123 / 184
第六章
馬には乗ってみよ人には添うてみよ09
しおりを挟む――気付いた二人は走っていた。
それはもう必死に、必死に走って追いかけていた。
城の庭から森へと消えて行った悪魔の子供たちを追って!
「くそ! どこ行った……!」
「あー気のせいかなーつい最近も似たようなことなかったっけ?」
「そんなことより見失った! 最悪だこの間より状況が悪い。いったいなんだってリーベを!」
「そんなのあの子達に聞いてくれよ」
肩で息をし青年の足取りが重くなる。
決して人が歩く場所ではない獣道。人の背丈ほども高く伸びきった草やら枝やらをどこから出したかイェンは得物で薙ぎ払い、あとから来る青年に道を作って進む。
だが青年は木の根に足を取られつまずいた。
「それはさすがに気を付けてくれよ」と言いながらもイェンはなるべく根も薙ぎ払う。
「悪い悪い、久々に走ったら思ったより疲れちゃって」
「こっち来てからずっと箱入りだったもんなアンタ」
体力と運動神経にはそこそこ自信があった筈が、たった数日でこの有様とは情けない。
最近怠けていたのが仇になったかと心の中で呟いて青年は前方を見上げる。
だが空高く生い茂った森林が青空を隠すように聳え立つせいでその先がハッキリと分からない。
そのせいで森の中は薄暗く気味が悪い、それが青年の不安を煽る。
悪魔の子供たちはどこまで高く飛び、どこへ向かっているのか。
強く握った拳がじわりと嫌な汗で濡れる。
(目を離すんじゃなかった)
イェンとの口論に気を取られ、リーベがいなくなっていることに気づかなかった。
まだ自力では座れない、ハイハイも出来ないからと油断していた。
いや待ていくらなんでもありえない。
リーベが自力で膝の上から、青年の腕から這い出たとは思えない。と言うことはやはりあの悪魔の子たちが二人の眼を盗みリーベを連れ去ったというのか。
なぜ、いつ、どうして?
(そもそもいつから居たんだ)
先日の様子を思うとあの子たちが何をしでかすかと気がきでない。
連れ去られた時のリーベの様子は足が宙ぶらりんの状態で抱っこされ、今にも滑り落ちそうだった。
せめて首が座っているだけ良かったと言うべきか。
(早く見付けないと、何かある前に)
イェンは青年には物珍しい煌びやかな双刀を操りバッサバッサと道を斬り開いて行く。
知識程度に知っているそれは本来は一つの鞘に収まっているのを素早い動きで引き抜き一刀にみせかけ攻撃するものだ。
だがその刀は今、草刈り鎌と化しているので多少申し訳ない気もしなくも無い。
「迷いなく進んでるけど、あの子たちがどこへ向かっているかわかるのか?」
「もちろん。あの魔晶石のおかげでね。アンタ縫い付けて正解だったよ」
「本当か!? 良かった!」
「状況は良く無いけどね。しかもさっきから動きがおかしい。どうも同じ場所をぐるぐると」
「まさかあの子たち道に迷って? 逆にチャンスだ急ぐぞ」
「そう上手くいくと思えないけど、さ!」
イェンは急に視界に現れた分厚い枝を斬り落とす。
「やっぱりな。最悪だ樹海の中だ」
「樹海?」
「アンタの知ってる樹海とは違うだろうけどね。樹の魔獣がいるんだ。その〝樹海〟の中だよここ」
イェンが続けて刀を振りあげる。
「それがどうしってうわ!」
青年の肩に迫っていた何かをイェンがその一刀で斬り伏せた。
それはゴロンと地面へ転がりまるで斬られた芋虫のようにうねる。
「あーこれ本当は演舞用に使ってんだけどなー……本物で良かった。模造品だったらアウトだったな」
「な、なんだこれ根が動いてる!?」
「そりゃ植物も生きてますから」
「そう言う問題か!?」
「樹海自体が動いてるんだよ。正確には獲物を捕らえるために移動する。獲物を逃さないために出入り口を塞ぎ、空から逃げられないよう幹と枝を伸ばす。樹海に死ぬまで閉じ込め死んだ獲物を養分とするためにさ。たく、あのがきんちょどもそれで同じ所をぐるぐると、参ったな」
何かいい方法はないか、青年は前を歩くイェンの肩を引っ張った。
「この間魔王さまが俺と一緒に庭から部屋へ一瞬で移動したんだけど、あれは?」
イェンは顔をしかめて首を振る。
「やれるならとっくにやってると思わない?」
「なら片方貸してくれ」
「使えるのか?」とイェンが半信半疑でその一刀を手渡す。
イェンの双刀は刀柄、つまりは握りの部分が金色と真紅の二刀。その金色の一刀を青年は片手に持つと軽く振るう。
刀首に取り付けられた真紅の布、刀彩が弾けるような音を立てたかと思うと、イェンの足元から迫っていた太い根が真っ二つになる。
「言っただろ。だいたいの事は出来るんだ」
その時、森のずっと奥から少女の叫び声が上がった。
2
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
白銀の城の俺と僕
片海 鏡
BL
絶海の孤島。水の医神エンディリアムを祀る医療神殿ルエンカーナ。島全体が白銀の建物の集合体《神殿》によって形作られ、彼らの高度かつ不可思議な医療技術による治療を願う者達が日々海を渡ってやって来る。白銀の髪と紺色の目を持って生まれた子供は聖徒として神殿に召し上げられる。オメガの青年エンティーは不遇を受けながらも懸命に神殿で働いていた。ある出来事をきっかけに島を統治する皇族のαの青年シャングアと共に日々を過ごし始める。 *独自の設定ありのオメガバースです。恋愛ありきのエンティーとシャングアの成長物語です。下の話(セクハラ的なもの)は話しますが、性行為の様なものは一切ありません。マイペースな更新です。*
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる