彼女の些細なおとしもの

よもぎ大福

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「浅井かえで」のおとしもの

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「ありがとう。事務所まで案内していただけて助かるわ。」
「いえ、私もちょうど用事があるので。」
老婦人と連れ立って、公園の管理事務所へと向かう。
「私が落としたのはね、扇子なの。」
「今日みたいな暑い日にはいいですよね。場所も取りませんし。」
「そうなの。それに上品なおばあさんに見えるでしょう?」
老婦人はお茶目に笑ってみせる。
「ミッフィーが好きでね、扇子もその絵が描いてあるんです。孫娘とお揃いなのよ。」
「可愛らしいですね。」
「見つからない時は仕方ないけれど、探せるところは探そうと思って。それで駄目なら諦めもつくわ。」
老婦人は穏やかに笑う。
管理事務所は公園の外れ、車道を挟んだ向かいにある。
小さな扉を開けてすぐ受付の小窓かあった。係の女性が丁寧に応対する。
かえでさんの扇子は届いていなかった。
「そちらの方、前に他の方々の落とし物がないかいらっしゃいましたね。」
私は気づかなかったが、受付の女性は覚えてくれていたようだった。
「やっぱり、落とし物はどれも届いていないんです。」
「そうですか。ありがとうございます。」
2人で事務所を後にする。
「扇子、どこかで見つかるといいですね。」
「ないものは仕方ないわ。これもチャンスだと思うことにします。新しい扇子と出会うチャンスってね。」
彼女は屈託のない笑顔を浮かべる。
「ところで、あなたも落とし物をさがしていたのね。」
「はい。たまたま落とし主と話して、気になってしまって。」
私は彼女にひと月前の不思議な偶然の話をした。
小学生の髪ゴム。高校生のシャーペン。若い女性のイヤリング。
「それで私、次は同じくらいの年齢の女性が声を掛けてくるぞ!って気負ってしまって。でも誰にも会えませんでした。それからしばらく、この公園には来ていませんでした。それが今日、かえでさんにお会いして、びっくりしました。ただの偶然ですけど。」
かえでさんは私の話を頷きながら聞いてくれた。笑ったりはしなかった。
「世の中には、不思議なことがたくさんあるわ。私達が思っている以上にね。たとえば、あなたの想像が本当だとしたら。」
「え?」
彼女はもったいぶった言い方で、ささやく。
「この公園には毎週落とし物をした女の子が現れるの。あなたが公園に来なかった日もね。どんどん年齢はあがっていって、とうとう今週はこんなおばあちゃん。だとしたら、ひと月前の公園にも来ていたのよ。」
「たまたま、その日はその人に会えなかったんでしょうか。」
「そうかもしれませんね。あるいは、その女性は気づいていないのかもしれないわ。自分がおとしものをしていることに。」
かえでさんの優しい瞳が、真っ直ぐに私を見つめる。
「あの日の落とし主は、あなただったのよ。」
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