―異質― 邂逅の編/日本国の〝隊〟、その異世界を巡る叙事詩――《第一部完結》

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チャプター3:「任務遂行。異界にて」

3-7:「各方事態収拾」

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 隊の追跡隊と町の自警団は、救い出した女子供達を連れて、無事に町へと戻って来た。
 町の南側入り口付近には、襲撃地点に取り残されていた負傷者達を回収に行った大型トラックが、先んじて戻って来ていた。周辺はその負傷者の救護手当のために、自警団員を始めとする町人達、そして隊の衛生隊員が慌ただしく動き回っている。
 そんな中へ送り届けられた女子供達は、荷馬車から降ろされると、皆一様に親しい人の姿を探し始める。
 そして無事に再開を果たし、喜び合う人達の姿もあれば、亡骸と成り果てた親しい人の姿を目の当りにし、泣き崩れる者の姿もあった。

「すべてが無事解決とはいかないか……」

 その光景を端から見ていた長沼は、悲痛な面持ちで呟く。

「この手のゴタゴタの後は、いつも不快だ」

 そして同様に近くで様子を眺めていた、制刻が一言発した。

「あんたら、いいかい?」

 そこへ長沼と制刻に声が掛かる。見れば、こちらへと歩んでくる親方の男の姿が見えた。

「どうかされましたか?」
「いや、礼を言わせて欲しいんだ。あんた等のおかげで、商隊の女子供達は助かった。あんた等が居てくれなかったら、彼女達はどうなっていた事か……」
「ああ、そういうことでしたらお気になさらず。私達は、自分達にできる事をしたに過ぎません」

 礼を言葉を述べた親方の男に、長沼は半ば決まり文句となっていた言葉を返す。

「それでだ――あんたら、地下油の採掘場所を探しているんだったな?そこについて、教えたいと思うんだ」
「本当ですか?」

 親方の男の発した言葉に、長沼は若干の驚きの言葉を返す。

「いきなりだな。そこに住んでる人間の安全のために、教える事はできねぇ、って話じゃなかったのか?」

 しかし一方の制刻は、訝しむ言葉を親方の男に投げかけた。

「あぁ、そこも含めて、詳しく説明したい。落ち着いたら、もう一度酒場に来てくれないか?」
「わかりました、お伺いしましょう」

 親方の男の言葉に、長沼はそう返した。



 負傷者の救護手当などの作業が一段落付き、長沼と、河義や制刻等4分隊の面子は、親方の男の要望通り、再び町の酒場を訪れていた。
 酒場の一角にあるテーブル席に、親方の男と長沼が対面で座り、長沼の背後には河義や制刻等が、各々適当に立っている。

「さて、説明させてもらうよ。まず、どうしてあんた等にその地下油採掘場所を教える気になったかだが――」

 親方の男は、長沼を始め各員の姿を一度見渡すと、おもむろに発し始める。

「まず一つは、今回の件であんた等が信用できる人達だと判断できたからだ。偶然町へ立ち寄ってただけにも関わらず、危険を顧みずに野盗達を追い、そして怪我人や女子供を救ってくれたんだ。これ以上の判断材料は無い」
「それは――ありがとうございます」

 親方の男の評する言葉に、長沼は礼を返す。

「だが、アンタの言葉から見るに、理由はそれだけじゃなさそうだ。他に何か、狙いがあるんだろう?」

 しかしその直後に、制刻が不躾に親方の男へと、言葉を投げかけた。

「あぁ、その通りだ――まず先に、この辺りの事の話をさせてくれ」

 親方の男はこの町の、いやこの国の昨今の情勢に関する話を始める。
 話によれば、野盗による襲撃事件は今回が初めての事ではなく、この荒道の町の近隣だけでも過去に一度。そしてこの月詠湖の国の北東側、隣国との国境に近い地域で、何件も同種の事件が起こっているのだという。

「でぇ、それと原油の在り処になんの関係があるってんだよ?」

 親方の男の説明に、竹泉がイラついた様子で言葉を挟む。

「竹泉!――すみません、続けてください」

 長沼はそんな竹泉を咎める声を発し、そして親方の男に促す。

「あぁ、それでだ――そっちの兄ちゃん等にはさっき話したんだが、その地下油がある領地では、そこの持ち主が家族とだけで暮らしてる。正直、こんなに野盗の襲撃が相次いでいる現状では、安全な判断とは言えねぇ……だが、そこの持ち主は頑固で、頑なにそこを離れようとしなくてな……」
「成程、話が見えて来た。あんたは、俺等をその頑固者の所へ、お守りに差し向けたいって腹か」

 親方の男の話を聞き、その意図に察しを付けた制刻はそう発する。

「そうだ。恩人のあんた等に、礼をするどころか重ねて頼みごとをするなんて、申し訳ない事だとは思っている……」
「いや、原油をいただく交換条件としては、そこまでハードルの高いモンじゃねぇだろう」

 申し訳なさそうな言葉で発した親方の男に、しかし制刻は納得した様子で返しながら、前に座る長沼へと視線を合わせる。

「えぇ、もし原油の採掘施設を利用させてもらえる事になれば、私達はそこに駐屯させていただく事になります。その上で、その領地の方を護衛する事は、不可能ではありませんし、対価としては正当でしょう」

 制刻に続いて、親方の願い入れを受け入れる姿勢を見せる長沼。しかし長沼はその後に「ですが――」と言葉を続ける。

「問題は、その個人領の方自身が、それを承諾してくれるかどうかですね」
「その頑固者が、俺等を受け入れてくれる余地はありそうか?」

 長沼が懸念の言葉を発し、そして制刻が親方の男に向けて尋ねる。

「それに関しては、申し訳ないがあんた等の交渉次第になる……ただ、俺の名前を出してくれれば、少なくとも門前払いってことはないはずだ。あぁ、そういや名乗って無かったな、俺はハクレンって言う。この名を出せば、スティルエイトさんも話くらいは聞いてくれるだろう」
「そのスティルエイトさんというのが、その個人領の持ち主のお名前ですか?」
「あぁそうだ、俺と同業の鍛冶師になる。で、何よりあんた等に教えるべきは、その場所だな――」

 親方の男改めハクレンの話によれば、この荒道の町から北東に行った所に、そのスティルエイトという人物の所有する、〝フォートスティート〟と呼ばれる個人所有領があるらしい。その所有領内に採掘施設が存在し、そこが原油の出所であるという。

「――分かりました、ありがとうございます」

 長沼はテーブル席上に広げた地図で、その個人所有領の位置を確認し、ハクレンに向けて礼の言葉を述べた。

「――所で、よそ者の私達がこんな事を心配するのも難ですが、この町の安全は大丈夫なのですか?」
「このままでは安全とは言えないだろうな。近くの町に駐留する兵団から、兵力を分派してもらえるよう要請を出すことになるだろう」

 長沼の質問に、ハクレンは難しい顔で答える。

「きな臭さに事かかねぇな。国はその野盗共になんか対策はとってねぇのか?」
「もちろん国の兵団も動いているさ。だが……」

 制刻の質問に、ハクレンは答える。
 現在、野盗問題に対しては、国の兵団も懸命に調査討伐を行ってるという。しかし襲撃隊、拠点共に移動を繰り返している野盗達は神出鬼没であり、それらの発見、討伐は振るわずにいた。さらに今の国の兵団は、対魔王戦線に多くの兵力を取られていて、カツカツの状況であり、それが討伐活動の難航に拍車をかけているとの事であった。

「また魔王か」

 説明の最中に出て来た魔王というワードに、制刻は呆れの混じった声色で呟く。

「しかしそこまで広域に被害が出ているとは、ただの偶発的な物ではなさそうですね……」
「あぁ、国もそう考えてるだろうし、皆そう思ってる。おそらくこれは、どこかの国か組織の破壊工作だろうってな。野盗達はそこから送り込まれて、支援を受けながら活動してるんだろう」

 長沼の言葉に、ハクレンはそう返す。

「私掠船の陸版って所か……」

 そしてその背後にいた河義が呟く。

「魔王云々騒いでる癖に、人類間で内ゲバかよ?」

 そこへ畳みかけて、竹泉が皮肉気な言葉で発する。

「その野盗達の裏に居るのは、魔王軍に取り入ろうとする一派だという噂も出てるんだ」
「はっ、どっちにしろだぜ」

 ハクレンは補足の言葉を入れたが、しかし竹泉は変わらずの皮肉気な口調で吐き捨て返した。

「で、結局野盗共の裏にいる奴等についても、はっきりとした事は判明してねぇわけか」

 吐き捨てた竹泉と入れ替わりに、制刻がハクレンに向けて言及する。

「その通りだ。国がどこまで調査を進めているのかは分からないが、さっき言った通り今の国はカツカツの状況だ。芳しくない事は予想できる。そして俺達国民の間では疑心暗鬼が広がり、数多の噂だけが飛び交ってるってわけさ」

 ハクレンは答えると、最後の自嘲気味に笑って見せた。

「……すまない、話が大分ズレたな。とにかく、今この近辺はかなり物騒な状態だ。そんな中で、町から離れて暮らしてるその人の事が心配なんだ。もし、あんた等があの地に長く逗留するようなら、どうかその人の事を見ててやってくれないか?」

 そこまで言うとハクレンは居住まいを正し、対面している長沼達に向けて頭を下げた。

「分かりました、ハクレンさん。そのスティルエイトさんご本人との交渉次第にはなってしまいますが、私達はそのお話をお引き受けします」

「そうか――ありがとう。どうかその人の事を、よろしく頼む」

 長沼から承諾の言葉を受けたハクレンは、長沼に礼と、そして託す言葉を発した。



 同時刻。
 五森の公国では、鷹幅た鳳藤等の隊員と、ハルエーやミルニシア達を乗せた大型トラックが、ちょうど木洩れ日の町へと到着した。
 大型トラックは、医薬品を町で受け取り砦まで運ぶ役割を、副次的に担っていたため、今回はそのまま町内に乗り入れることを許可された。大型トラックは城門を潜り町並みを抜け、町の中心部にあるレオティフルの滞在している建物の前へと到着。
大型トラックから降り立った鷹幅等とハルエー達は、その建物のその扉を潜った。

「お、お待ちください姫様!」
「かまいませんわッ!」

 鷹幅等が建物内に入った瞬間、彼らの耳にそんな声が響き聞こえて来た。
 鷹幅等やハルエー達は目の前にある階段の上へと目を向ける。そして一同の目に映ったのは、寝間着姿で階段を駆け下りて来るレオティフルの姿だった。
 息を切らせて一同の前へと走って来たレオティフルに、侍女のセテナが追いつき、羽織り物を羽織らせる。

「ハルエー団長!それにミルニシア!」
「は、はッ!」

 呆気に取られていた一同だったが、そこでレオティフルに名を呼ばれ、ハルエーとミルニシアはその場に膝を付いて頭を垂れる。

「……報告は聞いています。騎士団に、被害が出たと」
「は!まことに申し訳ございません!今回の損害は私の責任です!姫様の騎士団を危険に晒したばかりか、広告をも危険に晒しました……。このハルエー、いかなる罰もうける所存にございます!」

 レオティフルからの静かな問いかけに、ハルエーは捲し立て答える。

「……ハルエー団長」

 ハルエーは頭を垂れながらも、気配でレオティフルが己の前に立ったことを察する。そして叱責の言葉がその身に浴びせられる事を覚悟した。

「……よくぞ、無事に帰ってきましたね」
「ははぁッ!申し訳――は……?」

 反射で謝罪言葉を発しかけたハルエー。しかし直後に、ハルエーは投げかけられた言葉が叱責の物では無い事に気付く。
 そして思いがけない言葉に、彼は顔を上げた。
 そのハルエーの目の前には、身を屈めて彼と目線を合わせ、優しく微笑みを向けるレオティフルの姿があった。
 呆けるハルエーに、レオティフルはその腕を伸ばして彼の頬を優しく人撫でする。
 そしてレオティフルは立ち上がると、ハルエー隣で傅いていたミルニシアへと目を向け、彼女の前へと立つ。

「ひ、姫様……わ!?」
「良かった……あなた達が無事に戻って来てくれて、本当に良かった……」

そしてレオティフルはミルニシアの前に屈むと同時に、彼女を強く抱きしめた。

「分かっています、分かっていますわ……多くの犠牲が出てしまった中で、身内や特定の物だけを贔屓する事などあってはならないと……。でも、今だけはこの安堵感に浸らせて……」

 ミルニシアを抱きしめたレオティフルは、静かに言葉を零す。

「……姫様」

 そしてミルニシアもまた、そんなレオティフルを抱きしめ返した。



 やがて落ち着いたレオティフルは、ミルニシアから離れて、鷹幅の前へと立った。

「今回、我が騎士団から38名もの犠牲が出てしまったと聞いています。とても痛ましいことです……」

 そして二人に向けて、悲し気な表情を作り発するレオティフル。

「は!それに致しましては、全て私の責任であります!」
「ち、違います!そもそもは私が団長に、騎士団のみでの事態解決を進言したからです!団長の責ではありません!」

 そのレオティフルの言葉を受け、ハルエーとミルニシアは、こぞって今回の件が自らの責によるものである事を訴える。

「落ち着きなさい」

 レオティフルは、そんな二人を嗜める。

「今回は想定を遥かに超える敵勢力の襲来があったと聞き及んでいます。故に、心苦しいですが仕方の無かったこと。あなた方の責を問うつもりはありません。責があるとすれば――それはこの私自身ですわ」

 そう発し、自らの胸に手を当てるレオティフル。
 その言葉に、ハルエーとミルニシアは目を剥いた。

「ハルスレンの兄様と共に対魔王戦線に出兵できず、不満と不安を抱えていたあなた方の元へ、追い打ちを掛けるように私はタカハバ様達の一団を送り込んだ」
「姫様、決してそのような事は……!」

 レオティフルの非を否定しようとハルエーは言葉を発しかけるが、レオティフルは首を振り、言葉を続ける。

「いいえ。少なくともあなた方の意向にも耳を傾け、その上で説得し、もっとタカハバ様達と緊密な連携を取らせるべきでした。そうすれば、今回の結果も違った物になっていたかもしれません――本当に、あなた達には申し訳ない事をしましたわ」

 悔いるような表情で、レオティフルはハルエー達へ謝罪の言葉を述べた。

「おやめください姫様!姫様が謝罪されるなど、とんでもない事です……!」
「そうです!姫様に責などありません!」

 そんなレオティフルに、ハルエーとミルニシアは慌てて声を上げ、彼女の非を否定する。

「――ふふ、ありがとう。私は、優しい騎士達に恵まれましたわ」

 その言葉を受けて、レオティフルは険しかったその表情を崩し、小さな笑みを浮かべた。

「――さぁ、いつまでも沈んではいられませんわ。目先の危機は去ったとはいえ、今後どのように状況が動いてもおかしくはありません。そのための、対策を話し合いましょう」

 レオティフルは両手をパンと叩き合わせ、ハルエーとミルニシアを順に見て発する。

「「はッ!」」

 その言葉を受けたハルエーとミルニシアは、バネ仕掛けのように立ち上がり、通る声で返事を返した。
 レオティフルはそんな二人に近づくと、微笑み両名の方にポンと手を置く。
 そして二人の間を抜け、鷹幅の前へと立った。

「申し訳ありませんタカハバ様、お見苦しい場面をお見せしてしまいましたわ」
「いえ、とんでもありません」

 恥ずかし気に謝罪の言葉を述べたレオティフルに、タカハバはそう返す。

「タカハバ様。今回は私の騎士達を、そして五森の公国を守っていただき、本当に感謝しておりますわ。あなた方が居なかったらと思うと、背筋が凍る思いです……」
「いえ、私達はあくまで依頼された任務を遂行したまでです。それに、この国に何かあれば、私達も居場所を失う事になりますから」
「そう言っていただけると助かりますわ……」

 鷹幅の言葉に、レオティフルは心底ほっとした様子で言葉を零した。

「皆様、お部屋のご用意ができました」

 丁度会話が一区切りした所へ、一度その場をはずしていた侍女セテナが、言葉と共に現れた。

「ありがとうセテナ。では皆様、参りましょう」

 タカハバ達はレオティフルの先導で、話し合いのための部屋へと招かれた。



 レオティフルはハルエーより説明を受け、時折鷹幅の補足を受けながら、砦で起った落ち連の出来事の詳細を知る事となった。

「むぅ……なるほど……」
「具体的な事は不明ですが……雲翔の王国で何か起こっているのは間違いないでしょう。それに奴等と同じような軍勢が、雪星瞬く公国にも攻め入っている可能性もあります」

 難しい言葉を零したレオティフルに、ハルエーは続けて説明する。

「そうですわね……それに、その自害した敵指揮官も、背後に魔王の存在を匂わせたそうですわね?」
「ええ」
「これをどう見るべきかしら?ただ単に、雲翔の王国の一部の将兵が、魔王の存在によって疑心暗鬼に駆られ、先走り暴挙に出たのか……それとも」
「すでに雲翔の王国内部に、魔王軍、もしくはそれに追従する勢力の息が掛かっているか……」

 その不吉な考えに、二人は共に苦い表情を浮かべる。

「どちらにせよ、早急に事態を把握する必要がありますわね――それと北の国境線周辺に、兵力を配置する必要がありますわ」
「現在、第33騎士隊と第26騎士隊から兵力を抽出、編成中ですが、もう一度早馬を出しますか?」
「それも必要ですが……おそらく兵力はそれだけでは不足ですわ。そうですわね……〝五月晴れの街〟の第17騎士団。それと〝五月雨の町〟の第30騎士隊からも兵力を抽出し、こちらに来てもらいましょう――セテナ」

 レオティフルはそこまで言うと、脇で待機していた侍女セテナへと振り向く。

「はい」
「王都に今回の件の報告。それと雲翔の王国、雪星瞬く公国の両国へ内偵派遣の手配。並びに各町の部隊への兵力の抽出、出動要請。これらを早馬で出してくださいな」
「かしこまりました」

 レオティフルの命を受け、侍女セテナは部屋を後にした。

「今の所取れる行動は、このような所でしょうか」

 事態に対する対策が一区切り付き、レオティフルは小さく息を吐くと、机を挟んで反対側に居た、鷹幅へと視線を向ける。

「それにしてもタカハバ様。あなた方のお力には改めて驚かされましたわ。正直なお話、500を超える軍勢の襲来の一方を聞いた時には、私も覚悟を決めましたのよ。しかし――あなた方はその相手を、たった30名程の人数と、不思議な力で撃退して見せた」
「いえ、今回は運よく――といっては難ですが、相手勢力が私達の対応可能な範疇であったに過ぎません」

 レオティフルの賞賛の言葉に、しかし鷹幅はそう返す。

「ふふ、どこまでもご謙遜を――当初のお話道理、我が国は今後、あなた方への継続的な支援をお約束させていただきますわ」
「ありがとうございます」
「それと、厚かましいようですが、お願いがありますの。よろしければ、今後も皆様のお力を私達にお貸しいただけないかと、思っております」
「?――もちろん、また同様の勢力の襲来があった場合には、私達もご協力させていただくつもりです」

 鷹幅の発した言葉に、レオティフルは小さく首を振る。

「失礼、言い方が適切では適切ではありませんでしたわね……私が言いましたのは、もっと長期的なお話ですの。今回の事態は一過性のものに過ぎず、おそらく長く、そして大きな物になってゆくと思われますわ。あなた方には、それに共に立ち向かう同胞となっていただきたいんですの」
「……私達と同盟を結びたい、という事ですか?」
「ええ、そう捉えていただいて構いませんわ」

 鷹幅の言葉を、レオティフルは肯定する。

「少し大げさでは……?私達は流浪の身である、たかだか一部隊に過ぎません……」

 二人の会話を脇で聞いていた鳳藤が、そこで言葉を割っていれる。

「いいえ、今回の件で実感いたしましたわ。あなた方は、我が国と肩を並べて歩むにたる存在であると」

 レオティフルは鳳藤へと視線を移し、はっきりと言って見せた。

「……もちろん、ご支援をいただく以上、我々にできる範囲での協力は惜しまないつもりですが……そこまで大きなお話となると、私の一存では決められません。今一度、上長と相談させていただきたく思います」
「分かっておりますわ。十分にお考えいただいた後に、お返事をいただければと思います」

 話がそこで再び一区切りついた所で、部屋に別の侍女が入って来た。

「皆様、医薬品を積んだ馬車が到着しました」
「あぁ、ありがとうございます。じゃあ、トラックに積み替えないとな。鳳藤、行くぞ」

 用意された医薬品の積み替え作業のため、鷹幅と鳳藤はその場を発とうとする。

「あぁ、お待ちになって」

 しかしそこへ、レオティフルのそんな声が掛かった。

「少しの間だけでかまいませんの、ホウドウ様をお貸しいただけませんこと?」
「え――私ですか?」

 突然のレオティフルからの指名に、鳳藤は目を丸くする。

「少しお話がしたいだけですわ。作業には、手伝いの者をこちらへ手配いたします」

 そんなレオティフルの様子は、懇願、というよりもどこかねだる子供のようであった。

「鳳藤、どうする?」
「私は……かまいませんが……」

 鷹幅の言葉に、少し戸惑いながらも承諾の言葉を発する鳳藤。

「ありがとうございます。それでは、私のお部屋にご案内いたしますわ」

 鳳藤の承諾を受けたレオティフルは、少女のようにうれしそうな笑みを作りながら、先導して歩み出す。

「――う」

 それに続こうとした鳳藤は、その時自分を睨みつけるミルニシアの視線に気づく。彼女のその視線は「くれぐれも無礼を働くなよ」と、鳳藤に圧を掛けていた。そんなミルニシアの視線に射抜かれながら、鳳藤はレオティフルの後を追った。



 レオティフルにより別室へと招かれた鳳藤。
 その一室は、この町に滞在する上で、レオティフルが私室として使用している部屋だった。

「どうぞ、お掛けになってくださいな」
「失礼します」

 部屋内に置かれた上質なソファに腰掛けた鳳藤に、レオティフルは自ら紅茶とお茶菓子を用意して振る舞う。

「ふぅ……」

 そして自身も対面するソファへと腰かけ、そして小さく息を吐いた。

「……ふふ、おかしいですわよね。ただ待っていただけの私が、疲れたようなため息を吐いて」
「いえ、お気持ちは分かります。待つ立場というのも辛いものです。まして、親族の方の安否が掛かっていたというのであれば、当然でしょう」
「あら?私とミルニシアの関係、すでにご存じでしたのね」
「はい、ハルエーさんからお伺いしました」

 少し意外そうな表情を見せたレオティフルに、鳳藤は答える。

「そうですの……指揮を預かった者として、親族だけを特別扱いするなど、本来あってはならないことなのですけれども……」
「仕方の無い事です。あなたもお若い身なのですから、感情を抑え込むのもお辛いでしょう」
「ええ、私はまだまだ若輩者ですわ……」
「あ!いえ、そういうつもりで言ったのでは……!」

 レオティフルの言葉に、鳳藤は今の自身の発言が失言だったと感づき、慌てて弁明の言葉を発する。

「ふふ、分かっておりますわ。お気遣いありがとうございます」
「すみません……」
「謝らないでくださいな。あなたは大事な従姉妹を救ってくれた、恩人なのですから」

 申し訳なさそうにする鳳藤に、微笑み言葉を掛けるレオティフル。
 鳳藤が危機に陥ったミルニシアの身を救ったことは、先の話し合いの中でレオティフルにも伝えられていた。

「あの子を――ミルニシアを救ってくれたあなたには、王女としてではなく、あの子の従姉として個人的に感謝しておりますの」
「いえ、その時は咄嗟に体が動いたものですから」
「ふふ、謙遜も行き過ぎると、皮肉になってしまいますわよ?」
「す、すみません」

 悪戯っぽく発せられたレオティフルの言葉に、鳳藤は再び謝罪で返した。

「しかし、立ち入った話をするようで失礼かもしれませんが……ミルニシアさんは王族の身でありながら、騎士団員として矢面に立っておられるのですね」
「ええ、それがあの子の望みでしたので」
「望み……ですか」
「あの子は昔から騎士に強い憧れを持っていましたの。そんなあの子の立っての希望から、父上――国王は近衛騎士団への入団を許可したのですけれど……しかし今回の事を考えれば、やはりあの子には私の近くに居てもらった方がいいかもしれませんわね」

 レオティフルは少し憂うような様子で言葉を零した。

「あの子は、常に侍女達に護衛されるような日々は嫌うでしょうけど」
「ん?侍女さん達に護衛ですか?」

 レオティフルの言葉が少し気になり、鳳藤は疑問の言葉を挟む。

「あぁ、侍女と言いましても、全員に武術を心得させておりますのよ。もちろん侍女達とは別に警護騎士達もいるのですけれど。どちらも、私が厳選した者達ばかりですわ」
「ご自身でですか?」
「ええ、自分の身を守らせるのですもの。他人には任せられませんわ」
「それもそうか……」
「側に置いておくには優秀で信頼が置けて、そして可愛らしい娘でなくては。でしょう?」
「え?……は、はい……」

 唐突にレオティフルからそんな言葉を掛けられ、鳳藤は少し動揺する。
 言われてみれば、レオティフルの周辺には容姿の良い女性ばかりがいた。

「と、所で……レオティフルさんもミルニシアさんもずいぶんお若く見えますが、失礼ですがおいくつになられるのですか?」

 レオティフルからの問いかけの反応に困った鳳藤は、話を逸らすべく強引に別の話題を振った。

「歳ですの?私は今年18で、あの子は16になりますわ」
「18に16……そのようなお若い身で、軍の指揮を取られたり、前線に立たれたりしているんですね……」

 彼女達の年齢に反した重い立場や役目。それらを知り、鳳藤は改めてここが日本とは違う、別世界である事を実感する。

「ちなみにホウドウ様はおいくつですの?」

 考えていた所へ質問を返され、鳳藤は少し驚く。

「え?あぁ、私は20になります」
「あら、ではホウドウ様のほうがお姉様という事になりますわね」
「お、お姉様……」

 レオティフルのその台詞と、どこか艶のある言い回しに、鳳藤は若干困惑する。
 そんな鳳藤の前で、レオティフルは唐突に立ち上がると、鳳藤の側へと周り、空いていた彼女の隣へと腰かけた。

「え?」

 突然のレオティフルの行動に、目を丸くする鳳藤。

「最初に一目見た時から、この方はと感じていたのですけれど――やはり私の目に狂いはありませんでしたわ」

 鳳藤の隣に腰掛けたレオティフルは、そんな言葉を発すると、その顔を鳳藤へと近づける。

「私、ホウドウ様のような、強くて麗しいお姉様が、側に居てくれたらとおもっておりましたの」

 そしてレオティフルは、鳳藤の顔に手を伸ばし、そのきめ細やかな指先で、鳳藤の頬をそっと撫でる。

「あ、あの……」
「あなたさえよければ、私の元にきていただけませんか?ね、お姉様……?」

 戸惑う鳳藤に対して、レオティフルは恋焦がれる少女のような表情と、甘い声色で問いかける。

「姫様、よろしいですか?」

 一室の扉がノックされると共に、声が飛び込んで来たのは次の瞬間だった。

「ええ、お入りになって」

 それを聞いたレオティフルは、鳳藤から顔を放すと、ドアの向こうに向けて言う。

「ふふ、冗談ですわ」

 そして鳳藤に向けて悪戯っぽく笑みを向けると、ソファから立ち上がり、ドアへと歩いて行った。

「失礼します」

 ドアが開かれ、その向こうに一人の侍女と、そして鷹幅の姿が見える。

「お話はもうよろしいですか?」
「ええ、我儘を聞いていただいて、ありがとうございます。楽しいひと時を過ごせましたわ」

 鷹幅の言葉に、レオティフルは微笑んでそう返す。

「では、医薬品の移し替えは終わりましたので、私達は砦の方へと戻らせていただきます。鳳藤、行くぞ」
「あ、はい!」

 鷹幅から声を掛けられた鳳藤は、慌ててソファから立ち上がり、鷹幅を追って廊下へと出る。

(た、助かった……)

 その際鳳藤は、内心でほっと胸を撫でおろした。



 翌朝。
 陸隊、派遣小隊は、全ての事項の五森の国側への引継ぎを完了。
 砦から引き揚げた小隊は、野営地へと帰投する前に、最後にもう一度、木漏れ日の町を訪れていた。
 木漏れ日の町の城門前で、鷹幅を始めとする主要陸曹と鳳藤が、レオティフルやハルエー、ミルニシアと相対している。

「皆様。しつこいようですが、此度のお力添え。本当に感謝しても仕切れませんわ」
「私からも謝罪と礼を言わせて欲しい。最初、あなた方に無礼な態度を取ってしまったにも関わらず、あなた方はこの国のために戦ってくれた。本当にありがとう」

 レオティフルとハルエーは、それぞれ隊員等に向けて礼の言葉を告げる。

「いえ、この国のお役に立てたのなら光栄です」

 それに対して、鷹幅が返す。

「?」

 一方、そんなレオティフル達の横で、何か気まずそうにしているミルニシアの姿が、鳳藤の目に留まった。

「ほら、あなたも。言いたい事があるのでしょう」

 そんなミルニシアは、直後にレオティフルに背を押されて、鳳藤の前へと出て来る。

「その……お前には――痛ッ」

 そして、ぶっきらぼうに発しかけたミルニシアは、しかしその尻を、レオティフルに軽く叩かれる。

「んん――貴殿には、この命を助けていただいたにも関わらず、礼の一つも言っていなかった……このような愚か者を助けてくれた事、本当に感謝している」

 ミルニシアはそう言って、鳳藤に向けて頭を下げた。

「よしてくれ、私は別にそんな感謝されるような事はしていないさ」
「し、しかし……!」
「気にしないでくれ。私は、あの場で自分にできる事をしただけだ」

 顔を起こし、食い下がろうとしたミルニシアに、鳳藤は少し照れくさそうにしながら言って見せた。

「そうか……だが、やはり例と謝罪をさせてくれ。これまで無礼な態度を取ってすまなかった。そして、ありがとう」

 そう言い、ミルニシアは再び頭を下げた。
 二人のやり取りが終わり、ミルニシアが下がると、入れ替わりにレオティフルが再び隊員等の前へと立つ。

「皆様。今回は、本当にありがとうございました。今回の一件については、新たな事が判明次第、皆様の元へも使者をお送りさせていただきます」
「お願いします。私達も、またこの国が危機に晒される事があれば、駆け付けましょう」

 そう言葉を交わし、鷹幅とレオティフルは最後に握手を交わした。
 そしてお互いに別れを告げ、隊員達は待機していた各車輛へと乗り込んでゆく。
 そしてレオティフルやミルニシア、ハルエー達騎士団員や、町の駐留兵達に見送られながら、小隊は木漏れ日の町を後にする。

「どうにか、今回の派遣活動は、無事に終わったな」

 先頭を行く新型小型トラックの助手席で、鷹幅は肩の力を少しだけ抜いて、呟いた。
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