君が嫌いで…好きでした。

秋月

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君が嫌いで…好きでした。

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駄目…今までこらえてたものが溢れ出るみたいに止まらない
七瀬奏叶に泣いてるなんて気付かれたくない
早く泣き止まなきゃ…

奏叶「千菜…もしかして泣いてる?」

今、声を出したら泣いてるって気付かれちゃう
私は何も言わずに首を横に振った
だけどきっと七瀬奏叶は気付いてる
首を横に振った所で無駄なのは分かってるけど…

奏叶「……そっか、無理矢理抱き締めたりしてごめん
送ってくよ。それくらいはいいでしょ?」

七瀬奏叶はゆっくりと私から離れてはにかんだ笑顔を見せた

奏叶「それから…さっきの事だけどすぐじゃなくていいから
千菜にも色々あるだろうし…ゆっくり考えて
俺は千菜の事ずっと待ってるから」

私の隣を…七瀬奏叶が歩幅を合わせて歩いてる
誰かが私の隣をこうして歩幅を合わせてくれるなんていつぶりなんだろう
家までのいつもと変わらない帰り道を私達は特に何も喋らずに歩き、そのまま私の家に着いた

奏叶「ここが…千菜の家?」

私はただ頷いて返した
初めて誰かに家を教えた
ここでお別れ…

"奏叶「俺と付き合って…」"

なんだか…七瀬奏叶の顔が見れない
コートを貸してくれてありがとう
送ってくれてありがとう
コート投げつけてごめんね
言いたい事、伝えたい事は沢山あるはずなのに言葉に出てこない
どうして七瀬奏叶は真っ直ぐに想いを伝えられるんだろう…

奏叶「…じゃ…また明日」

七瀬奏叶はそれだけ言って帰っていった
私は結局何も伝える事も出来ずに家に入った
いつもと同じ家、何も変わらない
違うのは…きっと私
胸が…モヤモヤするようなこの気持ち…
私は久しぶりにベッドに横になった
…自分の中で確実に七瀬奏叶の存在が大きくなっていくのが分かる
私…告白されたんだ
普通の女の子なら絶対嬉しい事なのに、それでもまだ…七瀬奏叶を拒む自分がいる
このまま…七瀬奏叶と付き合うのかな…
ふと目を閉じてみた
そういえばあの時も…真琴まことも似たような事言ってた
私は思い出さないようにしていた過去の記憶をたどった
忘れようとしても消えない過去の記憶
あれはいつだっただろう…

金木犀の素敵な香りと辺りに漂う私の嫌いなお線香の匂い
ただお墓の前で静かに手を合わせて、こぼれ落ちそうな涙をぐっと我慢して、空に消えていく線香の煙をただ眺めていた

「やっぱりここにいた」

千菜「真琴なんで…」

真琴「家に居なかったからもしかしたらって」

当時私が付き合っていた真琴
家族が亡くなり1人ぼっちだった私を真琴はずっと支えていてくれた

真琴「俺も線香あげるよ」

私の隣で手を合わせて、静かに目を閉じてお参りする真琴の横顔がすごく綺麗で好きだった

真琴「…それで?」

千菜「え?」

真琴「命日でもない日に千菜がここに来るって事は何かあったんだろ?」

千菜「…気づいてたんだ」

真琴「当たり前。どんだけ一緒に居ると思ってんだよ
千菜、俺にはなんでも話す約束だろ?
なんの為に一緒に居るんだよ
怖がるなよ。俺が一緒に居るんだから」

この頃からだった
私の噂が流れ始めたのは…
そのせいで学校では徐々に友達も怖がって離れていった
両親が死んで、祖父母も死んで、たった1人の兄の楓も亡くなり友達も離れていき…
今…側に居てくれるのは真琴だけだった

真琴「やっぱり噂の事気にしてんのか
誰だか知らねぇけどありもしないこと言いやがって…」

やっぱり真琴も噂聞いてたんだ…
私はそっと真琴の手を握った

真琴「千菜…?」

真琴の手は温かくて大好きだった

真琴「千菜どうした…?」

千菜「真琴…私、怖いの
噂が本当なんじゃないかって…」

真琴「千菜違う。お前のせいじゃないしあんな噂気にするな」

千菜「でも怖いの…
いつか真琴も…そうなっちゃうんじゃないかって…怖くて仕方ないの」

いつか真琴も私の前から消えちゃうんじゃないかって不安で不安で仕方なかった
泣いている私を真琴は力強く抱き締めてくれた

真琴「…なら俺が皆に証明する
噂は嘘だったんだって証明してやる」

千菜「真琴……?」

真琴「俺は千菜を1人にはしないよ」

千菜「うん……ありがとう…」

その言葉と真琴の存在に私は本当に救われていたんだ
どんな噂や酷い事を言われても真琴が怒ってくれて、私の隣に居て寂しさを埋めてくれて
だけど――…

キキーッ…ドン!!……

千菜「真琴っ!!」
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