魔王と王の育児日記。(下書き)

花より団子よりもお茶が好き。(趣味用)

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第六章

馬には乗ってみよ人には添うてみよ10

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   ◇


「――もうどうすんのよルゥ! 変なとこ迷い込んだじゃない!」

 ほんのちょっと悪戯してやるつもりだった。
 先日少女達のあるじが魔族に嫌がらせをされた腹いせに。
 と言っても実際はただの痴話喧嘩だったのだが、残念ながらこの子供達にはそれが分からない。

「知るかよそんなん! そもそもリィがこっちだっていったんだろ!」

 あの悪魔、エルディアブロにそっくりな浅黒い肌に真っ黒な髪と翼、すっかり着古されたこれまた黒い薄手の服装、その二人の金色の瞳が互いの瞳を睨む。

「なによアタシのせいだって言いたいの?」
「そっちこそ俺のせいにすんなよな!」

 そんな二人の様子を見てクスクスと笑う十人の悪魔の子。

「だいじょーぶよ二人とも、こんなの空から森を出れば直ぐなんだから」
「ハハ、赤ん坊のほうがずっと冷静だぜ」

 赤ん坊と言うのは勿論リーベの事だ。
 この間の仕返しをしてやろうと魔王城へ遊びにいや、悪戯をしに行った子供達は庭で口喧嘩をするイェンと青年を見付けた。
 しめしめとこっそり近寄ると青年の膝から身を乗り出したリーベとバッチリ眼があってしまったのだ。
 口喧嘩に忙しい人間の男と黒の魔族はこちらに気付きもしない。

「アイツら今頃慌ててるかしら?」

 ボブヘアーの少女が同意を求めるように、危なげに胸に抱く赤ん坊へ語りかける。
 当のリーベは不器用に手をパタパタと動かして「あうー」と唸るだけ。
 何を言いたいのかサッパリわからないと少女はクスクスと笑う。

「セルゥ駄目だ。空から出れない」
「そんな筈ないわ」

 リーベを抱いたままセルゥは漆黒の翼をはためかせ空高く飛び上がる。
 だが上へ上へといくら目指せど空はやってこない。
 代わりに森の木が、幹や枝や葉が急速に伸び、空を覆いつくそうとする。

「ふぇ、ふぁ」

 腕に抱くリーベが急に泣きそうな声を上げた。泣くのを我慢してか眉を寄せ口をへの字に結んでいる。

「あらあら」

 セルゥはゆっくりと地上へ降下した。

「ロォの言う通りだわ」
「だから言ったろ」

 肩を竦めるロォ。
 セルゥは「困ったわね」と眉を下げる。

「きゃああ!」
「うわあああ!」

 突然リィ達が叫び声を上げた。
 振り返れば二人は何かに追われて……!

「なに、あれ……」

 巨大な木々が何本もの根を足のように動かし迫る。樹海だ。
 セルゥは恐怖からその場に凍りついた。

「セルゥバカ! アンタも逃げな!」
「セルゥ逃げて!」

 仲間たちが次々とセルゥの横を通り抜ける。

「セルゥ走れ! 走れよ!」
「セルゥ早く!」

(だって動けない!)

「びやあああ!!」
「!!」

 突然のリーベの大泣きにセルゥは我に返った。
 飛んで逃げようとしてその翼が追いついた木の根に捕まる。

「いやぁああ!」

「セルゥ!!」
「くそっ誰だよハクイ様が駄目って言ってたとこ行こうとか言ったやつ!」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!!」
「セルゥを放せ!」

 ルゥが鋭い爪で木の根を引き裂く。

「やったわルゥ!」

 リィが歓声を上げたのもつかの間、突然ルゥはその場に倒れ、今度はリーベに木の根が走る。
 咄嗟にセルゥはその根を掴んだ。
 胸に抱く赤ん坊はまだ大声で泣いている。

(泣きたいのはあたしのほうよ!)

 セルゥの横を人と同等の厚さの根が、無数に走る。

「きゃあああ来たあああ!」
「みんな逃げろ!」
「ルゥは!? ルゥはどうするのよ!」
「いいから早く!」
「セルゥ赤ん坊なんか捨ててけよ! 逃げるのに邪魔だ!」

 ロォが叫んだ。

(そんなこと言われても!)

「だってエルさまが赤ん坊は泣いてたら抱きあげろって!」

 悪魔の子たちにとって唯一無二であるエルディアブロの言葉は重い。
 例えそれに意味があろうとなかろうと。

「セルゥあぶない!」

 刹那、森の奥から巨大な炎の渦が弾丸のように走り、セルゥに迫る根を燃やした。
 ごうごうと燃え立つ炎は瞬く間に子供たちを取り囲む樹海へ燃え広がる。

 ギャアアアア

 燃え盛る炎の中、樹海のつんざくような悲鳴が辺り一面に響き渡り、二人分の声が叫ぶ。

「まーにあった!」
「無事か!?」

 セルゥの目の前に人間の男と黒の魔族が立っていた。



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