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第14話:「急襲、反逆、そして決着――」

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 帝国軍のステージ施設空間の、中央ステージ上。
 そこに見えるは、あられもない姿で放置される髄菩と芹滝。
 そしてステージを囲い投影される多数の魔法スクリーンに映るは、同じくあられもない姿で放置される様子を晒す、薩来等や闘藤等の姿。

《クク……ハハハっ!最高の淫劇のステージであった!我が仇敵を、ここまで淫らに堕ち沈めることができるとはなぁっ!》

 そんな髄菩等に。どこからかそれを見ている魔族中佐の、高らかに笑い響かせる声が降り来て浴びせられる。

「ぁぅ……」
「ふぁ……」

 その笑われる声にすら。蕩け朦朧とする髄菩や芹滝は、意識の遠くに聞いて力ない声を漏らすのみ。

《フっ。最早、快楽に溺れ切った従順な玩具となり果てたようだな》

 そんな二人に向けて、続けて降り聞こえる魔族中佐の言葉。
 それに含まれるは、自身を一度は屠った仇敵の堕ち切った有様に。満足しつつも同時に、遊び尽くして飽きが来たとでもいうような色のそれだ。

《諸君。彼女たちは、すでに堕落し切った玩具にして只のメスだ。諸君の気が向くのならば、弄び楽しんでやってくれたまえ》

 そして、魔族中佐は「後はくれてやる」と言うような色で。嘲りと侮蔑を込めた色で、帝国軍将兵たちにそう促す言葉を降ろす。

「ハハ、中佐殿はすでにオモチャに飽きられたか」
「もうメッチャクチャだぜ?あのメスども」
「まぁ、それはそれで色々楽しみ方があるだろ?」

 それにステージの観客席で休息を取る帝国軍将兵から口々に上がるは。そんな侮蔑し笑い、好き勝手を宣う言葉の数々。
 そしてしかし、ステージ上で放置される髄菩等に。観客席の帝国軍将兵からは、また怪しい獣欲に満ちた視線の数が向けられ集まる。
 底無しなまでの帝国兵たちの下卑た欲望はまだまだ止まず枯れず。より激しくの輪姦による欲望快楽の享受を、女を穢し楽しむ愉快の宴を求め欲して。
 緩慢に動き始め、ぞろぞろとステージへと群がり始める帝国兵たち。

 ステージ上でへたばる髄菩と芹滝の垂涎ものの女体を、囲い捕まえ。再びその獣欲の餌食とするために……

 ――しかし。


 ――衝撃の音が。


 ドッ――とも。ボッ――とも知れぬ半端の無い爆音、破壊音が。帝国兵たちのそれを阻み遮るように劈いたのはその瞬間であった。

 ――爆破、崩落。
 この淫劇の舞台となったステージ空間施設の、その中央ステージの真上に位置する天井。
 その一円が、爆破開通の様相で――いや文字通りのそれで崩落開口したのだ。


《……っ!?》

 それにまず目を剥いたのは魔族中佐。
 実はこのステージ空間を一望できる、隠され設けられていた観覧部屋で高みの見物を決め込んでいた魔族中佐。
 今先までは仇敵を貶め堕とし、愉悦の笑みに満ちていたその表情は。瞬間に一転して驚愕のそれに染まる。

「「「?」」」

 そしてステージ周り、観客席には。突然の事態にただ呆ける帝国軍将兵の群れ、烏合の衆と化した人だかり。
 その目が一様に見るは。天井が崩落して、大量の煙埃に撒かれながら、いくつかの大きな瓦礫破片となって落ちてくる光景。
 そして、その瓦礫のいくつかの上に――〝人のシルエット〟が身を置く姿。
 呆然とそれを見る帝国兵たちの目には、それがまるでスローモーションでも掛けたかのように映っていた。
 そして――


 その〝格好の的〟に。それが――〝銃撃〟が唸り降り注いだのは、瞬間であった――


「――ぎぇェっ!?」
「びぇぁっ!?」
「ぎゃひッ!?」

 始まったのは――掃射。掃討。
 多数の苛烈な銃撃音の唸りが響き上がり。また同じ数の銃火火線が、ステージ空間の中心より全方向へ飛び喰らい掛かる。
 そしてうごめく帝国兵たちからは悲鳴が上がり。端から掻き浚えられる勢いで、もんどり打ち、弾け始める。

 群がる帝国兵たちは次々に血肉、欠片へとその体を変じ屍を晒し。
 淫劇の舞台であったステージ空間は、一変。阿鼻叫喚の地獄絵図へと変貌した。


 ――ステージの中央。煙埃に巻かれながら落下してくる瓦礫の、その一つ一つを見る。
 それぞれに見えるは、その瓦礫の上に身を乗せ。落下しながら、その落下中の僅かな時間の間に、恐ろしいまでに的確な射撃を行う5名分のシルエット。

 一様に迷彩柄の服装――迷彩服3型改をベースとする完全装備。
 いずれも。一切の隙の無い顔色、オーラを見せる〝男性〟。
 そのそれぞれの袖に刺繍で記されるは、その所属を示すワッペン。

 ――第1空挺団の急襲だ。


「――」

 それぞれの大きく割れ崩れた破片に足を着き、射撃姿勢を維持しながら自由落下するは。
 彗跡二尉率いる空挺班の五名。

 彗跡が、円形隊形で落下する5名のほぼ中心に配置。そして四方に、
 7.62mm機関銃 M240Gを担い唸らせる、稜透が。
 5.56mm機関銃 MINIMI Mk.3を乱射する、狡徒が。
 7.62mm狙撃銃 HK417で標的を次々に的確に撃ち抜く、東須が。
 そして20式5.56mm小銃 IARをもって、狙う制圧射撃を行う奈織の。

 各員の位置取り落下しながらの、戦闘射撃行動を行う姿を見ることができた。
 
 自由落下の間の僅かな時間での、しかし全方位に向けての射撃は。群がり密集していた帝国兵たちを面白いまでに薙ぎ倒し。
 そしてスローモーションが掛かったような錯覚を受け、長時間に及んだように思えたそれも。実際にはわずか数秒にも満たず。

「――ッ!」

 直後には、瓦礫に乗って落ちる空挺の5名各員は。
 まるで投下パレットに乗せた空挺戦車が降着接地した様なまでの、荒々しく迫力の様子で。自由落下から「ガシャリッ!」と荒げた音を立てて、立て続けにステージ上に着地。

 補足すれば。天井の瓦礫の落下は、そのどれもが直下に身を置く髄菩と芹滝の身を僅差で避けて落下。
 すでに明白であろうが、天井を爆破崩落させたのは彗跡等空挺班。
 そしてそれは考え無しの雑なものでは無く。直下に居る髄菩と芹滝の身を考えての、徹底的に計算されての爆破突入行動であったのだ。

「ッ!」
「ッ――」

 そしてその衝撃を受け止め、顔を顰めつつ。しかし射撃行動の手は決して止めず続けながら。
 瞬間には足元を踏み切り、飛び出すように行動を開始。ステージ上を展開地として、展開配置を始めた。

「稜透、東須、狡徒ッ、各方任せる!」

 ステージ上の中央から少し外れて、最後に脚を着いた彗跡は。指揮下の内の三名の名を呼び、伝え発する。
 それに呼応し三名はステージ上に、あるいはステージを飛び降りて各方向へ配置。
 自身の担当火器を構え、あるいは据え置いて。客席で逃げ惑い大混乱に陥っていた帝国兵の群衆に、追い打ちを掛けるかのように射撃掃射を浴びせ始めた。

「奈織!」
「りょッ!」

 そして、苛烈に響く銃撃掃射音と。それにより上がる帝国兵たちの悲鳴を聞きながらも。
 彗跡はステージ上に残った奈織に向けて呼びかけ、奈織もそれに呼応。
 二人が動きを見せ、そして駆け寄った先は、横たわる髄菩と芹滝のそれぞれの身であった。

「髄ピっ!聞こえるッ?ウェイクアップおけまる水産ッ!?」

 奈織は構える20式 IARを撃ち、ステージ周りで戦う他三人に援護を影響しながらも。髄菩へ向けて、ギャル語で起き上がることが可能か尋ねる言葉を張り上げる。

「ぅぁ……なぉりぃ……?」

 髄菩はその掛けられた声に、未だに緩慢で蕩けた様相で。辛うじて奈織が現れたことに気づいて、その名を呼び返す。

「っー、ちょいコレは、一撃スパークインが必要なカンジッ?」

 それを受けた奈織は、しかし髄菩の未だ蕩け切った様相に。そんな言葉を続けて零す。そして次には髄菩に寄り。精液で穢れる彼女の身を、しかしまるで構わぬ些細な事と言う様子で触れ支えてその上半身を起こさせる。

「あーあーっ。髄ピともあろうマジ塩クールビューティーが、こんなドチャエロなドスケベショット晒しちゃってぇッ」

 そして、気付けを期待してのそれも含めて。敢えての煽り揶揄うような言葉を、ライトな様子で零し降ろしつつ。
 奈織は身に着けていた雑嚢から何かを取り出す。それは一本のボトルコーラ飲料、奈織が景気付けのために持ち込んでいたもの。
 カシュッとそのキャップを開けると。奈織は次には少し遠慮ない動きで、その飲み口を髄菩の口に宛がい無遠慮に流し込んだ。

「……――!――ふゅッ……ごほッ……!?」

 次に、口内に流し込まれた液体に。炭酸飲料であるそれが伝える刺激により、朦朧としていた髄菩の意識は強引に覚醒を呼び起こされ。
 同時に無理やり口に流されたそれを飲み込む事をしくじり、髄菩は目を軽く向いて咳込んだ。

「こほッ……ッぉ……ッ」

 奈織に支えられていた自身の身体に、力を入れて自身の意思で上体を起こし。口に当てられていたコーラボトルを、それを持つ奈織の腕をやや強引に退けて。
 引き続き軽く咳込む髄菩。

「ど?スイッチオンになったカンジ?」

 それに髄菩の覚醒を見て、奈織はそんな言葉を寄越す。

「っゥ……囚われのお姫様にする口づけとしては、ヤンキームーヴが過ぎる……ッ」

 それに、髄菩はいつもの皮肉気なそれが戻った口調で。手の甲で口を拭いつつ、そんな不服の言葉を返して見せた。
 そして奈織の手からコーラボトルを奪い取り、今度は自身で口につけ。一回コーラで口内を濯ぎ吐き捨て、そして続けて景気良く喉へと流し込んだ。

「水筒もあればくれッ」
「ほいよっ」

 奈織は髄菩に水筒を寄越す。
 それを受け取った髄菩は、奈織の横肩を叩いて「警戒を頼む」と伝え。起き上がって、無意識な可愛らしい居住まいに座り直し。
 警戒に映った奈織の支援を受けながら、受け取った水筒の水を被って、身体を穢していた精液を流す。

「んっ……芹滝、そっちはッ」

 それを行うと同時に。髄菩は揃って淫劇の渦中にあった芹滝に、その状況状態を訪ねる声を飛ばす。

「っぅ……流石に好き放題され過ぎた……身体に力が入りきらない、即応はチト怪しい……ッ」

 隣近くで彗跡に支えられ、同じく意識をいくらか取り戻した様子を見せている芹滝。しかし返る言葉から、その身体の疲弊が大きい事が返し伝えられる。

「そこまでなら、まだマシだなッ」

 しかし、意識が戻った様子ならば良しと。髄菩はそんな端的な言葉を返す。

《……なにが、どう言う事だ!なぜ侵入を……!魔術警戒網をすり抜けて来たと言うのか!?》

 そこへ響き聞こえたのは魔族中佐の、しかし今までとは一転した動揺の声。おそらく無意識に漏らされたそれを、音響装置が拾ったのだろう。

 魔族中佐のそれは。
 この場、鋼獣帝国軍の後方深くであるはずのこの地域に、この司令部バンカー陣地に。敵が、第1空挺団が侵入している事実に驚きを示すもの。
 この地域に至るまでは、鋼獣帝国軍の張り巡らせた、魔法魔術を用いる警戒網が無数に存在するはずなのだ。

《それに、ヤツ等……堕ち切っていなかったと言うのか……!?》

 合わせて聞こえるは、また別の動揺の言葉。
 それは疲弊こそ見えれど、確かな意識を取り戻した姿様子を見せる髄菩や芹滝にまた驚くものだ。

「悪いな。チト崩れる不格好を見せたが、この程度でマジで壊れる程ヤワじゃない」

 その降り来た声に。ここまで晒してしまった淫らな姿から、少しバツが悪そうにしながらも。煽り返すようにそんな言葉を紡ぎ上げる。

「自分で言うのもアレだが……俺等は結構ヤンチャなビッチなんでね……ッ」

 そして続けて。彗跡の手で水筒の水を浴びせられて、塗れた精液を流している姿の芹滝が。少しの自嘲と冗談を混ぜた言葉で、そんな明かす言葉を紡ぎ上げて見せた。

《――ッ、戯言を……!》

 そんな二人の返した言葉に、また返り聞こえるは魔族中佐の忌々し気な声。

《――……『膝を折り、堕落せよ』……っ!!》

 そして同時に。何か様相の異なる、そんな言葉が紡がれ聞こえる。
 その直後――ステージ施設の空間内で、異様な発光現象が巻き起こった。

 それは巨大な魔法陣。不気味に発光する赤紫の光が、空間真上に、そしてステージを中心に囲う様に、魔法陣の紋様を描いていく動き光景。
 それは明かせば髄菩等に刻まれた淫紋と同系列の、仕掛け向けた相手の身の動きを、力を奪う魔法。
 言うまでも無く、その発動主は魔族中佐だ。

「ッ」

 その光景に、そして察した効果影響に。髄菩はその美少女顔をしかし顰め険しくする。

《小賢しい戯れは終わりだ……!これを受け、その身を堕として崩せっ!!》

 そして、その発動した魔法による髄菩らの再びの堕落を確信し。
 魔族中佐は高慢なまでのそれで、笑い上げる言葉を響かせた。

 ――ブツッ、と。

 しかし、何か機械機器の電源でも強引に落としたかのような、歪な音が響き上がったのは直後瞬間であった。

《――……は?》

 そして聞こえるは、魔族中佐の何か呆けた声。

「ッ!」

 髄菩も続け、発生した現象に気づく。
 周囲を見れば、なんと――発動形成されようとしていた巨大魔法陣が、跡形もなく消え去っていたのだ。
 まるでその現象存在自体が、一瞬で〝デリート〟されたかのように。

「これはッ、〝反特性現象効果〟かッ」

 その光景、現象を見て。髄菩かそんな何かの名称を紡いだのは直後。

「〝マージェ・ダウン〟は抜かりなく効果発動済みっしょっ!」

 そしてそれを正解だと答えるように、軽快な言葉でそんなワードを発する。
 今まさに二人の口よりそれぞれ言葉にされたそれ等の名称こそ。魔術中佐の仕掛けて来た魔法攻撃を、消滅無力化して見せたものの正体であった。

 今あった通り――正式には、反特性現象効果と。もしくはマージェ・ダウンと通称されるそれ。
 まさに今しがた起こった通り。魔法、魔力、魔術といったそれを無力化消滅させる事を可能とする現象効果。
 経緯を辿ればそれは――地球日本とこの異世界を結んでしまった元凶たる、新エネルギーの実験がもたらした副産物。新エネルギーを起因とする不測の事態は、魔法の存在する異世界への開通と同時に。その魔法に抗う術を地球人類へと授けたのだ。

 そして現在は。
 彗跡や奈織等空挺の5名がそれぞれ分割して装置を装備携帯する、〝反特性効果装備システムが〟。一種のジャミングの効果役割を務め、周辺に発生した魔法現象を無力化するフィールドを形成していたのだ。

「!」

 そして気が付けば。
 その効果か、髄菩等の下腹部に刻印されていた淫紋も消え去っており。
 そしてステージ上に投影されていた魔法スクリーンも、投影を維持できなくなったのだろう、いつの間にか消え去っていた。

「所で。IFかして今の声が、髄ピをこんな目に遭わせたヴィラン系?」

 そんな所へ奈織が。そのパリピな台詞に、似合わぬ尖らせた声色で尋ねる言葉を寄越す。

「!」

 そしてしかし、すでに確信しているのだろう。奈織は尋ねた髄菩の返答を聞くことは待たずに。
 その髄菩に再度近寄って、やや強引にその肩を抱き寄せる動きを見せると、

「――イェーイっ!ヴィラン君みってるっぅー?ヴィラン君が堕としたと思ってた髄ピはぁ、ウチが無事レスキューしちゃいましたーっ!」

 そして、視線を適当な方向に上げて少しヤらしい笑顔を作ると。次には、そんなチャラ男ムーヴの変形したような台詞を、Vサインと合わせて高らかに発し上げて見せた。

「――」

 そして髄菩はと言えば。その自信を抱き寄せた奈織の腕中で、呆れ顰めた表情をその美少女顔に作っている。

「――あり?反応無い系?」

 そしてしかし、そのムーブを向けた魔族中佐から反応の気配は無い。それに言葉通り「ありー?」といった表情を次には見せる奈織。

「ぁ痛っ!」

 そしてさらに次には奈織の手先に痛みが走り、奈織は軽く悲鳴を上げる。
 見れば奈織が髄菩の肩に回していた手の甲を、髄菩は指先で抓っていた。

「いらんムーブをするな」

 そして淡々と冷たく、髄菩はそんな言葉を奈織に紡ぎ、奈織の腕を退ける。

「続く動きの気配が無い――これは、中佐殿は逃走したかもしれん」

 魔族中佐からの反応が無い事を。髄菩はすでに魔族中佐が通信の向こうからも逃走している事を推察し、それを言葉にする。

「彗跡二尉ッ。ウチの乗員や、闘藤三佐の所へはッ?」

 そして一度振り向き、髄菩は彗跡に向けて尋ねる言葉を向ける。
 それは、魔法スクリーンの消滅によって、直接姿を確認できなくなった薩来等や闘藤等の元へ。対応救助の手が向かっているかを確認するもの。

「すでにウチの面子が向かっている――いや、ちょい待ち――今、制圧確保が完了したそうだッ」

 それに彗跡から返るは、抜かりない旨を伝える返答から。今しがた救助完了の報が来た事を伝える言葉。

「おしッ。ではウチの乗員の方に伝えてください、自分に合流せよと――中佐殿を追い、決着を試みると――」

 それを受けた髄菩は、その瞳に確たる色を作り。
 そう要請する言葉を。そしてこれより臨む行動を紡いで見せた――



「――ッ」

 司令部バンカー施設の地下空間と地上をつなぐ通路を駆け抜け。髄菩は太陽に煌々と照らされる、施設の地上へと飛び出した。

 髄菩が飛び出した瞬間、真上を劈く轟音を唸らせて飛行体が飛び抜ける。
 その正体は、航空防衛隊の保有するF-2ADV戦闘機。
 鋼獣帝国軍の司令部陣地、及び戦域一帯上空の航空優勢を確保するために、押し進めて来た飛行隊がちょうど今到着したのだ。

 さらに、司令部陣地一帯の低高度上空の各所には。
 陸上防衛隊のUH-3やUH-60JW等といった汎用ヘリコプターや、AH-92Dや武装型OH-6といった戦闘・攻撃用ヘリコプターが続々飛来して進入。
 汎用ヘリコプター各機は司令部敷地の各所で低空ホバリングに入り、それぞれからは搭乗していた第1空挺団や第12空中旅団の班・分隊がラペリング降下を開始。
 戦闘・攻撃ヘリコプターは主要施設や帝国軍の戦闘車輛、陣地等への攻撃行動を開始。

 それらは防衛隊の大規模な増援戦力の到着を。そして帝国軍司令部の制圧行動が開始された事を大々的に知らせる光景であった。

「大局は、すでに任せて良さそうだな」

 その光景を上空に見つつ、そんな言葉を零す髄菩。
 その髄菩は今に在っては引き続きの美少女姿だが、流石に先までの一糸纏わぬ格好から変わり。
 奈織等が配慮し持ち込んでくれた、Tシャツにハーフパンツやスニーカーを履き着て。さらには奈織から借り受けた防弾チョッキを纏う、簡易ながらも格好体勢を整えた姿だ。

「大判振る舞いのレスキューっしょっ!髄ピのアイドル人気ヤバ過ぎ系っ?」

 そんな髄菩に、続き駆け出て来たのは奈織。
 髄菩の援護のために同行している奈織は、20式IARを構えて警戒を抜け目なく維持しつつも。そんな揶揄う言葉を飛ばしてくる。
 実際の所、今の作戦展開は髄菩等の救出のために強行された面もあり。そこには髄菩を知り仲を持つ者たちの、強い進言具申の影響も大きいものであった。

「二尉、上空の各機から何か目撃報告はッ?」
「ひーん、塩っ!」

 しかし髄菩はそれに反応は返さず、冗談交じりの鳴き声も無視。

「待ってくれ」

 髄菩に返すは、同じく援護のために同行して来た彗跡。
 他に選抜射手の東須。そして途中で合流を果たした薩来と藩童の姿もある。
 ちなみに薩来と藩童はまた引き続きの美少女の身体で。格好は救助してもらった空挺より借り受けた、Tシャツとハーフパンツに防弾チョッキ姿だ。
 また、まだ動くには厳しい芹滝のために。稜透と狡徒は先のステージ施設に残っている。

「――観測ヘリが、施設を脱出しようとしている小隊規模の装甲部隊を追っている」
「おそらく、それだッ」

 尋ねられた彗跡が伝え寄越したのは、通信上に交錯している音声情報拾っての報。
 それに髄菩は確信を得て、一言を発する。

「……まずいな。降下部隊が優先支援を必要としていて、各航空支援がすぐには迎えない……ッ」

 彗跡が続けて零したのは、そんな言葉。
 降下から各所では苛烈な戦闘が始まり。逃げる敵にまで優先して割ける航空戦力の都合がつかないようだ。

「ッ」

 それに髄菩も苦い顔を作る。

「髄菩ッ」

 しかしそこへ、今も悪魔娘っぽい姿の藩童から言葉が掛かる。
 藩童は指を指して一方向を示しており、髄菩もそれを辿りその向こうを見る。

「!――自分等のッ」

 向こうに見えたのは、いくらかの帝国軍の車輛が並ぶ駐車区画。その端の一点に見えたのは、放置されたように鎮座する多脚歩行装甲車輛。
 ――髄菩等の愛機である、89AWVの姿であった。



 帝国軍は髄菩等を戦闘で打ち破り確保拘束した後。調査見分の目的で、装脚機も接収後送していたのだ。

「――システムは生きてる」

 取り戻した89AWV内で、髄菩と薩来と藩童は、搭乗から各座席配置に就いていた。
 そして再起動した機体システムを確認し、言葉を零す髄菩。機はダメージこそ残り、いくつかの警報警告を伝えたが、まだ死んではいなかった。

「砲塔旋回はダメージ――でも、射撃投射には支障無し――」

 髄菩の足元、砲手席に着いた薩来からも、知らせる声が上がる。

「藩童、動けるか?」

 それを聞き続けて、髄菩は操縦席の藩童に尋ねる言葉を送る。

《――装脚機動は無理だが、コンバットタイヤでの自走は行けるッ》

 それに返されるは、制限こそあれど自走行動は可能である事を伝える言葉。

「オーケー。エンジン始動次第移動を、射撃位置へッ」

 それを受け、機が目的を成せるだけの行動が可能である事を確認した髄菩は。次には確たる言葉で指示を発し上げた・

 89AWVは、幸い致命的なダメージは受けていなかったエンジンを唸らせ。その息吹を蘇らせた。
 損傷した、機を支える装脚は歪な動きを見せつつも。コンバットタイヤを用いる自走でその巨体を運び始める。
 駐車場区画を、慎重にしかしできる限りの速さで走行。
 機の周囲には空挺の彗跡、東須、そして奈織の三名が展開。警戒支援を提供しながら随伴する。
 そしてさほど掛からず、89AWVは目星をつけた射撃位置へとたどり着いた。

 駐車場区画を有するその陣地施設の一角は、地形的に高所に位置しており。射撃位置に選んだ駐車場の端からは、周囲が広く一望できた。

「――あれだ」

 そして、髄菩は覗くぺりスコープから見える光景の向こうに、それを見つけた。
 司令部陣地施設の外周通用門から、さほど離れていない向こうに。陣地施設より離れようとする、明らかに逃走のそれを見せる装甲部隊の姿が見えた。

 そしてその内の中核を成す、重戦車の面影のある第2世代主力戦車に類似する戦車。そのコマンドキューポラ上に、仇敵である魔族中佐の姿が見えた。
 魔族中佐はすぐにその堅牢な車内へ逃げるように引き込み消えたが、その所在は最早明確となった。

「薩来――‶一撃〟、行けるな?」

 それを見止め捉えた直後に、髄菩は足元の薩来に向けてそう尋ねる。

「行ける――フフ」

 それに答えるは肯定の一言。合わせての薩来の十八番である、不気味に零される笑い。
 その二人の言葉が示すは、89AWVがその機体に備える――必殺の隠し玉。

 ――13式150mm打撃貫通点火弾。

 89AWVの砲塔側面に装備される、79式対舟艇対戦車誘導弾の発射機。それを利用しての発射を可能とした、点火撃発式の特殊弾。

 それを持っての、必殺の一撃のお見舞いを敢行する意志だ――

 そこからは、細かい調整、指示や言葉はいらなかった。
 操縦手の藩童の操作によって、機体姿勢は最適の体勢を取り。
 砲手の薩来の手によって、照準は微細に、そして完璧に。逃走の動きを見せ続ける、魔族中佐の戦車をその内に捉えた。
 そして――

「――やれッ」

 静かに、端的に、しかし尖り冷淡な声で。髄菩は命じる一言を紡ぎ――


 必殺の一撃が、点火撃発の撃音を響かせて撃ち放たれた――



「――っ!!?」

 魔族中佐が篭り身を隠し、逃走を急ぐ戦車の内で。
 凄まじい破壊エネルギーが。炸裂の暴力が巻き起こった。

「っァ――!?」

 それは魔族中佐の戦車を狙い叩き込まれた、打撃貫通の一撃。
 巻き起こった炸裂の暴力が、数多の凶悪なエネルギーが。魔族中佐の身を引き裂き千切る。
 しかし、一度魔法により蘇生される前に味わった、熱と破壊の苦しみを。今回にあっては魔族中佐が感じ苛まれる事は無かった。
 叩き込まれた一撃の火力、炸裂は。そのまま戦車内の搭載砲弾の誘爆を誘い――

 戦車は、盛大なまでに爆発炎上。

 まるで慈悲かのように。魔族中佐は痛み苦しみを感じる暇もなく、その身を消し飛ばし。そして意識もまた、一瞬のうちに消し去った――



「――撃破」

 89AWVのコマンドキューポラ上で。
 そこに這い出しあがった髄菩の、端的な一声は響いた。

 視線の向こう、逃走を図ろうとしていた装甲部隊の中心で。魔族中佐の搭乗していた戦車が、盛大に大破炎上してる。
 報復、阻止の。その一撃の成功を伝える光景であった。

「おっひょー――超、神仏パーリーアゲアゲ級の一撃っ!」

 それに目を丸くしつつ、独特の表現で囃し立てる声を上げるは。89AWVの前側方で警戒に就いていた奈織。
 残る装甲部隊の車輛は蜘蛛の子を散らすように四方へ逃げ出すが。しかしそれも飛来した攻撃ヘリコプターからの火力投射に阻止されて行く。

「――したはいいが」

 しかしそれらの光景を見止め、目的完遂を確認する言葉に続けて。髄菩は少しの懸念の色を含めた声を零す。

「あの中佐殿、魔法でまた生き返るよな……ッ」

 髄菩のそれを引き継ぎ続けるように、89AWVの側面下方から声が上がる。機体の装脚の足元に、芹滝の姿があった。
 引き続きの気の強そうな美少女姿で、その格好は今の髄菩と同じTシャツとハーフパンツ姿。髄菩と同じく空挺から借り受けたのであろう。
 そして芹滝の言葉は、今まさに仕留めた魔族中佐についての懸念だ。この異世界の民は、魔法魔術による蘇生の技により生き返る事が可能なのだ。

「まだ、報復の連鎖は続きそうか」

 その事から、これ以降も魔族中佐との因縁の戦いが続く事を予測し。髄菩は微かに倦怠感を見せる顰めっ面で、面倒そうにそんな言葉を零す。

「あぁ、それなら抜かりはない」

 しかし、それにそんな別の言葉が割り込む。声の主は、また89AWVの足元に立つ彗跡。

「手は回してある。そんな醜い連鎖は、終わりになるさ――」

 そして彗跡、続けてそんな言葉を紡ぎ伝えた。

「?――」

 直後瞬間に。再び飛来して真上上空を飛び抜けていった、F-2ADVの轟音を背に聞きつつ。
 伝えられた言葉に、髄菩はハテと言った色をその凛とした顔に浮かべた――
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