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第三章
名は体を表す17
しおりを挟む「…………え」
「え、じゃねぇよガキィィ!!」
男がマール目掛け拳を振り上げた。
「触らないでー!」
咄嗟に手の平を男に向け、狙うであろう頭を庇う。せめて結界に守られている手にあたってくれたならば。
しかし次の瞬間。その思いは杞憂に終わった。
目の前の男がいきなり苦し気な声を上げ、いつの間にか腹にめり込む誰かの膝にゆっくりと力尽きたのだ。
「騒がしいと思って来てみれば」
聞き覚えのある生真面目な低い声に、マールは顔を上げる。
「全くとんだ茶番だな」
彼は自分の膝にぶらりと垂れ下がる男を乱暴に蹴り飛ばす。
綺麗に散髪された藍色の短髪がサラリと揺れ、神経質そうに細められた瞳がマールを捉えた。
「……驚いた。お前マールか?」
見開いた瞳もまた、藍色だ。
「う、うわぁぁ!」
「きゃっ!」
いきなりもう一人の男が女を突き飛ばし、彼に向かってナイフを勢い任せに振り回す。
それをアッサリとかわし、ナイフを持つ腕をとらえ捻り上げた。痛みから男は手を開き、ナイフが床に転げ落ちる。
「仲間がやられ血迷うくらいなら、こんなつまらぬ事に手を出すべきではなかったな」
「くっくそぉ!」
騒ぎを聞き付けた周囲の人々がなんだなんだと店の前に集まって来ている。彼はその者達によく通る声で言った。
「おい聞け。どうやら一連の魔族騒ぎはこの男共の仕業のようだぞ。だが安心しろただの人間だ。ところで私は急ぎのようがある。こいつらの始末はここにいる皆々様方に任せよう」
彼は捻り上げていた男の手を離した。すると男は慌てて彼から距離をとるが、青みがかった黒い瞳は既に別な方へと意識が向けられている。
ほっと安心したのもつかの間、背後から鋭い視線を次々と感じ、身を凍らせた男がこのあとどうなったのか言うまでもない。
女の無事を確認するとマールに目配せをし、二人は裏口から外へと出た。
「アル様」
先に出た彼をマールが愛称で呼ぶと、振り向いた瞳は先程とは違う優しげなものだった。
「久しぶりだなマール。てっきり森の向こうへ行ったと思っていたが、どうしてここに?いやそれより怪我はないか?」
そう言う彼に、やはりと思う。
本来ならこんな所で出会えるはずもないのだが、それでも今目の前にいるのは、青年から預かった手紙を渡すべき相手《アルデラミン》その人だった。
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