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第1話:「TS美少女と装脚機部隊、異世界の地で」

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 ――髄菩ずいぼ 神和かみかず
 陸上防衛隊、普通科連隊に所属する装甲車輛隊の隊員。
 その髄菩は。薄暗く狭く、そしてぼんやりと光る光源に照らされる、堅牢な空間の内に身を置いていた。
 そこは、多脚戦闘車両――装脚機(Walker Vehicle)。
 詳細には、89式装甲装脚機(通称89AWV)の内部、その砲塔内に設けられる機長席。その広く快適とは言えず、しかし慣れた空間に収まるは。
 髄菩の――ワガママながらも完璧な女体。

 ――本来の性別は、〝男性〟である。それも少し陰険そうで人相の悪い容姿である髄菩の。
 ――しかし今は〝女性〟に――美少女と言ってもよい、端麗で凛とした容姿に長い黒髪の映える、女学生ほどの女の姿身体に。
 〝性転換〟により変貌した、彼女であり彼自身の姿。

 着用者の全身のラインがでるボディスーツ型の衣服装具、〝軽量装甲戦闘服7-型〟に飾られる。
 髄菩の美少女姿がそこにはあった。

「――ッー」

 その髄菩は機長席で、そこに備わるモニター類の一つを注視し。その美少女顔を少し険しく顰め、小さく口を鳴らしている。
 その髄菩が注視しているモニターに映るは、ナイトビジョン機能により明確になった外部――世闇の元の光景だ。


 髄菩の乗る89AWV――89式装甲装脚機は、小4つ大2つの装脚を備える6脚型の一種の多脚戦闘車輛だ。35mm機関砲を主砲とし、同じく主装備として対舟艇対戦車誘導弾を備え。普通科部隊の直掩を主任務とする。

 現在その89AWVが配置するは、連なりそびえる小高い丘の一点。その傾斜部に機体の収められる掘り下げた退避壕を設け、そこにダックインしている。
 近くの後ろ側方には89AWVの派生同系機である93AWVが同じくダックイン。
 そしていくつかの塹壕や火点スポットが同じく堀り構築され。それらには装脚機隊が援護を提供する、普通科隊の隊員等が配置して身を潜めていた。
 その各所各員が視線を降ろし望むは、丘の上より見えて広がる平地。

 ――そこは、戦場であった。

 荒れ散らかり、そこかしこに砲撃の着弾でできた穴が開いている。
 そしてその上に各所に見える、破壊され朽ちた戦車や装甲車両の残骸。それはいずれも、〝敵〟のものだ――


 事の起こりは、月日を少し遡る。
 その世界の地球、日本は。ある特殊な新エネルギーの実験中に不測の事態に見舞われ、その効果が原因で〝異世界〟へと繋がってしまった。
 その異世界は、動乱の最中にあった。
 その動乱は、日本の安全保安をも脅かすものであり。
 接続した異世界の国家コミュニティと日本は、嫌が応にも関係を持つ事となり。そして防衛観点上や人道的観点から、動乱に介入せざるを得なくなり。
 そのために、日本国防衛隊が派遣される事となったのだ。


 ――人々が、その身の性別を自在に変える事を可能とする――また〝異なる世界の日本〟の、防衛部隊が――


 そんな経緯の元にある、髄菩等が現在見下ろす戦場の荒れた平地。

「――出て来た」

 その平地の向こうに群生する木立。そこより現れた影を、ナイトビジョンモニターを通して見つけ、髄菩は89AWV内に言葉を響かせた。
 木立より現れたのは、戦車だ。
 平べったい低車高の車体と砲塔に、長砲身の主砲を備える外観は、地球世界の第2世代主力戦車に似ている。実際すでに防衛隊は幾度も交戦を経験し、それ相当の性能である事が判明している。
 しかしその戦車は、地球世界では見たことのない形式であった。
 その外観の雰囲気は、どこか第二次世界大戦中のドイツのティーガーⅡ戦車のようにも見え。それが第2世代主力戦車へと発展したような物に見えた。

 その戦車は、この異世界に存在する『鋼獣帝国』と呼ばれる軍事国家のものだ。
その鋼獣帝国は、現在この異世界の各地に侵略の手を伸ばしており。防衛、安全保障の観点から日本国防衛隊が対峙する事になった、敵であった。

 その鋼獣帝国の戦車は木立より現れると。平地にできた曲がりくねる轍を辿り、そこかしこに鎮座する味方戦車の成れの果ての残骸を縫うように進んで来る。
 さらに木立からは後続に、歩兵戦闘車に類すると思われる車輛が。合わせて、近代化された装甲ハーフトラックのような車輛が出現。
 合計三両の敵車輛は、一定の間隔を空けて、轍に沿って味方戦車車輛の残骸の間を進む様子を見せる。
 戦線を押し上げるべく撃って出てきたのは間違いないだろうそれ。しかしその様子は傍から見ても酷く慎重。いや、怯えているように見えた。
 それも当然だ。一瞬後には、己らも周りに朽ち果て鎮座する残骸に、仲間入りをしてしまうかもしれないのだから。
 そして、無慈悲にもそれは現実になろうとしていた。

「怖いだろうよ――照準は?」

 その敵車列の様子に、同情してしまう一言を呟いた後に。髄菩は自身の手前に言葉を降ろす。
 髄菩の座す機長席とタンデムで配置し、そのすぐ前足元に設けられる砲手席。
 髄菩の股の間に、太腿に挟まれる形でそこに座す、また別の美少女の姿がそこにあった。

「フフ――完璧」

 その美少女からは、何か不気味な声色で返事が返され上がった。

 ――薩来さつらい 脅摩きょうま陸士長。
 当89AWVの砲手を務める隊員。
 今にあってはその容姿は、陰を感じハイライトの無い釣り眼が不気味ながらも。淡い茶髪の綺麗なポニーテール髪が似合う、整った顔立ちの美少女。
 髄菩以上にワガママなそのボディは、同じく軽量装甲戦闘服7-型にそのライン色っぽく飾られている。
 しかしその薩来もまた、本来は男性である隊員だ。男性時にあっては醜男では無いながらも、不気味で近づきがたい容姿雰囲気の人であり。
 そして何より薩来はその見た目容姿に違わない、何か不気味な言動の多い人物であった。

 砲手用の照準スコープを除いているその薩来からの返答は、照準の完了している旨を。現れた敵戦車を、狙い捕まえている旨を返すもの。

「――やれ」

 直後。髄菩の口から薩来へ、そう命じる声が降り。

「フフ――」

 そして、薩来はまた不気味な笑いを零すと同時に。その指先に掛けていた、射撃装置のトリガーを引いた。

 ドッ――と。劈く轟音が鳴り上がったのはその瞬間だ。
 発生源は、89AWVが砲塔側面に備える対舟艇対戦車誘導弾の発射機。その内に備わる誘導弾が点火し、撃ち出されたのだ。
 誘導弾は89AWVの発射機を発し、目にも止まらぬ速度で目標へ――今も平野を進む、敵の主力戦車へと突進の域で飛び。

 飛び込み――直後には、敵戦車を爆炎で包み上げた。

 そしてそれを合図とするように、同じくダックインする93AWVが主砲である90mm低圧砲を。そして塹壕に配置する普通科隊のMAT、無反動砲などが立て続けに火を噴いた。
 90mm低圧砲の砲撃は、敵主力戦車に続いていた歩兵戦闘車に叩き込まれ、行動不能に陥れる。さらにMATや無反動砲の射撃は装甲ハーフトラックに打ち込まれて大破炎上させた。

《――沈黙だッ、敵車輛全て沈黙ッ》
「ッー」

 普通科隊の観測スポットよりの観測報告の声が、通信越しに届く。それを聞きつつ、髄菩は外部の光景を移すモニターに中止を続ける。
 行動不能、ないし大破した歩兵戦闘車や装甲ハーフトラックからは。奇跡的に生き残った鋼獣帝国軍の歩兵達が、慌て飛び出し逃げ出てくる姿が見える。

「投射しろ」

 その様子を確認しつつ、髄菩は無慈悲に命ずる言葉を紡いだ。
 それに呼応し、薩来は再び射撃装置のトリガーを引き。火器選択により変更されていた、89AWVの主砲である35mm機関砲が咆哮を上げた。
 機関砲の火線が敵兵の元へと撃ち込まれ、その炸裂の暴力が無慈悲に彼らを血肉の飛沫へと変じる。
 さらに、塹壕に据えられる12.7mm重機関銃や、汎用機関銃よりの射撃掃射が確報へ注がれ去られ。慌て散らばり逃げ惑う敵兵を、残さず屠り浚えていった。

「――」

 各隊各所からの射撃掃射は程なくして止み、静寂が戻る。
 丘より見下ろす荒れた平野には、新たな敵戦車車輛の残骸が三つ増え。代わりに動くものは無くなる。

「他は?」
《出現の気配はナシ》

 髄菩は通信上に確認、尋ねる声を上げ。それに普通科隊の観測スポットより答える通信が返る。
 その言葉通り、平野の向こうの木立より、それ以上の敵の車輛部隊が出現する気配は無かった。
 明かしてしまえば。その日の鋼獣帝国軍の攻勢はそれにて打ち止め。静寂は、その日のこの一帯での戦闘が終了したことを知らせていた。

《――打ち止めか?》

 そんな所へ髄菩の側面から、効果の掛かった別の声色が今度は聞こえる。
 発生源は機長席の側面に在るモニターの一つ、そのスピーカー。見ればモニターには、また一人の少女の姿が映し出されていた。

 モニターが映す先は、この89AWVの車体側にある操縦手席。すなわち映った少女は、この89AWVの操縦手。
 少し不健康な印象の真白い肌に、同じく真白いロングの髪が飾る。
 一際目を引くは、白目部分が黒くなっていて、瞳は金色のその眼。そしてこの地球日本と繋がった異世界にも存在する、エルフ族のような長く尖った耳。
 まるで物語に登場する悪魔種族を体現したような美少女が、モニターには映っていた。

 明かせば御多分に漏れず、その美少女の正体は男性隊員。
 その名は――藩童はんわらし 綿繰わたぐり。階級は陸士長。

 まるで異世界の悪魔種族のような姿外見だが。断って置けば、その出自はれっきとした日本人だ。
 彼に在っては性転換に伴い少しばかり特異な特性が生じる体質であり、その悪魔のような姿はそれによるもの。そしてこういった特性は彼に限らず、一定の性転換者に見られるものであった。
 もっとも藩童にあっては、元の男性の姿も少しばかり不気味なそれではあるのだが。

「そう願いたいね」

 そんな悪魔美少女な外見の。加えて言えば肉付きは髄菩や薩来より控えめだが、完璧なバランスのそのボディを、やはり軽量装甲戦闘服7-型でエロティックに飾っている藩童から寄越された言葉に。
 髄簿は淡々と、しかし投げやりな様子口調で一言を返す。

 それは、決して愉快なものではない殺し合いを。少なくとも今日という日は終わりにしたい事を望む、皮肉気な一言であった。

《――髄菩、応援の到着だ》

 そこへ、さらに通信に呼びかけの言葉が割り込み掛かる。

「あぁ、来たか」

 それをヘッドセットより聞いた髄簿は、一言をまた発すると同時に機長席より腰を上げ。頭上のコマンダーキューポラのハッチを開け放ち、開口部を潜って砲塔上へと這い出した。

「っ」

 その軽量装甲戦闘服7-型に包まれる、魅惑の上体を砲塔上へ出して捻り。髄菩は後ろ側方を振り向く。
 その向こうには89AWVと同じく、ダックインする同系機の93AWVが見え。その砲塔コマンドキューポラ上には、髄菩と同じように半身を這い出した美少女の姿があった。

 ショートボブの髪型の金髪が眩しい、キリリとした顔立ちと眼の、気の強そうな美少女。
 纏うは服装は髄菩等と変わらぬ軽量装甲戦闘服7-型で、それに包まれるなかなかの巨乳が主張している。
 93AWVの機長であり、今しがたの呼びかけの主。
 彼女、いや明かせばやはりその正体は〝彼〟であるその人。
 その名は芹滝せりたきと言い、階級は三等陸曹。
 階級こそ違うが、その芹滝は髄菩の教育隊の同期であり。交友の広くはない髄菩の、数少ない親しい間柄の隊員であった。

《〝マム〟のご到着だ》

 そんな芹滝から、通信音声が再び寄越され、同時にそれに合った口の動きが見える。
 その声色と表情様相は、気の強そうな容姿に反したフランクで、どこか揶揄うような色のそれ。そしてその片腕は、自分等の配置した塹壕、装脚壕陣地の背後を示していた。

 髄菩等や普通科隊の配置布陣している丘の陣地の背後には、また木立が群生しているが。その木立を抜けて、髄菩等の89AWVや93AWVよりの大きな機体の。別の装脚機が数機、抜け出てきて姿を現していた。

 90式主力戦闘装脚、通称90MBWと呼ばれる主力戦車に値する装脚機だ。

 その90MBWの小隊は、随伴する普通科中隊と共に踏み出てきて。髄菩等の機体や陣地と並び、もしくは合流した。

「――交代先は貴様らか。健在だったようで何よりだ」

 その90MBWの内の一機が、髄菩機の89AWVと隣り合って配置停車。その120mm滑腔砲を備える砲塔の、コマンドキューポラ上に姿を見せ人物より。毅然としながらも透る声での言葉が掛かった。
 ショートボブの髪型の映える気の強そうな美人女性。軽量装甲戦闘服7-型に包まる豊満なバスト谷間や、悩ましい身体が主張している。
 その正体は、到着した90MBW小隊の隊長であり。言ってしまうとやはり本来は男性の性転換者で、元は狡猾そうな印象のある男性幹部。階級は三等陸佐。
 名は、闘藤とうどうと言う。

「えぇ、おかげ様で」

 そんな上位階級者である闘藤からの言葉に、しかし髄菩はあまり畏まった様子の感じられない様子口調で、そんな返事を返す。
 髄菩等と闘藤はまた良く知り合った関係であった。
 別の部隊の所属であったが。この異世界に介入して以来、何の縁か幾度も作戦を、そして危険な場を共にし。すでに遠慮などがある間柄では無かったのだ。

「淡々が売りの貴様も、さすがに疲れが見えるようだな。後は我々が引き継ぐ、後退して休養を取るんだ」

 そんな髄菩からの投げやりな返答に。闘藤はまた毅然とした声色のそれで、しかし反して揶揄うようにそんな促す言葉を返す。
 闘藤等は、この場を守っていた髄菩等の部隊と交代、引き継ぐために到着したのであり。髄菩等にはこれよりの、一旦後退しての補給整備準備、及び休養指示が出ていたのだ。

「ありがたい限りで。ではお言葉に甘えましょう」

 それを受け、また皮肉気な。そして少し疲れた色をそこに魅せて紡ぐ髄菩。

「闘藤さん、ゆめゆめ油断なされるな。連中は、しつこくしぶとい」

 そして合わせて、そんな言葉を紡ぎ送る髄菩。
 それは、これよりこの場を守ることに。そして鋼獣帝国と対峙する事となる、闘藤等への忠告の言葉。

「侮るなよ。私を誰だと思っている?」
「あ――、鋼鉄なる男児の心を持つ、麗しい女傑様でした。ご無礼を」

 それに闘藤は、不敵な笑みを作って返し。髄簿はそれにまた皮肉を聞かせた言葉で返して見せた。

「――後退だ。お休みを、いただくとしよう」

 そして、髄簿は乗員の薩来や藩童に。両機の芹滝に伝え告げる言葉を発し上げ。それに呼応して89AWVや93AWV。付随の普通科隊は引き上げのための行動移行を開始。
 この場の守りを闘藤等に任せ。一時の休息をいただくべく、この不愉快な戦場より引き上げた――



 ――その世界、地球はある事ある歴史出来事を辿り。その地球の人々は、ある特性を有していた。

 その世界、地球では現在より十数年前に。その身の性別を変換できる性転換特質が人類の体機能に潜在する事が発見され、その後に自由な性転換を可能とする技術が確立された。
 数年前程からその技術、ノウハウ他は一般レベルにも降りてきて普及が始まり。
 その世界の人類は性別の垣根を、一つの形で越える事に成功していた。

 それから現在にあっては日本国防衛隊でもこの性転換特性、技術は各方面で活用が始まっている。
 当初は広報面や隊員の生活面での活用に比重が置かれていたが。続けての活用先として目が付けられたのが、戦車や戦闘機、一部艦船など。物理的構造・容量に制約を受ける機体車輛装備などに登場する隊員による活用。
 要は男性隊員が、小柄で柔軟な女性の身体へ性転換する事で、快適性や利便性の向上を図るもの。それを期待しての、任務時の性転換推奨および場合によっての指定だ。
 これは一部部隊で試験的に運用が始まり、昨今の重作業の機械化・オート化も助け、その結果いくらかの有用性が証明され。それから順次各部隊でも導入が進んでいった。
 陸上防衛隊各隊にあっても例外では無く、戦車・装甲車・AWV部隊の男性隊員は。少しでも良い居住性など追及し、搭乗時は女体化することがセオリーになりつつあったのである事情があった。


 それらを前提として、髄菩に話の焦点を向ければ。
 その、異世界との接続という大事件と。
 性転換文化が普及して、髄菩の所属する部隊にもその業務上での活用推奨が流れて来たのが。良いのか悪いのか分からないが、奇しくも同じタイミングだったのであった。
 そしてその直後に、髄菩の部隊には異世界派遣部隊としての白羽の矢が立てられた。


 ――かくして。
 髄菩等は美少女へと姿を転じた上で。
 装脚機を相棒として、異世界へと踏み入る事になったのである――
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