―異質― 邂逅の編/日本国の〝隊〟、その異世界を巡る叙事詩――《第一部完結》

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チャプター17:「終結と発動準備」

17-2:「Freedom Private」

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 草風の村。
 草風の村、凪美の町を結ぶルート間にある谷へ展開していた部隊は、紅の国商議会が村に差し向けた傭兵隊の撃退に成功したことを得て、谷から撤収、草風の村へと戻って来た。
 しかし隊の現在の目的である邦人確保は、今だその任の途中段階であり、帰還した部隊は待機していた部隊との合流、人員装備の再編等に、そして何より戦闘で発生した負傷者や殉職者への対応に追われていた。その影響で、時刻は日を跨ごうとしているにも関わらず、草風の村は喧騒に包まれていた。
 だがそんな中、指揮所用に設置された業務天幕の内部は、静寂に包まれ重苦しい雰囲気が充満していた。
 内部では、長机を挟んで天幕の奥側には、井神がパイプ椅子に座り、その両脇には小千谷二尉、河義三曹、帆櫛三曹の立つ姿がある。
 そして机を挟んだ天幕の出入口側には、制刻が先頭にだるそうに立ち構え、その後ろに鳳藤、策頼、竹泉、多気投が整列も碌にせずに、好き勝手な位置に立っていた。

「制刻、またとんでもなく暴れたようだな」
「相手がパネェ奴だったモンで」

 井神の少しあきれの含まれた言葉に、礼節を欠いた端的な言葉で返す制刻。井神は今、制刻等から脅威存在との戦闘における一連の出来事の説明を受けた所であった。

「これは……凄まじいな」

 横では小千谷二尉が机に置かれたタブレット端末を眺めながら、苦い表情を作っている。
 そこに移っていたのは、谷での戦闘で制刻等が仕留めた、脅威存在のクラレティエやロイミ始め、傭兵達の死体の記録画像だった。

「子供も多数いるじゃないか……気分のいい物ではないな」
「もっとゲロゲロに胸糞悪ぃシロモノを、俺等はこの二時間足らずで山盛り見て来たんですがねぇ?」

 少し顔を青くして言った小千谷に対して、皮肉気な言葉を発したの竹泉だ。

「んでもって、ガキだ大人だ以前の問題だったんですがねぇ。糞気色悪い思想に染まりきって、その癖てめぇらはまるで冒険を楽しむ主人公気取り。ああも気色悪い輩にマジでお目にかかれるとは、運がいいやら悪いやら!」

 続けざまに竹泉は捲し立て、最後に吐き捨てる。

「そして策頼のダチや、21壕の面子を甚振り殺しやがった」

 そして制刻は、斜め後ろで鋭い目つきで立っている策頼の心内を、代弁してやるように言い放った。

「皆、誤解するな。危機的状況にあった事は重々理解している。脅威存在の手によって、隊員が暴行行為を受け、そして犠牲者が出たことには、俺達も酷く憤慨している。何も今、諸君らの取った行動を咎めたり、倫理や人道についての議論をするわけじゃない。ただ脅威存在と直接戦闘した者から、状況を詳しく聞きたかっただけだ」

 井神は発しながら、両手を前に緩やかに差し出すジェスチャーで、皆に落ち着くように促す。

「今は、ねぇ?」

 そんな井神の説明に、しかし竹泉は懐疑的な様子で呟く。

「お前等いい加減にしないかッ!」

 甲高い怒号が天幕内に響き渡ったのはその時だった。

「あぁん?」

 竹泉の鬱陶しげな声と共に、皆の視線が声の主の方へと向く。

「さっきから聞いていればなんだその態度は!二尉と一曹の前だぞ、姿勢を正さんか!」

 怒声の主は女三曹の帆櫛だった。

「井神一曹!少し失礼します!」

 話の区切りがついた所を見計らっていたのか、帆櫛が机の脇を抜けて前へと出てくる。

「だいたいお前ら、その恰好はなんだ!?」

 そして帆櫛は制刻等の身なりに対して指摘を始めた。

「制刻士長、どうして上衣がOD作業服でズボンは1型なんだ!?それに羽織ってるのは私物のジャンパーだろう!?」

 まず帆櫛は制刻の服装に目を付け、制刻を睨みつけた。

「それぞれ組み合わせの片方がダメんなりましてね、指定の上着もです。文句なら、申請したのにいつまで経っても替えを寄越さねぇ、関係各所に言ってもらいたい」

 対する制刻はそんな帆櫛に対して、普段の調子で淡々と言ってのけた。

「だからって、組み合わせて着るのはどうかと思うぞ……?」

 横に居た鳳藤が困惑の声で言う。

「鳳藤士長!服制違反はお前もだぞ!」

「ッ!?は、はい!」

 しかし帆櫛の叱責の対象は、そこで鳳藤にスライドし、鳳藤は飛び上がった。

「前から言おうと思っていたが、その髪はなんだ!長すぎる上、まとめもしていないとはどういう事だ!」
「う……」

 鳳藤は幼少より長い髪で動くことに慣れていたため、これまで戦闘の上でも支障をきたす事はなかったが、彼女の髪の長さはナンバー中隊所属の隊員としては褒められる物ではなかった。
 生真面目な性格の鳳藤であったが、そんな彼女も54普連の規律の緩さに少なからず影響されている部分があった。

「それに、中に来ているインナーも私物だな!?」
「うぅ……えぇと、これは……」
「そいつぁ、中隊の幹部に許可取ってある。髪はまぁ、まとめさせりゃいいだろう」

 動揺する鳳藤に代わって制刻が助け舟を出す。

「中隊のローカルルールだな……本来なら故障療養等の特例ない限り規定違反だからな!」

 鳳藤に釘を刺す帆櫛。

「そして――」

 次に策頼に視線を向ける。

「う……」

 しかし策頼に違反点は特になく、なにより未だ殺気の籠る眼光に見つめ返され、帆櫛はたじろぐ。

「……策頼一士は……まぁいい」

 そして帆櫛は策頼から逃げるように目を反らした。

「――そしてお前等ッ!」
「あ?」
「ワッツ?」

 帆櫛は標的を竹泉と多気投へと変え、二人の前へと詰め寄る。彼女のその視線は二人の足元へと向いていた。
 竹泉と多気投が履いているのは登山等に使用される市販のトレッキングシューズだ。それぞれデザインが違い、戦闘服と比較して非常にカラフルで目立っている。

「なんでこんな物を履いているッ!」

 言葉と同時に、帆櫛は竹泉の履くシューズを踏みつけようとした。
 しかし、

「っとぉ!」
「ッ――ひゃッ!?」

 竹泉は自分の脚をさっと引き、標的を失った帆櫛の脚は接地をしくじり、バランスを崩した帆櫛は思わず悲鳴を上げた。彼女はヨタヨタとふらついた後、どうにか体勢を立て直す。

「あっぶねぇな――安いモンじゃねぇんだぞ」
「コイツのほうが調子よくファイトできるんだずぇ」

 そんな言葉を発する竹泉や多気投を、帆櫛はよろけた先で振り向き、赤面した顔で睨む。

「帆櫛、あまり熱くなるな」

 そこで様子を見ていた井神が、帆櫛を宥める声を掛けた。

「しかしッ!」
「服制規則ももちろん大事だが、今は優先しなければならない事が他にある」

 井神の言う通り、今この場に集まってるのは戦闘の事後報告のためだ。制刻等の前には他隊も同様に報告に集まっており、何も制刻等だけがお叱り目的で集められているでは無かった。

「――皆、今は状況が状況だからあまり咎めない。しかし、落ち着いたら現状可能な限りで良い、規則にのっとりちゃんと服装や装備を正すように」
「えぇ、できる限りは」
「は……」
「善処しますぅッ」
「イエッサァーッ」

 策頼を除く制刻等はそれぞれ機敏さに欠ける口調で、返答を返した。

「さて、話を次に移そう」

 帆櫛は未だに不服そうな顔で制刻等を睨んでいたが、井神は彼女が再び怒り出す前に話を移した。

「諸君らが遭遇した、いくつかの不可解な現象についてだ。まず魔法現象について。今回の戦闘で、その影響を受けた者と受けなかった者がそれぞれいたと聞いた」
「えぇ、どうにも魔法とやらに耐性の有るヤツと無いヤツが、俺等の中でもあるようです。誰がどっちに該当するのか、調べるべきかと」

 井神の言葉を肯定するように、制刻が発し、そして具申する。

「衛生隊員……は手いっぱいか。手空きになった者と、協会の方に協力してもらい、順次調べよう。編成にも影響がでそうだ」

 言った井神は、次に視線を策頼へと向ける。

「それと策頼。君は、先程の脅威存在との戦闘の中で、異質な現象を体験したそうだな?」
「あまり正確には覚えていないんですが。突如現れた作業服と白衣の人物の手助けを受け、よく分からない空間を通って、敵中に殴り込みをかけました」

 井神の問いかけに、策頼は自身の体験を最低限の言葉で端的に答えた。

「おめぇ、自分が正気を疑われる発言をしてるって気付いてるかぁ?」

 それに竹泉が横から、皮肉気な言葉で投げかけたが、策頼はそれには答えなかった。

「だが、実際に策頼の姿が消えた瞬間を四耶三曹達が目撃している。そして敵中に姿を現し、戦闘行動を行った策頼を峨奈三曹が見ている……」

 河義が自身の分隊員である策頼の言葉を、肯定、補足するように発する。

「それと、戦闘中、敵の動きが酷く緩慢でした。まるで自分以外がスローモーションになったようで、容易に敵の隙を突けたことを覚えています」

 そこに策頼はさらに言葉を付け加える。

「アドレナリンによる効果――だけではとても説明がつかないか」
「状況がこちら側に寄与した事を考えると、傭兵側の魔法現象という事もなさそうです」

 小千谷や河義は考察の言葉をそれぞれ発する。

「では、作業服と白衣の彼からの介入か」

 そこで井神がそんな言葉を発した

「彼――?井神一曹、その人物について何かご存じなのですか……?」

 井神の発した少し毛色の異なる表現の言葉に、それを聞き留めた帆櫛が、訝しみつつ尋ねる言葉を掛ける。
 しかし対する井神はそれにすぐに返事を返すことはせず、そして対面する制刻へ視線を送る。それを受けた制刻は、言葉は発さずに、「構わない」といったような表情だけを返して寄越す。

「あぁ。もう少し先にしようと思っていたが――」

 そこから井神は、各員に向けて話し始めた。
 この世界に降り立つ直前、不可思議な空間でその作業服と白衣の人物と、相対していた事を。そしてその人物から、「異世界より元の世界に侵攻が企てられている。これを先手を打って潰せ」との言葉を受けた事を――

「そんな事が――?」

 井神の説明の言葉が紡ぎ終えられ、小千谷や河義、帆櫛などは、驚きの眼で井神へ視線を向けている。

「申し訳ない。正直、ふざけた上に漠然とした話だったからな。もう少し状況が安定してから、話すつもりでいた」

 そんな各員に、謝罪の言葉を向け発する井神。

「いえ……しかしでは、その人物が策頼に力添えをしたのか?」
「我々は、その人物によってこの世界に投入されたという事か?」

 河義や小千谷は井神に返しつつも、これまでの各種現象の正体についてに推察を言葉して零す。

「俺も、その人物の力がどこまで及ぶのかは分からない。しかし、おそらくその考えは正解に近いだろう」

 その河義や小千谷の推測を、補足しつつも肯定する井神。
 新たに知らされた事実に、小千谷や河義等は、驚き冷め止まぬ様子だ。

「こりゃまたビックリだずぇ」
「また、愉快じゃねぇ新事実が明らかになったモンだなぁ?」

 しかしそんな所へ一方から、緊張感の無い声と、皮肉気な声が上がり聞こえ来る。
 想像に難くない、多気投と竹泉の声だ。

「でぇ、井神一曹。その得体の知れねぇ作業着野郎の、一方的な押し付けについても腹立つトコですがぁ。まずちょいと一曹にお尋ねしてもいいですかぁ?」

 井神に向けてそう発した竹泉は、しかし当人の返事も待たずに言葉を続ける。

「一曹はその作業着野郎のイカれた言動に、単純作業ロボットよろしく頷いて、ここまで部隊を動かしたんでしょーかぁ?挙句今回で7人も逝きましたが、そこんトコどーなんでござんしょぉ?」
「竹泉二士!貴様ァ!」

 捲し立てられた竹泉のふんだんな嫌味の混ぜられた質問。それに憤慨の声を上げたのは帆櫛だ。そのキリリとした目元をさらに釣り上げ、竹泉に詰め寄ろうとする。

「帆櫛、いい」

 しかし、井神は冷静な口調で彼女のそれを差し止めた。

「しかし!」
「いい、下がるんだ」

 食い下がった帆櫛を、しかし井神は下がらせる。そして竹泉を見つめて、言葉を紡ぎ始めた。

「……俺等の世界が、この世界の存在の企てにより危機にあるというのは、聞き捨てならない話だ。もし事実であるなら、我々で対応を取る事も視野に入れている」

 そこまでで一度言葉を区切る井神。そして、井神はその瞳を鋭利な物とした。

「――しかし。それも、そしてここまでの行動も、その作業着の人物の言に盲目的に従ったわけではない。俺の、そして日本国隊の価値観、理念の元で。生き残り、そして守るために――取るべき行動を選択し、ここまで来たつもりだ。その人物の言がなくとも、同じ行動を指示しただろう」

 そこで一息ついて区切り、井神はさらに続ける。

「今回の、7名の犠牲もその上での物だ。俺の意思と判断で指示し、そして責任も俺にある」

 そして最後に、静かにしかし確固たる態度で、そう告げた。

「待ってくれ井神さん。行動や作戦の決行には、都度俺も同意した。俺にも責任はある!」

 そこへ、傍らにいた小千谷が、少し声を荒げて発する。

「あー、その辺は別に結構結構!」

 しかしそこへ竹泉が、両手を翳しながら、何か鬱陶しそうな声で言葉を挟んだ。

「別に今、責任どーこうを問う気はねぇでござんす!ただ、上長殿のスタンスがどんなモンか、ちーと確認を取っときたかっただけですんで。少なくとも一曹殿が、オカルト鵜呑みの操り人形じゃねぇって事は、一応信用しときますぅ!」

 そして竹泉は井神に向けて捲し立てた。

「ありがとう。軽蔑の対象とならないよう、今後も務めるよ」

 傍らで再び叱り付ける声を放とうとしていた帆櫛に先回りして、井神はそう言葉を紡いだ。

「……あの、所で結局。その人物の正体は、何者なんでしょう……?」

 そこへ、ハスキーな声にあわぬおずおずとした口調で、鳳藤が発言する。
「それは――」
「――ヤツは、俺んトコにいた人間だ」

 少し迷いの入った様子で発せかけられた井神の言葉。
 しかし直後。間髪入れずにそれを遮るように、制刻が言葉を発した。

「――は?」
「あぁ?」

 その言葉に、鳳藤が目を剥き。そしてそれまで殺気の籠る顔を崩さなかった策頼も、若干の驚きの色を見せて、制刻へ顔を向ける。
 さらに竹泉や多気投も、訝しむ様子で制刻を向く。そして井神や小千谷等も、その視線を制刻へと向けていた。

「どーいうこったよ、ヲイ?」

 そして竹泉が代表するように、尋ねる言葉を口にする。

「あの変人かぶれ口調のヤツは、俺のやってる科学事業に、一時期身を置いてた人間だ」

 対して制刻は、淡々とそんな説明の言葉を発して見せた。

「か、科学事業……?」

 一方、河義からは困惑の声色で、聞き留めたワードに対する疑問の言葉が零される。

「あぁ、あの……自由――制刻は、個人的に科学者として活動しているんです……」

 それには、鳳藤が少し困惑と呆れの混じった表情で答えた。
 付け加えるならば、隊には無断での活動である。

「つまりお前の身内かよ!?おい、じゃあその作業着野郎はどーいうつもりなんだよ!?」

 そこへ、竹泉が声を荒げ問い詰める。

「ヤツを引っ張って来て説明させてぇのは、俺も同じだ。俺も、〝この世界の奴等の企みを潰せ〟としか聞かされてねぇ」

 しかし制刻は、いつもの調子で淡々と返した。

「制刻、良かったのか?何か以前は、話たがらなそうにしていたが?」

 そこへ、井神が声を掛ける。

「正直、ふざけた不快なヤツで、あまり話題に出したくなかったモンで。ただ、ここまで話が来たら、一応言っといたほうがいいかと思いまして」

 それに対しても、制刻は端的に答えた。

「あー――つまり?結局、制刻の身内ってコト以外は、分かんねぇままってか」
「よく分からないが、コンタクトは取れないのか?」

 竹泉が呆れ声で呟き、鳳藤は制刻に向けて尋ねる。

「神出鬼没なヤツだ。まぁ、また出て来たら、首根っこ掴めねぇか、試してみるか」

 対して、制刻は淡々と言ってのける。それに対して幾人かは、呆れ、または訝しむ渋い視線を向けた。

「――いや、制刻。話してくれた事に感謝する」

 しかしそこへ、井神が場を宥めるように、言葉を発し始める。

「まだ、多くの事は未知のままだ。元凶から漠然とした情報しか与えられていない以上、今後も自分達の手で、少しづつ探っていく必要があるだろう。――しかし、まずやるべきことは変わらない。まずは迷い込んだ邦人を保護。そして、燃料問題等の解決を図り、活動の基盤を盤石な物とする」

 そこまで言うと、井神はフゥと息を吐く。

「長くなってしまったな。気になる事は多々あるが、今日はここまでにしよう」

 そしてそこで話を切った。

「邦人捜索の方も微妙な進行具合だと聞く。場合によっては君等にも、呼応展開に参加してもらう事になりそうだ。身体と装備を整え、食事と睡眠を取るように。解散してくれ」
「はーぁ!やれやれだぜ、まったく!」
「俺っち、腹減ったぜぃ」

 解散の言葉を聞くや否や、竹泉と多気投は敬礼もろくにせずに天幕を出て行った。
 策頼は殺気の残る顔のまま、端正な動きで10度の敬礼をして、身を翻す。鳳藤は慌ててそれに習い、10度の敬礼をしていそいそと天幕を出る。

「んじゃ、失礼します」

 最後に制刻が礼儀に掛ける一言と共に、天幕を後にした。



「……なんなんですか、あいつらは!」

 全員が出て行った後に、それまで不服な顔を浮かべていた帆櫛が、再び声を張り上げた。

「碌に整列はしない!戦闘服は着崩す!許可されてない私物は勝手に着てる!服制規則がメチャクチャじゃないッ!」
「プライベートはプライベートでも、〝士〟じゃなく〝個人〟だな、あれは」

 小千谷がそんな感想を呟く。

「有事官としての自覚は無いわけ!?」
「あるヤツは降任や昇任見送りを食らったりはしないと思う」

 帆櫛の叫びに、河義が返す。

「何、他人事のように言ってるのよ!?アイツ等は全員、アナタの分隊員でしょう!一体どういう指導をしてるわけ!?」
「俺に当たるなよ。俺だって手を焼いてるんだ」

 突っかかって来た帆櫛に、河義は煙たそうな顔で答える。

「――だが、彼等のおかげで脅威存在が排除できた」

 しかしそこで井神がそんな一言を挟んだ。

「一曹……!だからって規則違反や、あんな態度を看過するんですかッ!」
「看過するわけではないが、驚異的な存在と渡り合い勝利したヤツ等だ。どこか逸脱してるものだ。簡単にはいかないさ」
「ッ……甘やかし過ぎです」
「そう怒るな、状況が落ち着いたらしっかりしてもらうさ」

 帆櫛を再び宥め落ち着かせると、井神は話題を次に移す。

「それで、向こうは芳しくないようだな」

 井神の言う向こうとは、他でもない凪美の町に潜入している鷹幅と不知窪の二人の事だ。

「邦人との接触には、向こうの警備隊の横やりが入り失敗。捜索方法を変更」
「邦人を敵警備隊に探させてそこを横取りするって……二曹達も何考えてるのよ……!」
「向こうは面倒な状況下で動いてるんだ。これに関しては、俺達が偉そうに言えた事じゃないだろう」

 帆櫛は鷹幅等が提案して来た作戦に苦言を呈すが、河義は鷹幅たちの現状を考え、フォローの言葉を入れる。

「ッ……だけど……!」

 言葉を詰まらせるも、やはりどこか不服そうな帆櫛。

「鷹幅二曹と不知窪三曹はそれぞれ、第1空挺の空挺レンジャーと、13普連のアルペンレンジャーだ。俺達よりも遥かに厳しい状況での判断力に長けている。ここはとやかく言わず、彼らに一任しようじゃないか」
「……分かりました」

 しかし井神に宥められ、帆櫛は渋々といった様子でその言葉を受け入れた。

「失礼します」

 そこへ業務用天幕に来訪者が訪れる。長沼二曹だった。

「あぁ、長沼さん」
「井神一曹、呼応展開部隊の再編制案を相談しにきました」

 長沼は長机の前まで歩み寄ると、手にしていた用紙の挟まれたバインダーを、井神へと差し出す。

「うん、いいじゃないか。これで行こう」

 用紙の内容に目を通した後に、井神はそう発した。

「谷への展開部隊が早くに戻って来てくれて助かった。おかげで町への展開部隊が増強できた」

 そう言った井神に、しかし長沼は固い表情で返す。

「しかし井神一曹、お言葉ですが我々のキャパシティは限界です。今お見せした半個中隊規模の編成で、作戦行動ができるのは無理をしてもあと二日程度になります」

 部隊は邦人回収のためにかなりの無理をしていた。特に顕著だったのは後方だ。
 普通科を始めとする本来の戦闘職種である隊員だけでは正面戦闘要員が足りず、本来後方要員である隊員も、その半数近くを戦闘要員として抽出していたため、結果後方兵站の要員が減り、後方の負担が増加していた。
 最も、オーバーワークとなっているのは後方に限らず、隊全体に言えた事であったが。

「これ以降は、動き方を考えなければならないな。――だが、今は頭数を用意しておく必要がある。今、邦人は町の警備隊に追われている。邦人と、そして鷹幅二曹等の状況によっては、我々は町へ進入し、邦人と鷹幅二曹等の回収のために、警備隊とぶつからなければならない」
「そこは理解していますが……今回以降、事が落ち着く見通しはあるのですか?」
「それは月詠湖の国の出方次第だな。一応、彼らが動くに足りそうな証拠は入手できたが」

 井神一曹の言う通り、月詠湖の国が動くに足る証拠を、隊は商会員を捕縛することで手に入れていた。
 しかしそれでも月詠湖の介入、応援が必ず得られる確証は無かった。そして隊が行動限界に達するようなような事があった場合、隊はこの地域での作戦行動を中断。村人達を連れてこの国から撤退する事も視野に入れていた。

「そうなった場合、この村の人達は受け入れるでしょうか?」

 その旨を発した井神に、長沼は疑問の声を返す。

「さぁな。見捨てるような真似はしたくないが、かといって無理に村を捨てさせることもできまい」

 いささかドライな様子で言ってのける井神。

「………」

 その言葉を長沼はただ固い顔で聞き、返事は返さなかった。

「何にせよ、我々は動かねばならない。長沼さん、現場の指揮はまたあなたに任せる事なりそうだ。どうか頼みますよ」
「……了解です」

 長沼は答えると、業務用天幕を後にした。
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