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王都……の、その後

156.何も変わらないわよ?

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彼らの主張は私にはさっぱり理解出来なかった。
どう考えても、生きてる方がいいに決まってるじゃない?
でも、騎士団誰の顔を見ても、その表情は沈んでいた。

「死人でいたいの?」

私はグルリと騎士団を見回し、最後にディランを見た。

「少し違う。シルベーヌ様の特別な騎士団でいたいんだ」

そう言って跪き、私の手をとるディランの後ろで、騎士団死人組も跪いた。
それは全員の総意である、という意思表示のようだった。
私の特別な騎士団?
何を言ってるんだか。
不安そうな彼らに私は言った。

「何も変わらないわよ?」

「変わらない?って……」

ディランは首を傾げた。

「だって、皆ずっと私の特別だったじゃない?何が変わるって言うの?死人じゃなくなったって変わらないわ」

「生き返っても、お側においてもらえますか!?」

ヒューゴが叫んだ。
それを皮切りに、次々とみんなが続いた。

「シルベーヌ様の庭を完成させたいです!」

「シルベーヌ様の館を仕上げたい!」

「シルベーヌ様の彫像を掘るのが夢です」

「もっともっと、シルベーヌ様のドレスを仕立てたいわ!可愛いの、いっぱいね!」

ロビー、スレイ、アッシュ、ウィレム4人の笑顔が私の目に飛び込んできた。

「私はどちらにしろ決まっている。シルベーヌ様の専属料理人だ、死んでても生きていても」

クレバードは背筋をスッと伸ばして誇り高く微笑んだ。

「もちろんよ!側にいて!ずっとよ!」

跪いた騎士団にそう言って、私は間近で跪く男を見下ろした。
他の騎士団が笑顔に戻っているのに、彼だけはまだ不安そうにこちらを見上げている。

「ディラン……死人だから特別なんじゃなくて、貴方だから特別なのよ?」

彼はまた首を傾げ、私の言葉を理解しようと努めている。
抽象的だったかしら?
もっと具体的に言わないとダメなのかしらね。

「つまり、私はディランがとても好きで貴方と生きて行きたいってこと。一緒に美味しいものを食べて、同じ時を刻み、夜の闇に眠り、朝の光に目覚める。そして、家族を作って面白おかしく過ごしたいって………」

「シルベーヌ様!!」

言い終わる前に、感極まったディランに息が出来ない程抱き締められた。
何度も言うけど、これで最後にしたいわ!
力強すぎっ!死ぬ!私が死ぬ!

「ぐえぇぇー………」

瀕死のヒキガエルのような声に、ディランは思わず腕の力を弛め、ホッとした私を見て愛しそうに微笑んだ。

「ありがとう。生き返るのが楽しみになってきたよ。うん……一緒に美味しいものを食べて、眠って起きて……家族を作る……そうだ!子供はたくさん作ろうな!」

「ディラン!ちょっと、そんな大声で……」

「大声で叫びたい気分なんだよ!君は最高だって!俺のシルベーヌ様は世界一だってな!」

ディランはその青い瞳を子供のようにキラキラさせながら、フワリと私を抱き締めた。
周りの目を気にしながらその腕の中に収まり、かろうじて動く顔だけ上げてディランを見ると、逆光の朝日のせいかとても神々しく見えた。
変態染みた性格のせいでよく忘れるけど、彼はとても美しくて格好いい。
それを意識した途端、私の顔はカーッと熱くなり、周りの景色は頭から消えた。

「ディランだって、最高よ?私の世界一よ?」

うっ!こんな歯の浮くような言葉をこの私が言うことになろうとは……。
でも、仕方ないわよね。
本当のことだし、ディランは素敵なんだもん。

歯の浮くような愛の言葉は、ディランのハートを射抜き、感激を言葉に出来ないことを悟るとその気持ちを行動で示した。
大きな両手が私の後頭部を捕らえ、背の高いディランの顔がグッと近付いてくる。
それをぼーっと見上げながら自然に目を閉じると、その後、唇に柔らかく冷たいものが触れた。
躊躇うように一回。
それから、確かめるように何回も。
私……夢の中にいるのかしら?
心地よくて、このままずっとこうしていられたらと思うほどの幸福感が体中を駆け巡る。
やがて唇が離れ目を開けると、目映い笑顔のディランが少し恥ずかしそうに見下ろしていた。
あ……私、今、人生初めての口付けを……?
…………………。
……ん?……何か忘れて……げ!皆がいるのをすっかり忘れてたわ!
夢見心地から一転、現実に引き戻された私は、周りからの生ぬるーい視線を体中に浴びた。
記念すべき人生初の口付けは、刺激的でロマンチックだったけど、まさか大勢の前で披露することになるなんて思わなかった。
恥ずかしさのあまり見事な彫像と化した私は、ひたすら目だけを泳がせてご機嫌な男を見上げている。
ディランはニコニコしながら、私の髪を撫でたり、ほっぺたをつついてみたりと無邪気なもの。
……その前で激しく背中に汗をかく私の気持ちなんて、どうせわからないんでしょうね!!












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