魔王と王の育児日記。(下書き)

花より団子よりもお茶が好き。(趣味用)

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第七章

一炊の夢11

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 尚もぐずぐずと泣きながら話すひょろ長。

 だが、これでことの顛末が見えてきた――。
 要はこうだ。まず彼らは密造酒の売買を行っていた。だが、この男のミスで客の酒が他に流れてしまった。
 正規品と混ざって渡ったそれを回収している最中に青年と遭遇。
 見られたことに焦ったひょろ長が暴走、青年を襲った。それにより計画が破綻。
 なんだかんだで密造酒を回収しきれず、上からのおとがめは免れない。
 だが幸いにも人間を捕まえていたので、標本好きの上司に献上することに。
 上司は剥製にした青年を好きなだけ眺めたあとオークションで売買。

(それでおとがめなしのハッピーエンドってか? ……俺の命を犠牲にしての大団円、いやぁとんでもないな)

 青年は乾いた心で、まだ何かぐずぐず言っているひょろ長の話を聞いていた。

「そうでも、しなけりゃあ、あにぎが……」
「うん? アニキ?」

 ずびずびと鼻をすすりながら、語るその内容を要約すると、ひょろ長があの人に標本にされそうになったのでバンダナのアニキが庇ったらしい。
 元々アニキとやらは功績もそこそこ出すので、気に入られてはいた。
 だがアニキを標本にしては仕事が回らない。そのため難を逃れていたのだが……。
 ひょろ長を庇ったことで、標本を諦める代わりに、ひょろ長が何かやらかせば、アニキのほうを標本にすると言い出したらしい。
 だが同時にアニキが何かやらかせばひょろ長を標本にすると言われている。
 もはや袋小路の恐ろしい提案だ。だが二人がそれを呑むしかなかったのは容易に想像がつく。

「おれのぜいでアニギが、あにぎがぁ」

 もはや子供のような姿に、青年は参ったなと溜め息をついた。どうも元々そんな悪いことが出来るやからに思えない。

「そもそもなんでこんな仕事に足を踏み入れちゃったんだ?」
「じらねぇよ、気付いたらやってたんだよ」

 そうだろう。おそらくコイツは、あのバンダナのアニキに着いてきただけなのだ。善悪も考えず、ずっと。

「まぁそんな悲観するなって」

 青年が優しく声をかけると、ひょろ長はようやく顔を上げた。こんなに涙や鼻水でぐちゃぐちゃになった大人の汚い顔は青年も初めて見る。

「でもお前、このままだと死ぬぞ?」
「そうね」
「下手したら……あにきも」
「わかったわかった。大人の男がいつまでも泣いてんなよ見苦しい」
「……俺まだ十六」
「ん?」
「生まれて十六年目」
「……アニキは?」
「アニキはたぶん百年近くはいってる」
「……………」

 絶句した。見た目ではどう考えてもあのバンダナ男の方が若い。こっちは背も高く人間でいえば三十代くらいには老け込んで見えるというのに、

(十六って……俺より一回り年下、マールと二つしか違わないのかよ)

 どうりでこんなわんわん泣くしアニキアニキうるさいし言動が幼稚に見えるわけだと。
 そりゃアニキもコイツを庇いたくなるわけだ。

「そっか、ごめん間違えた」
「いいけどよ。よく言われるし」

 ひょろ長は目元をぬぐって立ち上がる。

「仕方ねぇから牛乳持って来てやる」
「本当か? ありがとう助かる~」

 フンッと鼻を鳴らして出入り口へ向かう。
 部屋を出る間際「もう遅いから、牛乳飲んだらさっさと寝てしまえよ。明日から移動だ」と言って彼は出ていった。

 また暗くなった倉庫。青年は天井を眺めて横になった。

(そうか、今はまだ夜なのか)

 時間が分かって少し安堵する。

(それにしても剥製にして管理すれば死体がおいそれと世間の目に入らないのか。更にそれを売って利益にするなんて……)

 おそらく今までも何かあればそうしていたんだろう。
 確かにその方が、その場で殺してしまうより表向きには問題にならず、ただの家出や失踪と片付けられるのかもしれない。

(好きが高じてってか?)

 なんにしろ恐ろしいやり口だ。
 青年は以前、家畜を飼育する知人に〝豚には捨てるところがない。全部余すところなく使える〟と言われた事を思い出した。

(まるでそう言われているようで気分が悪い)

 ただの皮肉だ。食材への敬意からの話とはまるで違う。
 例え敬意からだとしても剥製にされるのはごめんだ。

 逃げるなら、やはり地上にいる間。

(明日か……)

 青年は寝心地の良い角度を探すと、いつの間にか瞳を閉じていた。

 その後、約束通り牛乳を持って来たひょろ長は、寝ている青年にへそを曲げて、悪態をついたのだった――。

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