君が嫌いで…好きでした。

秋月

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君が嫌いで…好きでした。

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そして昼休み
日課になった中庭でのお花見ご飯をしながら湊に鈴村先生の事を話していた

湊「へぇ、あん時の。彼女居たなら脅す必要無かったな」

奏叶「は!?脅すって!?」

湊「別に大した事してねぇよ」

奏叶「お前なら年上とか関係なくズバズバ言いそうだな…」

湊「へぇ、誉め言葉として受け取っておく」

千菜「でも凜ちゃん少し驚いたって言ってた」

湊「そりゃどうも」

千菜「湊も今度、鈴村先生のところに行こう
湊の事紹介したいし…」

湊「…千菜さ、大分心開いてきたよな」

千菜「え?」

湊「な、かなもそう思うだろ」

奏叶「うん。最初に比べると大分ね
あの頃はことごとく嫌われてたから…」

湊「落ち込むなよ今更」

少しずつ変化していく日常と一緒に私の心も少しずつ変わってきた…のかな
自分じゃよく分からないけど、でもいい方に変わってきてるならそれは皆のお陰だとつくづく思う
鈴村先生と出会ったのも運命なのかもしれない

湊「それよりさあの紙出した?」

奏叶「進路調査表の事?」

湊「それそれ」

奏叶「んーとりあえず進学かな」

湊「ふーん…千菜は?」

千菜「え、まだ何も書いてない…」

湊「ま、将来の事とか言われても分かんねぇよな」

奏叶「焦らないでゆっくり決めればいいんだよ
俺も進学に決めたって訳でもないし」

千菜「うん…」

実は何をしていいのか、自分が何をしたいのか私は全然分からなかった
もう高校3年生…自分の将来の事をしっかり考えていかなきゃいけないんだろうけど…
まさか私が奏叶と湊…誰かと一緒に過ごす未来があるなんて思わなかったし…過去に捕らわれて未来なんて見ようとも思わなかった…
これから先の未来に一体何が待っているんだろう…
私の未来にあるのは幸福か…それとも…

奏叶「千菜ってば」

千菜「え…?」

奏叶「急に考え込んでどうしたの?」

千菜「ううん…なんでもない…」

奏叶「そっか。いつでも相談に乗るからさ」

千菜「うん…ありがとう」

やっぱり…未来を想像するのは少し怖かった
今こうやって笑いかけてくれる人達がいつかそうなってしまう時が無いとも限らないから…

奏叶「そうゆう湊はどうするんだよ」

湊「俺もまだ決まってねぇけど…父子家庭だからな。たぶん働くだろうな」

千菜「湊…」

湊「別に今したいことも無いしな
それに親父を支えてやらねぇとさ」

湊はこう見えてちゃんと色々考えているんだな…
やっぱり少しずつ考えていかなきゃいけないのかな…

3年生になってあっという間に1ヶ月が過ぎた
満開に咲いていた淡いピンク色の桜も風に流れて散ってしまった
私の噂も相変わらずだったけど、私は奏叶と湊と一緒に変わらない毎日を過ごしていた
鈴村先生とは2日に1回くらいのペースで保健室に行っては、私の知らなかった楓の話を聞いたりして仲良くなった
鈴村先生と居ると楓を近くに感じられて少し嬉しかった
そして今日も…
その日の放課後、私は湊と一緒に保健室に向かった
保健室に入るとディスクの上で仕事をしている鈴村先生がいて、私達に気付くと声をかけてくれた

鈴村「千菜ちゃん!湊くん!いらっしゃい」

鈴村先生は相変わらず明るくて笑顔が素敵だった

鈴村「奏叶くんは一緒じゃないの?」

湊「学級委員だってさ」

千菜「奏叶が来るまでここに居てもいいですか?」

3年生になって、先生直々の指名で奏叶は学級委員に抜擢された
まぁ…ぐっすり寝ていた奏叶が悪いんだろうけど…

鈴村「もちろん!ほら、座って座って!
ちょうど話したいこともあったのよ」

何だかいつもよりご機嫌な先生を見ていると何か良いことがあったみたい

湊「話?勿体ぶってないで教えてくださいよ」

鈴村「ふふふ…じゃーん♪」

鈴村先生が見せてくれたのは左手の薬指に輝くシルバーのリング

湊「え、もしかしてそれって…」

千菜「結婚指輪…?」

鈴村「せいかーい♪」

って事は…もしかして

千菜「先生結婚するの?」

鈴村「そうなの♪昨日凜からプロポーズされてね!
式は9月に挙げようと思ってるの♪」

湊「式って…昨日プロポーズされたばかりなのに早くね?」

鈴村「いいのよ。ここまでくるのに6年も待たされたんだから!」

湊「6年!?付き合い長いんすね」

って事は高校の時から…?
凜ちゃんそんな頃から鈴村先生と付き合ってたんだ
鈴村先生…凄く幸せそう

千菜「…嬉かった?」

鈴村「もちろん!だから今凄い幸せよ!
皆にも分けてあげたいくらいね♪」

千菜「…先生、おめでとう」

嬉しそうな先生の姿を見ていると私も本当に嬉しく感じた

鈴村「ありがとう千菜ちゃん。式にも来てね!
それより奏叶くんはまだなの!?
奏叶くんにもこの幸せ伝えたいのに」

ガラッ

奏叶「お待たせ!」

湊「あ、噂をすれば」

奏叶「え、なになに?鈴村先生はなんでそんなにニヤニヤしてんの?」

鈴村「じゃーん!見てみて!」

鈴村先生はさっきより得意気に指輪を見せた

奏叶「指輪?もしかして結婚するんですか?」

鈴村「そうよ!どう?ビックリした?」

先生…私より年上なのにはしゃいでまるで子どもみたい
それだけ嬉しい事なんだろうな…

奏叶「へぇ、おめでとうございます」

驚くかと思ったのに奏叶は意外にもあっさりしていた

鈴村「それだけ!?反応薄いなぁ奏叶くん!」

奏叶「え、薄いも何も他に言うことありました?」

鈴村「…そうね、奏叶くんは千菜ちゃんにしか興味ないものね
この前も千菜ちゃんが頭から離れないって言ってたもんね」

奏叶の反応の薄さに少し拗ねた鈴村先生は奏叶に対して意地悪をし始めた
もちろんそれを言われて焦った奏叶は少し顔を赤くして慌てて口止めした

奏叶「ちょ、先生!?勝手なこと言わないでくださいよ!」

いや、口止めしても遅いんだけど…

鈴村「奏叶くん前言ってたもんね~
千菜ちゃんの事が好きすぎて頭から離れない
夜も眠れないって」

意地悪そうに言う鈴村先生

奏叶「そんな事まで言ってませんって!
千菜の前で適当な事言うのやめてください!」

湊「へぇそんな事相談してたんだ」

奏叶「お前まで乗るなよ!千菜信じないでね!」

鈴村「あ、あと生徒手帳に千菜ちゃんの写ってるしゃ…」

奏叶は何か慌てて鈴村先生が言い終わる前に聞こえないように私の耳をふさいだ
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