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チャプター2:「凄惨と衝撃」

2-20:「Armored&Heavy Attack」

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「マジかよ……」
「うっそでしょ……?」

 制刻等が抑え陣取った分岐の家屋内。その中二階の上から、そこに配置したデュラウェロやサウライナスの声が零され聞こえてくる。
彼等のその視線は窓から外部の先へ向けられ、それぞれの目が映すは町路上にトロルを踏みつけつつ鎮座した89式装甲戦闘車。そしてその向こうにある、最早完全崩壊したも同然のモンスター達のバリケード陣地。
 彼等の声はその光景に。そして現れた89式装甲戦闘車により、それも僅かな時間でそれが成された事実に、驚き零されたものであった。

「ッーー、凄いな……」

 一階ではジューダも、口を鳴らしつつ驚きの声を零している。ジューダにあっては一度はその威力を見ていたが、それを存在を知った上で改めて目の当たりにしたことで、その驚異さを再認識したのであった。

「様々だな」

 一方ジューダの横では、制刻が同じく外に視線をやりつつ淡々と零している。また町路に面する扉の傍では、そこに取りついた敢日が、開け放たれたドアより外へ手招きする様子を見せている。
 その意図と相手を示し答えるように、直後には迷彩服姿の人影。3分隊に付随していた機関銃班の隊員が、二名程駆け込んできた。

「上を借ります」
「頼む」

 隊員の内の一名は駆け抜けざまに敢日に一言告げ、敢日の託す返事を受けながら、中二階へと階段を駆け上がっていく。

「ゴメンよ、邪魔するよ」
「ォぉッ?」
「わぁッ」

 駆け上がった隊員等は、申し訳程度の断る言葉を紡ぎながら、そこ場に居たデュラウェロやサウライナスの傍へと駆け込み割る。デュラウェロ等は唐突のそれに少し驚き戸惑う言葉を上げたが、隊員はそれを気にする様子も無く、抱えていたFN MAGを窓より突き出し据えて構え。
 先に散漫に残る敵性モンスター達を見止め、それを標的に引き金を引いた。

「任せていいな」

 上階から届く機関銃の唸り声を聞き。制刻はこの家屋を機関銃班に引き継いでいいだろうという判断を口にしつつ、カバーを外れて近くの扉から町路へと出る。
 町路上、周囲では到着した3分隊が散開展開していく様子が在り。一部はすでに各所へカバー配置、残敵を見止めての戦闘行動を始めていた。

「制刻予勤」

 それを見ていた制刻に声が掛かる。見れば、3分隊長の峨奈がこちらへと歩んでくる姿が見えた。

「どうも、いいタイミングでした」

 そんな峨奈を見止め、制刻は増援到着を感謝する言葉を、しかし不躾な色で発する。

「進捗は?」
「無事な住人は、まだ発見ナシ」

 峨奈からは端的に状況報告を求める一言が寄こされ、制刻はそれに返答。この場合〝無事な住人〟とは逃げ身を隠しているらしき人々を示し。モンスターに降り嬲られる末路を辿った住民は勘定に入っておらず、そして制刻も峨奈もその解釈であった。

「それと一報しましたが、兄ちゃんの身内と合流してます」

 続け発し、制刻は背後へ視線を向ける。背後には周囲を少しの困惑の様子で眺めつつ、制刻に丁度歩み追い付いてきたジューダの姿があった。
 町路の先で、89式装甲戦闘車がほぼ原形を失ったバリケードを踏み潰し越える様子や。坂路を降って来た76式装甲戦闘車、及び随伴の14分隊が分岐路に到着、現れる様子。さらには先にこじ開けられた家屋の大穴から、追い付くように高機動車と本部班が乗り出してくる様子。
 そしてその各員各所により展開される戦闘や、それを目の当たりに目を剥き唖然としているユーティースティーツ族の各々等
 周りにはそれぞれの様子動きが見える。

「ジューダさん、そちらは皆さん大丈夫ですか?」
「あぁ、えぇ。こっちは皆健在です」

 その最中で。峨奈はそのジューダに尋ねる声を向け、ジューダはまた戸惑いつつも、それに大事無い旨を答える。

「何よりです――制刻予勤」

 峨奈はそれに答え、それから制刻に視線を戻し発する。

「町へ踏み込む前に観測した、モンスター共が蠢いていた広場は掌握しているな?再度の観測の結果、その近辺に多量の待機戦力や物資の積載の様子が見えた。おそらく連中のここでの拠点と見える、コマンドよりそこを抑えろとの指示を受けている」

 そして説明の言葉を紡ぐ峨奈、それはこれよりの作戦行動を示すものだ。

「そんじゃ、続け住人を探しながら、そこを潰しに向かうカンジで」

 それを受け聞いた制刻はまた不躾な色で、これより取るべき行動形態をざっくばらんに口にして見せた。

「それでいい」

 峨奈もそれを端的に肯定。

「兄ちゃん達は、引き続き一緒に来てもらう方向で問題ねぇか?」

 そして制刻は振り向き発し、ジューダに彼ら側の意向を確認する。

「あぁ……最早、君等からすれば足手まといかもしれないが、皆の捜索を止めるわけには行かない。同行させてほしい」

 ジューダは困惑と難しさのない交ぜになった色を浮かべつつも。そう答え、そして願う旨を紡いだ。

「了解です。あなた方の方が地の利等には長ける、お力添えをいただければと思います」

 峨奈はそれを受け入れ、そしてこちらからも協力を要請する言葉を返す。

「間もなく行程を再開します、ご準備を。制刻予勤も、頼む」

 そして制刻とジューダのそれぞれに促す言葉を紡ぐと、峨奈は身を翻して歩んでいった。
 その先で、遅れ到着し駆け寄って来た本部班の鷹幅二曹と合流し。美少年顔にしかし難しい色を作って何かを発する鷹幅に、峨奈が反する飄々とした様子で何かを説明する様子が見えた。
 また背後では76式装甲戦闘車が分岐路を抜け、先の89式装甲戦闘車に合流して後ろに着き、縦隊を組む様子を見せている。
 ちなみに76式装甲戦闘車はここに来る途中まで、達磨にしたオーク頭達の体をその正面に張り付けていたが。友好的なオーク等であるジューダ等との接触の報がそちらに届き、その上での印象への配慮から、オーク頭達は途中で捨てられそして始末されていた。
 一応、その辺りの一線を配慮する考えは持ち合わせていた。

「んじゃ、続けつつ向かうとしようぜ。あんた等の方も、再編成しといてくれ」
「あぁ、承知した」

 そんな周囲の様子を見つつ、制刻はジューダに促す言葉を紡ぎ、ジューダもまた少し戸惑いを残す色ながらもそれを了解する。

「再開するッ――!」

 そして峨奈より行程再開の指示の声が、周囲の各位へ向けて発し上げられた。



 3分隊と14分隊と本部班、そして各装甲戦闘車と車輛が合流した半個装甲小隊は。町を東西に延びる町路を、西に向けて進行を開始した。
 雑把に縦隊を組んだ二輛の装甲戦闘車が、そのキャタピラ音とエンジン音を響かせ唸らせて走破を始め。さらに少し距離を取って高機動車が追従。さらに車列の周囲に各分隊が散開展開し、随伴する。
 そして進行を始めながらも、同時に戦闘行動もすでに始まっていた。
 敵性モンスター達の本拠点らしき場所はここからさほど遠くはなく。その位置関係上、周辺には潜みないし居座っている敵との接触に、事欠かない状況であったのだ。
 町路に沿い並ぶ家々。その窓からはオーク達が矢や火炎弾を放ち。扉や路地からはまたオークやゴブリン、時にはトロル達が飛び出し現れ、襲撃を仕掛けて来た。
 しかし――それらはいずれも、装甲小隊の前に無力であった。
 随伴の各分隊、班の隊員の装備火器が。現れたモンスター達をその端(はな)から、端(はし)から撃ち退け、屠ってゆく。
 そして89式装甲戦闘車の35mm機関砲が、76式装甲戦闘車の30mmリヴォルヴァーカノンが。町路の両側に立ち並ぶ家々にその砲口を向け、唸り機関砲弾を薙ぐ様に叩き込み、潜むモンスター達を家屋ごと弾き浚えてゆく。
 そして屍と果て、路上に転がり散らばったモンスタ達を。そのキャタピラで潰し乗り越え、容赦なく押し上げ進んだ。

「――すごい……」
「怖いまでだな……」

 そんな装甲小隊の。最後尾の高機動車に散開して随伴するは、ジューダ等ユーティースティーツ族の皆。その内の女オークのサウライナスやトロルのハープンジャーが、感嘆と畏怖の混じる言葉を零している。
 比類なき火力を展開しながら押し進む装甲小隊に、彼等のそれは最早呆れに近い驚きのものであった。

「あまり前に出過ぎないでください!」

 そんな彼等に少し前より高く透る声が届く。先には声の主である鷹幅の小柄な姿が見える。その彼からの、あくまで部外の者であるジューダ等への、必要以上の危険を伴う行動を控えるよう求める言葉だ。

「峨奈三曹!3分隊(そちら)の付随の機関銃班を、左手家屋の上階へ!」
「すでに上がらせました」

 この場の最高階位者である鷹幅は、並行して各所各員に向けて行動を指示する言葉を飛ばしている。

「選抜射手も高所へ配置させろ、適切な位置へ!讐予勤――!」

 忙しない様子で、指揮下の各所へ指示命令の声を飛ばす鷹幅。

「通信手!2、6両分隊と現在位置の調整を――……ッぅ!?」

 その鷹幅の言葉をしかし遮る様に。唐突に大きな破壊、崩壊音が前方から響き届いたのはその時。そしてそれを辿り視線を向けた鷹幅は、そこに見えた物に目を剥いた。
 装甲小隊の進路の先。町路上に沿い並ぶ家屋の一角が、その内より破壊され崩れている。そしてそこよりヌルリと姿を現したのは、巨大で気色の悪い物体――十数mにも及ぶ体長と、巨木のような胴の太さを持つ軟体生物。触手状のモンスターであった。

「ッ!」

 ここまでも何度か目にしてはいたが、改めてのその不快な見た目の脅威を前に、鷹幅はその整う顔を顰める。

「対応しろ!各車火力ッ、対戦車班も――」

 そしてそれに対応、排除に当たるべく。周囲に指示要請の言葉を発し上げ掛ける鷹幅。

「いやッ、任せてほしい!」

 しかし、また遮る様に。今度は傍からそんな別の言葉が上げて寄こされたのはそのタイミング。
 明かせば、それはオーク等の内の一人。片眼鏡が特徴のロードランドの声。

「は?」

 唐突なそれに、思わず呆けた声を上げてしまう鷹幅。そして声を辿り視線を向けたタイミングで見えたのは、声の主であるロードランドが飛び掛けだしてゆく姿であった。

「えッ、ちょ――ッ」

 それに制止の声を上げ掛けたのも一瞬。直後にはさらにロードランドに続くように、ジューダやサウライナス、ハープンジャーが続き駆けだしてゆく。

「ちょっと、皆さん!?」

 唐突に行動を見せたジューダやロードランド等に、しかし彼等に危険に身を晒して欲しくない鷹幅は、戸惑い慌て声を掛ける。

「なにぞプランがあるようだな」
「一応、お守しとくか」

 しかしジューダ等は止める間もなく前方へ行ってしまい。どころかさらに近くを同行していた敢日と制刻がそんな言葉を交わし、そして敢日はGONGを伴ってジューダ等に続き駆けだす。

「ちょ――」
「兄ちゃん等は俺等でカバーします。そっちは周辺の警戒カバーを願います」

 そして最後に制刻は、状況に追いつけていない鷹幅に端的に行動を告げると。ノッシノッシとジューダ等や敢日を追って進んでいった。



「開けてくれ、下がってくれッ。俺等でやるッ」

 敢日が周囲の隊員へ、促す声を発し上げながら。
 ジューダ等と続く追う制刻等は、装甲車列の横を、散開する隊員等の間を駆け抜けてその前方先へと出た。
 その前方すぐ先に見えるは、倒壊した家屋より頭に値する先端をもたげて、のっそりと這い出て来る巨大な触手モンスター。さらに複数多種の小~中型触手モンスターを伴い、そして触手モンスターを従え操っているらしい、オーク始めモンスターも何体か見える。
 その巨大触手を中心とするモンスター達は、町路上に装甲小隊に気付き見つけた様子を見せ。次にはそのいずれもが、攻撃襲撃の前挙動を見せた。
 だが、その直前に。
 その目の前、ほぼその懐へと飛び込むように駆け込んだのは、ジューダ等とそして制刻等であった。
 先頭を切って飛び込んだのはロードランド。彼は巨大触手モンスター達のやや側面を取る様に踏み込み、それと相対。ジューダ等はそれを守り援護するように、続け駆けこんで布陣。さらに制刻等はそれに合わせて彼等をカバーできるように、かつそれぞれの戦闘スタイルに都合の良い形で位置取り配置。
 対するモンスター達は、自分達の行動を阻害し目の前に現れた存在等に、一瞬戸惑う様子を見せるも。
 すぐに害意をこちらへと向け、そして一斉に攻撃の挙動を見せた。
 ――が。モンスター達のその様子動きは、直後に一変した。
 大型触手モンスター、そして伴う小~中の触手モンスター。触手達のそのいずれもが、突その身をビクリと震え跳ね上げ。そしてまるで何かに酷く怯え臆するように、その体を退け始めたのだ。
 その触手達の注目の先にあるもの、それはロードランドの姿だ。
 彼はその太い片手を。まるで「動くな」と命ずるように触手達に差し出している。そしてしかし注目すべきは彼の口元。彼のオーク特有の猛々しい口に、しかし反した綺麗な形で軽く咥えられる小さな筒状の何かがある。
 それは笛。小さな笛がロードランドの口に加えられ、そして彼の息が静かに吹き込まれていた。
 正しく言えば、息を吹き込まれながらもその笛から音色はまるで聞こえてこない。しかし、触手達はいずれもその姿のロードランドを前に、あからさまに臆し狼狽している。その原因が、ロードランドの行動にある事は想像に難くなかった。

「犬笛みたいなもんなのか?」

 その様子光景に。ネイルガンを構えカバーに付いている敢日が、それを維持しつつもジューダに尋ねる言葉を紡ぐ。

「効果は反対の物だが――あの笛の音色は触手獣達にしか聞こえない。そして触手達はその音を酷く嫌い恐れ、怯み臆する」

 尋ねる言葉にジューダは補足を入れつつも肯定、そしてその効果を説明する。その間にも触手達は面白いまでの怯えの様子を見せ、さらにはその体を振るえ悶えさせる異常を見せ始める。

「で、弾いていいのか?」
「あぁッ、構わない。これが隙だ」
「エピックだ。叩っ込んでいいそうだ――」

 今度は制刻が尋ね、ジューダはそれに肯定。それを受け、制刻は間髪入れずにヘッドセットに向けて紡ぐ。
 その一拍置いた直後に、後方で乾いた破裂音が立て続け上がり聞こえ――そして巨大触手モンスターの体上で、その巨体を縫い付けるように小爆発が立て続け上がった。
 最早正体は明らかだろう、それは機関砲の火力投射。二両の装甲戦闘車の内、76式装甲戦闘車の30mmリヴォルヴァーカノンが投射し寄こしたものであった。
 叩き込まれ炸裂した機関砲弾にその巨体を貫き弾かれ、巨大触手モンスターがその体を跳ね上げたのも一瞬。直後に巨大触手モンスターはその巨体を支えを失い崩し、足元に居た小~中モンスターやオーク達を数体巻き込み下敷きにし、ドシンと地面に沈んだ。

「う、ウワァぁ!?」
「な、ナんで触手が……ゲゥッ!?」

 その事態に狼狽の声を上げたのは、触手達を従えていたオーク達モンスター。だがその声は、直後には悲鳴へと変わった。
 敢日のネイルガンやサウライナス等の弓撃が、オーク達や残る小~中型触手達を狙い襲い、排除を這めたのだ。
 さらには制刻とGONGが踏み入り、手近なオーク達や触手を鉈なりアームなり、あるいは蹴り潰すなりで退け屠り。
 間もなくして大型触手モンスターを中心に襲撃して来た一群は、屍となり揃いその一角を散らかし彩った。

「沈んだ、静かんなった」
《見えてるよ、そっちに進める》

 敵一群の無力化の報を、ヘッドセットで後方に送る制刻。通信からは76式装甲戦闘車車長の太帯の声で、返答と伝える言葉が返り届く。

「便利なモンだが――それが普及してるようなモンなら、この町みたいな惨事は起こってないよな」
「あぁ、そうだ――」

 その傍らで。敢日は死骸となったモンスター達に視線を降ろしつつ、ジューダにまた尋ねる言葉を送る。ロードランドの使用して見せた笛に関する、諸々の疑問を聞くもの。
 ジューダの回答によれば、今の笛はある龍種のモンスターの骨から削り出したものであるらしい。その特性、入手や加工の難さからそれ自体が希少なものでもあり。
 さらには適切な吹き方をしなければ効果が望めないどころか、下手をすれば触手の嫌悪を煽り過ぎて暴走させる危険をも有するため、使用者の技量も要求されるものとの事であった。

「世に出回っていれば、もっと助かる命があったかもしれない……」
「都合良くはいかないか」

 どこか悔いるように零したジューダに、敢日は少し苦い色で言葉を返した。

「――制刻予勤!皆さん!まったく際どい事を……!」
 
 そのやり取りが区切れた所を図ったかのように、後方より透る声が飛んで来る。振り向けば鷹幅の姿が見え、彼はまた難しい顔を作って駆け寄って来た。

「あぁ、鷹幅二曹。タコモドキは沈めました」

 そんな鷹幅に向けて、制刻は淡々と報告の言葉を上げる。

「まったく……」

 鷹幅の気持ちを知ってか知らずかのその言葉に。鷹幅はその美少年顔をしかし胃が痛そうに染めて、また呆れ交じりの言葉を発した。

「不思議なものだな」

 そこへ少し遅れ、峨奈が続き歩み合流して来た。同時に呟かれたのは、今しがた触手モンスター達を無力化して見せた現象に言及するもの。

「特殊な笛の効果だそうで。材料や使用法から、広く出回ってるモンじゃないと」

 そんな峨奈に、敢日が簡単に説明回答して見せる。
 峨奈はそれに「そんなオチだろうな」と返しつつ、同時に腕を翳し流す動作をしてみせる。それは装甲車輛車列に向けて示すものであり、それを受けて合わせ89式装甲戦闘車が、続いて76式装甲戦闘車が。制刻や峨奈やジューダ等の背後側面を荒々しいキャタピラ音を立てて通過して行き、その少し先で停車して警戒態勢に入った。

「ちょうどたった今、指揮所から追加情報と警告が寄こされた」

 装甲車列に続いて各分隊の隊員が駆け抜け、移動から再展開再配置をしていく中で。峨奈は制刻等に向けておもむろに発しながら、手にしていたタブレット端末を各々へ翳して見せる。

「この先に分岐路がまたあるが、そこで敵性戦力の集結が確認された。観測の限りでも、これまでよりも脅威度が高い事が予想される」

 タブレット端末の画面には、無人観測機が送ってくる町の上空映像。その今説明があった分岐路であろう一帯を捉えたものが映っている。パッと見ただけでも、その一帯に多数の敵性モンスターが蠢いている様子が判別できた。

「ちょいと骨が折れそうだな」

 それを受け、軽口と倦怠感交じりの言葉を飛ばすは敢日。

「敵の激しい火力と抵抗があるだろう。油断、慢心は決してしないように――鷹幅二曹、他には?」
「特別には無い、引き続き心してかかるように――制刻予勤、皆さん。意見、質問は?」

 鷹幅と峨奈の両陸曹は、告げると各々へ視線を流し、そう尋ねる言葉を紡ぐ。

「特には」
「大丈夫だ」
「我々も、心して掛かるよ」

 それに制刻は不躾に。敢日やジューダ等もそれぞれ了解の言葉を返した。
 困難にこれよりぶち当たる事は誰もが重々承知だが、その上で誰からも拒否拒絶の言葉が上がる事は無かった。
 避けては通れぬ道、戦い。潰しておかねばならぬ敵だ。
 端から拒絶の気などそれぞれには無く、心構えは出来ていた。

「――では、再開する」
「いいでしょう」

 峨奈が締めくくる様に発し、制刻がまた不躾に端的に答える。
 そして装甲小隊は、行程を再開した。
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