伯爵令嬢、溺愛されるまで~婚約後~

うめまつ

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私は結局、逃げ出せませんでした。

扉の前にまでは行けたのですが、気づいたウドルが走って扉の前に立ちふさがり怯えて震える私を見下ろして。

『ごめんなさい』とひと言告げると慌てただけで怒った様子はありませんでした。

そして忙しなく指を暖炉に向けて覆面を剥いで顔を見せました。

『同じ目に遭う』

何度もそう言い、ウドルの覆面の下には頬に引きつれた傷が大きく残ってました。

『逃げるのは危ナイ、ヤメロ』

そんなことを言われてますます縮こまってしまいました。

「その傷、どうして?」

声が震えます。

痛々しいその傷痕は口の端から頬を走り、目元まで。

手を伸ばすとウドルは恐れたように一歩下がって仰け反って逃げてしまいました。

「痛いの?」

言葉の壁に気づかず何度も問い掛けて手がふらふらと、ウドルの方へ向けてさ迷います。

私の様子に目をしばたかせ戸惑いながらウドルはゆっくりと。

恐る恐る足をひざまづいて顔を私の方へ傾けてくれました。

私も、そろぉっと手を伸ばして両手でウドルの頬を包み指で傷の回りを撫でました。

『痛イ?大丈夫?』

『……痛くナイ。……昔のダから』

お互いに舌っ足らずな発音です。

眉をひそめて不可解そうな視線だったのに急に目を見開いて立ち上がり、部屋の中を何か探し始めました。

分からずに背中を見ているとがっくりと肩を落として振り返りました。

『ハンカチ、ナイ』

目元を指でとんとんとさして私にも指をさして。

ウドルの仕草を真似て自分の目元を触ると涙ぐんでいることに今さら気づきました。

「大丈夫、持ってるから」

ポケットから出してウドルの方へ。

背が大きくて届きません。

ウドルの腕を引っ張って座ってもらいました。

『ナンだ?』

先程よりスッと座ってくれました。

『ごめんネ、見られたくなかったよね?』

頬に広げたハンカチを当てて隠します。

きっと見せたくないから覆面をしていたんだと思って。

私が逃げようとしたからわざわざ隠していたものを見せて止めてくれたのです。

後ろに回って結んで、これでいいか尋ねました。

両手を縛られているから難しかったです。

時間がかかりましたがどうにか。

ウドルの目は丸く見開いて私の顔を見つめていました。

『い、イラナイ』

ハッとして慌ててハンカチを取って丁寧に畳み私の手にぎゅうぎゅうに押し付けています。

『返ス。汚れル』

『じゃあ、こっち』

先程ウドルが着けていたものを手に取って同じようにウドルの顔に近づけました。

ぽかんと私のことを見ながら大人しくしています。

おかげで着けてあげることが出来ました。

『これでイイ?』

そう尋ねるとこくこくとゆっくり頭が揺れます。

次にウドルは木箱のテーブルに置いたままのハンカチを取って私の目元にちょんちょんと当てて涙をぬぐってくれて、壊れ物みたいに丁寧に優しく。

心配そうに。

真剣な眼差しで。

仕種も眼差しも、ヨルンガやロルフ様がしてくれるような気遣いが嬉しくて笑みがこぼれました。

『ウドル、優しい。ありがとう』

『こ、怖くないノカ?』

『……怖い。閉じ込められたりしたから。でもウドルは優しい。ロルフ様みたい。嬉しい』

『だれダ?』

『私の婚約者。スゴく優しくて素敵な方。大好きなの』

『似てル?』

『優しい手と眼差しが似てル』

目を丸くして手が止まりました。

そして私の顔くらい大きな自分の手を眺めて首をかしげながら不思議そうにしています。

『……汚れてルのに。……あっ!』

また、ハッと目を見開いて自分が触るとハンカチが汚れると私の手に握らせて申し訳なさそうに項垂れています。

『汚れてないよ。働き者の手だよ?』

沢山、庭仕事をがんばったから色がついているだけ。

ハンカチに移らないほど、肌や爪に色がついてしまったんだと話すと引っ込めていた手を出して首をかしげてながら眺めていました。

『……変なお姫さんダ』

『よく言われルの。お転婆だっテ』

そう言うと、ふふ、と覆面の下から楽しそうな声が聞こえて目元も柔らかく細めています。

『急いデ、お姫さんを逃がさなイとなぁ』

そう呟いていました。
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