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チャプター18:「Activate 〝Ravenholm〟」
18-1:「〝レーベンホルムには行かない〟」
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指揮所となった村の空倉庫に設置された無線機が、凪美の町の外で中継所となっている小型トラックの無線を経由して、鷹幅からの緊急展開の要請コールを受け取った。
「井神一曹!鷹幅二曹達から呼応展開部隊の出動要請です!」
「了解。――呼応展開部隊の各隊に発令、〝レーベンホルムには行かない〟。繰り返す、〝レーベンホルムには行かない〟」
帆櫛の上げた報告の声を受け、井神は設置された無線機に向けて静かに命令を下した。
村内の開けた場所に鎮座していた、航空隊のCH-47J輸送ヘリコプターが、その二つのローターを回転させて轟音を響かせている。
「わー!」
「凄ーい!」
その少し離れた位置にでは、音を聞きつけて駆け付けた子供たちが、激しく巻き上がる砂埃に巻かれながらも、はしゃいでいる。
子供たちは自分達を救ってくれた隊と、それに関わる事物に関して、興味こそあれどすでに恐怖感は無いようだった
「近寄っちゃだめよ!」
そしてはしゃぐ子供たちを、村の娘のゼリクスが抱き留めて抑えていた。
(とんでもないわね……)
そんな彼女も内心では、目の前で轟音を立てて異質な翼を荒々しく回す怪鳥に驚愕していた。
(こんな物まで持っているだなんて、なんて人達なの……)
そしてそれを保有する隊の存在について、恐ろしさにも似た感情を抱きながら、自分たちがこれ以上前に出ないよう、目の前で立ちはだかっている隊員に視線を向けた。
「危ないから、もう少し下がってください」
その隊員に促され、ゼリクスは抱き留める子供たちを連れて、引き下がった。
「各計器、表示正常」
「前部エンジン良し、後部エンジン良し」
「各部、目視確認しました。正常です」
CH-47Jのコックピットでは機長である小千谷と、副機長の維崎、機上整備員の得野が機体の各部に異常が無い事を、声に出しながら確認を行っていた。
「小千谷、全て異常無しだ」
「良し――〝レーベンホルムには行かない〟だ。各ポジション、報告せよ」
機体に異常が無い事が確認できると、小千谷は貨物室へと振り向き、パイロット用ヘルメットに装着された無線機を用いて、機内で配置に付いている各員に呼びかける。
《右銃座よし》
《左銃座、異常無し》
《後部重機関銃良し》
小千谷の声に答え、各ポジションから無線越しに返答が返って来る。
CH-47Jは当作戦に投入されるにあたり、ガンシップ化が施されていた。
機体前方右側のキャビンドアには、96式40mmてき弾銃が。反対、左側の非常脱出ドアには74式7.62mm車載機関銃が。そして後部ランプドア上には12.7mm重機関銃が、それぞれ据え付けられ、航空隊の隊員が配置していた。
「了解。〝お客さん〟も報告してくれ」
各ポジションから異常無しの報告を受け取ると、今度は無線に向けてそんな旨の言葉を発する。
《波原以下、レンジャー班三名。搭乗良し》
お客さんとはすなわち、これからヘリコプターが目的地まで運ぶ、陸隊の隊員の事だ。
レンジャー班の班長を任せられた波原が、施設科のレンジャーでベトナム系の隊員であるヴォーという名の三曹と、そして新好地の姿を確認して報告を上げる様子が見える。
《制刻以下、機上観測要員二名。搭乗完了してる》
そして今回の作戦では機上観測要員を担当することになった制刻が、同じく機上観測要員となり、機内で落ち着かなそうにしている鳳藤の姿を一瞥して、報告の声を上げる様子が見えた。
「よし、全部OKだな。――ペンデュラム、こちらはライフボート。準備完了、離陸許可を求む」
全ての確認が完了すると、小千谷は指揮所へ離陸許可を求める。
《ライフボート、こちらはペンデュラム。そちらがOKならば離陸してください》
正式な管制ではない井神からの、くずれた言葉使いでの離陸許可が下りる。
「了解。――ペンデュラムへ、ライフボート離陸する」
小千谷は指揮所へ無線にて離陸する旨を告げる。
そしてエンジンの出力を上げる操作を行い、ローターがその回転速度を一層速くする。
やがてCH-47Jは、その巨体を中空にふわりと持ち上げた。
村のはずれでは、無人観測機の射出準備が整っていた。仰角を取ったカタパルトの上で、無人観測機は飛び立つその時を待っている。
「ペンデュラム、こちら射出カタパルト。オープンアームの射出準備は完了しています」
《了解。オープンアームの射出を許可する》
「射出許可が下りた、エンジンを始動してくれ」
射出要員の縣(あがた)三曹が指示を下し、無人観測機のエンジンが始動される。
機体後部のプロペラが回転を始め、轟音が辺りに鳴り響き出す。
「出力、規定値に到達」
「よし、射出しろ!」
合図が発せられた瞬間、バシュッ、という音と共に、無人観測機は勢いよく打ち出された。
カタパルトからの射出により、一瞬の内に時速100㎞以上の速度に達した無人観測機は、あっというまに遥か上空にその機体を到達させた。
「操縦室。オープンアームの射出完了、間もなく規定高度に乗る。そちらに操縦を渡す」
《了解、操縦を受け取った。縣、そっちが終わったなら、君も操縦室に戻ってくれ》
「了解です」
無線の相手である八島二曹に返しながら、縣三曹は上空に到達した無人観測機の姿を眺めていた。
紅の町から約3㎞。
町からは死角になっている丘の影で、車輛隊は待機していた。
《――緊急展開部隊の各隊に発令、〝レーベンホルムには行かない〟。繰り返す、〝レーベンホルムには行かない〟》
自分の乗車車両を降りて作戦の発動を待っていた長沼は、ガントラックのキャビンに積まれた無線機から、作戦開始の報を聞いた。
「アルマジロ1-1よりペンデュラムへ、こちらはただいまより出動する」
長沼は開け放たれた助手席ドアからキャビンに腕を突っ込み、置かれた無線のマイクを取り、指揮所へと出動の報告を返す。
「各員へ、〝レーベンホルムには行かない〟。作戦開始だ、これより出動する」
そしてインカムで各隊員へ作戦開始の旨を伝えると、長沼はガントラック化された大型トラックの助手席に乗り込む。
指揮車両を兼任するガントラックより前には、APCと工作車を兼任することなった87式砲測弾薬車と、地上火力の要である89式装甲戦闘車が同様に待機している。その二両がエンジンを吹かす重々しい音を立て、キャタピラの擦れる音を響かせて前進を開始した。
「舞魑魅一士、出発だ」
「了」
前二両の出発を確認した長沼が、運転席の舞魑魅と言う輸送科の一士に発する。
それに応えた舞魑魅がアクセルを踏み込み、長沼等の乗るガントラックは、前二両に続いて前進を開始する。
「〝レーベンホルムには行かない〟ッ!パーティータイムの始まりだなぁッ!」
「あぁやれやれ。ホントに行きたくねぇなぁ、まったく!」
ガントラックに続く後続の装甲大型トラックの荷台では、多気投がいつもの調子で声を上げ、竹泉は愚痴を吐き捨てていた。
無人観測機はヘリコプターや車輛隊に先んじて、凪美の町の上空へ飛来。町の上空で旋回に入る。
その機体下部に搭載されたカメラが町の全形を捉え、その光景を草風の村に置かれた指揮所へと送信する――
《ペンデュラムへ。オープンアームは凪美の町上空へ到達しました。映像はそっちに行ってますか?》
井神の身に着けた指揮官用の小型無線機に通信が入る。外に置かれている、無人観測機の操縦室であるコンテナにいる八島二曹からの、確認の声だ。
「大丈夫だ、八島二曹。こちらにも表示された」
机の上に置かれたノートパソコンの画面には、無人観測機が送って来た、上空からの凪美の町の光景が映し出されていた。
《送信から受像までにはタイムラグがあります、注意してください》
「井神一曹、無人機経由で、鷹幅二曹達との直接通信が可能です」
八島との通信が終わるのと入れ替わりに、今度は隣でいた帆櫛が声を上げた。
「了解――ロングショット1、聞こえるか?こちらはペンデュラム。そちらの位置と状況を知らせてくれ」
井神は映し出された画像を見ながら、無線のヘッドセットに声を発する。
《ロングショット1です。我々は町の中心よりやや西側の教会にいます。今からストロボでこちらの位置を示します》
その通信の直後に、町の一か所から発せられたストロボの点滅が瞬いた。そして画像は点滅した箇所を中心して、その一区画へとズームインする。
「ロングショット1、そちらの位置を確認した。現在の状況を教えてくれ」
《我々は、現れた警備隊の分隊と交戦。半数を排除して足止めを行い、今はその後に到着した増援の警備隊と対峙している状態にあります。邦人は、町の警備兵によって川沿いの建物に連れ込まれました》
「ロングショット1、該当の建物をレーザーマーカーで示せるか?」
《了解、該当の建物を照射します》
無線通信から少しの間をおいて、無人機のカメラが今度は教会から照射される一本の光の線を捉えた。
「――確認した。川沿いの、コの字型の建物だな?」
井神はレーザーの伸びた先にある、上空から見てコの字の外観をした建物を目に留める。
《そうです。邦人はその建物に連れ込まれました》
「了解。その建物および周辺に部隊を向かわせる。そちらは大丈夫そうか?」
《大丈夫です。我々はこの場所を保持し、引き続き建物の監視を行います》
「了解、無理はするなよ」
「見えたぞ」
CH-47Jのコックピットで、副機長の維崎が発する。コックピットのガラス越しに、目的地である凪美の町が見えた。
「車輛隊は?」
《目視しました、2時の方向》
機体右側キャビンドアの40mm自動てき弾に着く、所縁(ゆかり)一等空士から報告が上がる。
小千谷が機体の前方、斜め右下に視線を向けると、間隔を空けた縦隊で道なりに進む、車輛隊の姿が見えた。
「妙な作りの町だな、堀が半端に半分ほどしかない」
「作っている最中で国境線が変わって、その影響で不要になったんだとか」
町の外観を眺めながら、維崎と機上整備員の得野が言葉を交わす。
「城壁を越えるぞ」
小千谷が言う。
ヘリコプターはあっという間に町へと接近、そして城壁のはるか上を悠々と越えた。
「ペンデュラムへ。ライフボートは町の上空に侵入した」
《ライフボート。邦人は建物に連れ込まれました、そちらの画像に位置を送信します》
コックピットのモニターの内の一つには、無人観測機のカメラからの映像が映し出されている。見えるのは町を構成する数多の建物。その内の一つに、マーカーが付いた。
「確認した。これより該当の建物まで向かい、レンジャー班を降下させる」
小千谷は無線に声を送りながら操縦桿を傾け、CH-47Jは該当の建物がある方向へと機首を向けた。
「今のはなんだ!?」
町の南西側にある通用門。
そこに併設された詰め所では、そこに詰めていた警備兵達が混乱に陥っていた。その原因はもちろん、つい先程頭上を過ぎ去っていった空飛ぶ奇怪な物体だ。
「知るかよ!バケモノが空を……!」
「とにかく、本部に連絡を――おい、あれなんだ!?」
そんな警備兵達の目が、今度は異音を立てながらこちらへと近づいて来る、奇妙な物体の列を捉えた。その異質な物体の群れは、瞬く間に城門のすぐそこまで迫って来た。
「と、止まれェッ!」
一人の警備兵が、驚愕しながらも門の前に出て、先頭に位置する奇妙な物体へと停止の命令を発する。しかし、いくら警備兵が声を張り上げようとも、奇妙な物体は速度を落とすことはなく、こちらへと突っ込んでくる。
「止まれと言って――糞ぉッ!」
そして、声を上げながら脇へと逃げた警備兵を尻目に、先頭の物体はそのまま直進。その巨体を閉じていた城門へと直撃させた。
車輛隊の先頭に位置していた87式砲側弾薬車が、速度を維持したまま門に体当たりを敢行。車体前方に追加装着していたドーザーブレードで、門を強引にこじ開けた。
87式砲側弾薬車は城門をくぐり内側へ踏み込むと、少し先で脇に反れて停車。
後続の89式装甲戦闘車と3両のトラック、そして殿の82式指揮通信車がその横を走り抜けていく。
それを横目に見ながら、87式砲側面弾薬車の銃座に付く隊員は、12.7㎜重機関銃を旋回させて城門付近へ狙いを付ける。
同時に砲側弾薬車の扉が開かれ、搭乗していた隊員が降車した。
「増強4分隊1組、展開しろ……!」
降車展開したのは、野砲科の田話三曹率いる四名からなる、増強戦闘分隊。彼等の役割は、脱出口となる城門を確保することであった。
「これより城門を確保する……!――が、いいか?攻撃されるまでこちらからは撃つな……!」
「了解」
「了」
「この期に及んで、まだ面倒な規定順守ですか……ッ!」
田話の命令に、近子と威末は返事を返すが、門試は悪態を吐く。
彼等の近辺に矢が降り注いだのは、その瞬間だった。
「ッ!身を隠せ!」
田話が指示を飛ばすのと、各員が87式砲測弾薬車の影に身を隠したのはほとんど同時だった。
「良かったな門試、面倒な規定は早々に解除されたぞ」
威末の飛ばした軽口に、門試は苦々しい表情で返した。
「田話さん、城門脇の見張り塔からの攻撃のようです」
近子が砲測弾薬車の影から先を覗き見ながら、田話に報告の言葉を送る。
「あぁ……確認した。各隊へ。ケンタウロス4-1攻撃を受けた、これより応戦する……!ランダウン、塔の無力化を頼む!」
《了解》
田話は無線で各隊へ攻撃を受けた旨を伝えると、続けて砲側弾薬車の銃手にインカム越しに要請する。
要請を受け取った銃手は、重機関銃を見張り塔へと向け、押し鉄に力を込めて発砲した。撃ち出された12.7㎜弾の群れは見張り塔を損壊させ、そこから眼下を狙っていたクロスボウの射手達をなぎ倒した。
「ランダウン銃手、詰め所と……門の向こうからも数名出て来た。掃射してくれ」
《了解、掃射する》
銃手は照準を見張り塔から詰め所付近へと移し、再び発砲。重機関銃による掃射は、浮足立った様子で出て来た警備兵達を、一瞬の内に屍へと変えた。
《ケンタウロス4-1、見張り塔及び詰め所は沈黙》
「了解。これより門周辺を確保する、引き続き支援を頼む。――1組、前進するぞ……!」
城門周辺に動きが無くなった事を確認した田話は、組の各員に前進指示を出す。
四名は砲側弾薬車の両脇から出て、警戒しながら前進。見張り塔の元へと到着する。
「威末、門試、詰め所を抑えろ」
「了」
指示を受け、威末と門試は詰め所の入り口前で突入準備を整える。
「近子、俺と塔の上を調べるぞ」
「了解」
田話と近子は、威末等が詰め所の詰め所の中へと押し入るのを横目で見ながら、塔の上へと続く階段へ足を掛けた。
階段を駆け上がり、上階に出る直前で二人は一度止まる。
「よし……近子、行くぞ……」
「了解」
呼吸を整え、二人は階段の残りを駆け上がり、見張り塔上階へと突入した。
「………クリア!」
「クリアです」
見張り塔の上階に動く人影は無く、突入した二人の目に映ったのは、あるのは重機関銃の掃射により亡骸と成り果てた警備兵達の体だけだった。
「ッ……」
田話はその光景に顔を青くしつつも自身の小銃を降ろし、インカムに手を伸ばして通信を開く。
「威末、門試。上の制圧は完了した。そちらはどうだ……?」
《威末です。下の詰め所も無力化完了しました》
「了解……」
通信を追え、田話は警備兵の死体を避けて、見張り塔上階の端まで進み出る。
そこからは町の様子がよく見渡せた。眼下に待機している87式砲側面弾薬車も目に映り、田話はその姿を見ながら砲側弾薬車に向けて、再度インカムで通信を開いた。
「ランダウン、ケンタウロス4-1だ。城門周りはすべてクリア。制圧完了した……」
《了ぉ解。んじゃ、俺っち等は車輛本隊に合流するからよぉ》
無線越しに、操縦手の陽気な声で返答が返って来る。
「了解……」
砲側弾薬車は田話等の視線に見送られながら発進。エンジン音とキャタピラの音を響かせて、先に行った車輛隊本隊を追いかけて行った。
「田話さん、大丈夫ですか?」
近子は依然として良くない顔色の田話を気に留めたのか、静かな口調で尋ねて来る。
「あぁ、大丈夫だ……君こそ大丈夫なのか?昨晩の脅威存在との交戦で、酷い目にあったと聞いてるぞ」
「まぁ。ちょっと面白くない目に遭いましたが、今はもう平気です」
「そうか……」
近子は真顔で平気そうに、というよりもどこか他人事のような言葉で返してきた。
田話はそんな彼に、やりにくそうに一言を返すしかなかった。
「城門外側も敵影無し」
「内側も、増援が現れる気配はありません」
詰め所を抑えた威末と門試は、詰め所の中から城門の外側と内側にそれぞれ目を向けていた。
「とりあえず、周辺の敵は片付いたみたいだな」
「んじゃ、俺等は本隊の仕事が終わるまで、ここのお守りですね」
「気を抜くなよ」
「もちろん。所で――威末士長、頬はもう大丈夫なんですか?」
門試は、威末の顔に視線を注ぎながら尋ねる。
「大丈夫だ。幸い頬は魔法でくっ付いたからな」
威末は自分の頬を「いー」と軽く引っ張って見せる。
昨晩、敵の攻撃によりバックリと裂かれたはずの彼の頬は、しかし不思議な事に、その形跡すらなく綺麗に完治していた。
「昨日はほんとにビビりましたよ。文字通り、口裂け女状態でしたから」
「正直俺も、しばらくまともに暮らせないだろうと覚悟したよ――だが、こうも簡単に治るとはな。魔法ってやつには、本当に驚かされるよ」
言葉通り、彼の頬は一晩で完治したのは、この世界に存在する治癒魔法によるものだった。
「しかし――」
しかし驚く一方で、威末は懸念も抱いていた。
魔法で怪我が回復したということはつまり、威末は魔法の効く体質である事を現し、すなわち魔法を使った洗脳術等を仕掛けて来る敵が現れた場合には、その影響受ける可能性がある事を示していた。
「あぁ、近子三曹も昨晩、やられかけたって聞いてます」
懸念の旨を発した威末の言葉に、門試が返す。
「人出不足だからと今作戦にも駆り出されたが、正直そういう脅威と出くわさない事を祈ってるよ……」
威末は少し難しい顔を作ってそう言った。
「ま。正直、撤退路の確保のなんて暇なポジションに割り当てられたんです。心配はそうないと思いますよ。病み上がりなんだしゆっくりしてましょ」
「気を抜くなと言ったそばからお前は……」
《威末、門試。聞こえるか?》
「おっと――威末です」
そこへインカムに田話からの通信が舞い込み、威末は慌ててそれを取る。
《MINIMIを上に置きたい、門試に上に来るよう伝えてくれ》
「了解です――ほら門試、お前をお呼びだぞ」
「了解」
自身のMINIMI軽機を肩から下げて、詰め所の出入り口に向かう。
「門試、お前こそ気を付けろよ。魔法が効かない体質だったんだろ?どっか千切れたって、俺みたいにくっ付けてもらう訳にはいかないんだ」
門試のその背中に向けて、威末は言う。
「魔法でくっ付くくっ付かないに関わらず、どっか千切れるような体験は願い下げですよ」
門試は苦い表情でそう言うと、詰め所を後にした。
上空に滞空するCH-47Jのコックピットから、決して広くはない町の道を進む車輌隊本隊の様子が見える。
車輛隊本隊はしばらく進んだところで、比較的大きな十字路へと差し掛かる。先頭を行く装甲戦闘車と続く3両のトラックは、十字路をそのまま直進。
殿の指揮通信車だけは十字路を右へと曲がり、少し先で停車。搭載していた隊員を降車展開させ、十字路周辺の確保にかかる様子が見えた。
「車輛隊が目標周辺で展開を始めた」
「よし、当機も目標上空へ移動する」
小千谷と維崎が言葉を交わし、車輛隊が目標地点周辺へ展開するタイミングを待っていたCH-47は、高度を下げ、目標建物の上空を目指して移動を再開した。
少しの間、街並みの真上を這うように進んだヘリコプターは、やがて目標建物を前方に捉えた。
「目視した、あの建物だな」
モニターに映るマークされた建物と、目視できた建物を交互に見ながら、小千谷は操縦桿を操る。
「二尉」
そこへレンジャー班指揮官である波原が、操縦室に顔を出した。
「降下に適当な場所はありそうですか?」
「待ってくれ」
小千谷は目を凝らして、再びモニター及び肉眼で建物の構造を観察する。
「――バルコニーが見えるな、そこに機体後部を合わせる形でいいか?」
「お願いします」
CH-47Jはその機首側を持ち上げ、速度を徐々に落とす。
「間もなく、目標建物上空」
小千谷は機内に居る各員へ、無線でその旨を伝える。
CH-47Jはその巨体を目標の建物上空へ到達させ、ホバリングへの移行を始める。
二つのローターが起こす風圧が、建物の屋根や地上の砂埃を巻き上げた。
レンジャー隊員は、降下に備えて後部ランプの付近で待機していた。そこに操縦室に赴いていた波原が合流し、声を張り上げる。
「バルコニーに降りるぞ。最初に俺が降りる。続いて新好地、最後にヴォー。この順だ、いいな?」
「レンジャーッ!」
「レンジャ」
波原の説明に、新好地とヴォーはそれぞれレンジャー式の返答で答える。
ヘリコプターは完全なホバリング状態に入り建物の真上で滞空を始める。
「ロープッ!」
波原の指示の声で、ランプに結ばれた三本のファストロープが降ろされ、その先端が建物のバルコニーへと落ちる。
レンジャー班の各員はそれぞれのロープを掴む。
一番手の波原がランプの端、ギリギリの位置に立って、降下体勢に入る。
「行くぞ――降下ァッ!!」
発すると共に、波原はランプの縁を蹴って中空に飛び出し、バルコニー目がけて降下した。
ほとんど落下に近い速度で、ファストロープを伝い降下した波原は、その脚をバルコニーの床へと付けた。
降り立った波原は、すかさず後続のためにその場を空け、そして9mm機関けん銃を構えて警戒態勢に入る。その背後、波原が空けた場所に、二番手である新好地が同様に降り立つ。新好地は波原と同様に降着場所から移動すると、自身のショットガンを構えて警戒態勢を取る。波原は自分以外の警戒の目が増えると、新好地に警戒を任せて、背後上空へ振り向く。殿のヴォーの降下を確認するためだ。
しかし、そこで目に飛び込んで来た光景に、思わず波原は目を剥いた。
視線の先には、降着予定地点のバルコニーを大きく外れ、振り子状態になっているヴォーの姿があった。
「おいヴォー!?何やってる、ミスったか!?」
思わぬ光景に、波原はすかさずインカムに向けて言葉を放つ。
《この先に居る。挟撃だ、俺はこっちから突っ込む》
しかし波原の言葉に対して、無線からは、ヴォーの最低限の内容だけが含まれたの声が返って来る。
そしてヴォーは振り子状態からの勢いを利用して、窓を突き破り、内部へ蹴り込んだ。
「ッ……いきなり手順に外れたことしやがって――」
《ジャンカーR、どうした?問題発生か?》
上空で滞空するCH-47Jの小千谷から、無線通信が入る。
ヴォーの行った予定にない行動に、問題発生の可能性を疑い無線を寄越したようだ。
「いや、問題ない。少し手順とズレたが降着には成功した。これより突入する」
《了解。こちらは離脱し、上空からの監視行動へ移る》
CH-47Jは垂らしていたファストロープを切り離すと、建物上空から離脱していった。
「まぁいい。新好地、俺達も行くぞ」
「は、レンジャー!」
波原はバルコニーにある扉を蹴り破り、内部へと突入した。
「井神一曹!鷹幅二曹達から呼応展開部隊の出動要請です!」
「了解。――呼応展開部隊の各隊に発令、〝レーベンホルムには行かない〟。繰り返す、〝レーベンホルムには行かない〟」
帆櫛の上げた報告の声を受け、井神は設置された無線機に向けて静かに命令を下した。
村内の開けた場所に鎮座していた、航空隊のCH-47J輸送ヘリコプターが、その二つのローターを回転させて轟音を響かせている。
「わー!」
「凄ーい!」
その少し離れた位置にでは、音を聞きつけて駆け付けた子供たちが、激しく巻き上がる砂埃に巻かれながらも、はしゃいでいる。
子供たちは自分達を救ってくれた隊と、それに関わる事物に関して、興味こそあれどすでに恐怖感は無いようだった
「近寄っちゃだめよ!」
そしてはしゃぐ子供たちを、村の娘のゼリクスが抱き留めて抑えていた。
(とんでもないわね……)
そんな彼女も内心では、目の前で轟音を立てて異質な翼を荒々しく回す怪鳥に驚愕していた。
(こんな物まで持っているだなんて、なんて人達なの……)
そしてそれを保有する隊の存在について、恐ろしさにも似た感情を抱きながら、自分たちがこれ以上前に出ないよう、目の前で立ちはだかっている隊員に視線を向けた。
「危ないから、もう少し下がってください」
その隊員に促され、ゼリクスは抱き留める子供たちを連れて、引き下がった。
「各計器、表示正常」
「前部エンジン良し、後部エンジン良し」
「各部、目視確認しました。正常です」
CH-47Jのコックピットでは機長である小千谷と、副機長の維崎、機上整備員の得野が機体の各部に異常が無い事を、声に出しながら確認を行っていた。
「小千谷、全て異常無しだ」
「良し――〝レーベンホルムには行かない〟だ。各ポジション、報告せよ」
機体に異常が無い事が確認できると、小千谷は貨物室へと振り向き、パイロット用ヘルメットに装着された無線機を用いて、機内で配置に付いている各員に呼びかける。
《右銃座よし》
《左銃座、異常無し》
《後部重機関銃良し》
小千谷の声に答え、各ポジションから無線越しに返答が返って来る。
CH-47Jは当作戦に投入されるにあたり、ガンシップ化が施されていた。
機体前方右側のキャビンドアには、96式40mmてき弾銃が。反対、左側の非常脱出ドアには74式7.62mm車載機関銃が。そして後部ランプドア上には12.7mm重機関銃が、それぞれ据え付けられ、航空隊の隊員が配置していた。
「了解。〝お客さん〟も報告してくれ」
各ポジションから異常無しの報告を受け取ると、今度は無線に向けてそんな旨の言葉を発する。
《波原以下、レンジャー班三名。搭乗良し》
お客さんとはすなわち、これからヘリコプターが目的地まで運ぶ、陸隊の隊員の事だ。
レンジャー班の班長を任せられた波原が、施設科のレンジャーでベトナム系の隊員であるヴォーという名の三曹と、そして新好地の姿を確認して報告を上げる様子が見える。
《制刻以下、機上観測要員二名。搭乗完了してる》
そして今回の作戦では機上観測要員を担当することになった制刻が、同じく機上観測要員となり、機内で落ち着かなそうにしている鳳藤の姿を一瞥して、報告の声を上げる様子が見えた。
「よし、全部OKだな。――ペンデュラム、こちらはライフボート。準備完了、離陸許可を求む」
全ての確認が完了すると、小千谷は指揮所へ離陸許可を求める。
《ライフボート、こちらはペンデュラム。そちらがOKならば離陸してください》
正式な管制ではない井神からの、くずれた言葉使いでの離陸許可が下りる。
「了解。――ペンデュラムへ、ライフボート離陸する」
小千谷は指揮所へ無線にて離陸する旨を告げる。
そしてエンジンの出力を上げる操作を行い、ローターがその回転速度を一層速くする。
やがてCH-47Jは、その巨体を中空にふわりと持ち上げた。
村のはずれでは、無人観測機の射出準備が整っていた。仰角を取ったカタパルトの上で、無人観測機は飛び立つその時を待っている。
「ペンデュラム、こちら射出カタパルト。オープンアームの射出準備は完了しています」
《了解。オープンアームの射出を許可する》
「射出許可が下りた、エンジンを始動してくれ」
射出要員の縣(あがた)三曹が指示を下し、無人観測機のエンジンが始動される。
機体後部のプロペラが回転を始め、轟音が辺りに鳴り響き出す。
「出力、規定値に到達」
「よし、射出しろ!」
合図が発せられた瞬間、バシュッ、という音と共に、無人観測機は勢いよく打ち出された。
カタパルトからの射出により、一瞬の内に時速100㎞以上の速度に達した無人観測機は、あっというまに遥か上空にその機体を到達させた。
「操縦室。オープンアームの射出完了、間もなく規定高度に乗る。そちらに操縦を渡す」
《了解、操縦を受け取った。縣、そっちが終わったなら、君も操縦室に戻ってくれ》
「了解です」
無線の相手である八島二曹に返しながら、縣三曹は上空に到達した無人観測機の姿を眺めていた。
紅の町から約3㎞。
町からは死角になっている丘の影で、車輛隊は待機していた。
《――緊急展開部隊の各隊に発令、〝レーベンホルムには行かない〟。繰り返す、〝レーベンホルムには行かない〟》
自分の乗車車両を降りて作戦の発動を待っていた長沼は、ガントラックのキャビンに積まれた無線機から、作戦開始の報を聞いた。
「アルマジロ1-1よりペンデュラムへ、こちらはただいまより出動する」
長沼は開け放たれた助手席ドアからキャビンに腕を突っ込み、置かれた無線のマイクを取り、指揮所へと出動の報告を返す。
「各員へ、〝レーベンホルムには行かない〟。作戦開始だ、これより出動する」
そしてインカムで各隊員へ作戦開始の旨を伝えると、長沼はガントラック化された大型トラックの助手席に乗り込む。
指揮車両を兼任するガントラックより前には、APCと工作車を兼任することなった87式砲測弾薬車と、地上火力の要である89式装甲戦闘車が同様に待機している。その二両がエンジンを吹かす重々しい音を立て、キャタピラの擦れる音を響かせて前進を開始した。
「舞魑魅一士、出発だ」
「了」
前二両の出発を確認した長沼が、運転席の舞魑魅と言う輸送科の一士に発する。
それに応えた舞魑魅がアクセルを踏み込み、長沼等の乗るガントラックは、前二両に続いて前進を開始する。
「〝レーベンホルムには行かない〟ッ!パーティータイムの始まりだなぁッ!」
「あぁやれやれ。ホントに行きたくねぇなぁ、まったく!」
ガントラックに続く後続の装甲大型トラックの荷台では、多気投がいつもの調子で声を上げ、竹泉は愚痴を吐き捨てていた。
無人観測機はヘリコプターや車輛隊に先んじて、凪美の町の上空へ飛来。町の上空で旋回に入る。
その機体下部に搭載されたカメラが町の全形を捉え、その光景を草風の村に置かれた指揮所へと送信する――
《ペンデュラムへ。オープンアームは凪美の町上空へ到達しました。映像はそっちに行ってますか?》
井神の身に着けた指揮官用の小型無線機に通信が入る。外に置かれている、無人観測機の操縦室であるコンテナにいる八島二曹からの、確認の声だ。
「大丈夫だ、八島二曹。こちらにも表示された」
机の上に置かれたノートパソコンの画面には、無人観測機が送って来た、上空からの凪美の町の光景が映し出されていた。
《送信から受像までにはタイムラグがあります、注意してください》
「井神一曹、無人機経由で、鷹幅二曹達との直接通信が可能です」
八島との通信が終わるのと入れ替わりに、今度は隣でいた帆櫛が声を上げた。
「了解――ロングショット1、聞こえるか?こちらはペンデュラム。そちらの位置と状況を知らせてくれ」
井神は映し出された画像を見ながら、無線のヘッドセットに声を発する。
《ロングショット1です。我々は町の中心よりやや西側の教会にいます。今からストロボでこちらの位置を示します》
その通信の直後に、町の一か所から発せられたストロボの点滅が瞬いた。そして画像は点滅した箇所を中心して、その一区画へとズームインする。
「ロングショット1、そちらの位置を確認した。現在の状況を教えてくれ」
《我々は、現れた警備隊の分隊と交戦。半数を排除して足止めを行い、今はその後に到着した増援の警備隊と対峙している状態にあります。邦人は、町の警備兵によって川沿いの建物に連れ込まれました》
「ロングショット1、該当の建物をレーザーマーカーで示せるか?」
《了解、該当の建物を照射します》
無線通信から少しの間をおいて、無人機のカメラが今度は教会から照射される一本の光の線を捉えた。
「――確認した。川沿いの、コの字型の建物だな?」
井神はレーザーの伸びた先にある、上空から見てコの字の外観をした建物を目に留める。
《そうです。邦人はその建物に連れ込まれました》
「了解。その建物および周辺に部隊を向かわせる。そちらは大丈夫そうか?」
《大丈夫です。我々はこの場所を保持し、引き続き建物の監視を行います》
「了解、無理はするなよ」
「見えたぞ」
CH-47Jのコックピットで、副機長の維崎が発する。コックピットのガラス越しに、目的地である凪美の町が見えた。
「車輛隊は?」
《目視しました、2時の方向》
機体右側キャビンドアの40mm自動てき弾に着く、所縁(ゆかり)一等空士から報告が上がる。
小千谷が機体の前方、斜め右下に視線を向けると、間隔を空けた縦隊で道なりに進む、車輛隊の姿が見えた。
「妙な作りの町だな、堀が半端に半分ほどしかない」
「作っている最中で国境線が変わって、その影響で不要になったんだとか」
町の外観を眺めながら、維崎と機上整備員の得野が言葉を交わす。
「城壁を越えるぞ」
小千谷が言う。
ヘリコプターはあっという間に町へと接近、そして城壁のはるか上を悠々と越えた。
「ペンデュラムへ。ライフボートは町の上空に侵入した」
《ライフボート。邦人は建物に連れ込まれました、そちらの画像に位置を送信します》
コックピットのモニターの内の一つには、無人観測機のカメラからの映像が映し出されている。見えるのは町を構成する数多の建物。その内の一つに、マーカーが付いた。
「確認した。これより該当の建物まで向かい、レンジャー班を降下させる」
小千谷は無線に声を送りながら操縦桿を傾け、CH-47Jは該当の建物がある方向へと機首を向けた。
「今のはなんだ!?」
町の南西側にある通用門。
そこに併設された詰め所では、そこに詰めていた警備兵達が混乱に陥っていた。その原因はもちろん、つい先程頭上を過ぎ去っていった空飛ぶ奇怪な物体だ。
「知るかよ!バケモノが空を……!」
「とにかく、本部に連絡を――おい、あれなんだ!?」
そんな警備兵達の目が、今度は異音を立てながらこちらへと近づいて来る、奇妙な物体の列を捉えた。その異質な物体の群れは、瞬く間に城門のすぐそこまで迫って来た。
「と、止まれェッ!」
一人の警備兵が、驚愕しながらも門の前に出て、先頭に位置する奇妙な物体へと停止の命令を発する。しかし、いくら警備兵が声を張り上げようとも、奇妙な物体は速度を落とすことはなく、こちらへと突っ込んでくる。
「止まれと言って――糞ぉッ!」
そして、声を上げながら脇へと逃げた警備兵を尻目に、先頭の物体はそのまま直進。その巨体を閉じていた城門へと直撃させた。
車輛隊の先頭に位置していた87式砲側弾薬車が、速度を維持したまま門に体当たりを敢行。車体前方に追加装着していたドーザーブレードで、門を強引にこじ開けた。
87式砲側弾薬車は城門をくぐり内側へ踏み込むと、少し先で脇に反れて停車。
後続の89式装甲戦闘車と3両のトラック、そして殿の82式指揮通信車がその横を走り抜けていく。
それを横目に見ながら、87式砲側面弾薬車の銃座に付く隊員は、12.7㎜重機関銃を旋回させて城門付近へ狙いを付ける。
同時に砲側弾薬車の扉が開かれ、搭乗していた隊員が降車した。
「増強4分隊1組、展開しろ……!」
降車展開したのは、野砲科の田話三曹率いる四名からなる、増強戦闘分隊。彼等の役割は、脱出口となる城門を確保することであった。
「これより城門を確保する……!――が、いいか?攻撃されるまでこちらからは撃つな……!」
「了解」
「了」
「この期に及んで、まだ面倒な規定順守ですか……ッ!」
田話の命令に、近子と威末は返事を返すが、門試は悪態を吐く。
彼等の近辺に矢が降り注いだのは、その瞬間だった。
「ッ!身を隠せ!」
田話が指示を飛ばすのと、各員が87式砲測弾薬車の影に身を隠したのはほとんど同時だった。
「良かったな門試、面倒な規定は早々に解除されたぞ」
威末の飛ばした軽口に、門試は苦々しい表情で返した。
「田話さん、城門脇の見張り塔からの攻撃のようです」
近子が砲測弾薬車の影から先を覗き見ながら、田話に報告の言葉を送る。
「あぁ……確認した。各隊へ。ケンタウロス4-1攻撃を受けた、これより応戦する……!ランダウン、塔の無力化を頼む!」
《了解》
田話は無線で各隊へ攻撃を受けた旨を伝えると、続けて砲側弾薬車の銃手にインカム越しに要請する。
要請を受け取った銃手は、重機関銃を見張り塔へと向け、押し鉄に力を込めて発砲した。撃ち出された12.7㎜弾の群れは見張り塔を損壊させ、そこから眼下を狙っていたクロスボウの射手達をなぎ倒した。
「ランダウン銃手、詰め所と……門の向こうからも数名出て来た。掃射してくれ」
《了解、掃射する》
銃手は照準を見張り塔から詰め所付近へと移し、再び発砲。重機関銃による掃射は、浮足立った様子で出て来た警備兵達を、一瞬の内に屍へと変えた。
《ケンタウロス4-1、見張り塔及び詰め所は沈黙》
「了解。これより門周辺を確保する、引き続き支援を頼む。――1組、前進するぞ……!」
城門周辺に動きが無くなった事を確認した田話は、組の各員に前進指示を出す。
四名は砲側弾薬車の両脇から出て、警戒しながら前進。見張り塔の元へと到着する。
「威末、門試、詰め所を抑えろ」
「了」
指示を受け、威末と門試は詰め所の入り口前で突入準備を整える。
「近子、俺と塔の上を調べるぞ」
「了解」
田話と近子は、威末等が詰め所の詰め所の中へと押し入るのを横目で見ながら、塔の上へと続く階段へ足を掛けた。
階段を駆け上がり、上階に出る直前で二人は一度止まる。
「よし……近子、行くぞ……」
「了解」
呼吸を整え、二人は階段の残りを駆け上がり、見張り塔上階へと突入した。
「………クリア!」
「クリアです」
見張り塔の上階に動く人影は無く、突入した二人の目に映ったのは、あるのは重機関銃の掃射により亡骸と成り果てた警備兵達の体だけだった。
「ッ……」
田話はその光景に顔を青くしつつも自身の小銃を降ろし、インカムに手を伸ばして通信を開く。
「威末、門試。上の制圧は完了した。そちらはどうだ……?」
《威末です。下の詰め所も無力化完了しました》
「了解……」
通信を追え、田話は警備兵の死体を避けて、見張り塔上階の端まで進み出る。
そこからは町の様子がよく見渡せた。眼下に待機している87式砲側面弾薬車も目に映り、田話はその姿を見ながら砲側弾薬車に向けて、再度インカムで通信を開いた。
「ランダウン、ケンタウロス4-1だ。城門周りはすべてクリア。制圧完了した……」
《了ぉ解。んじゃ、俺っち等は車輛本隊に合流するからよぉ》
無線越しに、操縦手の陽気な声で返答が返って来る。
「了解……」
砲側弾薬車は田話等の視線に見送られながら発進。エンジン音とキャタピラの音を響かせて、先に行った車輛隊本隊を追いかけて行った。
「田話さん、大丈夫ですか?」
近子は依然として良くない顔色の田話を気に留めたのか、静かな口調で尋ねて来る。
「あぁ、大丈夫だ……君こそ大丈夫なのか?昨晩の脅威存在との交戦で、酷い目にあったと聞いてるぞ」
「まぁ。ちょっと面白くない目に遭いましたが、今はもう平気です」
「そうか……」
近子は真顔で平気そうに、というよりもどこか他人事のような言葉で返してきた。
田話はそんな彼に、やりにくそうに一言を返すしかなかった。
「城門外側も敵影無し」
「内側も、増援が現れる気配はありません」
詰め所を抑えた威末と門試は、詰め所の中から城門の外側と内側にそれぞれ目を向けていた。
「とりあえず、周辺の敵は片付いたみたいだな」
「んじゃ、俺等は本隊の仕事が終わるまで、ここのお守りですね」
「気を抜くなよ」
「もちろん。所で――威末士長、頬はもう大丈夫なんですか?」
門試は、威末の顔に視線を注ぎながら尋ねる。
「大丈夫だ。幸い頬は魔法でくっ付いたからな」
威末は自分の頬を「いー」と軽く引っ張って見せる。
昨晩、敵の攻撃によりバックリと裂かれたはずの彼の頬は、しかし不思議な事に、その形跡すらなく綺麗に完治していた。
「昨日はほんとにビビりましたよ。文字通り、口裂け女状態でしたから」
「正直俺も、しばらくまともに暮らせないだろうと覚悟したよ――だが、こうも簡単に治るとはな。魔法ってやつには、本当に驚かされるよ」
言葉通り、彼の頬は一晩で完治したのは、この世界に存在する治癒魔法によるものだった。
「しかし――」
しかし驚く一方で、威末は懸念も抱いていた。
魔法で怪我が回復したということはつまり、威末は魔法の効く体質である事を現し、すなわち魔法を使った洗脳術等を仕掛けて来る敵が現れた場合には、その影響受ける可能性がある事を示していた。
「あぁ、近子三曹も昨晩、やられかけたって聞いてます」
懸念の旨を発した威末の言葉に、門試が返す。
「人出不足だからと今作戦にも駆り出されたが、正直そういう脅威と出くわさない事を祈ってるよ……」
威末は少し難しい顔を作ってそう言った。
「ま。正直、撤退路の確保のなんて暇なポジションに割り当てられたんです。心配はそうないと思いますよ。病み上がりなんだしゆっくりしてましょ」
「気を抜くなと言ったそばからお前は……」
《威末、門試。聞こえるか?》
「おっと――威末です」
そこへインカムに田話からの通信が舞い込み、威末は慌ててそれを取る。
《MINIMIを上に置きたい、門試に上に来るよう伝えてくれ》
「了解です――ほら門試、お前をお呼びだぞ」
「了解」
自身のMINIMI軽機を肩から下げて、詰め所の出入り口に向かう。
「門試、お前こそ気を付けろよ。魔法が効かない体質だったんだろ?どっか千切れたって、俺みたいにくっ付けてもらう訳にはいかないんだ」
門試のその背中に向けて、威末は言う。
「魔法でくっ付くくっ付かないに関わらず、どっか千切れるような体験は願い下げですよ」
門試は苦い表情でそう言うと、詰め所を後にした。
上空に滞空するCH-47Jのコックピットから、決して広くはない町の道を進む車輌隊本隊の様子が見える。
車輛隊本隊はしばらく進んだところで、比較的大きな十字路へと差し掛かる。先頭を行く装甲戦闘車と続く3両のトラックは、十字路をそのまま直進。
殿の指揮通信車だけは十字路を右へと曲がり、少し先で停車。搭載していた隊員を降車展開させ、十字路周辺の確保にかかる様子が見えた。
「車輛隊が目標周辺で展開を始めた」
「よし、当機も目標上空へ移動する」
小千谷と維崎が言葉を交わし、車輛隊が目標地点周辺へ展開するタイミングを待っていたCH-47は、高度を下げ、目標建物の上空を目指して移動を再開した。
少しの間、街並みの真上を這うように進んだヘリコプターは、やがて目標建物を前方に捉えた。
「目視した、あの建物だな」
モニターに映るマークされた建物と、目視できた建物を交互に見ながら、小千谷は操縦桿を操る。
「二尉」
そこへレンジャー班指揮官である波原が、操縦室に顔を出した。
「降下に適当な場所はありそうですか?」
「待ってくれ」
小千谷は目を凝らして、再びモニター及び肉眼で建物の構造を観察する。
「――バルコニーが見えるな、そこに機体後部を合わせる形でいいか?」
「お願いします」
CH-47Jはその機首側を持ち上げ、速度を徐々に落とす。
「間もなく、目標建物上空」
小千谷は機内に居る各員へ、無線でその旨を伝える。
CH-47Jはその巨体を目標の建物上空へ到達させ、ホバリングへの移行を始める。
二つのローターが起こす風圧が、建物の屋根や地上の砂埃を巻き上げた。
レンジャー隊員は、降下に備えて後部ランプの付近で待機していた。そこに操縦室に赴いていた波原が合流し、声を張り上げる。
「バルコニーに降りるぞ。最初に俺が降りる。続いて新好地、最後にヴォー。この順だ、いいな?」
「レンジャーッ!」
「レンジャ」
波原の説明に、新好地とヴォーはそれぞれレンジャー式の返答で答える。
ヘリコプターは完全なホバリング状態に入り建物の真上で滞空を始める。
「ロープッ!」
波原の指示の声で、ランプに結ばれた三本のファストロープが降ろされ、その先端が建物のバルコニーへと落ちる。
レンジャー班の各員はそれぞれのロープを掴む。
一番手の波原がランプの端、ギリギリの位置に立って、降下体勢に入る。
「行くぞ――降下ァッ!!」
発すると共に、波原はランプの縁を蹴って中空に飛び出し、バルコニー目がけて降下した。
ほとんど落下に近い速度で、ファストロープを伝い降下した波原は、その脚をバルコニーの床へと付けた。
降り立った波原は、すかさず後続のためにその場を空け、そして9mm機関けん銃を構えて警戒態勢に入る。その背後、波原が空けた場所に、二番手である新好地が同様に降り立つ。新好地は波原と同様に降着場所から移動すると、自身のショットガンを構えて警戒態勢を取る。波原は自分以外の警戒の目が増えると、新好地に警戒を任せて、背後上空へ振り向く。殿のヴォーの降下を確認するためだ。
しかし、そこで目に飛び込んで来た光景に、思わず波原は目を剥いた。
視線の先には、降着予定地点のバルコニーを大きく外れ、振り子状態になっているヴォーの姿があった。
「おいヴォー!?何やってる、ミスったか!?」
思わぬ光景に、波原はすかさずインカムに向けて言葉を放つ。
《この先に居る。挟撃だ、俺はこっちから突っ込む》
しかし波原の言葉に対して、無線からは、ヴォーの最低限の内容だけが含まれたの声が返って来る。
そしてヴォーは振り子状態からの勢いを利用して、窓を突き破り、内部へ蹴り込んだ。
「ッ……いきなり手順に外れたことしやがって――」
《ジャンカーR、どうした?問題発生か?》
上空で滞空するCH-47Jの小千谷から、無線通信が入る。
ヴォーの行った予定にない行動に、問題発生の可能性を疑い無線を寄越したようだ。
「いや、問題ない。少し手順とズレたが降着には成功した。これより突入する」
《了解。こちらは離脱し、上空からの監視行動へ移る》
CH-47Jは垂らしていたファストロープを切り離すと、建物上空から離脱していった。
「まぁいい。新好地、俺達も行くぞ」
「は、レンジャー!」
波原はバルコニーにある扉を蹴り破り、内部へと突入した。
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