彼女の些細なおとしもの

よもぎ大福

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「私」のおとしもの

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 私が出会った落とし主達。探していたものはそれぞれ違ったけれど、思い返せば、彼女達は皆気づいていた。本当に落としてしまったものが、何なのか。
 まどかちゃんは、好きなものを否定されて、好きと言うことができなくなった。
 いろはちゃんは、好きなものの価値を疑って、他の人の価値観を受け入れようとした。
 ほのかさんは、好きになる方法も、好きでいる方法もわからなくなってしまった。
 おとしてはいけないものだから、みんな必死に探していたんだ。
 そして私は、それらを考えることさえしなくなっていた。
「何だかいつも忙しなくて。」
 言い訳じみた呟きが口をつく。
「自分が何を欲しいのかも思いつかないんです。」
 いつからだろう。こんな風に、彩りのない生活を当たり前のものと受け入れてしまったのは。ただ過ぎていく日々に流されて、いつしか考えることをしなくなっていく。
「あなたの出会った女の子達が、あなたに気づかせてくれたのね。」
 かえでさんが優しく微笑む。
 そう、彼女達が気づかせてくれたのだ。
 まどかちゃんの後悔も、いろはちゃんの選択も、ほのかさんの悩みも。かつては、私自身にも訪れていたものだ。
 彼女達に寄り添って落とし物を探していたつもりだった。でも本当は、私自身の落とし物を探していたのだ。
 探しても見つからないから、探すのをやめてしまった。そしていつしか、探していたことすら忘れていた。
「私は、誰かの力になりたいって思うんです。」
 落とし物を一緒に探しているとき。落とし主の話を聞いているとき。彼女の力になりたいと強く思っていた。
「でも自分のこともろくに出来ていない人間が、他人の心配をするなんて。そう思ったら、何もできなくなっていって。」
 自分に余裕ができたら。そう考えている内に、時間が過ぎていく。私はいつだって、自分のことだけで精一杯だった。
「かえでさん、私はこれからどうすればいいんでしょうか。」
 静かに話を聞いていた老婦人は、変わらぬ優しい声で答える。
「そうね。きっとそれは、私の扇子と同じことだと思うの。」
 彼女はさっき言っていた。やるだけやってみる。それでだめならば、新しいものを求める。彼女にとってそれは、些細なおとしもの。もしかしたら、誰にとっても。
「あなたのおとしものよ。好きにしていいんじゃない?ただ、ひとつだけ気をつけてね。」
 ヒソヒソ話のように口に手を添えて、彼女は囁く。
「女の子はね、あっという間におばあちゃんになるのよ。」
 私達は声を上げて笑う。
 その時、遠くで私の名前を呼ぶ声がした。
 声の方を向くと、カフェの前で手を振る小さな人影が見える。母だ。いつの間にか待ち合わせの時間を過ぎていた。
「私、行きますね。かえでさんの落とし物が見つかりますように。」
「ありがとう。あなたのおとしものも、見つかりますように。」
 私は頭を下げる。そして彼女に背中を見送られながら、遠くで手を振る母に駆け寄っていく。
 早く話がしたい。私に起きた不思議な経験と、これからのことを、誰かに聞いて欲しい。
 この些細なおとしものの話をしたら、母は何と言うだろうか。
 そんなことを考えながら、私は強く地面を蹴った。


 おわり
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