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王都

133.いろいろまずくない?

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「さぁ、アリエル。あっちに行ってましょう」

私はアリエルの背中に手を添え、ゆっくりと押した。
どうもすみません、とこちらを振り返った彼女は次の瞬間、血の気が引くように真っ青になった。

「どうし………!?」

私の問いかけは、後ろから伸びてきた手に阻まれる。
その手は私の首を掴み、勢いよく後ろに引くと、もの凄い力で首を絞めた。
一瞬何が起こったかわからなかったけど、周りの慌てふためく様子で事の重大さを理解した。
変態王に隙をつかれて、捕らえられたんだわ。
悔しいっ……ほんの一瞬、近付いて背を向けたばかりに隙をつかれてしまうなんて!

「シルベーヌ様!!」

ディランや騎士団、アリエルが叫んだ。
王は手加減をせず、私の首を思いきり絞めた。
ぐ、ぐるしいっ……これじゃ、すぐ死んじゃうわ!!
なんとか脱出しようともがいてみたけど、ヒョロガリの力なんて全く歯が立たなかった。

「最後の最後で……運が回ってきた。さぁて、シルベーヌをどうするか……殺してお前を苦しめるのもいいし、交渉材料として使うのも良いな」

王は、懐に隠し持っていた短剣の刃先を私の胸の上にあてた。
チクリ、と何かが触れる感触……。
それが突き刺さる様子を想像すると、背筋が震えた。

「シルベーヌ様を離せ。その汚い手で触れるなと何度言ったらわかるんだ!」

ディランは真っ直ぐ私を見て、目をそらさない。
内心はどうかわからないけど、慌てる風でもなく、とても落ち着いているように見える。
そんな彼の態度が、恐怖に震える私の心も冷静にしていった。

「この状況を見て、そんなことが言えるとは……シルベーヌが死んでも良いのか?」

「シルベーヌ様は死なない。俺達が守るし、死なないと約束をしている」

そうだよな?と、ディランは微笑んだ。
声の出ない私はゆっくりと瞼を一回閉じる。
返事の代わりに、頷く代わりに。

「そうか……本当は人質にしてここから逃げてやろうと思っていたが、気が変わった………ディラン・ヴァーミリオン、お前の苦しむ顔を見る方が愉快だ!……惜しいが、殺すことにする!!」

王は短剣を握り込みグッと力を込め、ギラリとした刃先を私に向けた。
と、その瞬間、辺りが白い光に包まれる。
これは……スピークルム!?
スピークルムの放つ眩しい光は、王を包み込み、その力を奪っていった。

「ぐっ!!何だ!何が………っ!!力が抜け………」

王はついに短剣から手を放した。
その隙を付き、狼狽える王に向かって銀色の光が瞬間移動する。
私の体は、突然目の前に現れた銀色の光に吸い寄せられた。
前のめりになる体をディランが抱き止め、そのすぐ後ろで……刃物が何かに刺さる音と、小さい呻き声を聞いた。

「か………はっ………っ……」

何が起こったかを確かめる必要はなかった。
ディランに抱き締められていた私からは後ろの様子は見えなかったけど、ありったけの想像を働かせると、答えは1つしかない。
きっと、王にトドメを刺したんだわ。
とうとう変態王を………
………………………………。
………………………………。
あ………………ら?
これ、いろいろ……まずくない?


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