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チャプター9:「草と風の村、燃ゆる」
9-3:「押し上げろ!」
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82式指揮通信車以外の車輛を置き、偵察捜索分隊は村の南側より内部に踏み込んだ。
指揮通信車を先頭に立て、普通科4分隊の7名と増強戦闘分隊の一組4名は、それぞれ陣形を組んで指揮通信車の後ろを周囲に警戒の目を向けながら進む。
「ヒデェな」
増強戦闘分隊に組み込まれている武器科隊員、門試(かどためし)一士が進んでいる道の脇に視線を送りながら呟く。
とうに日は落ちたと言うのに、村内は各所に上がる火の手により、明るく照らされている。
「倒れているのは、集落の人間か?」
続いて増強戦闘分隊の一組の組長を務める、威末が零す。進みゆく道を見渡せば、所々にこの村の住人と思われる者の、亡骸が横たわっていた。
地上を行く各員が凄惨な光景に顔を顰める一方、先頭を行く指揮通信車のターレット上では、車長の矢万が周囲に目を光らせていた。
《車長、車内に入って下さい》
しかしそんな折、矢万の着けるインカムにそんな声が届く。相手は操縦手の鬼奈落だ。次に何が襲い来るかも分からぬ状況で、矢万が車上で身を晒す事を不安視しての進言であった。
「気が進まねぇな。車内からじゃ見通しが悪くなる」
《攻撃を受けて何かあっては事です》
矢万は警戒の目が狭くなる事を懸念し、渋る声を上げるが、そんな矢万に鬼奈落からは言い聞かせるような進言の言葉が続き返される。
「あぁ、分かったよ」
そんな鬼奈落の言葉を矢万は渋々といった様子で承諾。最後に一度周囲を見渡してから、ターレットハッチを潜り車内へ降りようとする。
そんな矢万が、視界の端に何か瞬く物を見たのはその時だった。
「――あ?」
そちらへ視線を向けた矢万は、次の瞬間自身の目に飛び込んで来た物に、思わず素っ頓狂な声を上げた。彼の目に映ったのは、灯る一つの炎。
最初それをあちこちの建物から上がっている火の手の一つかと思った矢万。しかしその炎が宙空を飛び、こちらに迫って来る物だと気付いたのは、その直後であった。
「――ッ!?」
それを認識すると同時に、矢万はターレットハッチを潜りその身を車内へと引き込む。飛び来た炎――炎球が指揮通信車の車体へ直撃したのは、その瞬間であった。
「ヅッ!」
「ッ!」
直撃した炎球は指揮通信車の車体前面に直撃。燃え上がりその装甲表面を焦がした。幸いそれまでに留まり炎球は直後にはその勢いを大幅に減じたが、矢万と鬼奈落は突然のその事態に、車内で顔を顰め声を零した。
「うぇ!?」
「なんぞぉッ!?」
その光景は後続の各員の眼にも届いていた。突然の現象に、竹泉や多気投を始め各員から驚く声が上がる。だが事態はそれに留まらなかった。
次の瞬間には、何らかの多数の物体が飛来。指揮通信車の装甲を叩き、そしてその後ろに展開していた各員の周囲や足元に降り注いだ。
「うぁ……ッ!?」
「ッ――身を隠せッ!」
鳳藤の狼狽える声と、河義の指示の言葉が同時に上がる。同時に各員は飛ぶように陣形を解いて散会し、指揮通信車の後ろ、あるいは周囲に存在する家屋建物の影へと飛び込み身を隠した。
「ッ――これは」
家屋の一つに身を隠した河義が、顔を顰め声を零す。
「こ、攻撃かと思います!」
「見りゃ分かるわッ!」
その河義に、後ろに位置する建物に身を隠した鳳藤が狼狽えながら進言。そらにそれに、道を挟んで反対側の建物にカバーした竹泉から、荒んだ言葉が飛んでくる。
「また鉱物でできた摩訶不思議だな」
そんなやり取りを端に聞きながら、鳳藤と同位置にカバーした制刻は、周囲の各所に目を配りながら零す。周囲の地面や建物の壁には、先にも確認した30㎝大の針状の鉱石が、いくつも突き刺さっていた。
それらを確認した後に、建物の影から視線をわずかに出し、先の様子を覗き確認しようと試みる制刻。
だが瞬間、再び鉱石の針の雨が襲来。それらは先に停車している指揮通信車の装甲を再び叩き、そして周囲に突き刺さった。
「チッ」
すかさず引き込み、そして猛攻に舌打ちを打つ制刻。
「各員、被害報告しろ!」
先の家屋の影で、同様に河義も苦い表情を作りながら、彼は各員に被害の有無を問いかける。
「ありません」
「えぇ、おかげさまでこっちも!」
「増強2分隊1組、無し」
《ハシント、無事です!》
河義の問いかけに、各所各員から無事を報告する声や通信が上がって来る。幸いにも先の攻撃で被害を被った者はいなかった。
「――ハシント、矢万三曹。どこから攻撃を受けたか見えたか!?」
各報告を聞いた河義は、続けて指揮通信車の矢万に、攻撃の出所の特定を要請する。
《炎は前方、突き当りの家屋からです!他の出元ははっきりしません!》
要請に、矢万からはそんな言葉が返される。先と同様の炎球が再び飛来し、指揮通信車にまたも直撃したのはその直後であった。
「ッ――またかッ!」
「すぐ収まった。燃料をばら撒いて、炎上させるタイプじゃねぇな」
再びの炎の襲来に、険しい顔で声を漏らす鳳藤。その傍らで制刻は、飛来した炎球の直撃から消えゆく様までを観察し、それが火炎放射器や焼夷ランチャーのように、可燃物を散布し炎を拡大させるような代物では無い事を察する。
「ふざけてやがるッ!」
「応戦します!」
各方にいる竹泉や威末等から、悪態や応戦行動に移る旨の言葉が河義の元に上がって来る。そして指揮通信車の後ろに控える増強戦闘分隊の各員。それに建物にカバーする4分隊の竹泉や多気投等は、それぞれ遮蔽物から装備火器の銃口を突き出し、各所に向けて発砲を開始した。
先に並ぶ各家屋へ注がれていく銃火。
しかし敵の正確な所在の掴めぬ状況での、推測に頼る各銃撃は効果的な物とはならず、直後にはそれを物ともしないと言わんばかりの、鉱石針の雨が三度各員を襲った。
「ッ!」
「あぁ、畜生ッ!」
襲い来たまるで散弾、あるいは機銃掃射にも似た鉱石針の雨に、各員は射撃を止めて遮蔽物に引き込み、口を鳴らしあるいは悪態を吐く。
「落ち着け!闇雲に撃つな!」
そんな各員へ向けて、河義は無闇な射撃を控えるよう指示の声を張り上げる。
「そこかしこの家屋に配置しているようだな」
「外から撃ち込むだけじゃ、黙らせられねぇでしょう。中に踏み込んで、一軒一軒潰してく必要があるかと」
各員に制止の声を掛けた河義は、先に見える各家屋を覗き睨みながら、敵が分散配置している事を推察。さらにそこへ制刻が後ろから、進言の言葉を飛ばす。
「俺等で、踏み込みましょう」
そして制刻は続け、名乗り出る言葉を上げた。
「ちょ、おい。俺等って――」
「剱は俺と右手だ。竹泉、投、オメェ等は左手の家並みを攫えて行け」
鳳藤はそこへ声を挟もうとしたが、制刻はそれを遮り、勝手にピックアップした三名に、指示の言葉を送る。
「いや、おい!何勝手に決めさらしてくれてんだッ!」
竹泉からは文句の言葉が飛んで来たが、制刻はそれには取り合わない。
「やれるのか?」
「やりましょう。他は、こっから援護を」
そして河義の問いかけの言葉に、制刻は端的に返し、そして要請の言葉を発した。
「……いいだろう。識別はそれぞれ4-2、4-3。油断と無茶はするなよ」
河義は制刻のその言葉を受け入れ、無線識別を割り振りそして念を押す言葉を告げる。
「了解。剱、竹泉、投。備えろ」
河義の言葉に制刻は端的に了解の言葉を返し、そしてピックアップした三名に準備するよう促す。
「はぁ、まったく……」
「最悪だ!」
「ビックらホイのお返しだなぁッ!」
それに対して鳳藤はため息、竹泉は悪態を零し、多気投だけが陽気な声を張り上げた。
「各員、援護射撃用意!策頼、発煙筒を!」
その一方、河義はその他の各員に突入支援に備えるよう指示の言葉を飛ばす。
「――投擲!」
そして河義、策頼の手に寄り発煙筒が投擲される。先へ放り込まれた発煙筒は煙の放出を始め、やがて煙は偵察捜索隊と、その先に立ち並ぶ家屋の間に充満。立ち込めた煙は両者の間の視界を完全に遮った。
「行くぞ」
煙幕の充満を確認すると同時に、制刻が合図を発する。そして制刻等4名はそれぞれの遮蔽物より飛び出した。
制刻等はそのまま充満した煙幕の中に突入し、その中を駆け抜ける。
「くッ――」
その途中、足元へまたも鉱石針の雨が襲い来た。煙幕に阻害され、おそらく目測で放たれ来たのであろうそれは、制刻等に命中する事は無かった。しかし足元を襲い傍を掠めて行った鉱石針の数々に、鳳藤は思わず声を零す。
「ビビるな」
「ッ、分かってる!」
そんな鳳藤に、先を駆ける制刻が声を飛ばし、鳳藤は顔を苦くしながらそれに返す。
両名の背後からは、指揮通信車搭載の12.7㎜重機関銃や各員の装備火器の射撃音が聞こえ届く。
自分等を援護するために開始されたそれ等を背後に聞きながら、制刻等はものの数秒で煙幕の中を駆け抜け、その先に建つ家屋を見止めてその側面へと駆け込んだ。
壁際に張り付き、一度周囲を見渡す制刻と鳳藤。
道を挟んだ向こう側の家屋には、同様に煙幕を抜けてその壁際に駆け込み張り付いた、竹泉と多気投の姿が確認できた。
向こう側の竹泉と多気投は、駆け込んで早々に家屋の窓を破り、内部に突入する様子を見せる。
「おし、俺等も行くぞ」
「あぁ……!」
制刻と鳳藤は家屋の壁の端に設けられた、裏口と思しき扉を見止める。その裏口扉の両端に張り付き、突入に備える。
「いいか?」
「あぁ」
「おぉし――やれ」
言葉を交わし、タイミングを揃える両名。そして制刻が合図の声を発すると同時に、鳳藤は裏口扉を後ろ蹴りで蹴り飛ばし、強引にこじ開ける。
突入口が解放されると共に、制刻は小銃を構えて内部へ突入した。
踏み込んだ先、家屋内部の台所と思しきその室内には、数名の人間の姿があった。まず外の道に面する窓の際に一人。さらに部屋の真ん中で横倒しになったテーブルの向こうに二人。先に交戦した傭兵と同様の出で立ちをしており、皆一様にその目を剥き、侵入者である制刻にその視線を集中させる。
制刻はその計三人の傭兵の存在を、視線を流して一瞬で掌握。そして最初に窓際の一人に照準を合わせて引き金を引いた。至近距離であったため、一発分の発砲音が響くとほぼ同時に窓際の傭兵は撃ち抜かれて崩れ落ちた。
一人目が崩れた時には、制刻はすでに次の傭兵へと照準を移していた。その向こうに映る、驚愕の表情を見せている傭兵に向けて制刻は引き金を再度引き、発砲音と同時に二人目が崩れ落ちる。
そしてほぼ同時に、制刻の背後から別の発砲音が響く。制刻に続いて突入した鳳藤が、構えた小銃を制刻の肩越しに突き出している。響いた発砲音はそこからの物であり、鳳藤の小銃から放たれた5.56㎜弾は、最後に残った傭兵を屠った。
「――クリア!」
「あぁ、クリアだ」
室内にそれ以上の傭兵の姿が無い事を確認し、両名はクリアの声を上げて交わす。
突入からここまでの時間は、わずか5秒にも満たない物であった。
「……酷く荒されている……略奪か?」
その一室の内部は、あらゆる家具や棚類が開け放たれ、ひっくり返され、荒された様子が見て取れた。それ等を目にし、推測の言葉を上げる鳳藤。
「あるいは、なんぞ探してんのか――」
そしてそれに別の推察を続ける制刻。
しかしそんな二人の耳が、家屋の外から何か金属同士がぶつかり弾けるような音を、微かに聞く。それが敵の攻撃の物である事は、容易に判別が付いた。
「考察は後だ。奴等を先に、静かにさせる必要がある」
「あぁ……」
まずは敵の無力化の優先を促す制刻。そして二人は家屋内を制圧すべく、行動を再開した。
制刻と鳳藤が踏み込んだ家屋の上階。その内の一室には、また三名程の傭兵の姿があった。男傭兵が二人、女傭兵が一人。
「く……一体なんなんだ……!?」
そんな傭兵達の内の一人、リーダー格らしきから零される声。
傭兵達は皆、窓際で身を屈めて隠れ、時折窓から視線だけを覗かせ、眼下の様子を伺っている。
「フィルエ・ベイルもスティア・ニューヅも効いた様子が無かった……あれは一体……?」
「あいつ等からの攻撃も、何なのか分からない……!」
他の二人の男女の傭兵も、続けて困惑の言葉を上げる。先程から彼等は、異様な事態の連続を目の当りにしていた。
突然姿を現した、馬車とも知れぬ不可解な物体の、それに伴う謎の一派。
この草風の村の〝口封じ〟の役割を請け負っていた傭兵達は、まず間違いなく味方ではないその侵入者を、村人達同様に排除すべき存在とみなして攻撃を敢行。
しかし現れた不可解な物体は、信じられぬ事に炎をぶつけようとも鉱石の針を浴びせようとも、それ等を物ともしない姿を見せた。そして物体と侵入者は、針とも鏃とも知れぬ何らかを数多に、それも苛烈に放ち返して来て傭兵達を殺傷。さらに煙を炊いて上げ、傭兵達の視界を阻害。
これ等の得体の知れない現象の数々に、傭兵達は狼狽え、そして動きを鈍らせていた。
「村が雇い入れた用心棒か何かか……?にしてもどこから……」
「南の入り口の方から来た……村を包囲している隊はどうしたの……?」
「突破されたか、あるいはやられたか……」
推測の言葉を交わし合う男女の傭兵。
「どうであれ、あれは排除しなければならない……!」
しかしそこへ断ずる言葉を上げるリーダー格の傭兵。今回、彼等の仕事中に自分達以外の味方が現れる予定はない。そして今回の仕事の特性上、村人はもちろんの事、第三者であってもこの場を目撃された以上、見逃す選択肢は無かった。
「じき、他の隊が応援に来る。スティア・ニューヅを放ち続け、足止めを続けろ!」
「了解……!岩よ、鋼よ、鏃となりて――」
リーダー格の傭兵が女傭兵に命じ、女傭兵はそれに答える。女傭兵は、鉱石針による攻撃魔法を扱う魔導士の一人であった。返答の後に、女傭兵は魔法詠唱を唱えようとする。
――バン、と。
室内、傭兵達の背後から異音が響いたのはその瞬間であった。
突入時の交戦以降それ以上の接敵は無く、家屋一階のクリアリングを難なく完了。そして階段を上がり家屋の二階へと踏み込んだ制刻と鳳藤。
「いいか?」
「ヨシ」
両名は上がってすぐの所にあった扉を見止め、その傍で突入準備態勢を取る。そして鳳藤が再び扉を蹴破り、解放された出入り口を潜って制刻が突入した。
突入した制刻は、室内に先と同様三名の傭兵の姿を見止める。傭兵達は皆、突然踏み入って来た制刻に驚き目を剥く様子を見せていた。
「ッ!」
しかし直後、内の一人――リーダー格の傭兵が、反応し行動に移る。彼は窓際足元の壁を蹴り、飛び出すと同時に抜剣。侵入者である制刻に向けて飛び、切りかかって来る。
だが抜かれ、振り上げられた彼の剣が届く前に、制刻の構えた小銃から発砲音が鳴り響く。そして撃ち出された5.56㎜弾が、リーダー格の傭兵の胸部を貫いた。
「ゴ――!?」
リーダー格の傭兵は襲い来たそれに目を見開き、声を零す。そして衝撃により彼の身は、退けられるように脇へ反れながら、崩れ落ちた。
「な――あ゛!」
ほぼ同時に、背後窓際にいた男傭兵が鈍い悲鳴を上げ、襲い来た衝撃に壁に叩き付けられ、崩れる。
制刻に続き突入した鳳藤の射撃によるものだ。
「ッ――岩よ、鋼よ、鏃と成りて牙を剥――」
仲間が次々に倒れる中、女傭兵はその両腕を制刻等に伸ばして向け、詠唱の言葉を紡ぐ。制刻等に向けて、鉱石針の魔法攻撃を放つ腹積もりだ。
「――げッ!?」
だが詠唱完了の瞬間、彼女の最後の一言は、濁ったそれへと変わった。制刻の続けての射撃が、彼女の眉間を貫いたのだ。
眉間に生々しい弾痕を作り、もんどり打つ彼女。が、最後の濁ってしまった詠唱は、しかしどうやら完成した物と認識されたらしい。倒れ行く最中の彼女の周囲宙空に、十本以上の鉱石針が浮かび形成され、それらは次の瞬間、勢いよく一斉に打ち出された。
「ッ!」
「とぉ」
だが虚しくも、彼女の最期のそれが功を成す事は無かった。もんどり打ち、倒れ行く瞬間であった彼女の狙いは制刻等を反れ、打ち出された鉱石針の群れは制刻等の真上、壁や天井付近を叩き突き刺さる。
制刻等に被害はなく、両名は少しの驚きの言葉を零すのみであった。
「――こんだけか」
「クリア……!」
敵傭兵達の見せた足掻きの攻撃に驚きつつも、両名はそれ以上の脅威が室内に無い事を確認し、クリアの声を上げる。
「もちっとズレてたら、やばかったな」
「ッー……」
そして両名は、天井付近に突き刺さった鉱石の針を一瞥して、それぞれ言葉を零す。鳳藤に関しては、一歩違えば身が針山となっていたかもしれないそれに、顔を少し青くする。
しかし一方で、自分等の足元で死体となった傭兵達に目を落とし、また別の理由で優れない顔を作った。
「こちらジャンカー4-2。こっちはまず、一軒目を攫えた」
そんな鳳藤をよそに制刻は、各方各員に向けてインカムを用いて報告を上げる。
《4-3だ、こっちもちょーど一軒目を抑えた》
それに便乗するように竹泉の声が続き聞こえる。
「4ヘッド、そっちはどうです?」
そして4ヘッド――指揮官である河義に、制刻は尋ねる言葉を送る。
《4-2、4-3、了解だ。だがこちらは依然として、少なくない攻撃を受けている》
制刻の尋ねる言葉に、河義からはまず了解の返事を返し、そして現在も偵察捜索隊本隊に攻撃が行われている事が告げられる。
「了解。こっちは、次を叩きに――」
制刻はそれを了解し、次の行動に移る旨を発そうとする。
ビシッ――と、音が室内に響いてそれを遮ったのは、その瞬間であった。
音の発生源は一室の窓側。制刻と鳳藤が反応し目を向ければ、そこにあるガラス窓に、大きな亀裂が入っている様子が見える。
それを見たのも束の間、次の瞬間、ガラス窓は音を立てて砕け飛び散った。
「っと」
「ッ!?」
ガラス窓を破ったのは、件の鉱石針の攻撃だ。
砕けたガラスの破片が室内に飛び散り、そして飛び込んで来た鉱石針は室内の各所に音を立てて突き刺さる。幸いにして制刻と鳳藤に被害は無かったが、襲い来たそれ等に制刻は顔を顰め、鳳藤は思わず身を縮込める。
だが息吐く間もなく制刻等の眼は、今度は窓の外がぼわりと赤く発光する様子を見る。
――直後、割り開かれた窓から、今度は火球が飛び込み現れた。
「うわッ!?」
飛び込んで来た火球は一室の壁にぶつかり、燃え上がり室内の一角を焼く。伝わり来たその熱に、鳳藤は顔を歪めて声を漏らす。
「チッ、こっちを狙って来たか」
一方制刻は、それ等の襲い来た攻撃から、敵が攻撃対象を自分等に移した事を察し、そして舌打ちを打つ。
《4-2、無事か!?》
火球が窓を越え飛び込んだ様子は外からも見えていたのだろう、地上の河義から安否を問う声が、インカム越しに飛び込んで来る。
「えぇ、問題ありません。奴等、狙いを俺等に移したようです」
少し焦った様子の河義の声に、しかし制刻は淡々と返す。
《冗談じゃねぇ、一歩違やサボテンになっちまうッ!》
そこへ竹泉の声が割り込む。どうやら竹泉等の方にも、同様の攻撃が襲い来たようだ。
そんな通信の直後、再び窓から鉱石針が飛び込み、室内の各所へ突き刺さる。
「ぅッ!?」
「ッ――とにかく、俺等は次の家屋の抑えます」
再び顔を顰め声を漏らす鳳藤。その一方で制刻は、次の行動の報告を上げる。
《行けるのか?》
「モタついても、釘付けにされるだけです。行動を続けます」
河義は、敵の攻撃下にある制刻等からの制圧続行の報告に、懸念の声を寄越す。しかし制刻はそれに端的に答えた。
《分かった。無茶はするなよ》
「了解――剱、行くぞ」
河義の忠告に答え、そして制刻と鳳藤は一室を飛び出した。
廊下に出て、対面の開け放たれた扉から隣室へ踏み込み、その一室の奥に窓を見止める制刻。制刻は窓に駆け寄ると、小銃の銃床を繰り出し振るい、窓を破る。
そしてその破られた窓を何の躊躇も無く乗り越え、家屋の二階から飛び降りた。
飛び降り着地し、家屋の反対側へと出た制刻は、そのまま壁伝いに家屋の角に移動し、カバーする。続き鳳藤が、ややおっかなびっくりと言った様子で二階から飛び降り足を着き、制刻の後ろに同様にカバーする。
制刻はカバーした箇所より、その先に点在する家屋の群れを見止める。その内の一つの窓から火球が飛び出し、こちら側へ飛び来る様子が丁度見えた。飛び来た火球はこちらの家屋の死角へ消え、炎の燃え上がる音だけが聞こえ来る。さらに続いて、鉱石針が飛来し、家屋の壁や窓を破る音が聞こえ来た。
「まだ上の狙ってやがるみてぇだな」
その様子から、相対する傭兵達が未だ家屋上階に注意を向けている事を、制刻は察しを付ける。
「剱。次、奴等の攻撃が来た瞬間に、飛び出すぞ」
「あぁ――」
促す制刻とそれに返す鳳藤。両名は備え、敵の次の攻撃を待つ。
一拍の間を置いた後に、制刻等の耳は、再び飛来した鉱石針の群れが、家屋を叩き貫く音を捉えた。
「行くぞ」
瞬間、制刻が発し、そして両名はカバーしていた家屋の影を飛び出した。
「見ろ」
「あっちもか」
道を挟んだ向こうの家屋に視線を向ければ、その家屋の影から丁度飛び出した竹泉と多気投の姿が見えた。向こうも同様の手段を取ったのであろう。
そう考え零しながら、先に建つ次の家屋を眼に収め、そこに向かって駆ける制刻と鳳藤。しかし両家屋の中程まで駆けた所で、両名の足元に鉱石針が飛び来て突き刺さる。
「ッ!攻撃の間隔が短い!」
「再装填が早いか、あるいはウジャウジャいるのか」
先の攻撃から今の攻撃までのスパンの短さに、鳳藤は苦い声を上げ、制刻は推測の言葉を呟く。そんな制刻等にさらなる鉱石針の群れが飛来し襲い、肌を掠めそして足元に突き刺さる。
「ッ!」
「うぜぇな」
顔を顰めながらも、しかし両名は足を止めず駆ける。そして制刻等は家屋間を駆け切り、次の家屋の壁際へと踏み込む。
その瞬間、制刻は地面を踏み切り飛んだ。そして壁際に設けられていた窓に飛び蹴りをかまし、破り、その勢いのまま窓を潜って家屋内へと押し込んだ。
「ッ!?」
押し入った家屋一階の一室には、二名程の傭兵の姿があった。どちらも窓を割り飛び押し入って来た制刻の姿に目を剥く姿を見せたが、直後にはそれぞれの得物を繰り出し、応戦の姿勢を見せる。
「――ごッ!?」
だが次の瞬間には、内の片割れがのけ反りそして濁った悲鳴を上げた。その傭兵の額には鉈が深々と突き刺さっている。そして一方には腕を翳し伸ばした状態で、床に脚を着けた制刻の姿。
制刻は窓を蹴破り飛び込んだ瞬間に、同時に弾帯に挟んでいた鉈を抜き、傭兵にむけて投擲したのであった。
「な――!?ごぅッ!?」
仲間の仰け反り崩れる姿にもう一人の傭兵が驚愕の様子を見せたが、その直後に彼からも悲鳴が上がり、その体は打ち倒されるようにして崩れる。
制刻の背後には、続き窓を越えながらも、小銃を構えた鳳藤の姿がある。彼女の発砲が、もう一人の傭兵を無力化したのであった。
「――クリア!」
「あぁ、クリア」
窓を越え切り床に足を着いた鳳藤が、引き続き小銃を構えたまま視線を走らせ、そして声を上げる。
さらに鳳藤の声に制刻が呼応。
飛び込んだ家屋の一室に、それ以上の敵の姿は無かった。
「おし、次」
「あぁ」
鉈を傭兵の体から引っこ抜き回収しながら発する制刻。鳳藤がそれに返事を返し、そして部屋を駆け出て廊下に出る。
廊下に並ぶ各扉は、荒された後なのか全て乱雑に開け放たれており、制刻等その各部屋を流れるように手早く確認してゆく。そして廊下の端に上階への階段を見止め、制刻はそこに踏み込み駆け上がる。駆け上がった先の廊下の壁には、設けられたいくつかの扉が見える。両名は先に扉の開け放たれた部屋を覗き攫え、最後に一つだけ閉じられていた扉を見止め、その両端に張り付く。
「いいか?」
「あぁ」
「やれ」
両名は言葉を交わし、そして制刻の合図で鳳藤が扉を後ろ蹴りで蹴破った。
同時に制刻がこじ開けられた扉から、手榴弾を内部に放り込む。扉の向こうから炸裂音が響き、同時に制刻が、続いて鳳藤が小銃を構えて突入した。
突入した先には、四名程の傭兵の姿。いずれも手榴弾の炸裂を諸に浴びたのであろう、彼等は皆炸裂により上がった煙の向こうで、吹き飛ばされて身を打ち、あるいは崩れる瞬間であった。
「――クリア」
「クリアー!」
炸裂を逃れた傭兵の姿は無く、制刻と鳳藤は引き金を引くことなく室内の無力化を確認。それぞれ言葉を上げた。
「……二軒目、完了だ……!」
「あぁ――4-2より4ヘッド。こちらは二軒目を攫えた」
最後の部屋の安全化、そしてその二軒目の家屋の制圧無力化を完了。鳳藤はそれを言葉にして発し上げ、制刻はそれに一言返してから、インカムを寄せて報告の言葉を発報する。
《4-3、同じく。こっちも二軒目叩き終わった》
直後続けて、竹泉等の方からも二軒目制圧完了の報告が上がり聞こえて来た。
《了解、各ユニット。だが敵からの攻撃は以前継続中、おそらく正面奥に見える家屋が、最大火点と思われる!》
報告に対して河義から返答が返されると同時に、続けて外の状況と敵配置の推測が齎される。
「了解、叩きます――行くぞ」
それに対して制刻は端的に、無力化に掛かる旨を返す。そして鳳藤に向けて促し、両名は行動を再開する。部屋を出て廊下を渡り、開け放たれた扉を潜って隣室に踏み込む。そして室内の窓際に滑り込み、身を低くしてカバー。そこから最低限視線を覗かせ、先に建つ一軒の家屋を視認する。
「あの建物か――」
家屋を確認し、呟く言葉を零す鳳藤。
――両名のカバーした窓際のガラス窓が、音を立てて割れ飛び散ったのはその瞬間であった。
「うぁッ!?」
「チッ」
突然割れ、降り注ぎ襲ったガラスの破片の雨に、鳳藤は驚き顔を伏せ、制刻は腕を翳しながら舌打ちを打つ。
そんな両名の頭上を、さらに続けて無数の鉱石針が風を切り飛来し飛び抜け、部屋の反対側の壁に突き刺さる。その上、家屋外部から無数の何かを叩くような音が聞こえ来る。おそらく家屋外部を鉱石針の雨が叩く音だと推測できた。
「ッ……まるで銃撃だ……!」
「あぁ、面白れぇな」
制刻と鳳藤はそれぞれ、降り注いだガラスの破片を払い、あるいは身を振るって退けながら言葉を交わす。
しかしそんな所へ、さらなる攻撃が両名のいる家屋へ襲い来た。
先に見える家屋から火球が飛来。火球はこちら側の家屋の窓縁に当たり拡散し、熱が両名を襲う。さらには相手側には弓手あるいはクロスボウ持ちも居るのであろう、複数の矢が放たれ飛来し、こちらの家屋の壁に突き立ち、あるいは窓を越えて内部へと飛び込んでくる。
「ぅッ!……なんて攻撃だ……!」
立て続けの攻撃に、困惑の声を零す鳳藤。
《ざけてやがる――おいどうすんだよ自由。こっから先、ダッシュで抜けんのは自殺行為だ》
そしてインカム越しに、向こうも同じ状況なのであろう竹泉からの、悪態と訴え尋ねる言葉が寄越され聞こえて来る。
竹泉の言葉通り、敵傭兵からの攻撃はここに来て勢いを激しくし、この中をこれまでの様に潜り抜けて突破するのは危険であった。
「あぁ、このまま踏み込みに行くのは、利口じゃねぇ。まずこっちからも、派手にぶち込む必要があるな」
竹泉からの言葉に、制刻はそんな言葉を返す。
「竹泉、あの家に向けて榴弾をぶち込め」
そして制刻は、竹泉に向けてそんな指示の言葉を送り発した。
《ちょい待ち――ハチヨンは屋内からじゃ撃てねぇぞ、俺に外に出てファンタジーの雨あられの餌食になれってか?》
「俺等で奴等に向けて撃ちまくって、極力抑え込む。その隙を狙え」
指示に対して竹泉は懸念の言葉を寄越したが、制刻はそれに対して援護を行う旨を発する。
「4ヘッド。可能であればそちらからも、火力支援を」
そして制刻は、後方の河義等に向けて要請を発報する。
《了解4-2。可能な限りの火力を正面に注ぐ》
「頼みます――おぉし、オメェ等いいか?」
河義からの了承の言葉をインカムから聞いた制刻は、隣の鳳藤やインカムの向こうの竹泉や多気投に向けて促し発する。
「ッ、了解」
《はぁ、やりゃいいんだろ!》
《オーダー一丁ォ!》
各々からはそれぞれの形で了解の言葉が返って来る。
「おし――始めろ」
そして制刻の言葉と同時に、各々は一斉に行動を開始した。
制刻と鳳藤は最低限身を出して小銃を構え、先に見える家屋の各窓を狙い、発砲を開始。同時に道を挟んだ向こうの家屋からは、多気投のMINIMI軽機の物であろう連続した射撃音が聞こえ響き始める。
さらに後方からは、偵察捜索隊本隊各員の装備火器や、指揮通信車の12.7㎜重機関銃の物であろう発砲音が聞こえ来る。
各方から撃ち放たれた各種口径の弾頭は、その全てが一帯の正面奥に立つ家屋に向けて注がれ始めた。
火力投射により暗がりの中でも、先の建物のガラスが次々に割れ落ち、至る所に穴が開きみるみるうちに損壊して行く様子が見て取れる。
しかしそんな中で、先の建物からも魔法攻撃や矢撃による応射が来る。
飛来した鉱石の針や矢は、家屋の壁を叩き、窓から飛び込み制刻等の頭上を飛び抜け、すぐ傍を掠める。
「く……!」
「怯むな、火力を絶やすな」
「あぁ、分かっている……!」
傍を飛び抜けてゆく数々のそれに、表情を歪め声を零す鳳藤。しかし制刻はそんな彼女に促す。
先の敵の籠る家屋と、各隊の位置する地点の間を、それぞれの攻撃が激しく飛び交う。
敵の籠る家屋からは鉱石の針や矢が無数に放たれ、そして火球が飛来直撃し各所を焼く。
対する偵察捜索隊側も激しい火力投射を続ける。指揮通信車の12.7㎜重機関銃の火線は曳光弾により可視化され、先の家屋に注がれる様子が暗闇の中で一際目立ち、さらに各火器からも容赦のない射撃が続く。
「こんなにも抵抗を見せるか……ッ!」
鳳藤は懸命に小銃の引き金を引き続けながらも、狼狽に近い声を零す。
偵察捜索隊の家屋に向けての投射火力は相当な物に達している。しかしにも関わらず籠る敵からの魔法や矢の応射もまた、多少の衰えこそ見せど、途絶える様子は無く続いていた。
「ゴロツキとは違ぇようだ――竹泉、まだか?」
かなりの抵抗を見せる敵傭兵に、制刻は呟き発する。そしてインカム向けて発し、竹泉に対戦車火器――84㎜無反動砲の準備状況を尋ねる。
《竹しゃん、ハリーだずぇ!》
《もちっとだ、急かすな!》
続き通信に流れる多気投からの急かす声。それに対して、竹泉からの荒い返答が返り聞こえて来る。
《――ヨシ!――ホレ、お待ちかねだぁッ!》
竹泉等の陣取る家屋は、制刻等の居る家屋より少し前に位置しており、そこでの動きは制刻等から良く見える。インカムから声が響くと同時に、竹泉等の家屋の玄関口から、姿を現し84㎜無反動砲を構える竹泉の姿が見える。
瞬間、彼の背後に無反動砲の後部から吐き出されたバックブラストが広がる。そして同時に撃ち出された多目的榴弾が、先の傭兵達の籠る家屋の、上階の窓に飛び込む。
――そして炸裂。
炸裂した多目的榴弾は、炸裂音を上げて家屋の上階を内側から吹き飛ばした。窓からは多目的榴弾の炸裂より発生した煙が噴き出し上り、そして各種破片が外部へと飛散した。
《どうよ?》
「……どうなった……?」
インカムから竹泉の声が届き、続け鳳藤が声を零す。
制刻等は、上階正面が崩落し、煙を上げる家屋を凝視する。
「あぁ、静かんなったみてぇだ」
そして制刻が呟く。
家屋からの矢や火球、鉱石針による攻撃は、多目的榴弾の着弾炸裂を境に止み、火点となっていた家屋の沈黙が確認された。
その家屋の沈黙を最後に、周辺一帯に敵傭兵からの攻撃の様子は見えなくなり、それを確認した事により、偵察捜索隊も攻撃を中止。散発的に聞こえていた銃声が鳴り止み、一帯に静寂が戻る。
「4-2より4ヘッド。火点は沈黙した模様、これから中を抑えに行く」
《了解、十分注意しろ》
制刻は後方の河義に、家屋を制圧に向かう旨を発報。それに河義は警告の言葉を返す。
「竹泉、投。そっから援護しろ」
《へぇへぇ》
「剱、行くぞ」
制刻は竹泉と多気投に支援を要請。
そして制刻と鳳藤はカバーを解いて一室を出て、階段を下りて玄関口より屋外へと飛び出る。
竹泉と多気投等の援護支援の元、家屋間を掛ける制刻と鳳藤。しかしこれまでと違い、敵からの攻撃が襲い来る事な無く、両名は一帯最奥の家屋へと辿り着き駆け込んだ。
そして窓を破り内部に突入。
「クリア」
「あぁ、クリア」
突入先の一室は無人であった。さらに両名は一階の各部屋を周り、全ての部屋のクリアリングを早々に完了。上階に繋がる階段を見つけ、駆け上がる。
「うわッ――」
上階へと踏み込んだ瞬間に、鳳藤は思わず声を上げた。
家屋上階は、各部屋を隔てていた壁のほとんどが破損し破られ、残った部位にも大小無数の穴が開き、蜂の巣となっている。全ては撃ち込まれた銃火、そして無反動砲の多目的榴弾による物であった。
そして制刻と鳳藤は、もはや扉の役割を成していないそれの一片を蹴り除け、一室へと踏み込む。
「ぅ……」
そこで目に飛び込んで来た物に、鳳藤は再び声を零す。
一室内に広がっていたのは、多目的榴弾の炸裂によりあらゆる物が破損し散乱した光景。そして死体となり散らばる、7~8名程の傭兵と思しき者達であった。
「派手に吹っ飛んだな。――4ヘッド、家屋内を抑えた」
一方の制刻はインカムに向けて発しながら、視線を起こす。
一室の正面の壁は、投射された火力の影響で完全に崩落して開け、そこから、ここまで自分達が押し上げて来た一帯の光景がよく見えた。
《了解、周辺からの攻撃も治まったようだ。再編成しよう――各員、奥の家屋で合流だ》
インカム越しに、河義から各員へ合流の指示が伝えられる。
そして道の向こうから、待機していた指揮通信車と各隊が。そして隣接の家屋からも、竹泉と多気投が外へと繰り出て、制刻等の居る家屋へ駆けて来る姿が見えた。
「制刻、鳳藤。よくやってくれた」
指揮通信車を中心に、各隊各員は最奥の家屋の元で合流。
その中から河義が、家屋上階の制刻と鳳藤に言葉を投げかけた。
「えぇ、どうも」
それに対して、端的に返す制刻。
「しかし――苛烈な攻撃だったな……」
「この場を俺等に見られちゃ、都合が悪いんでしょう」
続け河義の呟いた言葉に、制刻はそう推測の言葉を返す。そして制刻は、傭兵達が各家屋内を漁り返し、何かを探している様子があった事を説明した。
「あの人は、〝口封じ〟と言っていた。詳細は分からないが、やはり彼等の狙いは村人達なんだろう」
河義は先程保護したイノリアの発した言葉を思い返し、そして傭兵達の狙いを推測する。
「各家屋に、村の人の姿は無かったんだな?」
「えぇ。出くわしたのは、外の奴等と同じ装備の人間だけです」
河義の問いかける言葉に、制刻は内部の様子を見て返す。
「まさか、皆やられちまったのか?」
「いや――見る所、この村は襲撃されてまだ時間が浅い。生存者がいる可能性はまだある」
指揮通信車上の矢万が懸念の言葉を発するが、河義はそれを否定。可能性の言葉を発する。
「もっとよく村の内部を捜索する必要があるな」
「そんじゃあ、二手に分かれますか。俺等は、村を外周沿いに漁ります」
そして河義の続け発した言葉に対して、制刻が進言の言葉を上げた。
「いいだろう。なら私達は、集落の中心部に行ってみる」
「おぉし。剱、竹泉、投、行こうぜ」
河義は許可の言葉を聞き、制刻は鳳藤等に向けて声を発し、壁の崩落し開けた所から地上へ飛び降りる。
「お、おい待てよ」
「まーた勝手に決めやがって」
「ラインにボールを決めにいこうぜぇッ!」
鳳藤は困惑しながら制刻を追って飛び降りる。そして地上では竹泉が悪態を吐き、多気投が揚々と発する。
「偵察捜索隊本隊は、集落の中心部を目指す。かかれ――」
その様子を横目に見ながら、河義はその他の各員に向けて指示を発する。そして偵察捜索隊は二手に分かれ、それぞれの行動を開始した。
指揮通信車を先頭に立て、普通科4分隊の7名と増強戦闘分隊の一組4名は、それぞれ陣形を組んで指揮通信車の後ろを周囲に警戒の目を向けながら進む。
「ヒデェな」
増強戦闘分隊に組み込まれている武器科隊員、門試(かどためし)一士が進んでいる道の脇に視線を送りながら呟く。
とうに日は落ちたと言うのに、村内は各所に上がる火の手により、明るく照らされている。
「倒れているのは、集落の人間か?」
続いて増強戦闘分隊の一組の組長を務める、威末が零す。進みゆく道を見渡せば、所々にこの村の住人と思われる者の、亡骸が横たわっていた。
地上を行く各員が凄惨な光景に顔を顰める一方、先頭を行く指揮通信車のターレット上では、車長の矢万が周囲に目を光らせていた。
《車長、車内に入って下さい》
しかしそんな折、矢万の着けるインカムにそんな声が届く。相手は操縦手の鬼奈落だ。次に何が襲い来るかも分からぬ状況で、矢万が車上で身を晒す事を不安視しての進言であった。
「気が進まねぇな。車内からじゃ見通しが悪くなる」
《攻撃を受けて何かあっては事です》
矢万は警戒の目が狭くなる事を懸念し、渋る声を上げるが、そんな矢万に鬼奈落からは言い聞かせるような進言の言葉が続き返される。
「あぁ、分かったよ」
そんな鬼奈落の言葉を矢万は渋々といった様子で承諾。最後に一度周囲を見渡してから、ターレットハッチを潜り車内へ降りようとする。
そんな矢万が、視界の端に何か瞬く物を見たのはその時だった。
「――あ?」
そちらへ視線を向けた矢万は、次の瞬間自身の目に飛び込んで来た物に、思わず素っ頓狂な声を上げた。彼の目に映ったのは、灯る一つの炎。
最初それをあちこちの建物から上がっている火の手の一つかと思った矢万。しかしその炎が宙空を飛び、こちらに迫って来る物だと気付いたのは、その直後であった。
「――ッ!?」
それを認識すると同時に、矢万はターレットハッチを潜りその身を車内へと引き込む。飛び来た炎――炎球が指揮通信車の車体へ直撃したのは、その瞬間であった。
「ヅッ!」
「ッ!」
直撃した炎球は指揮通信車の車体前面に直撃。燃え上がりその装甲表面を焦がした。幸いそれまでに留まり炎球は直後にはその勢いを大幅に減じたが、矢万と鬼奈落は突然のその事態に、車内で顔を顰め声を零した。
「うぇ!?」
「なんぞぉッ!?」
その光景は後続の各員の眼にも届いていた。突然の現象に、竹泉や多気投を始め各員から驚く声が上がる。だが事態はそれに留まらなかった。
次の瞬間には、何らかの多数の物体が飛来。指揮通信車の装甲を叩き、そしてその後ろに展開していた各員の周囲や足元に降り注いだ。
「うぁ……ッ!?」
「ッ――身を隠せッ!」
鳳藤の狼狽える声と、河義の指示の言葉が同時に上がる。同時に各員は飛ぶように陣形を解いて散会し、指揮通信車の後ろ、あるいは周囲に存在する家屋建物の影へと飛び込み身を隠した。
「ッ――これは」
家屋の一つに身を隠した河義が、顔を顰め声を零す。
「こ、攻撃かと思います!」
「見りゃ分かるわッ!」
その河義に、後ろに位置する建物に身を隠した鳳藤が狼狽えながら進言。そらにそれに、道を挟んで反対側の建物にカバーした竹泉から、荒んだ言葉が飛んでくる。
「また鉱物でできた摩訶不思議だな」
そんなやり取りを端に聞きながら、鳳藤と同位置にカバーした制刻は、周囲の各所に目を配りながら零す。周囲の地面や建物の壁には、先にも確認した30㎝大の針状の鉱石が、いくつも突き刺さっていた。
それらを確認した後に、建物の影から視線をわずかに出し、先の様子を覗き確認しようと試みる制刻。
だが瞬間、再び鉱石の針の雨が襲来。それらは先に停車している指揮通信車の装甲を再び叩き、そして周囲に突き刺さった。
「チッ」
すかさず引き込み、そして猛攻に舌打ちを打つ制刻。
「各員、被害報告しろ!」
先の家屋の影で、同様に河義も苦い表情を作りながら、彼は各員に被害の有無を問いかける。
「ありません」
「えぇ、おかげさまでこっちも!」
「増強2分隊1組、無し」
《ハシント、無事です!》
河義の問いかけに、各所各員から無事を報告する声や通信が上がって来る。幸いにも先の攻撃で被害を被った者はいなかった。
「――ハシント、矢万三曹。どこから攻撃を受けたか見えたか!?」
各報告を聞いた河義は、続けて指揮通信車の矢万に、攻撃の出所の特定を要請する。
《炎は前方、突き当りの家屋からです!他の出元ははっきりしません!》
要請に、矢万からはそんな言葉が返される。先と同様の炎球が再び飛来し、指揮通信車にまたも直撃したのはその直後であった。
「ッ――またかッ!」
「すぐ収まった。燃料をばら撒いて、炎上させるタイプじゃねぇな」
再びの炎の襲来に、険しい顔で声を漏らす鳳藤。その傍らで制刻は、飛来した炎球の直撃から消えゆく様までを観察し、それが火炎放射器や焼夷ランチャーのように、可燃物を散布し炎を拡大させるような代物では無い事を察する。
「ふざけてやがるッ!」
「応戦します!」
各方にいる竹泉や威末等から、悪態や応戦行動に移る旨の言葉が河義の元に上がって来る。そして指揮通信車の後ろに控える増強戦闘分隊の各員。それに建物にカバーする4分隊の竹泉や多気投等は、それぞれ遮蔽物から装備火器の銃口を突き出し、各所に向けて発砲を開始した。
先に並ぶ各家屋へ注がれていく銃火。
しかし敵の正確な所在の掴めぬ状況での、推測に頼る各銃撃は効果的な物とはならず、直後にはそれを物ともしないと言わんばかりの、鉱石針の雨が三度各員を襲った。
「ッ!」
「あぁ、畜生ッ!」
襲い来たまるで散弾、あるいは機銃掃射にも似た鉱石針の雨に、各員は射撃を止めて遮蔽物に引き込み、口を鳴らしあるいは悪態を吐く。
「落ち着け!闇雲に撃つな!」
そんな各員へ向けて、河義は無闇な射撃を控えるよう指示の声を張り上げる。
「そこかしこの家屋に配置しているようだな」
「外から撃ち込むだけじゃ、黙らせられねぇでしょう。中に踏み込んで、一軒一軒潰してく必要があるかと」
各員に制止の声を掛けた河義は、先に見える各家屋を覗き睨みながら、敵が分散配置している事を推察。さらにそこへ制刻が後ろから、進言の言葉を飛ばす。
「俺等で、踏み込みましょう」
そして制刻は続け、名乗り出る言葉を上げた。
「ちょ、おい。俺等って――」
「剱は俺と右手だ。竹泉、投、オメェ等は左手の家並みを攫えて行け」
鳳藤はそこへ声を挟もうとしたが、制刻はそれを遮り、勝手にピックアップした三名に、指示の言葉を送る。
「いや、おい!何勝手に決めさらしてくれてんだッ!」
竹泉からは文句の言葉が飛んで来たが、制刻はそれには取り合わない。
「やれるのか?」
「やりましょう。他は、こっから援護を」
そして河義の問いかけの言葉に、制刻は端的に返し、そして要請の言葉を発した。
「……いいだろう。識別はそれぞれ4-2、4-3。油断と無茶はするなよ」
河義は制刻のその言葉を受け入れ、無線識別を割り振りそして念を押す言葉を告げる。
「了解。剱、竹泉、投。備えろ」
河義の言葉に制刻は端的に了解の言葉を返し、そしてピックアップした三名に準備するよう促す。
「はぁ、まったく……」
「最悪だ!」
「ビックらホイのお返しだなぁッ!」
それに対して鳳藤はため息、竹泉は悪態を零し、多気投だけが陽気な声を張り上げた。
「各員、援護射撃用意!策頼、発煙筒を!」
その一方、河義はその他の各員に突入支援に備えるよう指示の言葉を飛ばす。
「――投擲!」
そして河義、策頼の手に寄り発煙筒が投擲される。先へ放り込まれた発煙筒は煙の放出を始め、やがて煙は偵察捜索隊と、その先に立ち並ぶ家屋の間に充満。立ち込めた煙は両者の間の視界を完全に遮った。
「行くぞ」
煙幕の充満を確認すると同時に、制刻が合図を発する。そして制刻等4名はそれぞれの遮蔽物より飛び出した。
制刻等はそのまま充満した煙幕の中に突入し、その中を駆け抜ける。
「くッ――」
その途中、足元へまたも鉱石針の雨が襲い来た。煙幕に阻害され、おそらく目測で放たれ来たのであろうそれは、制刻等に命中する事は無かった。しかし足元を襲い傍を掠めて行った鉱石針の数々に、鳳藤は思わず声を零す。
「ビビるな」
「ッ、分かってる!」
そんな鳳藤に、先を駆ける制刻が声を飛ばし、鳳藤は顔を苦くしながらそれに返す。
両名の背後からは、指揮通信車搭載の12.7㎜重機関銃や各員の装備火器の射撃音が聞こえ届く。
自分等を援護するために開始されたそれ等を背後に聞きながら、制刻等はものの数秒で煙幕の中を駆け抜け、その先に建つ家屋を見止めてその側面へと駆け込んだ。
壁際に張り付き、一度周囲を見渡す制刻と鳳藤。
道を挟んだ向こう側の家屋には、同様に煙幕を抜けてその壁際に駆け込み張り付いた、竹泉と多気投の姿が確認できた。
向こう側の竹泉と多気投は、駆け込んで早々に家屋の窓を破り、内部に突入する様子を見せる。
「おし、俺等も行くぞ」
「あぁ……!」
制刻と鳳藤は家屋の壁の端に設けられた、裏口と思しき扉を見止める。その裏口扉の両端に張り付き、突入に備える。
「いいか?」
「あぁ」
「おぉし――やれ」
言葉を交わし、タイミングを揃える両名。そして制刻が合図の声を発すると同時に、鳳藤は裏口扉を後ろ蹴りで蹴り飛ばし、強引にこじ開ける。
突入口が解放されると共に、制刻は小銃を構えて内部へ突入した。
踏み込んだ先、家屋内部の台所と思しきその室内には、数名の人間の姿があった。まず外の道に面する窓の際に一人。さらに部屋の真ん中で横倒しになったテーブルの向こうに二人。先に交戦した傭兵と同様の出で立ちをしており、皆一様にその目を剥き、侵入者である制刻にその視線を集中させる。
制刻はその計三人の傭兵の存在を、視線を流して一瞬で掌握。そして最初に窓際の一人に照準を合わせて引き金を引いた。至近距離であったため、一発分の発砲音が響くとほぼ同時に窓際の傭兵は撃ち抜かれて崩れ落ちた。
一人目が崩れた時には、制刻はすでに次の傭兵へと照準を移していた。その向こうに映る、驚愕の表情を見せている傭兵に向けて制刻は引き金を再度引き、発砲音と同時に二人目が崩れ落ちる。
そしてほぼ同時に、制刻の背後から別の発砲音が響く。制刻に続いて突入した鳳藤が、構えた小銃を制刻の肩越しに突き出している。響いた発砲音はそこからの物であり、鳳藤の小銃から放たれた5.56㎜弾は、最後に残った傭兵を屠った。
「――クリア!」
「あぁ、クリアだ」
室内にそれ以上の傭兵の姿が無い事を確認し、両名はクリアの声を上げて交わす。
突入からここまでの時間は、わずか5秒にも満たない物であった。
「……酷く荒されている……略奪か?」
その一室の内部は、あらゆる家具や棚類が開け放たれ、ひっくり返され、荒された様子が見て取れた。それ等を目にし、推測の言葉を上げる鳳藤。
「あるいは、なんぞ探してんのか――」
そしてそれに別の推察を続ける制刻。
しかしそんな二人の耳が、家屋の外から何か金属同士がぶつかり弾けるような音を、微かに聞く。それが敵の攻撃の物である事は、容易に判別が付いた。
「考察は後だ。奴等を先に、静かにさせる必要がある」
「あぁ……」
まずは敵の無力化の優先を促す制刻。そして二人は家屋内を制圧すべく、行動を再開した。
制刻と鳳藤が踏み込んだ家屋の上階。その内の一室には、また三名程の傭兵の姿があった。男傭兵が二人、女傭兵が一人。
「く……一体なんなんだ……!?」
そんな傭兵達の内の一人、リーダー格らしきから零される声。
傭兵達は皆、窓際で身を屈めて隠れ、時折窓から視線だけを覗かせ、眼下の様子を伺っている。
「フィルエ・ベイルもスティア・ニューヅも効いた様子が無かった……あれは一体……?」
「あいつ等からの攻撃も、何なのか分からない……!」
他の二人の男女の傭兵も、続けて困惑の言葉を上げる。先程から彼等は、異様な事態の連続を目の当りにしていた。
突然姿を現した、馬車とも知れぬ不可解な物体の、それに伴う謎の一派。
この草風の村の〝口封じ〟の役割を請け負っていた傭兵達は、まず間違いなく味方ではないその侵入者を、村人達同様に排除すべき存在とみなして攻撃を敢行。
しかし現れた不可解な物体は、信じられぬ事に炎をぶつけようとも鉱石の針を浴びせようとも、それ等を物ともしない姿を見せた。そして物体と侵入者は、針とも鏃とも知れぬ何らかを数多に、それも苛烈に放ち返して来て傭兵達を殺傷。さらに煙を炊いて上げ、傭兵達の視界を阻害。
これ等の得体の知れない現象の数々に、傭兵達は狼狽え、そして動きを鈍らせていた。
「村が雇い入れた用心棒か何かか……?にしてもどこから……」
「南の入り口の方から来た……村を包囲している隊はどうしたの……?」
「突破されたか、あるいはやられたか……」
推測の言葉を交わし合う男女の傭兵。
「どうであれ、あれは排除しなければならない……!」
しかしそこへ断ずる言葉を上げるリーダー格の傭兵。今回、彼等の仕事中に自分達以外の味方が現れる予定はない。そして今回の仕事の特性上、村人はもちろんの事、第三者であってもこの場を目撃された以上、見逃す選択肢は無かった。
「じき、他の隊が応援に来る。スティア・ニューヅを放ち続け、足止めを続けろ!」
「了解……!岩よ、鋼よ、鏃となりて――」
リーダー格の傭兵が女傭兵に命じ、女傭兵はそれに答える。女傭兵は、鉱石針による攻撃魔法を扱う魔導士の一人であった。返答の後に、女傭兵は魔法詠唱を唱えようとする。
――バン、と。
室内、傭兵達の背後から異音が響いたのはその瞬間であった。
突入時の交戦以降それ以上の接敵は無く、家屋一階のクリアリングを難なく完了。そして階段を上がり家屋の二階へと踏み込んだ制刻と鳳藤。
「いいか?」
「ヨシ」
両名は上がってすぐの所にあった扉を見止め、その傍で突入準備態勢を取る。そして鳳藤が再び扉を蹴破り、解放された出入り口を潜って制刻が突入した。
突入した制刻は、室内に先と同様三名の傭兵の姿を見止める。傭兵達は皆、突然踏み入って来た制刻に驚き目を剥く様子を見せていた。
「ッ!」
しかし直後、内の一人――リーダー格の傭兵が、反応し行動に移る。彼は窓際足元の壁を蹴り、飛び出すと同時に抜剣。侵入者である制刻に向けて飛び、切りかかって来る。
だが抜かれ、振り上げられた彼の剣が届く前に、制刻の構えた小銃から発砲音が鳴り響く。そして撃ち出された5.56㎜弾が、リーダー格の傭兵の胸部を貫いた。
「ゴ――!?」
リーダー格の傭兵は襲い来たそれに目を見開き、声を零す。そして衝撃により彼の身は、退けられるように脇へ反れながら、崩れ落ちた。
「な――あ゛!」
ほぼ同時に、背後窓際にいた男傭兵が鈍い悲鳴を上げ、襲い来た衝撃に壁に叩き付けられ、崩れる。
制刻に続き突入した鳳藤の射撃によるものだ。
「ッ――岩よ、鋼よ、鏃と成りて牙を剥――」
仲間が次々に倒れる中、女傭兵はその両腕を制刻等に伸ばして向け、詠唱の言葉を紡ぐ。制刻等に向けて、鉱石針の魔法攻撃を放つ腹積もりだ。
「――げッ!?」
だが詠唱完了の瞬間、彼女の最後の一言は、濁ったそれへと変わった。制刻の続けての射撃が、彼女の眉間を貫いたのだ。
眉間に生々しい弾痕を作り、もんどり打つ彼女。が、最後の濁ってしまった詠唱は、しかしどうやら完成した物と認識されたらしい。倒れ行く最中の彼女の周囲宙空に、十本以上の鉱石針が浮かび形成され、それらは次の瞬間、勢いよく一斉に打ち出された。
「ッ!」
「とぉ」
だが虚しくも、彼女の最期のそれが功を成す事は無かった。もんどり打ち、倒れ行く瞬間であった彼女の狙いは制刻等を反れ、打ち出された鉱石針の群れは制刻等の真上、壁や天井付近を叩き突き刺さる。
制刻等に被害はなく、両名は少しの驚きの言葉を零すのみであった。
「――こんだけか」
「クリア……!」
敵傭兵達の見せた足掻きの攻撃に驚きつつも、両名はそれ以上の脅威が室内に無い事を確認し、クリアの声を上げる。
「もちっとズレてたら、やばかったな」
「ッー……」
そして両名は、天井付近に突き刺さった鉱石の針を一瞥して、それぞれ言葉を零す。鳳藤に関しては、一歩違えば身が針山となっていたかもしれないそれに、顔を少し青くする。
しかし一方で、自分等の足元で死体となった傭兵達に目を落とし、また別の理由で優れない顔を作った。
「こちらジャンカー4-2。こっちはまず、一軒目を攫えた」
そんな鳳藤をよそに制刻は、各方各員に向けてインカムを用いて報告を上げる。
《4-3だ、こっちもちょーど一軒目を抑えた》
それに便乗するように竹泉の声が続き聞こえる。
「4ヘッド、そっちはどうです?」
そして4ヘッド――指揮官である河義に、制刻は尋ねる言葉を送る。
《4-2、4-3、了解だ。だがこちらは依然として、少なくない攻撃を受けている》
制刻の尋ねる言葉に、河義からはまず了解の返事を返し、そして現在も偵察捜索隊本隊に攻撃が行われている事が告げられる。
「了解。こっちは、次を叩きに――」
制刻はそれを了解し、次の行動に移る旨を発そうとする。
ビシッ――と、音が室内に響いてそれを遮ったのは、その瞬間であった。
音の発生源は一室の窓側。制刻と鳳藤が反応し目を向ければ、そこにあるガラス窓に、大きな亀裂が入っている様子が見える。
それを見たのも束の間、次の瞬間、ガラス窓は音を立てて砕け飛び散った。
「っと」
「ッ!?」
ガラス窓を破ったのは、件の鉱石針の攻撃だ。
砕けたガラスの破片が室内に飛び散り、そして飛び込んで来た鉱石針は室内の各所に音を立てて突き刺さる。幸いにして制刻と鳳藤に被害は無かったが、襲い来たそれ等に制刻は顔を顰め、鳳藤は思わず身を縮込める。
だが息吐く間もなく制刻等の眼は、今度は窓の外がぼわりと赤く発光する様子を見る。
――直後、割り開かれた窓から、今度は火球が飛び込み現れた。
「うわッ!?」
飛び込んで来た火球は一室の壁にぶつかり、燃え上がり室内の一角を焼く。伝わり来たその熱に、鳳藤は顔を歪めて声を漏らす。
「チッ、こっちを狙って来たか」
一方制刻は、それ等の襲い来た攻撃から、敵が攻撃対象を自分等に移した事を察し、そして舌打ちを打つ。
《4-2、無事か!?》
火球が窓を越え飛び込んだ様子は外からも見えていたのだろう、地上の河義から安否を問う声が、インカム越しに飛び込んで来る。
「えぇ、問題ありません。奴等、狙いを俺等に移したようです」
少し焦った様子の河義の声に、しかし制刻は淡々と返す。
《冗談じゃねぇ、一歩違やサボテンになっちまうッ!》
そこへ竹泉の声が割り込む。どうやら竹泉等の方にも、同様の攻撃が襲い来たようだ。
そんな通信の直後、再び窓から鉱石針が飛び込み、室内の各所へ突き刺さる。
「ぅッ!?」
「ッ――とにかく、俺等は次の家屋の抑えます」
再び顔を顰め声を漏らす鳳藤。その一方で制刻は、次の行動の報告を上げる。
《行けるのか?》
「モタついても、釘付けにされるだけです。行動を続けます」
河義は、敵の攻撃下にある制刻等からの制圧続行の報告に、懸念の声を寄越す。しかし制刻はそれに端的に答えた。
《分かった。無茶はするなよ》
「了解――剱、行くぞ」
河義の忠告に答え、そして制刻と鳳藤は一室を飛び出した。
廊下に出て、対面の開け放たれた扉から隣室へ踏み込み、その一室の奥に窓を見止める制刻。制刻は窓に駆け寄ると、小銃の銃床を繰り出し振るい、窓を破る。
そしてその破られた窓を何の躊躇も無く乗り越え、家屋の二階から飛び降りた。
飛び降り着地し、家屋の反対側へと出た制刻は、そのまま壁伝いに家屋の角に移動し、カバーする。続き鳳藤が、ややおっかなびっくりと言った様子で二階から飛び降り足を着き、制刻の後ろに同様にカバーする。
制刻はカバーした箇所より、その先に点在する家屋の群れを見止める。その内の一つの窓から火球が飛び出し、こちら側へ飛び来る様子が丁度見えた。飛び来た火球はこちらの家屋の死角へ消え、炎の燃え上がる音だけが聞こえ来る。さらに続いて、鉱石針が飛来し、家屋の壁や窓を破る音が聞こえ来た。
「まだ上の狙ってやがるみてぇだな」
その様子から、相対する傭兵達が未だ家屋上階に注意を向けている事を、制刻は察しを付ける。
「剱。次、奴等の攻撃が来た瞬間に、飛び出すぞ」
「あぁ――」
促す制刻とそれに返す鳳藤。両名は備え、敵の次の攻撃を待つ。
一拍の間を置いた後に、制刻等の耳は、再び飛来した鉱石針の群れが、家屋を叩き貫く音を捉えた。
「行くぞ」
瞬間、制刻が発し、そして両名はカバーしていた家屋の影を飛び出した。
「見ろ」
「あっちもか」
道を挟んだ向こうの家屋に視線を向ければ、その家屋の影から丁度飛び出した竹泉と多気投の姿が見えた。向こうも同様の手段を取ったのであろう。
そう考え零しながら、先に建つ次の家屋を眼に収め、そこに向かって駆ける制刻と鳳藤。しかし両家屋の中程まで駆けた所で、両名の足元に鉱石針が飛び来て突き刺さる。
「ッ!攻撃の間隔が短い!」
「再装填が早いか、あるいはウジャウジャいるのか」
先の攻撃から今の攻撃までのスパンの短さに、鳳藤は苦い声を上げ、制刻は推測の言葉を呟く。そんな制刻等にさらなる鉱石針の群れが飛来し襲い、肌を掠めそして足元に突き刺さる。
「ッ!」
「うぜぇな」
顔を顰めながらも、しかし両名は足を止めず駆ける。そして制刻等は家屋間を駆け切り、次の家屋の壁際へと踏み込む。
その瞬間、制刻は地面を踏み切り飛んだ。そして壁際に設けられていた窓に飛び蹴りをかまし、破り、その勢いのまま窓を潜って家屋内へと押し込んだ。
「ッ!?」
押し入った家屋一階の一室には、二名程の傭兵の姿があった。どちらも窓を割り飛び押し入って来た制刻の姿に目を剥く姿を見せたが、直後にはそれぞれの得物を繰り出し、応戦の姿勢を見せる。
「――ごッ!?」
だが次の瞬間には、内の片割れがのけ反りそして濁った悲鳴を上げた。その傭兵の額には鉈が深々と突き刺さっている。そして一方には腕を翳し伸ばした状態で、床に脚を着けた制刻の姿。
制刻は窓を蹴破り飛び込んだ瞬間に、同時に弾帯に挟んでいた鉈を抜き、傭兵にむけて投擲したのであった。
「な――!?ごぅッ!?」
仲間の仰け反り崩れる姿にもう一人の傭兵が驚愕の様子を見せたが、その直後に彼からも悲鳴が上がり、その体は打ち倒されるようにして崩れる。
制刻の背後には、続き窓を越えながらも、小銃を構えた鳳藤の姿がある。彼女の発砲が、もう一人の傭兵を無力化したのであった。
「――クリア!」
「あぁ、クリア」
窓を越え切り床に足を着いた鳳藤が、引き続き小銃を構えたまま視線を走らせ、そして声を上げる。
さらに鳳藤の声に制刻が呼応。
飛び込んだ家屋の一室に、それ以上の敵の姿は無かった。
「おし、次」
「あぁ」
鉈を傭兵の体から引っこ抜き回収しながら発する制刻。鳳藤がそれに返事を返し、そして部屋を駆け出て廊下に出る。
廊下に並ぶ各扉は、荒された後なのか全て乱雑に開け放たれており、制刻等その各部屋を流れるように手早く確認してゆく。そして廊下の端に上階への階段を見止め、制刻はそこに踏み込み駆け上がる。駆け上がった先の廊下の壁には、設けられたいくつかの扉が見える。両名は先に扉の開け放たれた部屋を覗き攫え、最後に一つだけ閉じられていた扉を見止め、その両端に張り付く。
「いいか?」
「あぁ」
「やれ」
両名は言葉を交わし、そして制刻の合図で鳳藤が扉を後ろ蹴りで蹴破った。
同時に制刻がこじ開けられた扉から、手榴弾を内部に放り込む。扉の向こうから炸裂音が響き、同時に制刻が、続いて鳳藤が小銃を構えて突入した。
突入した先には、四名程の傭兵の姿。いずれも手榴弾の炸裂を諸に浴びたのであろう、彼等は皆炸裂により上がった煙の向こうで、吹き飛ばされて身を打ち、あるいは崩れる瞬間であった。
「――クリア」
「クリアー!」
炸裂を逃れた傭兵の姿は無く、制刻と鳳藤は引き金を引くことなく室内の無力化を確認。それぞれ言葉を上げた。
「……二軒目、完了だ……!」
「あぁ――4-2より4ヘッド。こちらは二軒目を攫えた」
最後の部屋の安全化、そしてその二軒目の家屋の制圧無力化を完了。鳳藤はそれを言葉にして発し上げ、制刻はそれに一言返してから、インカムを寄せて報告の言葉を発報する。
《4-3、同じく。こっちも二軒目叩き終わった》
直後続けて、竹泉等の方からも二軒目制圧完了の報告が上がり聞こえて来た。
《了解、各ユニット。だが敵からの攻撃は以前継続中、おそらく正面奥に見える家屋が、最大火点と思われる!》
報告に対して河義から返答が返されると同時に、続けて外の状況と敵配置の推測が齎される。
「了解、叩きます――行くぞ」
それに対して制刻は端的に、無力化に掛かる旨を返す。そして鳳藤に向けて促し、両名は行動を再開する。部屋を出て廊下を渡り、開け放たれた扉を潜って隣室に踏み込む。そして室内の窓際に滑り込み、身を低くしてカバー。そこから最低限視線を覗かせ、先に建つ一軒の家屋を視認する。
「あの建物か――」
家屋を確認し、呟く言葉を零す鳳藤。
――両名のカバーした窓際のガラス窓が、音を立てて割れ飛び散ったのはその瞬間であった。
「うぁッ!?」
「チッ」
突然割れ、降り注ぎ襲ったガラスの破片の雨に、鳳藤は驚き顔を伏せ、制刻は腕を翳しながら舌打ちを打つ。
そんな両名の頭上を、さらに続けて無数の鉱石針が風を切り飛来し飛び抜け、部屋の反対側の壁に突き刺さる。その上、家屋外部から無数の何かを叩くような音が聞こえ来る。おそらく家屋外部を鉱石針の雨が叩く音だと推測できた。
「ッ……まるで銃撃だ……!」
「あぁ、面白れぇな」
制刻と鳳藤はそれぞれ、降り注いだガラスの破片を払い、あるいは身を振るって退けながら言葉を交わす。
しかしそんな所へ、さらなる攻撃が両名のいる家屋へ襲い来た。
先に見える家屋から火球が飛来。火球はこちら側の家屋の窓縁に当たり拡散し、熱が両名を襲う。さらには相手側には弓手あるいはクロスボウ持ちも居るのであろう、複数の矢が放たれ飛来し、こちらの家屋の壁に突き立ち、あるいは窓を越えて内部へと飛び込んでくる。
「ぅッ!……なんて攻撃だ……!」
立て続けの攻撃に、困惑の声を零す鳳藤。
《ざけてやがる――おいどうすんだよ自由。こっから先、ダッシュで抜けんのは自殺行為だ》
そしてインカム越しに、向こうも同じ状況なのであろう竹泉からの、悪態と訴え尋ねる言葉が寄越され聞こえて来る。
竹泉の言葉通り、敵傭兵からの攻撃はここに来て勢いを激しくし、この中をこれまでの様に潜り抜けて突破するのは危険であった。
「あぁ、このまま踏み込みに行くのは、利口じゃねぇ。まずこっちからも、派手にぶち込む必要があるな」
竹泉からの言葉に、制刻はそんな言葉を返す。
「竹泉、あの家に向けて榴弾をぶち込め」
そして制刻は、竹泉に向けてそんな指示の言葉を送り発した。
《ちょい待ち――ハチヨンは屋内からじゃ撃てねぇぞ、俺に外に出てファンタジーの雨あられの餌食になれってか?》
「俺等で奴等に向けて撃ちまくって、極力抑え込む。その隙を狙え」
指示に対して竹泉は懸念の言葉を寄越したが、制刻はそれに対して援護を行う旨を発する。
「4ヘッド。可能であればそちらからも、火力支援を」
そして制刻は、後方の河義等に向けて要請を発報する。
《了解4-2。可能な限りの火力を正面に注ぐ》
「頼みます――おぉし、オメェ等いいか?」
河義からの了承の言葉をインカムから聞いた制刻は、隣の鳳藤やインカムの向こうの竹泉や多気投に向けて促し発する。
「ッ、了解」
《はぁ、やりゃいいんだろ!》
《オーダー一丁ォ!》
各々からはそれぞれの形で了解の言葉が返って来る。
「おし――始めろ」
そして制刻の言葉と同時に、各々は一斉に行動を開始した。
制刻と鳳藤は最低限身を出して小銃を構え、先に見える家屋の各窓を狙い、発砲を開始。同時に道を挟んだ向こうの家屋からは、多気投のMINIMI軽機の物であろう連続した射撃音が聞こえ響き始める。
さらに後方からは、偵察捜索隊本隊各員の装備火器や、指揮通信車の12.7㎜重機関銃の物であろう発砲音が聞こえ来る。
各方から撃ち放たれた各種口径の弾頭は、その全てが一帯の正面奥に立つ家屋に向けて注がれ始めた。
火力投射により暗がりの中でも、先の建物のガラスが次々に割れ落ち、至る所に穴が開きみるみるうちに損壊して行く様子が見て取れる。
しかしそんな中で、先の建物からも魔法攻撃や矢撃による応射が来る。
飛来した鉱石の針や矢は、家屋の壁を叩き、窓から飛び込み制刻等の頭上を飛び抜け、すぐ傍を掠める。
「く……!」
「怯むな、火力を絶やすな」
「あぁ、分かっている……!」
傍を飛び抜けてゆく数々のそれに、表情を歪め声を零す鳳藤。しかし制刻はそんな彼女に促す。
先の敵の籠る家屋と、各隊の位置する地点の間を、それぞれの攻撃が激しく飛び交う。
敵の籠る家屋からは鉱石の針や矢が無数に放たれ、そして火球が飛来直撃し各所を焼く。
対する偵察捜索隊側も激しい火力投射を続ける。指揮通信車の12.7㎜重機関銃の火線は曳光弾により可視化され、先の家屋に注がれる様子が暗闇の中で一際目立ち、さらに各火器からも容赦のない射撃が続く。
「こんなにも抵抗を見せるか……ッ!」
鳳藤は懸命に小銃の引き金を引き続けながらも、狼狽に近い声を零す。
偵察捜索隊の家屋に向けての投射火力は相当な物に達している。しかしにも関わらず籠る敵からの魔法や矢の応射もまた、多少の衰えこそ見せど、途絶える様子は無く続いていた。
「ゴロツキとは違ぇようだ――竹泉、まだか?」
かなりの抵抗を見せる敵傭兵に、制刻は呟き発する。そしてインカム向けて発し、竹泉に対戦車火器――84㎜無反動砲の準備状況を尋ねる。
《竹しゃん、ハリーだずぇ!》
《もちっとだ、急かすな!》
続き通信に流れる多気投からの急かす声。それに対して、竹泉からの荒い返答が返り聞こえて来る。
《――ヨシ!――ホレ、お待ちかねだぁッ!》
竹泉等の陣取る家屋は、制刻等の居る家屋より少し前に位置しており、そこでの動きは制刻等から良く見える。インカムから声が響くと同時に、竹泉等の家屋の玄関口から、姿を現し84㎜無反動砲を構える竹泉の姿が見える。
瞬間、彼の背後に無反動砲の後部から吐き出されたバックブラストが広がる。そして同時に撃ち出された多目的榴弾が、先の傭兵達の籠る家屋の、上階の窓に飛び込む。
――そして炸裂。
炸裂した多目的榴弾は、炸裂音を上げて家屋の上階を内側から吹き飛ばした。窓からは多目的榴弾の炸裂より発生した煙が噴き出し上り、そして各種破片が外部へと飛散した。
《どうよ?》
「……どうなった……?」
インカムから竹泉の声が届き、続け鳳藤が声を零す。
制刻等は、上階正面が崩落し、煙を上げる家屋を凝視する。
「あぁ、静かんなったみてぇだ」
そして制刻が呟く。
家屋からの矢や火球、鉱石針による攻撃は、多目的榴弾の着弾炸裂を境に止み、火点となっていた家屋の沈黙が確認された。
その家屋の沈黙を最後に、周辺一帯に敵傭兵からの攻撃の様子は見えなくなり、それを確認した事により、偵察捜索隊も攻撃を中止。散発的に聞こえていた銃声が鳴り止み、一帯に静寂が戻る。
「4-2より4ヘッド。火点は沈黙した模様、これから中を抑えに行く」
《了解、十分注意しろ》
制刻は後方の河義に、家屋を制圧に向かう旨を発報。それに河義は警告の言葉を返す。
「竹泉、投。そっから援護しろ」
《へぇへぇ》
「剱、行くぞ」
制刻は竹泉と多気投に支援を要請。
そして制刻と鳳藤はカバーを解いて一室を出て、階段を下りて玄関口より屋外へと飛び出る。
竹泉と多気投等の援護支援の元、家屋間を掛ける制刻と鳳藤。しかしこれまでと違い、敵からの攻撃が襲い来る事な無く、両名は一帯最奥の家屋へと辿り着き駆け込んだ。
そして窓を破り内部に突入。
「クリア」
「あぁ、クリア」
突入先の一室は無人であった。さらに両名は一階の各部屋を周り、全ての部屋のクリアリングを早々に完了。上階に繋がる階段を見つけ、駆け上がる。
「うわッ――」
上階へと踏み込んだ瞬間に、鳳藤は思わず声を上げた。
家屋上階は、各部屋を隔てていた壁のほとんどが破損し破られ、残った部位にも大小無数の穴が開き、蜂の巣となっている。全ては撃ち込まれた銃火、そして無反動砲の多目的榴弾による物であった。
そして制刻と鳳藤は、もはや扉の役割を成していないそれの一片を蹴り除け、一室へと踏み込む。
「ぅ……」
そこで目に飛び込んで来た物に、鳳藤は再び声を零す。
一室内に広がっていたのは、多目的榴弾の炸裂によりあらゆる物が破損し散乱した光景。そして死体となり散らばる、7~8名程の傭兵と思しき者達であった。
「派手に吹っ飛んだな。――4ヘッド、家屋内を抑えた」
一方の制刻はインカムに向けて発しながら、視線を起こす。
一室の正面の壁は、投射された火力の影響で完全に崩落して開け、そこから、ここまで自分達が押し上げて来た一帯の光景がよく見えた。
《了解、周辺からの攻撃も治まったようだ。再編成しよう――各員、奥の家屋で合流だ》
インカム越しに、河義から各員へ合流の指示が伝えられる。
そして道の向こうから、待機していた指揮通信車と各隊が。そして隣接の家屋からも、竹泉と多気投が外へと繰り出て、制刻等の居る家屋へ駆けて来る姿が見えた。
「制刻、鳳藤。よくやってくれた」
指揮通信車を中心に、各隊各員は最奥の家屋の元で合流。
その中から河義が、家屋上階の制刻と鳳藤に言葉を投げかけた。
「えぇ、どうも」
それに対して、端的に返す制刻。
「しかし――苛烈な攻撃だったな……」
「この場を俺等に見られちゃ、都合が悪いんでしょう」
続け河義の呟いた言葉に、制刻はそう推測の言葉を返す。そして制刻は、傭兵達が各家屋内を漁り返し、何かを探している様子があった事を説明した。
「あの人は、〝口封じ〟と言っていた。詳細は分からないが、やはり彼等の狙いは村人達なんだろう」
河義は先程保護したイノリアの発した言葉を思い返し、そして傭兵達の狙いを推測する。
「各家屋に、村の人の姿は無かったんだな?」
「えぇ。出くわしたのは、外の奴等と同じ装備の人間だけです」
河義の問いかける言葉に、制刻は内部の様子を見て返す。
「まさか、皆やられちまったのか?」
「いや――見る所、この村は襲撃されてまだ時間が浅い。生存者がいる可能性はまだある」
指揮通信車上の矢万が懸念の言葉を発するが、河義はそれを否定。可能性の言葉を発する。
「もっとよく村の内部を捜索する必要があるな」
「そんじゃあ、二手に分かれますか。俺等は、村を外周沿いに漁ります」
そして河義の続け発した言葉に対して、制刻が進言の言葉を上げた。
「いいだろう。なら私達は、集落の中心部に行ってみる」
「おぉし。剱、竹泉、投、行こうぜ」
河義は許可の言葉を聞き、制刻は鳳藤等に向けて声を発し、壁の崩落し開けた所から地上へ飛び降りる。
「お、おい待てよ」
「まーた勝手に決めやがって」
「ラインにボールを決めにいこうぜぇッ!」
鳳藤は困惑しながら制刻を追って飛び降りる。そして地上では竹泉が悪態を吐き、多気投が揚々と発する。
「偵察捜索隊本隊は、集落の中心部を目指す。かかれ――」
その様子を横目に見ながら、河義はその他の各員に向けて指示を発する。そして偵察捜索隊は二手に分かれ、それぞれの行動を開始した。
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