君が嫌いで…好きでした。

秋月

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君が嫌いで…好きでした。

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ザ――――――――…


灰色の空から冷たい雨が降りしきる
雨の独特な湿った匂いがする
冷たい雨が体に次々当たり、濡れた髪からは雨の滴がポタポタと滴り落ちた
雨の音だけが鮮明に辺りを包んだ

なんで…どうしてこんな事に…
だって昨日まで笑っていたのに
どうして…どうしてあの人まで…


―――――…時は少し遡る


奏叶「冬が終わってもうすぐ春だね」


湊「春って言ったら花見だよな!
花より団子ってな」


私達が3人で居るようになったのが当たり前になってきた頃だった
その頃は噂もまだ流れていて奏叶と湊意外は変わらず私には近づこうとしなかったが、2人のお陰で私も徐々に恐怖心が無くなって来た頃だった

―――授業中


先生「ここにはこの公式を使う」


いつものように授業を受けていた時だった
突然救急車の音が聞こえてきた
その音は近づいているのかどんどん大きくなっていった
ノートを取る手が止まる
何度も聞いた私の大嫌いな音…
体が…震えてしまう…


奏叶「千菜…大丈夫?」


私の隣の席の奏叶が心配そうに声をかけてくれた


千菜「…うん…平気…」


もう怖がる必要なんてない
今は奏叶が居てくれるんだから…

ザワッ…
だけど私の覚悟とは裏腹にクラスメイト達がざわめき出した


「おい見ろよ!」


「救急車が学校に入ってきたよ!?」


窓から奏叶と一緒に除いてみると、確かに救急車が生徒玄関に止まっていた
窓の外で慌ただしく動く人達が何かを言ってるのが何となく聞こえた


「えぇなんで!?」


「何かあったのかな!?」


先生「静かにしろお前ら!」


誰かが救急車に運ばれていく
誰かまでは分からなかったけど…
何があったのかな…

少しだけ不安な気持ちがあったけど
この時はあまり深く考えてなかった
私の隣で辛そうな顔をしている奏叶に私は気づかずに…

その次の日だった


奏叶「………」


千菜「…え?……亡くなっ…た?」



奏叶と一緒に伊藤先生が亡くなったという知らせを聞いたのは

…次に伊藤先生を見たのは、私の大嫌いなお葬式の…遺影の中だった

黒い服をまとった沢山の人達
沢山の白い花に囲まれた先生の遺影
鼻につくお線香の独特な香り
すすり泣く人の声
ただただお経を読み上げるお坊さん

今まで何度も経験した私の大嫌いなお葬式…
耐えられなくなった私は式の途中で静かに外に出た

外はその残酷な現実を突きつけるように冷たい雨が降りしきっていた
冷たい雨が体中に当たる
濡れた髪からは雨粒がポタポタと落ちる

雨に濡れている冷たい感覚なんてなかった
何よりも心が痛かった
ずっと自分の中でどうして…なんで…がずっと繰り返される
どうして伊藤先生が…
だってあの時も笑っていたのに…


――…救急車が来る日の前日

授業が終わって帰ろうと玄関で靴を履き替えてる時だった


伊藤「相変わらず仲が良さそうだな」


千菜「伊藤先生…」


奏叶「茶化しに来たのかよ」


伊藤「生意気なのも変わらないな
たまたま通りすぎただけだよ
もう帰るのか?」


千菜「うん…先生さよなら」


奏叶「じゃーな伊藤」


私達が帰ろうとした時、伊藤先生が私の名前を呼んだ


伊藤「東っ…」


なんだろうと思って足を止めて振り返った


伊藤「……いや…なんでもない
気を付けて帰れよ」


どこか不思議だった
そう言った先生の顔は
どこか悲しそうだったから――…


どうして?先生…
もう大丈夫だって…元気になったって言ってたじゃん…
私の未来を見届けるって言ってたじゃん…
なのに…なんで?先生は嘘つきだよ…

聞いた話じゃ…勤務中に突然の発作で倒れたって…
あの日、あの時…学校に来た救急車に乗せられていたのは伊藤先生だったんだ…
でもなんでこんな急に…

もしかして…先生は分かっていたんじゃ…
あの時…私を呼び止めたのは…もしかして言おうとしてたんじゃ…


…ポタ…………


冷たい雨粒が頬をつたっていく…
そして…涙もこぼれ落ちる


千菜「ぅ…っ…うぅ……」


先生…っ…どうして何も言ってくれなかったの…?
先生はいつも私の事を助けてくれてたのに…私は先生の事を助けることが出来なかったの…?
結局…私は…


奏叶「……風邪ひくよ、千菜」


体中に当たっていた雨が遮られる
私の後ろには傘をさしている奏叶が立っていた

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