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第三章
名は体を表す02
しおりを挟む「っ~!」
予期せず与えられた衝撃に、真っ白な寝台の上で大きな体の男が頬を押さえて縮こまる。
「おーよー!」
「イタタ!」
頬が痛いと思いきや今度は後ろから髪を引っ張られて痛い。
誰が犯人か、そんなものは分かっていたが男は後ろを振り返る。
思った通り、男の長く美しい黒髪を赤ん坊が険しい顔で引っ張っていた。
「ほらその子も起きろって怒ってますよー《魔王さま》」
「……お前達、実は血が繋がっているんじゃないだろうな」
「まさか有り得ない」と言って青年は窓にかかるカーテンを全快にし、日の光が魔王の目を眩ませる。
その光を背に、青年の肩の上まであるくすんだ黄金色の髪が、キラキラと黄金色に輝く。
「朝ですよ」と、青年が微笑んだ。偉そうに腰に両手を置いて。
その瞳は、青年の背に広がる澄み渡る青空と同じ色。
魔王は息を呑んで見詰めた。
今まで青年の容姿など、それほど興味もなかったのだろう。今の今まで気付きもしなかった。
魔王の頭の中に鈴の音がなるような可愛らしい声が響く。
『どうしたの?』
「どうしたのさ?」
いつの間にか空色の瞳が目の前にあった。
かと思うと青年の手の平が目の前で上下する。
「……おい何をして」
ゴツン。
「いっ」
青年の額が魔王の額に軽くぶつかった。
「うーん?」
何やら考えるように唸って離れると、今度は先程自分がひっぱたいた頬に手でそっと触れて見詰める。
腫れてないか確認して、大丈夫と分かると青年はほっと表情を緩めた。
そして遠慮なく魔王の背中をバシバシと叩く。
「いっイタ! だから痛いと」
「いやー大丈夫大丈夫! 熱もないし頬も腫れてないし何処も悪くなくて良かった良かった!」
何が楽しいのか嬉しいのか、青年はハッハッハッと笑って叩くので、魔王はその手を掴みとり、止めた。
「だからこの手癖の悪さどうにかしないか」
「アハハごめん気を付ける」
「……次からはやり返すぞ」
全く反省の色がない青年に魔王は釘を刺してみたが、どこ吹く風といったようすだ。
(昨晩のあれはなんだったんだ……全く)
くいっと髪を引っ張られて、そう言えばもう一人手のかかるのがいたなと、魔王は隣へ視線を落とす。
赤ん坊の手の平から自分の髪を救いだし、その小さな手を両手で優しく握ると、魔王はしっかり赤ん坊と視線を合わせた。
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