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第三章
名は体を表す16
しおりを挟む女性の甲高い悲鳴にビクリと体を震わせ、けれど自分の事の筈がないと直ぐに気付く。
(……まさか悪魔の子たちが?)
それなら止めなければと、入ろうとしていた店の中を覗き
「な、なに……これ?」
目の前の光景に唖然とした。
まだ年若い女性がへんてこな格好をした男二人に脅されていたのだ。
一人は真っ黒な仮面と粗末な黒装束で女性の髪を鷲掴み、ナイフをつきつけている。もう一人は真っ黒な被り物に何故か頭に角のような物をつけ、乱暴にお店の商品や売り上げを麻袋につっこんでいた。
(どこからどう見ても人間、だよね)
けれど女性は魔族が! 誰か! 誰か助けて! と、まだ言っている。
「……あのー、つかぬことをお聞きしますが」
マールは脅され涙目になっている店の女性にとことこと近付いた。
「なんだテメー?」
するとへんてこな男は、女性の髪を鷲掴んだまま今度はマールにナイフを突き付ける。
「えっと、お姉さん。どうしてこの人達が魔族だと思うの?」
すると女性は瞳をパチクリと瞬かせ、弱々しい声で言う。
「だって、俺達は魔族だぞ! って入って来たから」
「……いやあのお姉さん、この人達どう見ても人間だよ。自分から魔族だぞー! なんておかしいよ。お姉さんだって自分で自分の事、人間だぞー! なんて言わないでしょ?」
すると女性は「あっ」と声をもらした。
「だ、だだったらどうだってんだ!? どっちにしたってこの状況はかわんねーだろうが!」
髪を鷲掴む男は焦りと怒りから体をわなわなと震わせ声を荒げる。
女性も「そうよ変わらないわ! 誰でもいいからお願い助けてよ!」と叫び、マールはしまったと思った。
あまりにも出来の悪い寸劇のような光景を見せられたもので、状況が今一呑み込めていなかったのだ。しかし今更焦ってももう遅い。
「あの、お兄さんもお姉さんも落ち着いて、冷静に、冷静に話し合いましょう」
「あぁ冷静にだって?ふざけた事言ってんじゃねーぞぉチビぃ」
もう一人の男がマールに詰め寄り胸ぐらを掴みあげる。
「ま、待って待ってお兄さん! 服はともかくオレに触らないで!」
「はぁ?」
男は拳を握っている。もしその拳でマールを殴りでもしたら危ないのは男の方だ。
(わわ! きっと一瞬でもあの子たちを疑ったから罰が! ごめんね悪魔の子たち!!)
と心の中で謝った時、マールは目にした。
このゴタゴタに便乗して店の食べ物やら何やらをコソコソと盗んでいるその子達を……。
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