魔王と王の育児日記。(下書き)

花より団子よりもお茶が好き。(趣味用)

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第七章

一炊の夢12

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「――おい、歩け」

 一晩ぶりに感じる外の光、暗闇になれた目には少々刺激が強すぎた。

「っちょっと待てよ。まだ目が慣れてない」

 前へと歩こうとするが眩しさに目を細めて足元も見えない。ただ土の地面の上を歩いているそれだけは分かった。
 目隠しぐらいされるかと思ったがそんなこともなく、ただ手足だけはやはり拘束されたままだった。
 青年を連れ出したひょろ長は、昨日牛乳を持って行ったのにと青年が寝ていたことを彼の背後でぶつくさと言っている。

(足にジャラジャラしたままで移動するのか……絶対悪目立ちするぞ)

 ようやく目が慣れてきた。見えたのは青空、そしてその下には荷馬車と、昨日見た男達の姿だ。
 昨日はそれどころではなく気付かなかったが、青年を殴った男はハゲだったらしい。
 おそらくあえて剃っているほうのハゲだ。良くいうとスキンヘッド。
 荷馬車に木箱などを詰めているが、時おりその禿げた頭に太陽光が反射しピカリと眩しい。

「うーん。まだ目が慣れない」

 などと一人冗談を言っていると、農耕馬の調子を見ていた緑のバンダナ男がこちらに気付いて歩いて来た。

(お、なんだなんだ。こっちにくるぞ……え?)

 目の前でそいつの鍛えられた腕が振りかぶったと思った瞬間、鈍い痛みと共に青年は意識を手放した。


 ◇◇◇


「――っ嘘だろ」

 これは流石に想定外だった。

 暗闇の中、目を覚まして青年はことの次第に珍しく苦虫を噛み潰したように顔を歪めた。
 外に出て、目が慣れる前に殴られ気を失って、そしてまた密造酒の地下倉庫にいる。
 暗闇で目が慣れなくても分かる。昨日とだ。
 青年のようにずる賢い性格でなければ同じ場所に戻されたと勘違いしていたことだろう。

「まさか……そうくるとは」

 やつらにしてみれば密造酒を運ぶ経路を、例えこれから標本になってしまう者であっても見られたくないのだ。
 だが気絶させた成人男性を地下倉庫から荷馬車まで運ぶには些か面倒だし効率が悪い。
 よって地上までは本人に歩かせ、そのあと気絶させて次の目的地へ運ぶ。
 もちろん地下に降ろすのは多少大変だが登るのに比べれば下るのはそうでもない。
 おまけに違いがわからないほど全く同様の場所へ突っ込まれれば、移動したのかさえ分からない。
 これでは逃げ出す隙もなければ助けを呼ぶ隙もない。

「…………」

 声には出さなかったが、これは結構まずい。よろしくない状況だ。
 バカだバカだと思っていたが、こちらがバカだったのかもしれない。

(……そうか、そうだよな。そりゃ移動中滞在する拠点とかあらかじめあって不思議じゃない)

 考えられることとして、表向きは普通の家畜農家なんじゃないだろうか。
 昨日ひょろ長に牛乳をお願いしても彼は一切断らなかった。
 そして外に連れ出された時のあの踏みしめた地面の感覚と乾いた藁と獣臭い匂い。
 あれは――農牧家特有の匂いだ。

(そうじゃないかと思ってたんだ。農村はそれこそ材料や道具、倉庫、なんでも揃ってるし怪しまれにくい。農民が密造酒を作ってた。なんて事は珍しくもない。人間だって殺しやすいし隠しやすいだろうさ。……ただ魔族も人間と同様の暮らしをしているのかが謎だったんだが……)

 そこでハタと気付く。
 まさか、ここは人間の領土なのではないかと。
 ありえない話ではない。青年は昨日も今日もどこをどう移動して隔離されているのか全く知らないのだ。
 ひょろ長との話では〝ラオパン〟とやらは人間と魔族のハーフ、更に標本については〝人間によく売れる〟と言っていたのだ。
 なら人間が肩入れしていてもおかしくない。

 そこまで考えて青年は床に横になった状態で暗闇の中、出入口があると思われる箇所をただ静かに黙って見つめた。

「……腹立つな」

 もし肩入れしているのなら確実に金のある富裕層だろう。
 青年達、東の国の人間かはまだ分からないが、領地を持つ貴族の奴らから順に洗っていけば、嫌というほど汚い証拠が上がってくるかもしれない。
 青年の心の内で静かに青い炎が灯った。

(なるほど。これはどうしたって帰らねばならないらしい)

「しかし〝ラオパン〟か……」

(となると、我らの国が深く関わっているとは言いがたいが……)


 倉庫の扉が開いた。
 ひょろ長だ。ランプを片手に持って中へ入ってくる。

「大丈夫か?」

 青年は徐に起き上がる。

「優しいねぇ。心配してくれるんだ?」
「そんなんじゃねぇけどよ」

 ひょろ長は中腰になって青年の様子を窺う。
 青年は「腹が減った」と言ったがひょろ長は困ったように眉を下げた。

「すまねぇ。今日は何もねぇんだ」
「え、なんで?」
「アニキがお前が元気だと面倒だって」
「面倒?」
「お前は頭が回るみてぇだから用心しろって」
「あぁそうなの。頭が回るように見えるんだ?」
「さぁ俺はしらねぇよ。ただ昨日、お前のことアニキに話したら怖い顔して……」
「えっ、お前俺との会話を話しちゃったの?」
「アニキにはなんでも教えろって言われてる」
「おー、なるほど……」

 青年はこめかみをおさえようとしたが、腕を縄で縛られていて出来なかった。
 とりあえず内心でこめかみを揉む。

(そうか。確かにコイツ、アニキとやらにそんなこと言われなくても全部話しちゃいそうだもんな)

 なんせ良くも悪くもひょろ長は素直過ぎるのだ。

「頭大丈夫か?」

 青年はわざと痛そうな顔を作った。

「酷いよねぇ。外に出ろって言われたから出たのにさ。出たら出たで気絶させられるだなんて」
「悪かったよ。あれもアニキがお前は意識があると厄介な奴だって」
「俺そんな要注意人物なのね」

 それにしてもアニキとやらはいろんな意味で人をみる目があるらしい。
 それはそれで青年にとっても厄介なことだ。

「……お前ね。いい上司に恵まれたね」
「上司ってなんだ?」
「アニキのことだよ」
「おおそうか。俺のアニキはこの世で一番だぜ」
「うん、良かったね」

 分かっていたが、皮肉が一切効かない。
 せめて水が飲みたいとひょろ長に言ったところで、外から呂律の回らない声が聞こえた。
 そのまま足音が青年達の倉庫まで近付いて、とうとう中に入って来る。

 酒を片手にした赤ら顔のあのハゲだ。

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