君が嫌いで…好きでした。

秋月

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君が嫌いで…好きでした。

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教室に一端鞄を置いた私達は皆が集まる体育館に向かい始業式を受けた
始業式から戻ると教室で今度は先生の話を聞く
今日はそれだけで本格的な授業は明日から
その日は何も特に何もなく終わった
次の日の学校で騒ぎは起こってしまった
休み時間、私は次の授業の準備をしながら奏叶と話をしていた時だった

「なぁ、あれって噂の東千菜?」

「関わった奴は必ず死ぬって噂の?」

「なんであの子と同じクラスなの」

「私まだ死にたくないんだけど」

「てかよく学校に来れるよね」

「私は来てほしくないんだけど」

「あんな怖い女とは付き合いたくねぇな」

「だな。むしろあいつが死んでくれればいいのにな」

ひそひそと話すクラスメイト達の声に視線に声も体も動かなくなった

ガアン!!

突然の大きな音に誰もが驚いてその音の方に皆の視線が集まった
そこには不機嫌そうに机を蹴飛ばした湊の姿があった

女子「み、湊…?」

湊「くだらねぇことでごちゃごちゃうるせぇんだよ。お前ら」

「何かっこつけてんだよ野々村
お前だって散々言ってたらしいじゃねぇかよ」

「てか、今はそいつと一緒に居るんだっけ?なに?お前もしかして死にてぇの?
そいやお前付し家庭だっけ?」

同じクラスの男子2人が湊を馬鹿にするように冷たい言葉を放ち笑った
私を庇ったせいで湊が馬鹿にされているのを見て悔しかった
でもその時だった
その男子2人に向かって筆箱が勢いよく飛んでいった

ガシャン!!

「うお!?なんだよ!」

奏叶「悪い、手が滑った」

筆箱を2人に向かって投げたのは私の目の前に立っていた奏叶だった

「七瀬…!」

奏叶「木村、吉川それ以上言って千菜と湊を傷つけるなら許さないよ」

奏叶は2人に笑いかけるように言っているけど目は笑っていないように見えた

木村「はっ!?てか、知ってるぞ!お前その女と付き合ってんだろ!」

吉川「そんな気味悪い女のどこが…!」

奏叶「木村、吉川…話があるならゆっくり聞いてやるけど…どうする?」

まるで蛇に睨まれた蛙みたいに奏叶の威圧感に押された2人はそれ以上何も言おうとはしなかった

ガラッ

先生「おーい授業始めるぞ。席につけ…ってなんだこの空気」

先生が入ってきて皆は席についた
私の噂は未だに消えない
さっきみたいに影で皆がこそこそと話しているのを目の当たりにするとやっぱり…苦しくなる
でも湊と奏叶が庇ってくれた…
もう私は1人じゃないんだ
だけど私と居ることで2人が悪く言われてしまう
そんなの嫌…私も2人を庇えるくらい強くなりたい
その日の昼休み
お花見も兼ねて外の中庭で桜を見ながらお弁当を食べている時に私は2人にお礼を言った

湊「別に、ただ腹が立ったからやっただけだ」

奏叶「どういたしまして
自分の彼女と友達が貶されればいい気しないからね」

湊「それにしても珍しく皆の前で怒ったよな
木村と吉川大分ヒビってたみたいじゃん
かなを怒らすなんて命知らずな奴等」

千菜「奏叶怒るとそんなに怖いの…?」

湊「俺ですらこいつだけは怒らしたくねぇよ…駿府城公園の時の比じゃねぇよ
まああの時は怒ったっていうより拗ねた感じだけどな
ってことで千菜、かなは怒らせない方がいいぞ」

湊が怖いって言うくらいだからそんなに怖いんだ…

奏叶「千菜に変な事言うなよ
大体そんな怖くないし」

湊「いや、まじ怖いから」

じっと奏叶を見ると一息ついて奏叶は言った

奏叶「千菜、あんまり気にしなくていいから」

千菜「…でも庇ってくれた奏叶かっこ良かったよ」

湊「へぇ、良かったじゃんかな
何顔隠してんの?まさか照れてんの?」

湊は面白そうに奏叶に絡んでいった

奏叶「…うるさい」

あぁ、何だか穏やかだな
ずっとこんな日が続いてほしいな…
風に揺れる桜を眺めながら私はそう思った
だけどやっぱり良いことばかり起こるわけではなく…

―…ザクッ

千菜「あ…」

午後の授業の美術
彫刻刀を使っていた時に私はうっかり自分の指を切ってしまった
切れた所からじわじわと血が出てくる

千菜「痛…」

奏叶「千菜どうしたの…って指切ったの!?」

隣に座っていた奏叶が私の傷を見てすぐにティッシュで止血して立ち上がると…

奏叶「しんちゃん!保健室行ってくる!」

先生「先生って呼べって何回も言ってるだろ七瀬!」

女子「先生もう居ませんよ」

湊「…お節介な奴」

女子「湊、何か言った?」

湊「別に」

怪我している本人より慌てて保健室に向かう奏叶
心配してくれてるんだろうけど少し大袈裟な気が…血は出たけどそんな大きな怪我じゃなかったけど…
そうこう考えてるうちに保健室に着いた

ガラッ…

先生「あら、どうしたの?」

奏叶「彫刻刀で指切ったんです!」

先生「見せてみて」

先生は私の傷口をじっと見るとすぐに微笑んだ

先生「大丈夫。血は結構出たみたいだけど傷口は小さいしすぐ治るわ
念の為、消毒と手当てしましょう」

先生は手際よく手当てをしてくれると奏叶もようやく安心した様子

奏叶「良かった…」

千菜「…奏叶心配しすぎだよ」

奏叶「そりゃ心配するよ。千菜の事だから」

またそうやって恥ずかしい事を笑って言う…

先生「そういえば貴女前もここに来た子よね
クラスと名前は?私まだ来たばかりで皆の名前が分からないの」

優しそうな笑顔で話しかけてくれるその先生に私も何となく気が緩んだ

千菜「…3年2組東千菜です」

自己紹介するとその先生は驚いたように私を見た

先生「もしかして貴女が千菜ちゃん!?
やだ、話に聞いてたけど凄く可愛いじゃない!」

千菜「あ、あの…?」

私の事を知ってる…?
それに話に聞いてたって一体誰から…

先生「あぁごめんなさい。つい盛り上がちゃった…私、鈴村紗香すずむらさやか!
高梨凜たかなしりんの彼女なの」

千菜「え?」

奏叶「高梨凜ってあの時の!?彼女居たんだ…」

凜ちゃんの彼女…?

鈴木「千菜ちゃんの事は凜と楓から色々聞いてて1回会ってみたかったの
…楓の事は私も凄く残念だった…それに千菜ちゃん変な噂があるんでしょ?
でも私はそんなの気にしない!
噂なんて根拠のない下らないものだしそれに私は会ったばかりだけど千菜ちゃんの事好きだな」

明るくて友好的な鈴村先生
その真っ直ぐな笑顔と言葉に私は何処か安心できた

鈴村「一緒にいる君は千菜ちゃんの彼氏?」

奏叶「はい。同じクラスの七瀬奏叶です」

鈴村「奏叶くんね。さっきはあんなに慌てちゃってよっぽど千菜ちゃんの事が大切なのね
青春だねぇ」

鈴村先生がそう言うと奏叶は少し顔を赤らめて言葉を詰まらせていた

鈴村「千菜ちゃん。私は千菜ちゃんの味方だからね!いつでも保健室においで!
なんならサボってもいいから♪」

奏叶「それ先生が言うことじゃないですね」

鈴村「いいのよ。サボりもまたその青春だから♪」

奏叶「何ですかそれ。鈴村先生って面白いですね」

ケラケラ笑う奏叶と鈴村先生
何だか穏やかに思えた
鈴村先生がさっき言ってくれた言葉…凄く嬉しい
伊藤先生みたいな先生が居てくれた事が私は凄く安心できた嬉しかった

千菜「鈴村先生、手当てありがとうございました
これから…よろしくお願いします」

鈴村「こちらこそ!でも怪我には気を付けるのよ
奏叶くん、千菜ちゃんの事しっかり守ってあげるのよ」

奏叶「もちろんです」

私に笑いかけてくれる人がこんなに居てくれたんだ…でもきっと奏叶と出会ってなかったら全く違う未来になっていたんだろうな
1人ぼっちの暗くて悲しい未来が…
今の私が居るのは奏叶のお陰なんだな…

千菜「奏叶ありがとう…」

奏叶「ん?どういたしまして」

きっと奏叶はその本当のありがとうの意味を知らないんだろうけどそれでいい

千菜「鈴村先生の事、湊にも教えてあげたいな」

奏叶「うん。ビックリしそうだな」

授業中の静かな廊下を奏叶と話ながら歩いた
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