―異質― 邂逅の編/日本国の〝隊〟、その異世界を巡る叙事詩――《第一部完結》

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チャプター3:「任務遂行。異界にて」

3-5:「オイル・サーチャー」

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 時系列は少し遡り、場所は〝月詠湖の国〟へ入った燃料調査隊の元へと移る。
 長沼二曹の率いる燃料調査隊は、長いその行程を、道中休憩や要員の交代を行いながら消化。日中をほぼ丸々掛けた後に、目的の町である〝荒道の町〟へと到着していた。
 しかし、案の定何の騒ぎも無く町へ入る事は叶わず、町の入り口ではこの町の警備組織と思しき人間達が、慌ただしく動き回っている。そして誰もが、町の入り口から少し距離を取った位置で足止めを食らっている、燃料調査隊の車列へ警戒の目を向けていた。

「皆さん、お話をさせてください!私達は、日本国陸隊の者です!この町へは、物資調達が目的で訪れさせていただきました、決して危害を加える者ではありません!」

 車列の先頭では、長沼が一人その場に立ち、こちらへ警戒の目を向けている者達へ訴えかけている。長沼こそ両手を掲げて、非武装である事を町へ向けて示しているが、その背後では各車各員が、万が一に備えていた。
 指揮通信車の上では矢万はターレットの12.7㎜重機関銃に着き、指揮通信車の横で待機している小型トラック上では、竹泉がMINIMI軽機に着いている。

「町に入るだけで、いちいちこの騒ぎかよ」

 町の入り口の様子を照準越しに見ながら、竹泉は愚痴を吐く。

「彼等、装備が統一されてないな……正規兵じゃないのか?」

 双眼鏡で入り口に並ぶ者達の格好を見て、疑問の声上げる河義。

「この町は駐留兵がいねぇようで、代わりに自警団が組まれてるって話です」

 その疑問に、制刻が前もってフレーベルから聞かされていた情報を告げる。
 やがて町の入り口から、その自警団と思しき何名かの人間が、長沼の元へと駆け寄って来る。そしてその代表らしき人間と長沼は、少しの間何らかの会話を交わす様子を見せる。そしてしばらくした後に、長沼は車列の方へと戻って来た。

「どうでしたか?」

 小型トラックの助手席に座っていた河義が長沼に尋ねる。

「あぁ、私達が危害を加える者では無い事は理解してもらえた。ただ、町へ車輛ごと入る事は、遠慮してほしいそうだ」
「あー、そんなこったろうと思った」

 長沼の説明に、竹泉はそんな声を上げる。

「幸い、冒険者等の往来も多い事から、武装に関しては特段制限は無いそうだ。車列はこの場で待機し、何名かで町には入り、情報収集を行いたいと思う」



 車列の見張りを矢万を始めとする各車輛搭乗員に任せ、長沼はその他の各隊員から要員をピックアップ。一個分隊を編成し、町へと入る事となった。
 最初にコンタクトした自警団からの話によると、町で情報が得られるであろう場所は、役所、商店区画、酒場の三か所。分隊はさらに三手に分かれ、それぞれの場所で情報収集を行う事となった。
 そして今現在、酒場を担当する事となった制刻率いる一組四名は、酒場を目指して町路を進んでいた。

「よぉ、わざわざハチヨンまで持ってくる必要があったか?邪魔臭くてしょうがねぇ!」

 組の最後尾を行く竹泉が、自身の肩から下がる84㎜無反動砲を鬱陶しげに見下ろしながら、呟いている。

「対戦車隊員が対戦車火器を持ってねぇでどうする」

 呟く竹泉に対して、制刻が淡々と返す。

「どうせこんな町中でぶっ放す機会なんざねぇよ」
「あぁ、ぜひそう願いたいね」

 愚痴を吐き続ける竹泉に、適当な返答を返す制刻。

「へい、自由。アレじゃねぇか?」

 そこへ多気投が声を挟む。多気投が指し示したその先に、酒場と思しき建物があった。
 内部の喧騒が外にも漏れ聞こえており、時折出入り口から酔っぱらった客が出て来る。
 そして周囲には、騒ぎ立てる者達や路端で眠りこけている者などが見受けられた。

「あーぁ、お気楽で羨ましい限りだぜ」

 竹泉はそんな周囲の酔っ払い達を端眼に見ながら吐き捨てる。

「行くぞ」

 竹泉の愚痴は聞き流し、制刻は酒場の入り口扉を上げて、中へと踏み入った。
 零れ聞こえて来ていた賑やかな音の発生源たる酒場の内部は、一層の喧騒に包まれていた。
 店内に並ぶテーブルはどこも客で埋まり、彼等は思い思いに騒ぎ立て、会話を交わし、酒の時間を楽しんでいる。
 そんな空間へ突如として踏み込んで来た、迷彩服に各装備という異質な姿の制刻等は、大変に悪目立ちし、注目を集める事となった。しかし当の本人等は集まる視線を意にも介さず、席を、客をかき分けて行く。そしてその先頭の制刻は、店のカウンターの前へと立った。

「……い、いらっしゃい……ご注文は……?」

 カウンターの奥側に立つ店の店主は、眼前に現れた異質な格好の、そして何より格好を差し引いても酷く禍々しい顔立ちの制刻に、気圧されながらもお決まりの文言を発する。

「情報だ。地下油ってブツの出所を探してる。この辺で採掘されてると聞いて来たんだが、何か知らねぇか?」

 そんな店主に対して、制刻は目的をはっきりと端的に述べた。

「地下油……かい?物は知ってるが、出所まではな……。悪いが、内は情報屋はやってないんだ」
 店主は戸惑いながらもそう答える。
「ひょっとしたらお客の中に知ってる人がいるかもしれない、自分達で聞いて回ってくれ」
「そうかい、ありがとよ」

 店主にそう言われ、制刻はそこで会話を切り上げた。

「自分で聞け、ですか」

 制刻の後ろで会話を聞いていた策頼が呟く。

「手あたり次第、聞いてみるしかねぇな」

 制刻は店内を一度見渡し、聞き込みに掛かろうとする。

「おぉ~、なんだなんだぁ?妙な格好の奴等がいるじゃねぇかぁ~」

 背後からそんな声が聞こえて来たのは、その時だった。
 見れば、店の角に置かれた席に、一人の男の姿があった。酷く酔っているらしいその男は、その赤ら顔ににやにやとした表情を浮かべている。

「あぁ、んだてめぇは?何気持ち悪ぃ面で見てやがる?」

 そしてその酔っ払いの男に対して、竹泉が突っかかってゆく姿が見えた。

「そりゃぁ見るだろうよぉ、そんなおもしれー格好してりゃなぁ。ひゃひゃ、見れば見る程おかしな格好だぁ」

 赤ら顔で竹泉を煽る酔っ払いの男。

「――そんなら、もっとおもしれぇモンを見せてやろうか?」

 眉間に青筋を浮かべて発する竹泉。そして竹泉の手は、彼の弾帯から下がる、対戦車火器射手用の護身用拳銃が収まるホルスターへと伸びる。

「やめろ竹泉」

 しかし直後に背後から響いた制刻の声が、竹泉の行動を差し止めた。
 制刻は竹泉の肩を掴んで彼を強引に下がらせると、入れ替わりに酔っ払いの男の前へと出る。

「お、おう……?」

 歪で禍々しい外観の制刻の登場に、酔っ払いの男はにやけていたその表情を、困惑に染める。

「兄ちゃん、用件があるなら俺が聞く」

 対して、端的に酔っ払いの男に告げる制刻。

「な、なんだアンタぁ……?や、やろうってのかぁ……?」

 しかし異質な姿の制刻の登場は、返って酔っ払いの男の警戒心を刺激したのか、男は困惑しながらも虚勢を張り、こちらへとすごみを利かせて来る。

「おい、キリエ!何をしてやがる!」

 そこへ声が飛び込んで来たのはその時だった。
 制刻と酔っ払い男が同時に視線を横に向けると、そこに一人の中年の男の姿が見えた。
 中年の男はツカツカとこちらまで歩み寄って来ると、まずは酔っ払いの男を睨みつける。

「お、親方……」
「お前、またよそ様と面倒事を起こしたのか!?」
「いや、その……すいやせん……」

 その中年の男の気迫に、酔っ払いの男はその顔から赤みを消し、謝罪の言葉を述べる。

「ったく――で、あんたらは?コイツと何があったんだい?」

 酔っ払いの男を叱りつけた後に、親方と呼ばれた中年の男は制刻等へと視線を向ける。
 酔っ払いの男の素行に覚えがあったのだろう、まず酔っ払いの叱りつけた親方の男だったが、しかし制刻等を見るその視線にも、若干の警戒の色が含まれていた。

「あぁ、そっちの兄ちゃんと、ウチのボケの間でつまらん悶着があったようでな」
「おい。誰がボケだ誰が」

 親方の男に対する制刻の説明の言葉に、背後の竹泉から文句の声が飛ぶ。

「やめとけ竹泉。酔っ払いに素面で突っかかってったお前の落ち度だ」

 そんな竹泉を、策頼が冷静な声色と共に差し止める。

「ちとファーストコンタクトが悪かったが、そちらさんと事を構えたいわけじゃねぇ。悪かったな」
「そうか……いや、それはこちらも悪かった。どうせコイツがまた、つまらん絡み方でもしたんだろう」

 制刻の言葉を聞いた親方の男は、ため息と共に再び酔っ払いの男を睨む。睨まれた酔っ払いの男は「へへ、すいやせん……」と誤魔化し笑い混じりの謝罪を口にした。

「……しかし、気を悪くしないで欲しいんだが、あんた等ずいぶん変わった風貌をしてるな……」

 親方の男は、制刻等をしげしげと観察しながら呟く。

「少なくともこの辺じゃぁ見ない格好だ。一体何者だい?」

 親方の男の質問の声に、制刻はセオリー通り、自分達が日本国の陸隊である事を名乗って見せる。しかしやはり、それだけでは相手の疑問を解決するには至らず、親方の男は訝し気な顔を浮かべて見せた。

「ニホン……の陸上部隊?軍隊か?そんな国は聞いた事がねぇが……」
「ま、遠くの国だと思っといてくれ――でだ、俺等からも聞きたい事があるんだが、いいか?」
「あ、あぁ。なんだい?」
「俺等は、原油――こっちじゃ地下油って呼ばれてるブツを探してるんだ。この辺が出所だと聞いてきたんだが、あんた、なんか知らねぇか?」
「地下油?それも出所?」

 制刻の言葉に、親方の男は、またも訝し気な表情を作る。

「あぁ、できればそいつが採掘されてる場所を知りてぇ」
「また妙なモンを探してるんだな……地下油の出所か、一応知ってはいるが……」

 親方の男は、しかしそこで言い淀む。

「どうかしたのか?」
「いや……申し訳ないが、今のアンタ等にそこを紹介する事はできない」

 不可思議に思い尋ねた制刻に、親方の男はそう返した。

「あぁん?そりゃ、どういう事だよ」
「やめろ竹泉。――よければ、理由を聞かせてくれねぇか?」

 制刻は荒げた言葉を上げた竹泉を差し止め、そして親方の男に尋ねる。

「その地下油の出所は個人所有領で、そこではその領の所有主が静かに暮らしてる。それで……」

 親方の男は再び言い淀む。

「成程。そんな所へ、俺等みたいな得体の知れない集団が押し掛けて、なんぞしでかさねぇかを懸念してるわけか」

 制刻は、そんな親方の言葉の先を察し、そして変わりに発言する。

「防犯を考えれば、まぁ当然ですかね」

 そして背後に立つ策頼が呟いた。

「親方さんよぉ、アンタの懸念も最もだ。だが俺等も荒事を起こすつもりはねぇ、あくまで交渉がしてぇんだ。なんとか、その所有者とコンタクトする手段はねぇか?」
「そうだな……」

 親方の男は難しい顔を作り、そして答える。
 親方の話によると、コンタクトの方法は二つ。
 その個人領所有者の元へは、各種手続きや安否確認のために、時折役場から使いの者が行っているという。その役場からの使いに言伝を頼むのが一つの方法。
 もう一つは、その個人領所有者はこの荒道の町まで定期的に買い出しに来るそうであり、それを待って接触する方法。
 ただどちらもその日取りは不定期であり、一週間から最悪半月ほど待たねばならないだろうとの事であった。

「冗談だろ、そんなに足止め食らってられっかよ」

 それを聞いた竹泉が不服そうな言葉を吐く。

「だが、直接の紹介が得られねぇとなると、コンタクトの手段はそれしかねぇ。とりあえず、長沼二曹達と合流して相談だ」
「やれやれだぜ」

 制刻の説く言葉に、竹泉はウンザリと言った様子で呟いた。

「アンタ、悪かったな」
「いや、こっちこそすまない」

 端的に発された制刻の言葉に、親方の男はどこか申し訳なさそうに返す。そして話を切り上げ、制刻等はその場を立とうとする。

「た、大変だッ!」

 酒場の出入り口の扉が勢いよく開かれ、異様な剣幕と共に一人の男が飛び込んで来たのはその時だった。

「町へ向かっていた商隊が野盗に襲われたらしいッ!自警団の人間は集まってくれッ!」

 男のその言葉に、陽気な喧騒に包まれていた酒場内は、一変して緊迫した空気になり、そして別種の騒めきに包まれた。



 町の南側。
 燃料調査隊が通った出入り口とは町を挟んで反対側にある、もう一つの町へのアクセス口。その周辺は、より一層の喧騒と緊迫に包まれていた。

「町医の先生を呼んで来い!自警団は出入り番以外の者で隊を編成しろ!」

 自警団の長らしき男が、その場で指示の怒号を上げ、自警団の各員が慌ただしく動き回っている。
 そしてその一角には、役所や商店区画の方へ回っていた長沼や河義等、陸隊の各隊員も姿もあった。

「長沼二曹、河義三曹」

 そこへ制刻等が到着。制刻はその場にいた両名に声を掛け、長沼等は制刻等に気付く。

「制刻」
「状況は聞いてます。キャラバンが襲われたとか」

 長沼へ向けて、制刻は端的に発する。

「あぁ。今、逃げ延びて来た人を、出蔵に診させている所だ」

 長沼は視線を前へと移す。長沼等の傍では人だかりができていた。その人だかりを覗き込めば、中心にはその逃げ延びて来た商隊の人間と思しき男性が横たわっている。そしてその横に、衛生隊員の出蔵の姿があった。
 男性は、剣か何かで切り裂かれたのだろう、胴に大きな傷を作っていた。そして出蔵は険しい表情を作りながらも、男性に対する止血手当を懸命に行っていた。

「……頼む、皆を助けてくれ……」

 その時、男性は苦し気な口調で何かを訴え出した。

「大丈夫ですから、無理に喋らないで。出血が酷くなります」
「……頼む……!」

 出蔵は止める声を発するが、男性は必死の形相で訴え続けている。

「皆ってのは?」
「襲撃があった地点には、まだ負傷者が残されているらしい。さらに、商隊には女子供もいて、その人たちが襲撃者に連れていかれたとのことだ」

 制刻の疑問の声に、長沼が答える。

「それの救出に行くために、自警団の人達が動いているようだが――」

 長沼はそこで言葉を切り、視線を移す。長沼の視線の先では、自警団長を中心に、何やら言い争いとなっている様子の自警団員達の姿があった。

「何か問題があるようだな――河義三曹、車輛隊へ連絡を」
「了解です」

 長沼は河義に伝えると、自警団員達の元へと向かった。



「今行ける数で助けに行くべきだ!」
「それは駄目だ」

 その場には、自警団長を中心に数名の自警団員が集まり、言葉を交わしている。状況が故に、皆鋭い剣幕を作り、緊迫した空気が漂っている。

「すみません、よろしいですか?」

 そんな彼等へと、声が割り込む。自警団員達が振り向くと、そこに立つ長沼の姿があった。
 陸隊燃料調査隊は今の所、町の人々からは得体の知れない奇妙な来訪者として見られていた。その得体の知れない一団の筆頭である長沼に、自警団の各員は訝し気な視線をむせる。

「あんた――酒場であった兄ちゃん達と同じ……」

 自警団員達の中には酒場で制刻等が会った親方の男の姿もあり、彼は長沼の出で立ちが制刻等と同一の物である事に気付く。

「日本国陸隊の長沼と言います。お取込み中申し訳ありません。何か不具合が起こっているように見えたものですから」

 己の身分を名乗り、会話に割り込んだ理由を説明する長沼。
 しかし切羽詰まった状況の中で、突如割り込んで来た長沼の存在対する自警団員達の目は歓迎的な物では無く、「この状況でよそ者が……」などと言った呟きまでが聞こえて来た。

「ヘーイ!そんな事言うなよぉ!」

 そんな所へ、突如高らかな声が飛び込んで来た。
 その声の主は多気投だ。気付けば長沼の後ろに居た彼は、長沼の横を抜けて自警団員達の前へとその巨体を現す。

「なんか困ってんだろぉ?俺たちゃその助けになりてぇんだずぇ!」

 そして揚々とした口調でそういった旨を説明する多気投。しかし、突如現れた人並み外れた巨体である多気投の存在に、自警団員達は目を剥いてたじろいだ。

「多気投、皆さんを驚かすな」
「ホワイ?」

 長沼は呆れの混じった口調で言いながら多気投を下がらせ、入れ替わりに前へと出る。

「すみません、今が一刻を争う事態であることは私達も承知しています。しかし、この者が言った通り、私達はその助けになりたいのです」

 そして自警団員達へと訴える長沼。

「すまない、団員達が無礼な真似をした。説明しよう――」

 長沼のその言葉に対して、自警団長が前に出てきて、口を開いた。
 自警団は、可能であれば置き去りになっている怪我人や、さらわれた女子供を助けに今すぐにでも出発したい所であった。しかし今回、商隊を襲撃した野盗の群れは30騎近い騎馬兵力を有するらしく、それに拮抗しうる兵力を運ぶための馬が、町には圧倒的に足りていないとのことであった。

「かき集められた馬だけで、野盗を追うべきだという意見も出たんだが……」

親方の男は途中まで言い、そこで自警団長に視線を移す。

「危険すぎる。今の所用意できた馬はたかだが5~6頭。たったそれだけの数で出向いても、返り討ちに遭うのが落ちだ」

 自警団長は親方の男の言葉を引き継ぎ、そして案に対する否定の言葉を発した。

「じゃあどうしろっていうんだ!」

 自警団長のその言葉に、自警団員の一人が言葉を荒げる。

「最寄りの兵団の到着を待つしか……」
「どれだけ時間がかかると思ってる!すぐにでも追わないと野盗を見失ってしまうぞ!」
「時間が経てば、さらわれた女子供がどうなるか……!」

 次々に声を上げる自警団員達。そして自警団長や親方の男も、のっぴきならない状況に険しい表情を作っている。

「成程――状況は分かりました」

 そこへ、話を聞いていた長沼が、再び言葉を割り入れる。

「その野盗とさらわれた人達は、私達が追いかけ、救出しましょう」

 そして自警団員達に対して長沼は発した。

「何?」

 長沼の言葉に、自警団長を始めその場に居た全員が、先にも増して怪訝な色をそれぞれの顔に浮かべ、長沼を見る。

「丁度来たようだな」

 長沼はそんな疑問の色を浮かべる彼等に答える事は無く、呟くと同時に視線を自警団員から外して横へと移す。そして怪訝な表情を浮かべていた自警団員達は、その時その耳に異質な音を捉えた。

「うわッ!」
「な、なんだぁ!?」

 そして町並みの方向から声が聞こえてくる。自警団長や自警団員達がそちらへ視線を向けると、戸惑う町人達の姿が。そして異様な光を放ち、唸り声を上げて町人達の間を慎重に縫い、近づいて来る巨大な物体――通信指揮車を先頭とした、燃料調査隊の車列が目に飛び込んで来た。



 荒道の町から南へしばらく行った地点を、多数の馬と数台の馬車が走っていた。

「へへ、面白い程うまくいったな!」

 その一番先頭を行く馬の上で、一人の男が下卑た笑い声をあげている。

「食糧、金目の物、それに女!大量でしたね!」

 先頭を行く男の言葉に、追走する馬に跨る男が同調する言葉を続ける。
 この男達こそ、荒道の町へ向かう途中の商隊を襲った野盗の集団であり、先頭を行く男はこの場のリーダー格であった。
 野盗達は得られた成果を喜びながら、アジトへの帰路についている途中であった。



「……」

 野盗達が下品な笑い声をあげている一方で、一台の荷馬車の上では、恐怖と不安に顔を染める者達の姿があった。野盗達により連れ去られた、商隊の女や子供達だ。

「お母さん……怖いよ」
「お母さん……どうなるの……?」

 その中で、二人の幼い少年と少女が、まだ若い母親に今にも泣きそうな表情で寄り縋る。

「……大丈夫よ、お母さんが守るから」

 母親は子供達の身を抱き寄せてやりたかったが、彼女はその身を後ろ手に拘束されており、それは叶わなかった。せめて少しでも子供達を安心させようと、母親はその身を子供達へと寄せる。

「おい、勝手に口を聞いてんじゃねぇよッ!」

 そんな母親と子供達へ怒声が飛ばされる。荷馬車の御者席に座る野盗の一人が、母親たちの会話を見咎め声を荒げたのだ。

「ひッ……」

 野盗の怒声に、母親と子供たちは身を竦める。

「チッ!ガキつきの女とか、面倒ったらねぇや!」
「まぁ、そんなに目くじら立てんなよ」

 悪態を吐いた野盗の男に、御者席に座っていたもう一人の野盗がなだめる声を掛ける。

「母親とガキはバラバラで売りに出されるかもしれねぇからなぁ。今の内に最後の会話くらいはさせといてやろうぜ、へへ」
「はは、それもそうだな!」

 そんな下卑た内容の会話を交わし、野盗の男たちはうすら汚い笑いを上げながら、荷馬車の母親と子供達を見下ろす。母親は、聞こえ来た野盗の男達の会話から、自分達がこの先どうされるのかを朧気ながら察し、その顔を青く染める。

(そんな……あぁ、神様どうか……)

 母親は俯いて目を瞑り、今や唯一の寄り縋れる存在である、神へと祈りを捧げる。

「……おい、なんだあれ?」

 そんな訝しむ声が聞こえ来たのはその時であった。声を上げたのは、荷馬車の近くを並走していた馬に跨る、一人の野盗だ。

「あ?」

その野盗の視線は後方へ向いており、周囲の野盗達も声を上げた男の視線を追いかける。そして彼等の目に映ったのは、集団の後方、すでに薄暗くなった周辺の中で異様な瞬きを放つ、四つの異質な光源であった。

「なんだありゃ……なんかの動物か?」
「……いや違う、ありゃ馬車か?」
「だが馬も無しに動いてるぞ!……というか、こっちを追ってきてる!」

 野盗達は、その異質な光源が奇妙な荷車のような物から発せられている事に、そしてそれが自分達を追ってきている事に気が付く。

(あれは、何……?)

 騒めき出す野盗達の一方で、荷馬車上の母親も突然現れた奇妙な光源に、不安に染まったその顔を向ける。

《こちらは、日本国陸隊です!前方の集団に告ぎます!ただちにその場で停止しなさいッ!》

 そして次の瞬間、暗闇に包まれた周囲に、異質な音声での警告が響き渡った。
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