約束の果てに

秋月

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*琉の過去

琉の過去#6

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琉は黙ったまま沈黙の時間が流れた
悩んでるようにも見える琉の表情
琉の過去を引っ掻き回そうとしている訳じゃない
ただ、琉の事が心配なだけ…伝わらなかったかな…

蓮「琉…?」

琉「…お前等には敵わないな」

そう、小さく呟いた琉
こんな気弱そうな琉は初めて見る
今の琉を見てると分かる
今までずっと1人で抱えて悩んで来たんだって…

琉「分かった、ちゃんとお前等には話すよ」

蓮「本当?あ…でも話しにくいことじゃないの?
嫌じゃない?」

琉「いや…問題ない
富山に行ってる間もずっと考えてたんだ
いつかは向き合わなきゃいけない問題だって…
それにお前等も背負ってくれるんだろ?」

桜「勿論背負ってやろうじゃない」

蓮「私も受け止めるし背負うよ
だから琉に会いに来たんだから」

琉は微かに笑うとゆっくり話し始めてくれた
微かでも久し振りに見る琉の笑顔に何処かホッとした

琉「…だいたいの話はお前等が華さんから聞いた通りだ
俺は…捨てられた時の記憶は曖昧だ
その時の俺はだいぶ、衰弱していたらしいし、意識も混濁こんだくしていた
それでも自分が捨てられるんだということは何となく漠然と気付いていた
嫌だと抵抗する体力も無かったしな…
けど…最初はあの女も俺の事大事にしてたんだ
俺は捨てられる以前の記憶もそれなりに覚えてる
大事にしていてくれた事も愛情を持っていたことも、子どもながらに感じていた
それを覚えているせいだろうな
こんなにどうしようもない苛立ちが込み上げるのは…」

愛されていた記憶と捨てられた記憶のどちらも覚えているっていうのはとても残酷に思えた
憎みたくても愛されていたという事実が邪魔をするように…

琉「いっそのこと捨てられる以前の記憶なんかすっぽり忘れてしまってた方が良かった
こんなに複雑に考えなくても、ただ怨むだけで済んだんだからな」

でも琉がこんな風に語るってことは琉のお母さんは紛れもなく琉の事を大切にしていたんだ
私はたった一瞬会っただけだから、そんな風には見えなかったけど…琉が嘘を言うはずがない

桜「ならどうして捨てる結果になったわけ?
愛する我が子をそんな風に捨てる!?」

本当に愛していたなら衰弱していた琉をスーツケースになんて入れて捨てたりする筈がない

琉「桜は写真を見たからだいたい事実だって分かるだろ」

桜「まぁ…あの写真を見てそう思わない人なんて居ないでしょ
自分の子を愛してないならあんな写真を撮ったり、わざわざ裏面に覚えておくように"琉1歳"」なんて書くわけない」

蓮「ならあの人はどうしてそんな事を…」

琉「…きっかけがあったんだ」

蓮「きっかけ?」

琉「最初は大事にしてくれてた
けど俺を育てるのもだんだん疲れてきて、泣くことも多くなって、俺から逃げるように酒に溺れたり留守にする事もあった
それでも俺は母親であり唯一の家族である母さんが好きだったんだ
俺は母さん以外知らなかったからな
母さんが帰ってくるのをずっと待ってた
だけど日が経つに連れて母さんは荒れていき、帰って来てはあんたさえ居なければってずっと言っていたのを覚えてる
勝手に産んだくせにな
それからある出来事がきっかけで俺は捨てられた」

きっかけ…きっと2人とって1番重要な事…

琉「俺が3歳になった頃、その頃から霊が見えるようになったんだ
けどまだ幼かった俺はそれが霊だって事知らなくて…
何度も続く俺の気味悪い言動に気味悪がった母さんはとうとう俺を捨てたよ
衰弱して朦朧としてる俺に母さんの顔は良く見えなかったけど、"バイバイ琉"って言葉だけは鮮明に聞こえて今も頭に残ってる
それが最後の母さんが俺に言った言葉
次に気付いたのは病院のベッドの上だったな」

琉に残ってしまったどうしようもなく残酷な記憶
忘れたくても消えないまるで呪いのよう…
酷い…酷すぎるよそんなの…
琉は何も悪いことしてないのに、一方的に酷いこと言って、突き放して、挙げ句に捨てて…
どうしてそんな事が出来るの?
琉がずっとずっと苦しんできたかと思うと本当に辛かった

桜「蓮…」

琉を思うと涙が止まらなかった

琉「…なんでお前が泣くんだよ」

蓮「うぐ…だって…っ」

琉はまた袖で私の涙を優しく拭った

琉「やっと治まったと思ったら…
お前大概泣き虫だよな…」

琉は呆れるように小さく笑みを溢した

琉「…前に、俺が桜を除霊しようとしたの覚えてるか?」

蓮「うん…?」

いきなりどうしたんだろう…

琉「俺は霊なんてこの世界に居ちゃ駄目だって思ってた
居ても困るだけだから、俺みたいに
それに霊が居なかったらあんな事にならなかったかもしれないって、何処かで思ってしまう
見えなかったとしてもきっと変わらなかっただろうけど…
だから最初は異端的なお前等を見て、除霊しようとしたが…けど蓮と桜に会って変わった」

桜「異端ってどうゆう意味よ」

琉「取り憑かれた奴なんて山程居るが、お前等みたいに互いに言葉を交わし、共に生活してるような奴居ない
少し観察してたが、あまりにもお前等が生者と死者の関係なのに楽しそうに過ごしているのを見て躊躇った事もあるが…
結局自分の過ちが重なったこともあるし、霊に対して憎んでいた所もあったから、除霊することに決めたんだ」

だからあの時、最初は助けてくれたけど急に桜を除霊するって意見を変えたんだ…

確かに霊に対していい感情は無かったんだろうけど、琉は本当に優しい人
だって自分が苦しんだから誰が苦しむ前に止めようとしてくれたってことでしょ?
それにちゃんと私達の事を知って、向き合ってくれて、ずっと守ってきてくれた
誰にだって出来る事じゃない
琉が優しい証拠

けど…このままでいいのかな…?
琉はまだ苦しんでるし、きっとこれからもそのわだかまりは消えない
力になりたいと言ったけど、私はまだなんの役にも立てていない
琉が前に進むには私は1つしか方法が思い浮かばない

蓮「琉、お母さんに会いに行こ
このままじゃまだずっと琉は苦しんだままでしょ?」

琉「は…?あの女に会いに行く?」

琉はそれを聞いて嫌悪感が混じったように顔を少し歪めた

琉「…蓮、余計な気を回さなくていい
別に俺は気にしてないし、母さんも別の道を歩んでるんだ
今更お互い関わる必要ない
お前等が聞いてくれただけでも気は楽になった」

蓮「気にしてないなんて嘘
じゃぁ、なんで華さんの事お母さんって呼んであげないの?
琉の中であの人のことが清算されてないからじゃないの?」

桜「そうよ、あんたは気にしてないって言うけど、琉は気にしないようにしてるだけでしょ
それじゃ全然意味が違うんだからね」

琉「華さん…そんな事まで話したのか…」

蓮「琉、誰だって怖いことも逃げたいことだってあるよ
でも1人じゃ立ち向かえない事も皆が一緒なら怖くても立ち向かえるでしょ?
私がそうだったもん
私達がついてるから!」

桜「そうそう、険悪になったって、怒って感情ぶつけたっていいんだから
言いたいこと言ってやれば良いじゃない
私達が一緒なんだから大船に乗ったつもりでいなさい♪
大体琉は物事をハッキリ言うタイプでしょ
ウジウジしてるの似合わないっての」

蓮「私達は強制するつもりはないよ
あくまで琉が決めることだから…
でも、私達がついてる事は覚えていてね」

琉「…はぁ…お前等に励まされる日が来るとは思わなかった」

桜「素直に有り難いって言えばいいのに」

琉「俺もずっと思ってた
いつかはケリをつけなきゃいけないって…
それにお前等がついてるなら怖いもんないな」

琉が初めて私の言葉に賛成してくれた
それに琉がこんな風に言ってくれるなんて嬉しい

蓮「じゃぁ…!」

琉「会ってみるよ
けど、どんな結果になっても文句は言うなよ」

桜「琉が決めた事なら私達が文句言えることじゃないしね」

蓮「琉が納得するなら
それにどんな琉の姿を見ることになっても、私達は側に居るよ」

琉「…ありがとな、桜、蓮」

琉にとっては一大決心だったんだろうな…
けど、琉が前向きに考えてくれて良かった
琉に会いに来てちゃんと言いたいこと伝えられて良かった…
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