薩来からは了解の返事と、そして零された気味の悪い囁きが聞こえ。再び機関砲が唸り――先のモンスタ達へ飛び込み、弾き巻き上げた。
 同時に砲塔はゆっくり旋回を開始。それに伴い機関砲の火線は薙ぎ流れるように動き、先のモンスター達をまたバリケード事、舐め攫えるように消し飛ばしていった。

「――ッ、ウザいな」

 そんな光景を前方に観測しつつも。髄菩は同時に近くへ飛来し掠める物体や、装甲戦闘車の装甲各所を叩く乾いた音に、不愉快そうに言葉を零す。
 それらは飛び来る矢撃や杭に、魔法現象に生み出される鉱石の針が成す物。
 正面の町路を塞ぐバリケードこそ、先の今ですでにその原型をほぼ無くしつつあったが。その両側に立ち並ぶ家屋にもまたモンスター達が籠っている様子であり、そこからいくつもの攻撃が飛来。装甲戦闘車の近くを掠め、時にはその装甲を叩いていた。

「薩来、建物にも詰まってる。続け――」

 それを見止め。髄菩は不愉快そうな声で、続け建物に向けての火力投射を、薩来に指示しようとした。
 ――しかし、それを遮り意識を引くように。
 89式装甲戦闘車の、髄菩の背後より真上を。何かが切り裂くような感覚を伝えながら、立て続け飛び抜け。
 そして正面左側方の家屋建物、その上階。モンスタ達が立て篭もり武器を突き出していたその一角が、盛大に爆ぜ飛んだ。

「ッ――」

 その唐突な現象光景に少し目を剥きつつ、しかし髄菩はその正体をすぐに察し。車長シート上で身を捻り、視線を後方東方へと向ける。
 髄菩の視界が収めるは、背後に在る二股分岐路の一帯。
 分岐南手には制刻等が駆け下りて来た階段が見え。しかし髄菩はすぐに分岐を東北東へ延びる、もう一方の町路の先目と視線を流し向ける。
 その町路は緩やかな坂を作り、分岐路まで接続している。そしてその少し先の町路上に。こちらに向かって降り進行する、別の鋼鉄の存在――76式装甲戦闘車の姿があった。
 そして遠目にも、76式装甲戦闘車が車上に備える30mmリヴォルヴァーカノンが。少しの仰角を取ってその砲口をこちらに向けている様子が見える。
 疑うまでもない。今しがた飛来しこちらの真上を飛び抜けたのは、76式装甲戦闘車からの火力投射、機関砲弾。それがモンスター達の籠る家屋に飛び込み、その内で炸裂。その暴力を持って散らかし弾き、モンスター達を家屋ごと破片とそして血肉片へと変えたのであった。

「チッ」

 さらに一呼吸置いて、髄菩等の真上を再び機関砲の火線が通過。また別箇所の家屋へ薙ぐ様に飛び込み、その炸裂が家屋と籠るモンスター達を弾き屠る。
 しかしそんな新たな味方からの火力投射に、髄菩は反して歓迎しない様子で、顔を微かに顰めて舌打ちを打つ。

「――エンブリーよりハルボベイ、こちらの頭上越しに投射をするなッ。際どくて危険を有するッ」

 そしてヘッドセットに向けてやや荒げた言葉で。76式装甲戦闘車の無線識別を呼び、そして立て続けにそんな要請を飛ばした。
 こちらの頭上を越えての機関砲の投射を危なっかしく。そして本音の所やや鬱陶しく思っての要請であった。

《――失礼。一つでも多く火力が必要な、ハードな状況に見えたものでな》

 その髄菩の要請に、飄々と悪びれない声色で返信が返ってくる。76式装甲戦闘車の車長の太帯のものだ。

「無理してまで叩き込む程じゃない、まだこちらで事足りる。必要なら別途要請する、そちらは後ろ周囲の警戒カバーを願います」

 寄こされた太帯からのそれにまた、髄菩は状況がまだ差し迫ったものでは無い事を告げ。そして最後にバックアップを要請する旨を、申し訳程度の敬語で取り繕った言葉で飛ばした。

《了、お節介だったな――》
「終ワリ――ハァッ」

 太帯からは少しふざけた色で了解の旨が寄こされた。髄菩はそれには取り合わずに通信を終える定型を発して無線を切り、そして悪態交じりの溜息を吐く。そして視線を後方のまた別方――先に89式装甲戦闘車自体が、壊し踏み出して来た家屋を見れば。
 その家屋側面の倒壊部、空いた大穴から。追い付いてきた随伴の3分隊の隊員各員が、飛び出し踏み出し現れ。周囲一帯へ展開配置して行く様子が見えた。
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